政略結婚で嫁いだ先は国民全員がサンタクロースの王国でした   作:北河ゆん

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第4話「初めての花屋さん」

 今朝、ある手紙に目を通した。

 それがきっかけで、私は花屋——クゥアーニーの前に立っている。

 

 王妃に対しても、自分の意思を貫く文体。

 少し恐れをなしてしまう。

 

 さて、クゥアーニーに入ろう。

 今日は、身が凍るほど寒い。

 昨日よりも、着飾らなければ寒さが体に伝わる。

 だからこそ、今日のドレスは、なんだか重たい。下に岩が入っているのかと思わせるほどの重みがのしかかる。

 こんな日に、オレンジ色のマフラーがあって良かった。これを巻かないと、寒さに耐えられない。

 

「おっ、早いですね」

「えっ、ええ……」

 

 花屋の店主――リリーラは扉を開け、出迎えてくれた。

 

「ちょっと早いですが、お入りください」

 

 リリーラの言葉に甘えて、店の中に入る。

 

「改めまして、クゥアーニーを営んでおります。リリーラと申します」

「リリシラです」

「ところで、花を選ぶとは何だと思いますか?」

「なんでしょう?」

「私は、人の想いを可視化するものだと思います」

「可視化?」

「落ち込んでいる人に明るく華やかな花を選んだり、どこか、癒される花を贈ったり――そんなふうに、花に想いを込めるのです」

「……なるほど」

「そういう意味では、私が選んだお花は押し付けがましかったかもしれませんね」

「ええ、そうね……でも、その時はお忍びで行ったわけですし、あの花たち、結構気に入っているんですよ」

「ありがとうございます。では、始めましょうか」

 

 リリーラは分厚い本を渡してきた。

 

「ここに、花言葉と花の名前が書いてあるから、それを見ながら、私に似合う花たちを選んでみて」

「今からですか?」

「そうだよ。あと、もうちょっとで人が来るから、それまでに終わらせたいね」

「……冗談じゃないのね」

 

 明日、筋肉痛になりそうなくらい重たい本を片手に、花を選び取る。

 かなり熟達してないと厳しそうだけれど、やってみてと言われた以上やるしかない。

 

 浮かない気分のまま、本のページをめくる。

 見開きページには、一つの花を説明している。

 左上には大きく、花の名前が書かれており、その下に、花の絵が描かれている。一番下には、咲く場所が簡潔に記されていた。

 右ページには、『特徴』と『花言葉』の二つの欄が設けられていた。

 これを見ながら、リリーラに似合う花たちを選ぶってことか。気が遠くなりそう。

 

 私から見て、リリーラはどことなく明るく、距離感が近い。表裏がない感じに見える。そこから、連想される花を選び取る。

 

 ページをめくって気づいたことがある。

 それは、店に置いている花には、花の名前の部分に丸がつけられている。最後の数ページに一覧があり、そこにも店に置いてある花には丸が付いていた。

 

 さて、明るい性格が似合う花はなんだろう。

 赤色、オレンジ色、黄色、桃色――私が思う明るい色。

 

 店に置いてある花で……。

 店内を見渡すと、手前に黄色の花が目に入った。

 

「これは……」

 

 パラパラとページをめくり、この花に似た絵を発見した。

 クロッカス——花びらは細く、少しだけ開いているのが特徴的で、花言葉は、愛の懺悔。

 

 ……この花はやめよう。

 

 次に目に入ったのが、一つの壺にたくさん生けられたオステオスペルマム・キャンディフィールズ。

 この花は、咲くたびに花の色が変わるらしく、黄色からオレンジ色に変わるらしい。

 目の前に見えているのは、赤に近いオレンジ色。

 花言葉は、元気、無邪気。

 この花は、彼女にぴったりだ。

 ようやく一つの花が決まった。

 

 これをあと何回か繰り返さなければならないのか。一つの花を決めるだけでかなり時間をかけてしまった。そろそろお客様が来るみたいだし、長くは考えていられない。

 

「あっ!」

 

 そういえば、さっき通り過ぎたところに白い花があった。

 

「ヒルガオ――花言葉は、縁、親しいつきあい……」

 

 ……この花、彼女にぴったり。

 

 なんでさっき、気づかなかったのだろう。私が通り過ぎた場所に、置いてあったヒルガオ。

 白く、小さく、どこか親近感のある花。

 この花は、オステオスペルマム・キャンディフィールズを際立たせるに違いない。

 花たちの二つ目は、これにしよう。

 

 最後の花を選ぼうか。

 最後の花には、白とオレンジときたら反対の色を入れたい。

 青か紫を探しに、店内をぐるぐると見て回る。

 

「……ガーベラ」

 

 一目見た瞬間、花の名前が口からこぼれた。これしかないと、心が教えてくれた気がした。

 紫色のガーベラ――花言葉は、希望、前向き。

 これで、私の思う花たちが決まった。

 

「この三つにしてみました」

 

 私は、花たちをリリーラに渡した。

 

「なるほど。なるほどね。そう来ましたか。リリシラ様」

 

 リリーラは、不敵な笑みを浮かべながら花を眺める。

 

「お気に召さなかったですか?」

 

 不安になり、リリーラに尋ねた。

 

「いえいえ、王妃様が思うリリーラ像が分かっただけでもこの花たちには、十分に価値がありますから」

「そうですか……」

 

 リリーラはそう言ってくれたけれど、頭の中には不安の言葉が次々と湧き上がる。

 

「こんな感じでお願いします」

 

 店の扉が開く音と鈴の音が同時に鳴った。

 

「あの、もう入ってもよろしいのでしょうか?」

「いいですよ。ゆっくりしていってください」

 

 リリーラは女性をテーブルの席に誘導し、席に座らせる。

 

「今回は、リリシラ様がいらっしゃるんですね」

「そうなんですよ。リリシラ様の選んだ花たちは、最高ですよ」

「あのー、お願いできないでしょうか?」

 

 女性は、か細い声で私に尋ねた。

 

「ええ、任せてください」

 

 まずは、女性の特徴から。

 可憐で、今にも散ってしまいそうな美しさ。

 雪のような白い肌。

 今回は、白を多めにして。

 他の色を選ぶとしても、淡い色合いにしてみよう。

 

 一つ目は鈴蘭にしよう。

 一本の茎に、たくさんの白い花がついていて、名前の通り鈴の姿に似ている。

 花言葉は、純潔、純粋。

 まるで彼女自身を映したような、お似合いの花。

 

 続いて、ツマトリソウ。

 星のような形をした白い花弁。

 花言葉は、純真。

 

 その次に選んだのは、シャク。

 この花は、見た目で選んだ。

 どこか、儚く、背景に溶け込んでしまいそうなほど、小さい花が集まっていて、絨毯模様にも見える。

 花言葉は、感謝、優雅。

 

 三本目は、チョウノスケソウ。

 白い花弁に、黄色の何かがせり出している見た目の花。

 花言葉は、清らかな愛、純潔。

 これで、三本決まった。

 しかし、白だけで味気ない。

 何か、派手で可愛い花を加えたいところ。

 

 彼女が思わず驚くような、そんな色の花にしたいのに、何も引っかからない。

 時間だけが過ぎてゆく。

 

「あの、すみません」

 

 彼女が話しかけてきた。

 

「わたくし、カラシーウと言います。今、どんな感じですか?」

「ええ……最後の花選びに苦戦しているところですね。この色入れて欲しいなとかありますか?」

 

 ダメもとで、カラシーウに聞いてみる。

 

「白とかですかね……」

「白い花ですね、わかりました」

 

 ……白か。

 それだけじゃ足りないけれど、カラシーウがそう言っているから、このまま渡そうかな。

 

 「うん?」

 

 カラシーウの後ろの方に、うっすらと見える桃色の花が目に留まった。

 

「ちょっと待っててください」

 

 私は小走りで赤い花の方へと向かい、何かに取り憑かれたように本をめくり始めた。

 

 この花はポインセチアと言って、赤い葉が花のように重なり合って見える、大きな花。

 花言葉は、祝福、聖夜、私の心は燃えている、幸運を祈る。

 最後の二つは、私の心を表しているみたいだ。

 

「カラシーウさん、こちらになりました」

「ありがとうございます。この赤い花……わたくしに合うのでしょうか?」

「ごめんなさい……分からないです。でも、合うと思います」

「そうですね。リリシラ様がそう言ってくださるのなら、そうに違いありません……」

 

 カラシーウは深くお辞儀をして、店を後にした。




次の第5話 「サンタクロース会議」は2月25日18:00投稿
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