5連続出走だ! ダービー!!   作:首領ドラコ

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夢を背負って

「祝賀ッ! 君が打ち立てた記録に比肩するものはないだろう!」

 

 

 重賞15連勝、GⅠ7連勝。そんなスズカの戦績は、歴代のレジェンド達とも引けを取らない。

 そして新参のファンは意外に感じるようだが、実はスズカはクラシック三冠を一度も勝っていない。トリプルティアラも同様だ。無敗ではない。二冠でも三冠でもない。遅咲きだったが故の無冠の女王なのだ。ちょっとかっこいい。

 

 

 にんじん色をした鮮やかな長髪と、一房の白い髪。その役職に反して幼い見た目だが、実年齢も見た目相応らしい。少なくともスズカよりは年下に見える。それがトレセン学園の理事長を務める秋川やよい。俺にとっては上司になる。

 

 

「すいませんね。わざわざ出向いてもらって」

「うむ……しかし互いに忙しい身だ。遠慮は不要!」

 

 

 最近のスズカの活躍を聞きつけて、うちの部室に理事長がやってきた。というのは少し大げさだが、理事長は結構な頻度でトレーナー棟に顔を出す。現場を重視するお方なのだ。

 普段はたづなさんとセットなので理事長ソロは新鮮……というか、改めて見るとやっぱ幼すぎる。能力・人格も疑いようがない御仁なのはわかっていても、見た目は小中学生だ。どうしても慣れない。

 

 

 そして帽子の上に猫を乗っけている。生きた黒猫を、なぜか常に頭の上に乗せている。ゲームではそこまで違和感はなかったが、いざ現実に現れると違和感がすごい。ついまじまじと見ていると理事長

 

 

「……忠告。あまりレディをじろじろと見るものではないぞ」

「あ、すいません」

 

 

 正確には帽子の上の猫を見ていただけだが。バッチリ目が合ってるし。にゃーにゃー。

 

 

「君の顔色に免じて見なかったことにしよう……疲労で幽霊みたいな顔だぞ、君」

「ご冗談を。そういう理事長こそ、目が死んでますよね」

「「はっはっは」」

 

 

 ……トレセン学園は相も変わらずブラックだ。望んでやっていることだが、それにしたって忙しい。理事長も面談お疲れ様です。負担を増やして申し訳ない。今年の面談回数は俺がぶっちぎりの一位だろうから。

 

 

 そのせいか普通に談笑できる程度には仲良くなってしまった。最初はたづなさんと一緒だったのに、今では一人で会えるのだから信頼されたのだろうか。それとも単純に人手が足りなすぎるだけか。

 

 

「憂慮ッ! 勤勉は美徳だが君はもっと自分を大切にするべきだ」

「その言葉、そっくりそのままお返ししますよ。理事長って俺よりだいぶ年下ですよね。あまり無理されると心が痛むんですが」

 

 

 あと俺の激務は自業自得みたいなところあるから。レースに出続けるメイクラが全部悪いんだ。

 

 

「……サイレンススズカが君を心配する理由がわかる気がするよ」

「スズカとも面談したんですか」

「当然ッ! 当初は悪徳トレーナーの元から無垢なウマ娘を救い出す……というシナリオだった!」

「理事長ってわりとズバズバ言いますよね」

 

 

 それも何ヶ月か前の話。今では多少の理解が進んだことで以前のような誤解は解けた。とはいえ、俺に対する懸念が無くなったわけじゃない。『合意の上で細心の注意を払っている』ということだ。

 

 

「提案ッ! 適度な休息を忘れないように! やはり君達は見ていて危なっかしい」

「肝に銘じます。理事長こそ、無理しないでくださいね」

「……」

「うそだろおい」

 

 

 

 

 

 ◇

 

 

 

「スズカ。ちょっといいか」

 

 

 トレーニングが終わり、寮に帰るような時間帯になってもスズカは部室に残っている。勝手に走らないように見張るためだ。

 

 

 普段は課題を進めたり、レースのビデオを見て研究したりしている。それでもやる事が無いときは今のように、ぐるぐると部屋の中を左回りに旋回している。考え事をするときのクセだ。そしてFPSは速攻で飽きたらしい。

 

 

「もうシーズンも終盤だが、出たいレースはあるか?」

「それは……ずいぶんと今さらですね」

 

 

 スズカが出走するレースは全部俺が決めている。GⅠを中心にメイクラシナリオをなぞるように。そんな過密ローテにスズカが不満を零したことは一度もなかった。だから俺はレースに関してスズカの希望を聞いた覚えがない。

 

 

「その、お任せします。次は秋天ですか?」

「……時期的にはそうなる」

 

 

 まだ秋天までは三週間ある。走るか走らないか、最終決定まで猶予は残されている。

 

 

 秋の天皇賞……サイレンススズカにとっては因縁のあるレースだ。メインストーリーの不吉な演出を見た俺は、すぐに競争馬のサイレンススズカを調べた。第3コーナーの大欅を越えたあたりで失速。骨折して予後不良と診断されたのだ。

 

 

 6連勝で迎えた絶頂期だったが故に、その悲劇は際立つ。ウマ娘でも何度か取り上げられていて、アニメでは骨折した後1年間の休養を経て復帰していた。

 

 

「俺は出ないという選択肢もあると思う」

 

 

 ばかばかしい話だと思う。目の前のスズカにとってはIFの世界だろうし、それにビビる必要も感じない。だが万が一。レースを繰り返したスズカの脚が消耗して、故障に繋がる可能性もゼロではない。

 

 

 そこでようやく、ぐるぐる回っていたスズカが俺の方を向いた。幽霊でも見たような顔をして。

 

 

「……? 珍しいですね。トレーナーさんがそんなことを言うなんて」

 

 

 戸惑ったように耳をピコピコ揺らすスズカ。

 

 

「休んでもいいぞってことだ。今年は有馬もある」

「そうですか。私はてっきり──」

 

 

 全部走ろうとすると思ってました。スズカはしれっと言った。

 担当にそんな覚悟をさせていたことをちょっと後悔。そして実際走らせていたと思う。有馬も勝てるように手を尽くしたはずだ。

 

 

「スズカのコンディションが最優先だ。少しでも違和感があるなら出走は止める」

「違和感……違和感ですか」

 

 

 スズカは旋回しながら少しだけ考えたあと、ぴたっと止まる。

 

 

「私、すごく調子がいいんです。最近は特に、羽が生えたようで」

 

 

 俺もそう思う。夏休み明けのスズカは文句なしのベストコンディション。誰と走らせても勝てるだろう。それくらいの仕上がりだった。そしてレースを繰り返すごとに勢いを増している。このまま際限なく速くなるのではないか。そんな荒唐無稽な幻想を抱かせる程度には、今のスズカは快調だった。

 

 

「毎日王冠は、あと少しで感覚を掴めそうでした。あと少しで見えそうなんです。スピードの向こう側の景色が」

 

 

 走らせろ、と俺の中のトレーナーの部分が強く主張している。今のスズカは覚醒の途中だ。これまで何度も壁を破ってきたが、今はそのペースが早い。

 

 

 ここでスズカの勢いを削ぐようなことはできない。一つのレースを終えるごとに、スズカは加速度的に速くなっている。そんな都合のいい状況は、きっと長くは続かないだろう。そんな予感があった。

 

 

 最後の壁を越える。スピードの向こう側とやらにたどり着くなら、今しかない。

 

 

「トレーナーさんの判断に従います。ですが、私はまだ走っていたい」

 

 

 お互いに理解していた。今が最大のチャンスだと。

 

 

「秋が終われば少し休むのも……いいかもしれませんね」

「……そうだな」

 

 

 秋を越えて……有馬までゆっくり休もう。そこで夢を叶えられなくても、時間はまだまだあるのだから。

 

 

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