政略結婚で嫁いだ先は国民全員がサンタクロースの王国でした 作:北河ゆん
ジアトリノは、野菜の楽園と呼ばれていて、どの野菜も大きく、丈夫に育つところらしい。
馬車からでも、虫の鳴き声が聞こえてくる。
「虫の演奏、心地いいですね」
と、ルナセインが言う。
……耳を疑った。
この音を、心地がいい?
頭に残る雑音。
留まることがない、音の連鎖。
声を荒げて、かき消したい。
「おお、着きましたね」
馬車から出ると、煩わしい音が聞こえなくなっていた。
「ここが、ジアトリノ……」
森に囲まれていて、点々とツリーハウスがある。
「ちょっと!」
ルナセインは、歩き出す。
私は周りを見ながら、追いかけた。
周りの景色は、油絵で描かれたような幻想的な風景で、癒される。
胸いっぱいに息を吸い込むと、新鮮な空気が体に入ってくる。
なぜか、身体が軽く感じた。
ルナセインは、らせん状の階段を登り始めた。
続いて、私もその階段を登る。
階段は、丸太の組み合わせで出来ていて、足場は狭く、おまけに滑りやすい。
「はあはあ……」
登り切ったとき、少し疲れていた。
ルナセインは、ツリーハウスの扉を叩いた。
その音は、打楽器のような甲高い音に似ていた。
「ほお、ようやく来たか……ん?」
床まで付く白い髭の男性が現れた。
「この方は?」
白い髭の男性がルナセインに尋ねる。
「僕の妻です」
「は、初めまして、リリシラです」
「初めまして、リリシラさん」
「タスリスさん、こちらです」
ルナセインは見積もりの書かれた紙を渡す。
「昨年と同じ……じゃな」
タスリスは、独り言のようにつぶやく。
「ええ、昨年と同じです」
ルナセインは、その言葉に合わせるように、同じ声の大きさで返す。
「そうだ、渡したいものがあるんだ。ちょっとここで待っててくれ」
タスリスは駆け足で家を出ていった。
あの身のこなしは、子どものように無邪気で、大人には真似できないものであった。
「ルナセイン、渡したいものって何かしら?」
「……野菜かな? 昨年も頂いたし」
「野菜ですか……腐ってしまいません?」
「あの方法なら……腐らないか。腐らないですね」
「あの方法とは、何でしょう?」
「それは、実際に見ればわかります」
「言ってくれたらいいのに……」
私は拗ねる。
「い、いや……実際に見たほうが……。ほら、戻ってきたみたいだし」
ルナセインが言った直後、階段を駆け上がる音が聞こえてきた。
……本当に五感が良いんだから、ルナセインさん。
扉が開く。
タスリスは一点を見つめながら、息を整えていた。
「ほ、ほら……持ってきたぞ……」
息を整いながら、竹のザルを床に置く。
「これは、何ですか?」
ザルの中には、輪切りのじゃがいもが円を描くように並べられて、その内側に輪切りのニンジン、細切りのピーマン、輪切りのレンコン、半分に切られたトマトが乗っていた。
……どの野菜も小さい。
「これは、干し野菜といって、お天道様の力によって水気をなくして、保存しやすくするものだよ」
と、タスリスは説明した。
「水分がない分、縮んでしまうってことね」
「そういうことです。リリシラ様」
「持ってみます?」
「ええ」
私は、竹ザルを持ってみる。
……軽い。
何も載っていないみたい。
「軽いでしょ?」
「ええ」
タスリスは木の箱に、輪切りのじゃがいも、ニンジン、レンコン、細切りのピーマン、半分に切られたトマトを敷き詰めた。
「これを使うときは、水に浸してくださいね」
「ええ、わかったわ」
木箱を座席に置いたあと、私たちは馬車に乗り込んだ。
次の第10話「見積もりの旅~幻影の肉王国~」3月2日18:00投稿