政略結婚で嫁いだ先は国民全員がサンタクロースの王国でした 作:北河ゆん
最後に訪れるところは、ミートリアス・ポマールという国で、幻影の肉王国と呼ばれている。
その理由は、突然消えたり、出現したりする神出鬼没な王国だからということらしい。
そんな、おとぎ話のようなことがあるのか。
しかし、それは目の前で起きた。
馬車が止まり、ラスファインの戸惑っている声が聞こえてくる。
「ない……ない。ルナセインさん、とんでもないことをしてしまいました」
「私たちも行きましょうか」
「ええ」
私たちも外へ出る。
目の前に広がるのは、ただの草原。
建物一つない光景。
……ミートリアス・ポマールは一体どこにあるの?
「どうしましょう、ルナセイン様?」
「どうしようって言われても……昨年はあったし。ちょうど、私が立っている所が入り口だったんだ」
「そうだ、地図が届いているって、ルドウィックさんが言ってました。今の場所が書かれた地図。ルナセインさん、ルドウィックから受け取っていませんか?」
「受け取ってないです……」
「リリシラ様は、受け取りましたか?」
「貰ってないです」
「わかりました……帰りましょう」
ラスファインは
「少し待ってくれ、ラスファイン」
「何でしょう? 何か思いついたのですか?」
「あれが、使えるかも」
ルナセインは鞄の中を探り始める。
「これ、これだ」
ルナセインが手に持っていたのは、布に包まれた丸いもの。
布の中から出てきたのは煙玉だった。
ルナセインは、煙玉を持って前へ走る。
ある程度のところで足を止め、煙玉を地面に置いて火をつけた。
煙玉は白煙となって空へ舞い上がる。
そして、ルナセインは戻ってきた。
「これで、使いの者が来てくれるはずだ」
白煙が消えた頃、一匹の馬がやってきた。
「本当に来ちゃった……」
「これでいいですね、ラスファイン」
「はい……」
「では、馬車に戻りましょうか、リリシラさん」
「ええ」
トナカイは、その馬と知り合いなのか、親しげな様子。
馬車に乗り込むと、馬が走っていくのが見えた。
きっと馬の向かう先にミートリアス・ポマールがあるのだろう。
馬車に揺られ、三十分ほど。
ようやく建物が見えてきた。
布でできた丸天井の家々が、並んでいた。
ヤギ、牛、豚、鳥などは、木の柵で分かれている。
「はあ……ようやく着きましたね」
ルナセインは眠気に耐えながら言う。
馬車が止まり、私たちは外へ出る。
そこには一人の男性が立っていた。
「どうして……ルナセインがここに?」
「見積もりで来たのですが……」
「ああ……忘れていました。 今日は見積もりの日でしたか。こちらの方は?」
「うちの……」
「リリシラです」
ルナセインが言い終える前に、思わず口にしてしまった。
「おお、王妃……。すみませんね。ご苦労かけてしまって」
「私は、ミートリアス・ポマールの
私たちはミルキークの後ろに続き、大きな丸天井の家の前で足を止めた。
「ここが私の家です。どうぞ、お入りください」
「……失礼します」
建物の中は、意外と広く。
天井は、傘のような見た目。
「今日は、お疲れでしょ」
「ええ」
「少しでも、ここで疲れを癒してくださいね」
「ええ……そうします」
私たちは、椅子を見つけて、腰を下ろした。
「こんなものしかありませんが……」
ミルキークがテーブルに置いたのは、白と青が混ざった皿と木製のコップ。
皿には、白い棒状のものがいくつも並べられている。
木のコップには、白い液体が注がれていた。
「これは何ですか?」
「皿に乗っている白いのがアーロール。コップに入っているのが
「どんな味ですか?」
「食べてみればわかりますよ」
「ええ、そうですね」
アーロールからいただいてみる。
ほお、酸っぱい。
唾液が絶えず出てくる。
そして、あとから甘いのを感じる。
……これは、癖になりそう。
続いて、
これは、牛乳なのだろうか。
匂いを嗅ぐと、ほのかにチーズの香り。
……牛乳ではないのか。
口にすると、舌にピリピリと酸味が伝わる。
なんの味に似ているのかというと、チーズケーキ。
「どうですか? リリシラさん」
「おいしいわ」
「それは、よかった」
「ところで、昨年と同じ場所ではなかったのですか?」
ルナセインは単刀直入にミルキークへ尋ねた。
「それは、家畜の大移動の時期が重なってしまったからです」
「家畜の大移動?」
「家畜の運動不足とストレス解消に大移動を行うのです。その時は、突然で……私の直感に任せているので、時期がまちまちなのです。本来でしたら、国の位置を地図に記して、渡り鳥に託して届けてもらうのですが、今年はそれを忘れてしまいました」
「そういうことですか」
ルナセインは納得したようで、軽くうなずいた。
「あの……?」
「何でしょう?」
「ルナセインさん、あれを見せてください」
「あれ?」
「煙玉を包んでいた布よ」
「ああ」
ルナセインは、鞄から布を取りだした。
「そ、その模様は、先代が得意にしていた刺繍です……わかりました。使ってくださって、ありがとうございます。だから、たどり着いたのですね」
「あの煙玉って……」
「緊急信号ですね……もう使うことはないですけれど」
「使うことはない……?」
「昔は交易が盛んで、場所が変わったときに馬をよこしてもらうための合図だったんです。でも最近は、そういう機会も減りまして……その頃の名残ですね」
「はあ、なるほど……」
「きっと予感していたんでしょうね……お恥ずかしい限りです」
「……あの見積もりって……」
ルナセインは、ぼそっとつぶやく。
「そうでした。見積もりに来たんですよね」
「ええ」
ルナセインは、見積もりの紙をミルキークに渡した。
「昨年と同じですか?」
「ええ、大体同じ内容になるかと」
「では、これから忙しくなりますね」
「そうですね」
「次に行くところはありますか?」
「こちらで最後です」
「最後ですか……ゆっくりしてくださいね」
「ええ、お言葉に甘えて」
私たちは、アーロールと
次の第11話「死者の筆談」は3月3日18:00投稿