5連続出走だ! ダービー!!   作:首領ドラコ

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次のレースは

 スズカは圧勝して帰ってきた。7バ身差だ。ゲームでは見慣れた数字だが、現実でここまでの差を付けられると乾いた笑いしか出ない。

 

 

 セオリ-を無視した走りで最後まで逃げ切ってしまった。終盤はスタミナが切れていたが、それでも勝てるのだからスズカのポテンシャルを感じる。何よりも破滅的な逃げをやり遂げた天性のメンタリティが、控えめに言ってイカれてる。

 

 

 最後の直線。スタミナ切れで徐々に失速していたスズカ。とっくに心肺機能も脚も限界だったはずなのに、あろうことか()()()()()()()()()()()()()()。後ろから追われていたわけでもない。まるで自分がさらに速くなることを疑っていないような。そんな純粋な動機でスズカはギアを上げようとした。

 

 

 俺が気づいたのだから、他のトレーナーも薄々勘づいているだろう。やべーウマ娘のやべー精神性に。

 

 

 結果としてそれは失敗に終わったわけだが、行動に移そうとした思考回路が理解できない。あくまで気楽に。何の躊躇もなく限界を超えようとしたのだ。ハイペースで消耗している状態で。

 

 

「やべー」

 

 

 実際に接してわかるスズカのヤバさよ。先頭民族とネタにされていたが、ここまでくると笑えなくなってくる。本人は満足そうなので何も言えないが。無事にスランプも抜け出せたようで何よりだ。

 

 

 レースが終わった後に先輩から電話があった。涙声のままスズカを祝福して、俺を褒めて、もう一度スズカを褒めていた。たった一度のレースで全てが丸く収まったな。

 

 

 当の本人は今すぐにでも走り出したい、という顔をしている。心配しなくても、これからは嫌でもレースに出ることになるだろう。

 

 

 ゲームにはクライマックス編──通称メイクラと呼ばれるシナリオが存在する。現状だと最新のシナリオであり、最強のシナリオだ。特徴を端的に表すと、レースに出走し続けることで評価点を高めることができる。

 

 

 具体的には3年間で30を超えるレースに出走し、アイテムを集め、夏合宿の期間にステータスを爆盛りするのが基本的な立ち回りだ。連続出走は当たり前で、ウマ娘の体力が下がってもやる気が下がっても構わずにレースに出走させる酷使ローテである。

 

 

 俺はこの育成方法でスズカを最強のウマ娘にするつもりだ。すでに複数のレースの出走登録を済ませ、今回のレースに勝たなくても連闘させる予定だった。前提として、ウマ娘はほとんど連闘しない。特にGⅠで勝つようなウマ娘ほど出走頻度が落ちる傾向がある。ウマ娘の負担がデカい上に、露出が増えることで対策されやすくなる。大きな目標に向けてじっくりと牙を研ぐのが主流な考え方だ。

 

 

 だが今のスズカにとって、レースの間隔を空けることは悪手だと思う。ようやく掴んだ感覚を確実に自分のモノにするために、勘が鈍らないうちにレースへと送り込むべきだ。本人も走りたがっているのでちょうどいい。

 

 

 札幌記念。今回はGⅡだ。ウマ娘世界は面倒な出走資格がなく、ゲームで走れるレースは基本的に走れるので都合がいい。2000mの右回りと、小倉記念と条件が同じなので似たような感覚で走れる……はず。こればかりは本人にしかわからない。ターフの状態も変わっているだろうし、レースなんて何が起きても不思議じゃないからな。

 

 

「あの、走ってきてもいいですか?」

「暗くなる前に帰ってこいよ」

 

 

 そわそわした様子のスズカは、そう言ってホテルを飛び出していった。レース前日で昂ぶっているのかと思ったら、割と普段からこんな感じらしい。流石は走れないとノイローゼになるウマ娘だ。面構えが違う。

 

 

 真夏の福岡は流石に暑かったが、北海道は比較的涼しいと感じる。スズカのコンディションも上々なようだし、これまで以上の走りを期待できるだろう。

 

 

 今回のレースではスズカの他に逃げウマが一人いる。スズカのスタイルは最初からハナを取る前提の走りなので、確実に競り合うことになるだろう。前回のように何の妨害もなく、気持ちよく走らせてもらえるレースは滅多にない。むしろここからが本番。スズカの逃げウマ娘としての真価が問われ──

 

 

「私、また速くなりました」

 

 

 ──スズカは二番手と大差をつけた。

 

 

 理想的なスタートでハナを奪い、そのまま加速。前回と同じように大逃げで逃げ切ってしまった。

 考えてみれば当然のことだ。普通の逃げウマ娘は、あの常軌を逸したハイペースについてくることはできない。ハナを奪い合うとかそんな次元じゃない。集団から何十メートルも距離を離した状態で悠々と先頭を走るのだ。

 

 

 スズカに付いていこうとしたウマ娘は、ペースを狂わされたことで中盤に失速し、そのままバ群に沈んでいった。無理にスズカのペースに合わせると、本来の走りができなくなってしまう。かといって放置するとスズカと差が開いていく。どちらにせよ詰みだ。

 

 

 大本命だったエアグルーヴが調整のために出走しなかったことも追い風だった。今のスズカにGⅠクラスのウマ娘がぶつかればどうなるか、流石に予測がつかない。それでもあっさり勝ってしまいそうな雰囲気はあるが。

 

 

「……いいレースだった。次も期待してる」

 

 

 上り調子のスズカは敵なしだ。ネームドウマ娘だけあって、基礎スペックが並外れている。そして大逃げは駆け引きや運を無視して、スペックだけで敵をすり潰すことができる作戦だ。鬼に金棒と言うつもりはないが、本人の気性と相まって恐ろしいほど噛み合っている。

 

 

 そして続くレースでも快勝し、スズカは三週連続で1着になった。

 

 

 

 

 

 

 ◇

 

 

 

 

 エアグルーヴは上機嫌だった。レースを控えている自分の代わりに、親友であるウマ娘が連勝を続けているからだ。

 

 

 スランプに陥ったサイレンススズカに、エアグルーヴは心を痛めていた。走行中毒者と言えるサイレンススズカが、休み時間に走らなくなった。それだけで彼女が抱えている悩みが重大であることがわかる。

 

 

 エアグルーヴはサイレンススズカの実力を認めている。多少の不調では、あの天才の歩みを止めることはできない。しかし目に見えて失速しているサイレンススズカの、不調の原因とは何だろうか。

 

 

「好調なようだな、スズカ」

「ええ、そうね」

 

 

 そんなエアグルーヴの思考を断ち切るように、サイレンススズカは復活を果たした。以前よりも強くなって。

 

 

「新しいトレーナーさんのおかげだわ」

「ふむ……以前のトレーナーも非凡だったが、こればかりは相性がな」

 

 

 前トレーナーは中堅ながらGⅠウマ娘を複数排出している優秀なトレーナーだ。エアグルーヴも何度か言葉を交わしたが、その実力はもちろん人格者であることに疑いはない。

 

 

「あの人、私がレースに勝つたびにお祝いのメッセージをくれるのよ」

「そうか。それは……良いことだ」

 

 

 意外だった。前トレーナーではなく、サイレンススズカの方である。

 エアグルーヴの見立てでは、サイレンススズカは走ること以外にあまり興味がない。そのためか社交性に欠けるような一面があった。そんなサイレンススズカが連絡を取り続けているということは、その関係は今も良好なのだろう。

 

 

 結構なことだ。トレーナー交代を境にサイレンススズカは絶好調で、前トレーナーとも円満な関係を築いている。それはエアグルーヴにとっても喜ばしいことだった。

 

 

「しかし、3週連続でレースとは、無茶をしたのではないか?」

 

 

 引っかかるとすれば、そこ。

 基本的にウマ娘は連続でレースに出ることを避ける。理由を挙げればキリがないが、つまるところ一つのレースに全力を尽くすというのが主流な考えである。手当たり次第にレースに出たところで、それで勝てるほどトゥインクルシリーズは甘くない。

 

 

 サイレンススズカは掟破りの連続出走で結果を残した。不調だったサイレンススズカを連闘させるのは、エアグルーヴから見てもリスクが上回る。

 

 

「(トレーナーは何を考えているんだ)」

 

 

 その副音声はサイレンススズカにもはっきり伝わった。しかしレースに出た本人でさえ、トレーナーの真意は図りかねる。良い感覚を忘れないうちにレースに出たいと言ったのはサイレンススズカだが、その前から出走登録は済んでいた。もちろん同意したのは本人だが。

 

 

 あまりにも準備が良すぎる。サイレンススズカ本人でさえそう感じている。

 最初は試合勘を取り戻すためにいくつかレースに出走させるのだと思っていた。しかし思い返せば、トレーナーはサイレンススズカが快勝すると信じて疑わなかった節がある。

 

 

「あの人にも考えがあるのよ。きっと」

 

 

 そこでサイレンススズカは思考を打ち切った。あの不思議なトレーナーの内心は、いくら考えてもわからない。

 

 

「しかしスズカの負担は相当なはずだ。トレーニングに支障はないのか?」

「大丈夫よ。今日は軽いストレッチと、プールトレーニングだけだから」

 

 

 週末は全国のレース場を飛び回っているサイレンススズカは、まとまった練習時間が放課後しかない。それもレースでの負担を考慮して、軽いトレーニングにとどめている。

 

 

「昨日もストレッチとプール……一昨日もストレッチとプール……?」

 

 

 サイレンススズカ気づく。練習メニューが常に変わらないことに。

 

 

「私、毎日プールに入っているわ」

「た、たわけ!?」

 

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