政略結婚で嫁いだ先は国民全員がサンタクロースの王国でした   作:北河ゆん

9 / 24
第9話「見積もりの旅~野菜の楽園~」

 ジアトリノは、野菜の楽園と呼ばれていて、どの野菜も大きく、丈夫に育つところらしい。

 馬車からでも、虫の鳴き声が聞こえてくる。

 

「虫の演奏、心地いいですね」

 

 と、ルナセインが言う。

 

 ……耳を疑った。

 

 この音を、心地がいい?

 頭に残る雑音。

 留まることがない、音の連鎖。

 声を荒げて、かき消したい。

 

「おお、着きましたね」

 

 馬車から出ると、煩わしい音が聞こえなくなっていた。

 

「ここが、ジアトリノ……」

 

 森に囲まれていて、点々とツリーハウスがある。

 

「ちょっと!」

 

 ルナセインは、歩き出す。

 私は周りを見ながら、追いかけた。

 周りの景色は、油絵で描かれたような幻想的な風景で、癒される。

 胸いっぱいに息を吸い込むと、新鮮な空気が体に入ってくる。

 なぜか、身体が軽く感じた。

 

 ルナセインは、らせん状の階段を登り始めた。

 続いて、私もその階段を登る。

 階段は、丸太の組み合わせで出来ていて、足場は狭く、おまけに滑りやすい。

 

「はあはあ……」

 

 登り切ったとき、少し疲れていた。

 ルナセインは、ツリーハウスの扉を叩いた。

 その音は、打楽器のような甲高い音に似ていた。

 

「ほお、ようやく来たか……ん?」

 

 床まで付く白い髭の男性が現れた。

 

「この方は?」

 

 白い髭の男性がルナセインに尋ねる。

 

「僕の妻です」

「は、初めまして、リリシラです」

「初めまして、リリシラさん」

「タスリスさん、こちらです」

 

 ルナセインは見積もりの書かれた紙を渡す。

 

「昨年と同じ……じゃな」

 

 タスリスは、独り言のようにつぶやく。

 

「ええ、昨年と同じです」

 

 ルナセインは、その言葉に合わせるように、同じ声の大きさで返す。

 

「そうだ、渡したいものがあるんだ。ちょっとここで待っててくれ」

 

 タスリスは駆け足で家を出ていった。

 あの身のこなしは、子どものように無邪気で、大人には真似できないものであった。

 

「ルナセイン、渡したいものって何かしら?」

「……野菜かな? 昨年も頂いたし」

「野菜ですか……腐ってしまいません?」

「あの方法なら……腐らないか。腐らないですね」

「あの方法とは、何でしょう?」

「それは、実際に見ればわかります」

「言ってくれたらいいのに……」

 

 私は拗ねる。

 

「い、いや……実際に見たほうが……。ほら、戻ってきたみたいだし」

 

 ルナセインが言った直後、階段を駆け上がる音が聞こえてきた。

 

 ……本当に五感が良いんだから、ルナセインさん。

 

 扉が開く。

 タスリスは一点を見つめながら、息を整えていた。

 

「ほ、ほら……持ってきたぞ……」

 

 息を整いながら、竹のザルを床に置く。

 

「これは、何ですか?」

 

 ザルの中には、輪切りのじゃがいもが円を描くように並べられて、その内側に輪切りのニンジン、細切りのピーマン、輪切りのレンコン、半分に切られたトマトが乗っていた。

 

 ……どの野菜も小さい。

 

「これは、干し野菜といって、お天道様の力によって水気をなくして、保存しやすくするものだよ」

 

 と、タスリスは説明した。

 

「水分がない分、縮んでしまうってことね」

「そういうことです。リリシラ様」

「持ってみます?」

「ええ」

 

 私は、竹ザルを持ってみる。

 ……軽い。

 何も載っていないみたい。

 

「軽いでしょ?」

「ええ」

 

 タスリスは木の箱に、輪切りのじゃがいも、ニンジン、レンコン、細切りのピーマン、半分に切られたトマトを敷き詰めた。

 

「これを使うときは、水に浸してくださいね」

「ええ、わかったわ」

 

 木箱を座席に置いたあと、私たちは馬車に乗り込んだ。




次の第10話「見積もりの旅~幻影の肉王国~」3月2日18:00投稿
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。