創世のアームズ・ディーラー〜現代と異世界を駆け回る貧乏高校生の武器商売奮戦記!   作:大和タケル

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第51話 交渉スキル対決

 ここは転移の丘。

 

 因幡さんが小高い石の上に立ち、高らかと右手を上げている。後方には闘志に燃えるアルミラージ100匹が、今か今かとスタートの合図を待っている。

 

 初夏の日差しが照りつける中、リアカーを握るオレの手が汗ばむ。

 

 長い沈黙の後、因幡さんが奇声を上げて一気に右手を振り下ろした。

 

「キキューッ!!」

 

 因幡さんの合図と共に、100匹のアルミラージが一斉に丘を駆け下りて行く。

 

 ドドドドドドドドドドッ……!!!

 

「キュー、キュー、キューーッ!!!」

 

 まるで将軍の突撃命令で、我先に大将首を欲せんと競う騎馬武者の様だ。

 

 オレと因幡さんが丘の上から兎の競争を眺めていると、100匹のアルミラージは足の速い2匹を先頭に2つの集団が出来上がった。そして、城壁都市の手前から東西に別れて畑の中へと散らばって行った。

 

「因幡さん、あの先頭の2匹は競争している様だけど、何を競っているのかなぁ?」

 

「さすが、創真の旦那はお目が高い! あの2匹の名はレッドとブルー。イナちゃん部下のナンバーワンとナンバーツーなんだぜぇー。ワイルドだろぉー?」

 

 イナちゃん? それに、質問と答えが噛み合ってないし、白うさぎなのにレッドとブルーなんて、ツッコミ所満載なんだが……。

 

 オレはもう一度尋ねる。

 

「因幡さん、レッドとブルーは何で競争をしてるの?」

 

「旦那、レッドとブルーはいつも張り合っているんだぜぇー。レッドの集団は赤組、ブルーの集団は青組。これまでの勝敗は99対99で、最初に100勝した方がイナちゃん部下ナンバーワンになれるんだぜぇー。羨ましいだろぉー?」

 

 全然羨ましくないが、うさぎにはうさぎの世界があるんだろうと思っていると、ふと報酬が足りない事を思い出した。

 

「因幡さん、ちょっと相談があるんだけど……」

 

「旦那、イナちゃんも相談があるんだぜぇー」

 

 質問が重なったので、どうぞと先をゆずる。すると、因幡さんが唐突に土下座をした。

 

「創真の旦那、すんませんっ!」

 

「えっ、突然、何だよぉ?」

 

「実は、赤組と青組の勝った方に報酬を2倍やると言ってしまいまして……」

 

「おいっ、競争の理由はそっちじゃねぇーか!」

 

 どこまでも、ツッコミ所の多いヤツだ。

 

「それで、旦那の相談ってのは、何なんでございましょ?」

 

「えっ……?」

 

 先に致命的な話を聞いた後で、オレの相談は非常に話し難い。

 

 ちょっと頭を整理してみよう。

 

 現在、人参の数は100本。

 

 因幡さんの要求は、当初の要求200本と勝った方の組に100本で合計300本だ。

 

 対して、こちらの要求は当初の要求200本を半分にまけて100本にして欲しい訳だが……。

 

 つまり、双方の乖離が200本もある訳だ。ここは互いに間をとって、200本ってのはどうだろうか?

 

 頭の中で交渉の作戦を練っていると、因幡さんが涙目で訴えてきた。

 

「旦那ぁー、イナちゃんが勝手に報酬を吊り上げたんだぜぇー。責任は全てイナちゃんにあるんだぜぇー。だから、旦那のお好きなように罰を与えるんだぜぇー。でもねぇ、イナちゃんは旦那の為に少しでも早く役に立ちたい一心でやったんだぜぇー、うううっ!」

 

 言葉はへんてこりんだが、気持ちは伝わった。事態は既に進行しているし、ここまで訴えられたら折半交渉なんてヤボだ。

 

 オレは因幡さんの要求を全面的に飲む事にした。

 

「分かった。因幡さんの要求通りにするよ」

 

 オレの言葉を聞いて笑顔になった因幡さんだが、なぜか哀愁漂う悲しい顔になる。

 

「創真の旦那、イナちゃんの報酬は無しでいいんだぜぇー。でもちょっとだけ悲しいんだぜぇー」

 

 目をウルウルさせて訴える姿を見せられると、何でも許せる気持ちになってしまう。

 

「分かった、分かった。因幡さんは幾つ欲しいの?」

 

 一瞬、因幡さんの目が煌めいた様な気がした。

 

「イナちゃんは体が大きくて、普通の兎より5倍は食べるんだぜぇー。だから10本欲しいんだぜぇー」

 

「分かったよ。因幡さんには10本あげるよ」

 

「創真の旦那ぁ、素敵だぜぇー」

 

 結局、因幡さんの要求は310本。現在リアカーには100本あるから、残り210本を買い足す必要がある。

 

 オレは因幡さんに人参100本の見張りをお願いして、再び街へ買い出しに向かう。すると、街に入った所で突然タケじいが現れた。

 

「創真よ、白うさぎに手玉に取られたようじゃのう、カッカッカッ!」

 

「えっ、なんの事?」

 

「忘れたか? 白うさぎは交渉スキルを持っておる」

 

『スキル交渉術。レベルに応じて自分の意見が通りやすくなる』

 

 そして、因幡さんのレベルは14。オレより上だ。

 

「ああっ、しまったぁぁぁー!」

 

「あやつは、最初から人参が100本しかない事を知った上で、創真の半分にする値下げ交渉を阻止し、あわよくば100本上乗せする交渉を仕掛けてきたんじゃ」

 

「なっ、あああああー!?」

 

「そして、創真が折れたと見るやいなや、更に10本の要求を上乗せしてきたという訳じゃ、カッカッカッ!」

 

「分かっていたなら、タケじいが知らせてくれれば良かったのにぃ……」

 

 女々しく訴えるオレをタケじいが笑い飛ばす。

 

「フォフォフォッ、これも修行じゃ! 経験せねば身につかぬ」

 

 オレは憤慨して声を荒げた。

 

「クソ因幡めぇぇー、皮を剥いて塩水に浸けてやろうかぁぁぁ!」

 

「怒るでない創真よ、交渉に負けたからといって、いちいち目くじらを立てるものではない。ドンと構えて笑い飛ばすのが男の器量というもんじゃ、カッカッカッ!」

 

「……」

 

「それにのぅ、人参が100本、200本増えた所で、今回はそれ以上の利益が見込めるのではないか?」

 

 タケじいの言葉で目が覚めた。こんな些細な事で何をグチグチ言っているんだろう。ふいに気持ちがふっ切れた。

 

「あぁそうだね。210本といっても、たった銀貨4枚だ。どうせなら切の良い300本を買っていけば、因幡さんの忠誠心も上がるんじゃないかなぁ?」

 

「その通りじゃ! 一軍の将になる為には男の器量が必要じゃ。覚えておくが良いぞ」

 

「分かったよ。ありがとうタケじい!」

 

 一癖も二癖もあるヤタや因幡さんとのやり取りで、オレは一皮剥けた様な気がした。

 

 

【第51話 交渉スキル対決 完】

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