政略結婚で嫁いだ先は国民全員がサンタクロースの王国でした   作:北河ゆん

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第6話「見積もりの旅~からくり人形の工場~」

「シラクリコリトに着きましたよ、リリシラさん」

 

 うたた寝している私をルナセインは静かに起こす。

 私は目を半分だけ開いた。

 

「起きてください。時間がないんですから」

「ええ……」

 

 六か所の王国を周る予定だった。

 サンタクロース会議で決まった内容をもとに、お菓子、洋服、花、肉、野菜を生産している王国へ行くことになっていたのだが、花屋のリリーラが先に見積もりの話をしてくれたおかげで、五か所だけになった。

 

 ......ありがとう、リリーラさん。

 

 眠い自分をなんとか奮い立たせながら馬車から降りた。

 

「ここから徒歩で行きますよ、リリシラさん。馬車だと通れないですから」

「あっ……はい」

 

 なんて、懐かしい風景。

 街の風景は、ターナル王国に似ていて、石やレンガで作られた家が並んでいる。

 

 ……どうなっているの?

 

 並んでいる家々の中に、一軒だけ傾いた家があった。

 どうやってバランスを保っているのか……不思議。

 

「そこで見てないで行きますよ」

 

 ルナセインに引っ張られながらどこか懐かしく趣深い風景を眺めていた。

 

「着きましたよ」

 

 ルナセインが言って足を止めた所は、他の家よりも少し大きい家だった。

 

「では、行きましょうか」

 

 ルナセインは一呼吸をし、扉に付いている輪っかを、三回ほど叩いた。

 

「おお、初めまして」

 

 私の方に向かって挨拶してくる一人の男性。

 

「は、初めまして……」

「さあさあ、こちらにどうぞ」

 

 一人の男性についていくと、一つの部屋に着いた。

 

「カルタークがお待ちになっております」

 

 ルナセインが扉を開ける。

 

「おお。これは、これは想定外……」

「うちの妻です」

「初めまして……リリシラと申します」

「長旅だったでしょう。こちらにお掛けくださいな」

 

 カルタークの言葉に甘えて、ルナセインと私は椅子に腰を下ろした。

 

「それにしても、美しい……申し忘れました。カルタークと申します。からくり人形の工場の代表をしております」

「ええ、初めまして」

「サンタクロースの見積もりでお越しくださったのですよね?」

「ええ……こちらが見積もりになります」

 

 ルナセインが見積もりの入った封筒を渡すと、カルタークは静かに開け中身を確認する。

 

「うーん……なるほど。今回はそういうことですか」

 

 カルタークは紙を見ながらなんとなく嬉しそうに言う。

 

「今回は、あなた方に八割ほど作って頂きたくて……」

「いいですよ。なんなら九割でも作りたいくらいです」

「そう言っていただけてありがたいです。これが、あのからくり人形ですか?」

 

 ルナセインは、からくり人形を指さした。

 

「そうなんです。ちょっと触ってみますか?」

「ぜひ、お願いします」

 

 からくり人形を手に取り、背面のゼンマイを三回まわすと、からくり人形が動き始めた。

 床に置くと、からくり人形は五歩ほど前に進み、右腕を上下に二回。

 続いて左腕を上下に二回動かし、両腕を上下に動かしながら、さらに前進。

 そして両腕を上下に四回動かした後、両腕を下げたままの姿勢で静止した。

 

 これが、からくり人形の踊り。

 人間の踊りとは明らかに違う。

 意味の分からない動き、表情のない(まなこ)

 これを踊りといって良いのだろうか。

 ……でも、からくり人形がここまで動くってことを考えると、手元に置いておきたい気持ちもわかる。

 何度か見ていれば、癖になってくるに違いない。

 

「いかがですか? からくり人形の踊り」

「……良いと思います」

「ありがとうございます。ルナセイン様はいかがでしょうか?」

「これは欲しいです。欲しくなってしまいます。愛くるしい姿、かっこいい踊り……最高です」

「そうでしょう、そうでしょう。それで、ラグマールさんは、どれくらい作られる予定ですか?」

「五百体ほどです……」

「少ないですね、何かあったんですか?」

「……それがですね。まだ一つも完成していないのです。もしよければ、一つ頂いてもいいですか?」

「ええ、もちろんです。こちらのからくり人形でよろしいですか?」

「いいのですか? こちらのからくり人形を頂いても」

「いいですよ。余ってしまうくらい作っていますから」

 

 カルタークはからくり人形を丁寧に梱包し、ルナセインに渡した。

 

「これで、からくり人形の試作機づくりに役立ててください」

「ええ、ありがとうございます」

「それと、私は勝ったのですね。ようやくこの日が来た。親父と誓ったあの日を思い出す。『カルターク、あのからくり人形を見てみろ。動きが変わらないのが、サンタクロースが作ったものだ。そして、こちらの錆びついたような動きをしているのが、俺たちが作ったもの……サンタクロースのように、長持ちするものを作らなければならない。わかったか、カルターク』はい、父上」

「では、次にお金をお渡しする際に伺いますね」

「あっ、お願いします。最近、昔のことに浸ることが多くなってきましたね……なんなんでしょうね」

「ええ……わかりますよ、その気持ち」

 

 ルナセインは、言葉を噛みしめるように答えた。

 

「わかってくれますか……おっと、次の見積もり先は大丈夫ですか?」

「ええ、時間は余裕をもっていますから」

「そうですか。こちらでお開きということで。ルシマール、サンタクロース夫妻のお迎えをお願いする」

 

 カルタークが大きい声でそう言うと、扉が開いた。

 ルナセインが歩き出す。

 私はカルタークに軽いお辞儀をし、少し遅れてその後を追った。

 カルタークの建物を後にした私たちは、馬車に乗り込んだ。




次の第7話「見積もりの旅~お菓子の王国~」は2月27日18:00投稿
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