スズカの快進撃が止まらない件について。
マイルCSをレコードで制したことで、いよいよ手が付けられない強さになってきた。10、11月だけでGⅠ三勝だ。ゲームでは珍しいことでもないが、とっくに現実離れしている。
俺はというと、スズカの活躍が目覚ましいので部室を頂戴した。ある程度実績のあるトレーナーには、部室という名の専用部屋が用意されるのだ。これは素直に嬉しい。
12月はレースの予定がないので、ちょっとした休暇になった。念願の自分の城を手に入れた俺は、ウキウキで環境を整えている。欲しかった高級オフィスチェアを購入し、パソコンも新調した。スズカがレースに勝ったことで懐も温かいぜ。
担当バがレースに勝つと、そのトレーナーにも賞金の何割かが入る。一部とはいえ、その額は莫大だ。GⅠの一着賞金って当然のように億を超えるし。すでにスズカが稼いだ賞金だけで家が建つ程度には、俺も儲けている。トレーナーは夢のある職業だ。地方はまた別だが。
「トレーナーさん。走ってきてもいいですか?」
期待するような瞳でこちらをチラッチラッしていたので、やんわりと拒否っておく。スズカは隙を見せるとすぐに走り出すような走行中毒なので、部室に軟禁することにした(トレーナーの鑑)。せっかくの休みなのだから羽を伸ばしてほしい。いや、贅沢は言わないからせめて脚を休めてほしい。ただし部室の中でなぁ!
正月が近くなるとほとんどのウマ娘は実家に帰るが、スズカのように寮に残るやつもいる。スズカの実家は……契約したときに一度電話で挨拶したが、お母様が怖かったこと以外覚えてない。
「トレーナーさん。走ってきてもいいですか?」
与えられた部室は広々としていて、ソファなどの家具も置いてある。スズカは座らずにぐるぐると左回転をしているが、何がしたいんだ。
年末になっても俺の仕事は減らなかった。俺は新人だから無縁だが、先輩達は学会の発表があるらしく忙しそう。俺はというとスズカの活躍で取材が増えた。受ける義理はないので基本的に断っているが、月刊トゥインクルは例外として受け付けている。乙名史記者は流石に無下にできない。ああ見えて熱い人なんだよな。
なんかめっちゃ警戒されてたので、なるべく丁寧に接したつもりだ。俺のメイクラ的育成論についても熱く語ったが、乙名史記者は最後まで青い顔をしてた。あの人って基本的にウマ娘全肯定BOTだったよな……? ゲームだとハイテンションで褒めてくれていた記憶しかないのに。解せぬ。
「トレーナーさん。走ってきてもいいですか?」
駄目でーす。五分毎にそれ言うの止めようよマジで……。
走りたいBOTになったしまったスズカの症状はかなり根深いらしい。今日はもう走るな、と言い聞かせると露骨にがっかりしていた。耳をぺたーんと付けてしょんぼりスズカだ。
ちょっとかわいそうだが、やっぱスズカには休んでほしい。マイルCSはそれだけ激闘だったし、そもそも二週連続でGⅠを走っているのだ。適切なケアを怠れば故障が近づく。
「あの、トレーナーさんは先ほどから何を……?」
やっと走るのを諦めたスズカは話題を変えてきた。
俺はというと新調したパソコンでバトロワ系FPSに励んでいる。就業時間……? ただの息抜きなら問題ないだろ。
スズカが物珍しそうに画面を見ている。
その時、ふと閃いた! これはこのアイデアは、サイレンススズカとのトレーニングに活かせるかもしれない!
と、アプリトレーナー並の閃きを得た俺は、スズカにもFPSをプレイさせる。賞金の使い道に困っていたときに俺と同じパソコンを買わせておいたのが功を奏した。高校生ならパソコンあった方が便利だからな。
どうせ部室から出られないのだから、この際いろいろ仕込んでやろう。まずは基本操作だぞー。なんて言っていると、スズカは一瞬でWASD移動をマスターした。やっぱ走ることに関しては天才のそれだな。その後もスズカが武器を触っている間に、俺は溜まっていた仕事に手を付ける。スズカは一度集中すると没頭していくタイプなので、走りたいとは言わなくなった。計画通り。
「こうやって弾を撃つのね──」
「しゃがみ……なんでしゃがむのかしら──」
「もっと速く走る方法は──」
なんか楽しみ方が違う気もするが、良い感じに気を逸らすことに成功しているからヨシ!
そんなわけで年末は部室に籠もりきりだった。スズカは寮と部室を往復し、俺は部室で寝泊まりする。トレーナー棟はシャワー室完備のブラック前提なところがあるので、他にも家に帰れていないトレーナーは何人かいましたとさ。廊下に寝袋が転がっているのはちょっとしたホラー。
次第に退屈するようになったスズカは俺が教えたFPSに没頭していた。ゲーム内だと好きに走れるので気持ちが良いらいい。
「スズカァ! カバー頼む……って、どこにいるんだお前えええ!!」
「今向かいます(ウルトぽちー)」
「勿体ねぇ! 移動するためにウルト吐くなァ!!」
「私、誰よりも速くなりますね(先頭の景色)」
話の通じない走行中毒は、ゲーム中でもお構いなしに走り去っていく。エイムは並、立ち回りは終わっているが、キャラコンは俺の数倍上手い。当たり前のように壁を走り、スライディングからの大ジャンプ。周囲の地形を活かして三次元的な最短距離を突き進む。
「はぁ……最後までキツかった……」
「これは……私たちがチャンピオンですね」
「GG」
「え?」
グッドゲーム。
そしてスズカにとってのシニア期が始まる。
増やすべきは?
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レース回
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掲示板回
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日常回