蓮ノ空のアイドルクラブのマネージャーの話   作:桜紅月音

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35.ルリちゃんと慈

合宿を終え、ライブまで後3日に迫ったある日、慈がルリちゃんと話をしたいとの事で、僕は校内をしばらく散歩して、帰ってくると、部室から飛び出してきたルリちゃんと衝突した

 

 

「…ルリちゃん!?大丈夫…?」

 

「…だ、大丈夫!」

 

ルリちゃんはそれだけ言って、あっという間に見えなくなってしまった。

 

「なにか、あったの?」

 

梢の声が部室の中から聞こえてきた。

入るのタイミングではない気がするけど…入るしかないか…

 

「あっ…みく」

 

「おーお疲れ、今日は僕達二年生だけか」

 

「そうだけど…未来、その擦り傷どうしたの?」

 

梢にそう言われて、腕を確認する。

 

「あー本当だ気付かなかった…」

 

「もう…手当するからこっちに来て」

 

梢に手招きされて、椅子に座り手当を受ける。

 

「そういえば、走っていくルリちゃん見たけど、何かあった?」

 

「ぜ?ああ、うん、ぜんぜん、なんでもないよ!ただ、ちょっと軽くケンカしちゃっただけ。ぜんぜん、だいじょーぶ」

 

「本当にそれだけならいいけど…」

 

慈がそう言う。本当は何かあったと思うけど、話を聞いていない以上、何も聞けない。

 

「痛っ」

 

「これぐらい我慢しなさいよ全く…」

 

消毒液が傷口に染みて、痛みを感じる。

擦り傷は、さっき勢いよく突っ込んできたルリちゃんを止める際に出来たものだと思う。

 

「あっ、靴」

 

慈は、部室の端っこに置いてあった靴の入った段ボールを見ていた。

 

「三人とも、まだこんなの取っておいたんだ。部室に置きっぱなしで、もう一年経っているんだから、捨ててくれちゃってもよかったのに」

 

そう言いながら靴を手に取る慈

 

「…まだ、慈はスクールアイドルを辞めたわけじゃないもの」

 

「いつか戻ってきてくれるって、そう思ってたから」

 

「二人が言うように捨てる理由なんてない、むしろ置いておく方の理由が多かったからね」

 

「うん…うん。こずえ、つづり…みく…私、悔しい…るりちゃんに、あんなに言ってもらってるのに…目を閉じるといつだって、スポットライトの中で立ちすくんでいる自分が、浮かぶんだ…何度も、踊ろうとしたのに、でも、出来なかった。三人にはいっぱい付き合ってもらって、それでも、だめで…ステージぶち壊そうになって、そのたびに必死にフォローしてもらって…こんなの、もうやめようって、諦めたはずなのに…」

 

そう言った慈は、自分の足を叩きながら続けて言う。

 

「この、この…!役立たず!」

 

「落ち着けって」

 

僕は慈を手を握って叩く行為を止める。

 

「慈、自分の脚をそんな風に、叩いちゃーー」

 

「せっかく、きれいなのに」

 

「だって!だって…ずっと悔しいんだ…なんで、ステージで踊れないんだろう…もう、どうすれば、いいのかな…やっぱり、諦めるしか、ないのかな…」

 

そう言う慈を三人で支えるしかなかった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

******

 

あれから数日、部室に戻ってくると、慈とルリちゃんが居た。

 

「ねえ!これ、どういう事、なんで私の名前があるの!こんな、勝手に…」

 

慈の叫び声で僕は近くにあった物陰に隠れて二人のやり取りを聞くことにした。

 

「ね、めぐちゃんもルリと一緒に出よーよ。ふたりでライブ、しよっ?」

 

「…冗談じゃ、ないんだよ。私は怪我して、踊れなくなったの。それなのに…悪趣味だよ。るりちゃん」

 

「出るし…ルリは、めぐちゃんと一緒に、ライブに出るんだし!そう決めた!」

 

「だから!」

 

「出るの!ぜったい、ぜったいぜったい!めぐちゃんも出る!一緒にやろうよ!」

 

「そんなに簡単なことじゃないの!」

 

「でーるー!だって、めぐちゃんも出たいんでしょ…?だったらやろうよ、一緒に、やろうよ!」

 

「私は、別に…っ。もう、辞めるって決めたんだから、今さら、そんな…」

 

「ルリだって、失敗するかもしれないって不安だけど…でも、めぐちゃんと一緒なら、きっとできるって思うから!だから、めぐちゃん!待ってるから!」

 

「…!それは…その言葉」

 

「え?」

 

「ううん、なんでもない、でも、そっか、私がスクールアイドルになったのは…るりちゃんとふたりが、楽しかったから、ふたりでいろんな新しいことをして、そしたら周りも楽しんでくれて。みんなを、もっともっと夢中にさせてやりたくて。だから、ずっと走ってきたんだ…」

 

「めぐちゃん…」

 

「ごめんね、るりちゃん…でも、もう遅いよ…」

 

「ど、どうして…?ぜんぜん、まだルリが来たばっかりだよ!大丈夫だよ、いつだって、めぐちゃんはなんでもできたんだもん!めぐちゃんなら、怪我くらい、すぐにーー」

 

「そんなことないんだよ!私はね、ずっとかっこつけてきただけ!るりちゃんの前で、いいとこ見せたかっただけなの!ダンスだって、いつもこっそり練習してた!子役のオーディションだって、何回も何回も落ちたんだから!」

 

「えっ…」

 

「それでも、るりちゃんが喜んでくれるから、るりちゃんが笑顔でいてくれるからって…怪我のことだって、ほんとはもっと早く言えばよかった!そしたら、るりちゃんが蓮ノ空に来なくても、よかったのに、私が逃げてたから…るりちゃんの前で、かっこいい私のままでいたかったから…ごめんね、るりちゃん」

 

「そんな、そんなこと」

 

「わかったよね、るりちゃん。私は、藤島慈は、るりちゃんに憧れてもらえるような、かっこいい子じゃないんだ、いくじなしで、弱虫で…今だってずっと、ステージにあがるのが、こわいんだよ。今までずっと、嘘ついてて、ごめんね」

 

「め、めぐちゃん!」

 

「スクールアイドルとしてのるりちゃんのこと、これからも応援するよ。蓮ノ空を、どうかよろしくね」

 

「めぐちゃん…」

 

そう言うと、慈はルリちゃんから離れていった。

 

 

 




今回から、日曜日と木曜日に更新するようにしますね。

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