1.新入生
「これを部室まで運ぶのか?」
「そう、鍛えるのに丁度良いと思って」
「それにしてはたくさんあるけど…」
目の前にあるのは大量に積まれた気の板だった。
「全部使う訳じゃないのよ」
「それなら…」
梢とそんなやりとりをしていると
「脱走だ」
と言う声が聞こえてきた
「あれ、今の声は…?」
「なんか脱走とか聞こえたんだけど…」
「その内ここに来るんじゃない」
「まぁ…正門から脱走して迷ってたらここにたどり着くか…」
梢とそうやりとりとすると、茂みから女の子が走ってきた。
「うわああん!」
そして、僕達の存在を確認すると目の前で止まって
「た、助けてくださいー!恐ろしい怪獣に追いかけ回されて!」
「それって、あれの事かしら?」
梢がそう言い、音の方を見ると、見慣れたカワウソが居た。
「あ!なにあれ、カワウソ!?なんでこんな所に」
「この学校で飼っているカワウソね。よく生徒会が餌をあげてるのよ」
新入生に梢が説明している間に、僕はカワウソに近づく。
僕とこの子は何回も合ってるので、この子から近づいて来てくれる
「今日も来たの」
と言ってカワウソを撫でてあげる。
「あ、あはは…すみません、お騒がせしちゃって」
「いいのよ、元気なかわいい新入生さん」
「か、かわいいとか、そんな…って安心したら、足に力が入らな…」
「まぁ…保健室に連れて行ってあげるから、少しだけ辛抱してくれる?」
と言って梢は新入生をお姫様抱っこで持ち上げる。
「流石梢…簡単に持ち上げるとは…」
「ふふ、日々のレッスンのおかげね」
「だ、大丈夫ですから!すぐ立ちますから!下してください!」
「そう?どこかひねったりしてない?少しでも気になる所があるなら、ムリしちゃだめよ」
「はい…ありがとうございます…上級生の方って力持ちなんですね…びっくりしました…」
「彼女と他の上級生は一緒にしたらだめだよ」
「未来…?新入生の前で要らない事は言わないの…」
「は~い」
「ところで、あなたは山で何をしていたの?」
「えーっと、脱走…じゃなくて、ちょっと道に迷っちゃって」
今…脱走って言ったじゃん…
「そう、迷っちゃったの、大変だったわねぇ」
ここは梢に合わせておくか…
初対面で怖いイメージ植え付けるのもあまりよろしくないし
「そうなんですよ!道がまだぜんぜんわからなくって!あははー!」
「山に入るには正門をくぐって敷地外に出るか、あるいは高いフェンスを乗り越えないといけないのだけど」
「そうじゃなかったら、方向音痴の中でも異質だよね…」
「えっ?」
「でもあなた、本当に運が良かった」
「実は毎年、遭難する新入生が百人も居て、大半は行方不明になっちゃうの。私のクラスメイトも随分と戻ってこなかったわ」
梢がそう言うと、新入生の女の子は悲鳴に近い声を出していた。
「行方不明は冗談でしょ…」
「まぁそうね。行方不明は冗談よ」
「これに懲りたらもう山に入ったらだめよ、この辺りには怖い動物だって出るんだからね?」
まぁ…熊とか毒蛇とか色々と居るからね…
「えっ、あっ、すみませんでした…」
新入生の女の子は謝ると、梢は新入生の制服を綺麗にしてあげた。
「せっかくの下ろしたての制服、貴方によく似合ってるんだから、大切に着てあげてね」
「あ、ありがとうございます」
「じゃ、そろそろ行くか」
「ええ、それじゃあね」
梢と僕で手分けし、木の板を持って去ろうとすると、新入生から声をかけられた。
「あの!手伝います!」
「あら、心配しなくても、貴方が脱走しようとしていた事、誰かにつげ口なんてしないわ」
「うんうん」
「わわわ!そ、そういう口止め的なやつじゃなくて!」
「ふふっ、揶揄ってごめんなさい」
「じゃあありがたくご厚意を受け取ろうかしら」
そして、梢と新入生の3人で部室まで持って行く。
「それじゃ、要件済ましてくるね」
「は~い」
「君もゆっくりしていってね」
「あっ、はい」
と言って新入生の女の子に手を振って要件を済ましに行く。
******
部室に戻ってくると、2人でお茶をしていた。
「疲れた~」
「未来お疲れ様、お茶入れてあるわよ」
「サンキュー助かるよ」
梢が入れるお茶は本当に美味しいので、僕の好物である。
椅子に座って、お茶をゆっくりと飲んでいると、梢が新入生に口を開いた。
「それじゃ、改めて彼の名前は夜空未来よ、私の幼馴染なの」
「どうも、2年生の夜空未来です。よろしくね」
梢に紹介をしてもらったけど、一応、自分からも自己紹介をする。
「日野下花帆って言います」
「花帆ちゃんね。覚えた」
「それでさ未来」
「うん」
「日野下さんにね。脱走をした理由を聞いたのよ」
「はいはい」
「自由が欲しくて脱走をしたって」
梢からそう聞いて、ここの環境の事を思って口を開く
「まぁ…ここって制限が多いからね…バスもあるのはあるけど本数無いし…」
僕がそう言うと、花帆ちゃんが口を開いて聞いてきた。
「先輩方ってここで一年過ごしてみて…窮屈だったりしませんでしたか?」
「僕は特に、ネットもあるし、それに梢が居るし」
「そうね、私も未来が居たから窮屈に感じた事は無かったわね。それに自由って、目に見えるものだけじゃないから」
「…先輩…?」
「ねぇ、日野下さん 今すぐにあなたの悩みを解決する事は出来ないけど、せっかく暇しているんだったら、もう一つ、お願いを聞いて貰っていいかしら?」
「い、いいですけど…それは…?」
「ええ、あなたの世界を見せてあげる」
「知らない世界…?あの、ここってそういえば、何部なんですか?」
「それはね」
「僕に付いて来たら分かるよ」
「えっ?」