転生したらウマ娘世界のトレーナーになっていた。
前世のことはよく覚えていない。俺は競馬には詳しくないが、ウマ娘は好きだった。アプリ以外はまともに触っていないが。
そんな俺はトレーナーである親父の背中を見て育った。そして親父が海外に渡った年と同時に、俺は中央のトレーナーになったのだ。
しかし順調だったのはそこまで。担当するウマ娘を見つけることができず、俺は途方に暮れていた。新人トレーナーがウマ娘と契約する難しさは知っている。ウマ娘だって自分の人生が懸かっているのだから、経験豊富なベテラントレーナーを選ぶに決まっているのだ。
同期である桐生院さんのような名門出身のエリートでもなければ、新人トレーナーは下積みからのスタートになる。
俺の見た目も悪かったかもしれない。いわゆるプリン頭(金髪で頭の頂点だけが黒色)はどこのヤンキーだよって感じだし、目付きが悪いのも自覚している。女子学生ウケがとことん悪い外見も、足を引っ張っているのだろう。生まれつきだからどうにもならないんだよなぁ。
俺は手応えを感じることのないまま、ウマ娘達は契約を済ませ、次々とデビューしていく。うん。来年は頑張るか。
一 年 が 経 っ た
あれから何も変わらない。俺はサブトレーナーとして雑用をこなしながら、いくつものチームを転々とする日々。トレーナーとしての経験を積むために地味な業務を繰り返していく。それでもウマ娘と関わる日々は刺激的で、俺は幸せな生活を送っていた。
そして再び始まったスカウトシーズン。俺はピカピカの二年目トレーナーとしてウマ娘に声をかけまくる。この際ネームドが~なんて言ってられない。モブだろうと、少しでも光る物があれば迷わず声をかけた。
ウマ娘と契約することはできなかった。
同期のトレーナーは少しずつだが契約を勝ち取っている。桐生院さんはGⅠを獲ったらしい。ここまでくると出遅れていると感じるようになった。親父は優秀なトレーナーだったのだ。その血を引いている俺が不甲斐ないと、親父の名誉まで傷つけてしまう。
焦りを抱えた二年目が始まった。仕事を覚えたことで手際がよくなった。他のウマ娘に詳しくなった。効果的な練習メニューを組むことができるようになった。確実に成長はしている。しかし同期達の姿を見ると、やはり自分は遅れているのだと思い知らされる。
「ねぇ君。ちょっといいかな」
そんな俺に転機が訪れた。交流のある先輩トレーナーの提案がきっかけだった。
「サイレンススズカを、君に預けようと思うの」
「は?」
サイレンススズカ──栗毛の逃げウマ娘であり、前世では押しも押されぬ人気キャラクター。俺が関わることのないと思っていた優秀なウマ娘。
「すいません。話が見えませんが」
「言ったとおりだよ。スズカは君に担当してもらおうと思う」
移籍ってことか? ありがたい話だが……時期が時期だ。何か裏があるのではと勘ぐってしまう。メイクデビューも終わり、なんとも絶妙な時期だ。
「随分と急ですね」
「私とスズカは相性が悪くてね。このまま続けるのはお互いによくないと判断した。トレーナーとしては無念だけど、スズカの新たなトレーナーを見つけることが、私の最後の仕事だと思ってる」
「なんで俺なんですか」
「消去法だよ。スズカには専属で付き添ってくれるトレーナーが必要だ。それも頭の固いベテランじゃなくて、融通が利いて柔軟に考えられるトレーナーが。この時期からそれを探そうとすると……まあ難しいよね」
うっすら思い出してきた。
たしかアプリ版のスズカは、トレーナーとウマが合わずに移籍していたはず。つまりここまではストーリー通りの展開なのか……。
「あとは勘かな。君なら相性も悪くないと思うよ」
「……わかりましたよ。やらせてください」
話を聞く限りではかなり特殊なウマ娘っぽいな。だがネームドを担当できるのは素直に嬉しい。棚ぼただが、ついに俺にも担当ウマ娘ができるのだ!
「最善を尽くします」
「うん。頼んだよ」
軽い調子だった先輩だが、その口調とは裏腹に深い後悔があるのだろう。普段はおちゃらけた先輩の、そんな悔しそうな表情を初めて見たから。
しかし、サイレンススズカは俺にはもったいないくらいのウマ娘だ。距離適性も申し分ないし、
◇
「今週はレース。次週もレースだ。その次もレースに出てもらう」
「うそでしょ……」
クライマックスシナリオに脳を焼かれた転生トレーナーがスズカを5連続出走させる話です。対戦よろしくお願いします