政略結婚で嫁いだ先は国民全員がサンタクロースの王国でした 作:北河ゆん
翌朝、ルドウィックの言う通りに、パシェードに行ってみることにした。
パシェードに入ると、ミシルが走ってきた。
「リリシラ様、ルドウィックさんから聞いたよ。花入りのマフィンを作るんだよね」
「ええ……そうよ」
話が早い。
私たちがオリベリアに行っている間に、話をつけていたのだろうか。
工房室に入ると、先にフィシィルが、マフィンに必要な材料をテーブルに並べていた。
「リリシラ様、早いですね」
「居ても立ってもいられなくて」
「リリシラ様らしいですね」
「私らしいですか?」
「はい」
ミシルとフィシィルが声をそろえて言った。
なんか複雑な気持ちになる。
「花はどうやって入れるの、リリシラ様?」
ミシルは興奮気味に尋ねてきた。
「それはね……わからない」
何も考えてなかった。
花はそのまま入れるのかな。
それとも、何か加工するのか……。
「とりあえず、リリシラ様が思いつく方法でやってみようよ」
「ええ、そうね」
私が思いついた花の加工は三つ。
一つは、型にそのまま花を入れて焼き上げる。
二つは、卵と片栗粉を使って揚げ物にする。
三つは、五輪ほどすり潰して、ジャムのようにする。
このやり方で、一度試してみよう。
マフィンの作り方は、今まで通り。
鉄のボウルにバターを入れてクリーム状になるまで混ぜ、砂糖、塩、卵を加えてさらに混ぜる。
そして、薄力粉とベーキングパウダー、牛乳を加えて混ぜ、型に入れてオーブンで焼き上げるやり方だ。
とりあえず、三つ作ってみた。
三つの中身には、私が思いついた花の加工がそれぞれ入っている。
白い皿にマフィンを並べた。
見た目はどれも同じで、どれがどの加工を施したマフィンなのか、わからない。
一番手前のマフィンに手を伸ばし、三等分に分けた。
ミシルは大きく口を開けマフィンを口に放り込み、二、三口噛んだところで首を傾げた。
その後も、首を傾げながら食べている。
フィシィルの方を見ると、なんとも言えない表情で食べていた。
不思議な味がするのだろうか。
私もマフィンを口に入れる。
マフィンの甘味が口に広がる。
途中、何かが口に触れたが、なんだったのだろう。
「リリシラ様、この花いらない」
ミシルがとんでもないことを言い出した。
花がいらない?
それでは普通のマフィンになってしまうし、本末転倒になるじゃない。
「あまり花の要素が感じられないですね」
フィシィルが言っていることもわかる。
食べているときに、花独特の甘さは感じられなかったし、風味も消えていた。
もしかして、焼き上げた瞬間に風味が失われたのかな。
「真ん中のマフィン食べていい?」
「三等分にするから、ちょっと待って」
真ん中のマフィンを包丁で三等分にして、ミシルに渡した。
ミシルはさっきよりも小さく口を開き、半分だけ口に入れる。
噛むたびに、ミシルの頭が少しずつ下がっていく。
私とフィシィルも口の中に入れた。
甘いマフィンに、サクサクの衣。
歯ごたえはいいけれど、衣の中は油まみれで、正直まずいと言っていい。
「リリシラ様、最後のマフィン食べてもよろしいのでしょうか?」
「ええ、どうぞ」
ミシルは大きく口を開き、マフィンを口に放り込んだ。
リスみたいに頬を膨らまし、ちびちびと口を動かしている。
私とフィシィルも口に入れた。
これは三つのなかで、一番うまくいった。
マフィンの甘さと花の甘さがうまく組み合わさり、独特のお菓子に変わっている。
しかし、青臭い。
最初は花の甘さを感じていたけれど、途端に青臭くなり、マフィン全体の味が損なわれてしまった。
「フィシィルさん、味はどうですか?」
「最初はね、良かったけれどね」
「ミシルはどう?」
「あのね、うーん……」
ミシルは口元を手で押さえながら答えてくれた。
でも、リスのように食べているせいで、あまり聞き取れなかった。
その後ミシルは、口に入れたものを飲み込んだ。
「なんか、変な味がした。一番きらい」
ミシルはそう言って、コップに水を注ぎ飲んでいる。
よほど青臭さが口に残っているようだ。
「砂糖菓子にしてみますか、リリシラ様?」
「花を砂糖菓子にするのですか?」
「そうです。私も作ったことはありませんが、試してみる価値はあると思います」
さっそく作業に取り掛かった。
花びらを一枚ずつ取り、丁寧に洗ったあと、水分を拭き取り、卵白を塗って、グラニュー糖をまぶす。
「本当は、卵白がなくなるまで冷蔵庫に寝かすのだけれど、今回は試作だから、オーブンで乾燥しちゃうね」
とフィシィルは、オーブンで乾燥させた。
オーブンから取り出すと、見た目は、雪で凍ったような透明感に満ちていた。
触ってみると軽く、手にグラニュー糖がついた。
「これをマフィンに入れるんだよね?」
「ええ」
ミシルは型にマフィンの生地——クリームを半分ほど入れ、砂糖菓子になった花を入れて、蓋をするようにクリームを重ねた。
マフィンが焼きあがるまで、フィシィルはオーブンをじっと見つめていた。
焼き上がると、フィシィルはオーブンからマフィンを取り出し、白い皿に乗せて、満面の笑みで言った。
「出来ましたよ、リリシラ様。お召し上がりください」
二人に見られながら、マフィンを口に入れた。
マフィンの素朴な甘さに、シャリシャリした砂糖菓子の食感がとても合っていておいしい。
砂糖菓子になった花は、嫌な青臭さはなく、花の甘味が引き立っている。
「どうでしょうか? リリシラ様」
「とっても、美味しいわ」
「そうですか……嬉しいです。では、私も」
フィシィルは満面の笑みでマフィンを口に入れた。
それを見たミシルもマフィンを口に放り込んだ。
ミシルとフィシィルに味の感想を聞こうとしたが、あの笑顔で食べているのを見れば、言葉にしなくても伝わってくる。
「それにしても、これ新しいね。ふわふわとじゃりじゃりした食感が癖になる……」
ミシルはつぶやいた。
「お母さんも、そう思います。リリシラ様もそう思いますよね?」
「ええ」
あの笑顔で言われると、少し気恥ずかしくなっちゃうな。
「リリシラ様、これをお持ち帰りください」
「これは!」
小さな透明の袋に入ったマフィン。
「ルスマリナさん用よ」
「ありがとうございます」
私は、パシェードをあとにした。
次の第14話「親失格」は3月6日18:00投稿