政略結婚で嫁いだ先は国民全員がサンタクロースの王国でした 作:北河ゆん
今朝、ある手紙に目を通した。
それがきっかけで、私は花屋——クゥアーニーの前に立っている。
王妃に対しても、自分の意思を貫く文体。
少し恐れをなしてしまう。
さて、クゥアーニーに入ろう。
今日は、身が凍るほど寒い。
昨日よりも、着飾らなければ寒さが体に伝わる。
だからこそ、今日のドレスは、なんだか重たい。下に岩が入っているのかと思わせるほどの重みがのしかかる。
こんな日に、オレンジ色のマフラーがあって良かった。これを巻かないと、寒さに耐えられない。
「おっ、早いですね」
「えっ、ええ……」
花屋の店主――リリーラは扉を開け、出迎えてくれた。
「ちょっと早いですが、お入りください」
リリーラの言葉に甘えて、店の中に入る。
「改めまして、クゥアーニーを営んでおります。リリーラと申します」
「リリシラです」
「ところで、花を選ぶとは何だと思いますか?」
「なんでしょう?」
「私は、人の想いを可視化するものだと思います」
「可視化?」
「落ち込んでいる人に明るく華やかな花を選んだり、どこか、癒される花を贈ったり――そんなふうに、花に想いを込めるのです」
「……なるほど」
「そういう意味では、私が選んだお花は押し付けがましかったかもしれませんね」
「ええ、そうね……でも、その時はお忍びで行ったわけですし、あの花たち、結構気に入っているんですよ」
「ありがとうございます。では、始めましょうか」
リリーラは分厚い本を渡してきた。
「ここに、花言葉と花の名前が書いてあるから、それを見ながら、私に似合う花たちを選んでみて」
「今からですか?」
「そうだよ。あと、もうちょっとで人が来るから、それまでに終わらせたいね」
「……冗談じゃないのね」
明日、筋肉痛になりそうなくらい重たい本を片手に、花を選び取る。
かなり熟達してないと厳しそうだけれど、やってみてと言われた以上やるしかない。
浮かない気分のまま、本のページをめくる。
見開きページには、一つの花を説明している。
左上には大きく、花の名前が書かれており、その下に、花の絵が描かれている。一番下には、咲く場所が簡潔に記されていた。
右ページには、『特徴』と『花言葉』の二つの欄が設けられていた。
これを見ながら、リリーラに似合う花たちを選ぶってことか。気が遠くなりそう。
私から見て、リリーラはどことなく明るく、距離感が近い。表裏がない感じに見える。そこから、連想される花を選び取る。
ページをめくって気づいたことがある。
それは、店に置いている花には、花の名前の部分に丸がつけられている。最後の数ページに一覧があり、そこにも店に置いてある花には丸が付いていた。
さて、明るい性格が似合う花はなんだろう。
赤色、オレンジ色、黄色、桃色――私が思う明るい色。
店に置いてある花で……。
店内を見渡すと、手前に黄色の花が目に入った。
「これは……」
パラパラとページをめくり、この花に似た絵を発見した。
クロッカス——花びらは細く、少しだけ開いているのが特徴的で、花言葉は、愛の懺悔。
……この花はやめよう。
次に目に入ったのが、一つの壺にたくさん生けられたオステオスペルマム・キャンディフィールズ。
この花は、咲くたびに花の色が変わるらしく、黄色からオレンジ色に変わるらしい。
目の前に見えているのは、赤に近いオレンジ色。
花言葉は、元気、無邪気。
この花は、彼女にぴったりだ。
ようやく一つの花が決まった。
これをあと何回か繰り返さなければならないのか。一つの花を決めるだけでかなり時間をかけてしまった。そろそろお客様が来るみたいだし、長くは考えていられない。
「あっ!」
そういえば、さっき通り過ぎたところに白い花があった。
「ヒルガオ――花言葉は、縁、親しいつきあい……」
……この花、彼女にぴったり。
なんでさっき、気づかなかったのだろう。私が通り過ぎた場所に、置いてあったヒルガオ。
白く、小さく、どこか親近感のある花。
この花は、オステオスペルマム・キャンディフィールズを際立たせるに違いない。
花たちの二つ目は、これにしよう。
最後の花を選ぼうか。
最後の花には、白とオレンジときたら反対の色を入れたい。
青か紫を探しに、店内をぐるぐると見て回る。
「……ガーベラ」
一目見た瞬間、花の名前が口からこぼれた。これしかないと、心が教えてくれた気がした。
紫色のガーベラ――花言葉は、希望、前向き。
これで、私の思う花たちが決まった。
「この三つにしてみました」
私は、花たちをリリーラに渡した。
「なるほど。なるほどね。そう来ましたか。リリシラ様」
リリーラは、不敵な笑みを浮かべながら花を眺める。
「お気に召さなかったですか?」
不安になり、リリーラに尋ねた。
「いえいえ、王妃様が思うリリーラ像が分かっただけでもこの花たちには、十分に価値がありますから」
「そうですか……」
リリーラはそう言ってくれたけれど、頭の中には不安の言葉が次々と湧き上がる。
「こんな感じでお願いします」
店の扉が開く音と鈴の音が同時に鳴った。
「あの、もう入ってもよろしいのでしょうか?」
「いいですよ。ゆっくりしていってください」
リリーラは女性をテーブルの席に誘導し、席に座らせる。
「今回は、リリシラ様がいらっしゃるんですね」
「そうなんですよ。リリシラ様の選んだ花たちは、最高ですよ」
「あのー、お願いできないでしょうか?」
女性は、か細い声で私に尋ねた。
「ええ、任せてください」
まずは、女性の特徴から。
可憐で、今にも散ってしまいそうな美しさ。
雪のような白い肌。
今回は、白を多めにして。
他の色を選ぶとしても、淡い色合いにしてみよう。
一つ目は鈴蘭にしよう。
一本の茎に、たくさんの白い花がついていて、名前の通り鈴の姿に似ている。
花言葉は、純潔、純粋。
まるで彼女自身を映したような、お似合いの花。
続いて、ツマトリソウ。
星のような形をした白い花弁。
花言葉は、純真。
その次に選んだのは、シャク。
この花は、見た目で選んだ。
どこか、儚く、背景に溶け込んでしまいそうなほど、小さい花が集まっていて、絨毯模様にも見える。
花言葉は、感謝、優雅。
三本目は、チョウノスケソウ。
白い花弁に、黄色の何かがせり出している見た目の花。
花言葉は、清らかな愛、純潔。
これで、三本決まった。
しかし、白だけで味気ない。
何か、派手で可愛い花を加えたいところ。
彼女が思わず驚くような、そんな色の花にしたいのに、何も引っかからない。
時間だけが過ぎてゆく。
「あの、すみません」
彼女が話しかけてきた。
「わたくし、カラシーウと言います。今、どんな感じですか?」
「ええ……最後の花選びに苦戦しているところですね。この色入れて欲しいなとかありますか?」
ダメもとで、カラシーウに聞いてみる。
「白とかですかね……」
「白い花ですね、わかりました」
……白か。
それだけじゃ足りないけれど、カラシーウがそう言っているから、このまま渡そうかな。
「うん?」
カラシーウの後ろの方に、うっすらと見える桃色の花が目に留まった。
「ちょっと待っててください」
私は小走りで赤い花の方へと向かい、何かに取り憑かれたように本をめくり始めた。
この花はポインセチアと言って、赤い葉が花のように重なり合って見える、大きな花。
花言葉は、祝福、聖夜、私の心は燃えている、幸運を祈る。
最後の二つは、私の心を表しているみたいだ。
「カラシーウさん、こちらになりました」
「ありがとうございます。この赤い花……わたくしに合うのでしょうか?」
「ごめんなさい……分からないです。でも、合うと思います」
「そうですね。リリシラ様がそう言ってくださるのなら、そうに違いありません……」
カラシーウは深くお辞儀をして、店を後にした。
次の第5話 「サンタクロース会議」は2月25日18:00投稿