創世のアームズ・ディーラー〜現代と異世界を駆け回る貧乏高校生の武器商売奮戦記! 作:大和タケル
受験勉強の為の異世界転移2日目。
ここ最近の忙しさから解放されたオレは、穏やかな気持ちで過ごしていた。
朝食を食べて、勉強して、気分転換にアグルヒルの街を散歩する。
最初に来た時に見た美味しいパン屋の行列にも並んでみた。屋台で串焼きを食べたり、見たこともないフルーツを食べたりもした。ギルドに立ち寄り伝言板もチェックした。
夜まで勉強し、夕食を食べてから露天風呂に入る。
「ふぅぅー、ここの露天風呂は落ち着くなぁー」
おそらく、異世界転移を受験勉強に使っているヤツは他にはいないだろうと独り言を呟きながら夜空を見上げる。
今まで忙しくて夜空を眺める余裕など無かったオレは、地球でいう所の天の川が、やけに明るくて星が多い事に気付いた。
「なあタケじい、天の川が凄く明るいんだけど、このどこかに地球があったりするのかなあー?」
「おそらくあるぞ、見えんけどな」
「えっ、この世界は異次元的な、別の空間みたいな所じゃないの?」
「何を言うとる。この星は天の川銀河のかなり中心にある星じゃぞ。だから、星の数が多いんじゃ」
「そ、そうなのか? なんで、そんな事を知ってるのさ?」
タケじいは地球の何倍も濃い天の川を眺めて語り始めた。
「1800年前の事じゃ。ワシには弟がおった。倭国に魔物が侵入して、ワシらは魔物を退治する為の武器を探して、この地に辿り着いたんじゃ。そして、ワシと弟はこの地で武器を集めるため冒険者になったんじゃ」
「タケじいも商人だったのか?」
「いや、ワシは勇者で弟は賢者だったぞい、カッカッカッ!」
「なんだよぅー、凄いじゃないかっ」
「弟の名はツクヨミというてな、それはそれは頭の良いヤツじゃった。ツクヨミはこの地に住まう大賢者に弟子入りしてのぅ、色んな事を学んでワシに教えてくれたんじゃ。しかしこの通り、ほとんど忘れてしもうたがなっ」
タケじいには弟がいたのかぁー。
「星の事もツクヨミから?」
「そうじゃ。ツクヨミは、なぜ倭国とこの星が繋がったのかを調べておった。ヤツが言うには、太陽系が数千年に一度だけ、天の川銀河の中心に最も近づくそうじゃ。銀河の中心にはブラックホールがあってのう、常にプラズマジェットという膨大なエネルギーを噴出しておる。そして、その中に含まれる素粒子を魔素と言い、魔素を浴びた物質は不思議な力を得るというのじゃ」
「もしかして、太陽フレアが起こったのは魔素のせい?」
「そうじゃ、恒星の場合は巨大フレアを引き起こし、惑星の場合は魔法が使える様になる。そして、この星の魔物を総べる王が、魔素を帯びた地球に目を付けて攻めてきよったという訳じゃ」
「すると、地球も魔素を浴びているのか?」
「うむ。しかし、太陽フレアが起こってからまだ日が浅い。あと数年もすれば地球でも魔法が使えるようになるじゃろうな」
「そういう事か……!」
つまり、地球が銀河の中心に近づいた事で悪い魔物に見つかり、手先のゴブリンが攻めてきたって事の様だ。
にわかには信じられないが辻褄は合っている。
「それで、ツクヨミはどうしたの?」
「それがのう……ワシらは魔物と戦って倭国から追い払ったんじゃが、調子に乗って魔物を差し向けた魔王を倒す為に、この星へ逆進撃をかけたんじゃ。しかし、相手が強すぎた。魔王に包囲され、全滅しかけたワシらをツクヨミが大魔法で倭国へ転移させて……ツクヨミとはそれっきりじゃ」
いつも陽気なタケじいが悲しい顔になった。
「み、見捨てたのか?」
「いや、ワシらはすぐに桜島の洞窟からこの地に向かおうとしたんじゃが、転移の扉は開かなんだ。転移の魔法もダメじゃった。おそらく、倭国の魔素が枯渇したんじゃろう」
桜島、洞窟、転移の扉、聞きたい事は山程あるが、ツクヨミの事が一番気にかかる。
「確か、この星は時間の流れが遅くなってたはずだよね。もしかすると、ツクヨミはまだ生きているんじゃないかな?」
タケじいの顔が少し明るくなった。
「おおー、そう言えば……スイングバイじゃ! この星がプラズマジェットに乗ってブラックホール圏外に飛び出した時にだけ、時間の流れが速くなるとツクヨミが言っておったわい」
「すると、スイングバイが終わると、どうなるの?」
「それが終るとじゃな、再びブラックホール圏内に捕まり、時間の流れが極めて遅くなる。じゃが、もしかすると、ツクヨミは生きておるやも知れん。魔王に殺されてなければじゃがのう……」
かなり絶望的だ。ツクヨミに会ってみたかったなぁ……。
お互いしんみりして夜空を眺めていると、タケじいが話を変えた。
「そう言えば、ツクヨミも交渉スキルを持っておったわい。交渉スキルは頭の回転が早くなるからのぅ、創真の勉強にも効果が出ておるんではないか?」
確かに、勉強した事がスムーズに頭に入ってくる様な気がしていた。異世界の環境が良いからだと思っていたが、交渉スキルのお陰の様だ。
それから部屋に戻って勉強を始めたのだが、先程の壮大な話が気になって全く勉強する気になれず、ベッドで横になりツクヨミの事を想像しながら眠りに就いた。
・・・・・
チュン、チュン……。
日本へ帰る日の朝がやって来た。
今日はいつもと違って装備を整える必要もなく、朝食バイキングを食べて日本へ帰還した。
ガタンッ。
自分の部屋に着くと朝の7時、台所では母が朝食の準備をしている。
「あら創真、おはよう」
「おはよう、母さん」
普段通り食卓につき手を合わせた所で、重大な事に気付く。
さっき朝食を食べたばかりじゃないか?
しかし、大食いスキルで難なく2回目の朝食を平らげて学校へ行った。すると、クラスはゴブリンの話題で持ち切りになっていた。
「昨日は多摩湖のゴブリンが40人も人を殺したんだって」
「ええー、多摩湖って、すぐ近くじゃん」
「ゴブリンには銃が効かないみたいだよ」
「それって無敵じゃん、怖ええー!」
当然と言えば当然だが、多摩湖の近くにある学校だ。話題にならない訳がない。
うわさ話の中を通り抜けて自分の席に座ると、いつもの様に慎吾が話しかけてきた。
「おはよう創真」
「おはよう慎吾。昨日はありがとな」
「創真、GAT隊って知ってるか?」
「あぁ、ニュースで言ってたヤツね」
昨日、香織パパから聞いていた。オレが売った剣を使う自衛隊の特殊部隊だ。
「人質を助けられなかったって、結構叩かれているみたいだぜ」
「なんで? 人質は既に死んでたんじゃないのか?」
「生配信を見てたヤツらは知っているけど、そうじゃないヤツは報道をそのまま信じるからなあ……」
何かイヤな予感がした。
【第44話 ツクヨミ 完】