「きょうは風が柔らかいから、雲ものんびりさんだね。夜は星たちも、きっとご機嫌、夜…うーん…暗い…暗い暗い…消灯…うーん…お布団…なんだがボクも、ねむくなってきちゃった」
屋上で本を読んでいて、気付いたら綴理がやってきて、僕の膝の上に顔を置いてそんな事を言っていた。
本当に寝てしまうんじゃないか
「寝たらだめだよ」
「みくの膝枕…寝やすい…」
「おいおい…」
そんな会話をしていると、梢がこっちに向かって歩いてきたのが見えた。
「綴理、未来、ちょっといいかしら」
「ん、こずもお昼寝?」
「そんな事はないと思うけど…」
「あなたが何故、未来に膝枕をしてもらってるか謎だけど…違うわ。部活が終わった後、話があるから」
「え…?」
「それだけ。じゃあ、よろしくね」
梢はそれだけ言って、去っていった。
そして、すぐ綴理は椅子に座りなおして
「…ボク、またなにかした…?」
「…呼び出しみたいでなんか怖かった…」
別に呼び出された事はないけど…いや、慈がやらかしまくって生徒会長に呼び出された事はあったか…
僕の問題ではなく、他人の問題でだけど…
「あ、風が冷たくなってきた…かも…」
「まぁ…確かに…?」
不安を抱えたまま、部活を終えて、その放課後
「三人とも、居残ってくれてありがとうね…でも、どうしてそんなに遠くに座っているの?」
梢がそう言うのも納得で、机からかなり距離を取って座っている二人
「いや…」
「お説教、心当たりがない…」
「説教?私があなたたちに?どうして?」
「綴理しか見てないから言えないけど…梢の言い方の感じ的に呼び出される感じだったよ?あれは」
「あんな呼び出し方されたらね…」
「ええ…普通に声をかけたつもりだったけれど…」
「いいや!完全に生徒指導の先生だったね!」
「よく似てたよ」
「まぁ…言い方的に慈が何かやって呼び出される感じだったよね」
僕がそう言うと、慈は『私だけじゃない』って返してきたけど、大体は慈だったんだよな…
「…あなたたち、そんなにしょっちゅう生活指導されているの?」
慈はなんとなく想像できるし、綴理に関してはクラスメイトだから見てるんだよなぁ…
「いえ、それはいいわ。きょうは少し、あなたたちにとって愉快ではない話をしようと思って…」
「やっぱりお説教なんだ…」
「ここに二枚の紙があるわ」
「…私と綴理の、退部届…!?…ハッ!素行不良の部員を追い出して、クリーンな部を作るつもり!?」
「そんなバカな…」
「ごめんなさい。明日からまじめに授業を聞きます。教科書ぜんぶ忘れてきても、まあいっか、って思ってみくに借りたりせず、寮に取りにいきます」
「綴理…いつも頼ってきたけど…そんな理由だったのか…」
ことあるごとに、隣の席だからってよく借りてきたけどそんな理由だったのか
「ごめんなさい…明日からは取りに戻ります」
「それはぜひそうするべきだと思うけれど…というか、違うの、誤解しないで」
梢はそう言って、先程の紙を見せてきた。
その紙は、去年の『全国大会の出場辞退』とこれ以上関わらないようにする『不干渉条約』
続けて梢が話を続ける。
「北陸大会を突破したその後、4人で決めたこと。文面を慈が作って、私たちがみんなでサインをした。去年は、そうすることがいちばんいいと、信じていた。慈が怪我をして、沙知先輩が居なくなって。私は部を守りたくて、地方大会の決勝で、綴理を傷つけた…何度も何度も意見を衝突させて、信念とは決して呼べないようなエゴをぶつけ合った。これは私たちが未熟だった証拠。さしずめ…若木証明書…一度、ちゃんと話をしたいと思って」
梢はそう言って、慈と綴理に何か言い足りないのなら、それも受け止めると続けて言った。
そして、上手に出来ていればと続けた。すると、それを聞いた慈がすぐさま反応を示した。
「上手にできてたら、私は怪我しなかった、って?1年間、くすぶった時間を過ごす事もなかった?」
「それは」
「梢は傲慢だよね」
「めぐ」
「私が怪我をしたのは、ただ私が怪我をしたから、踊れなくなったのも、私が踊れなかったから。それだけ、そこに意味なんてない」
慈はそう言って、梢と綴理の二人が自分の練習時間、それ以外の時間まで削って慈のリハビリに付き合った。
それでスクールアイドルを辞めることにした。そして、それは慈本人が決めたことと言った。
「それに見えない?ここに4人のサインが書いてあるのが。私にとってはあの頃の梢も今の梢も、ただ周りの人より少しだけしっかりしてるだけの同級生だよ」
慈がそう言うと、次は綴理が口を開いた。
「ボクには、めぐみたいに言う資格はないと思う、だって、こずが無理をしてたのは、ボクのせいだったから。去年の今頃を思い出すと、今でも体が沈んでいく。海の中で、だんだん光が見えなくなるみたいに。それが後悔という名前なら、ボクはずっと後悔してるよ。もっとこずと、ちゃんと話せればよかった。もちろん、二人とも」
「ん」
「そしたら今はボクが部長やってたかもしれないけど」
おっと…?
「みくが凄いから…それはムリだと思うけど…」
「そうなってた未来も見てみたかったなぁ僕は」
「みく!?」
僕が綴理の部長をやっている姿を見たかった的な事を言うと、慈が驚いた。
「3人とも…」
「っていうか…なんか辛気臭くない?」
なんかこのまま話していたら面倒臭い事になりそうだと思ってそう話すと、慈がこの辛気臭い雰囲気をぶった切ってくれた。
「でも…」
「なんかヤなの!だってこれからもことあるごとに『あの頃はごめんね…』って言われそうじゃん!?今の私は幸せなんだから、蒸し返さなくていーの!」
「こずはもうちょっと軽い人を見習った方が良いと思う。雲とか」
雲は流石に軽すぎな気がする
「人間関係も、勉強も、スクールアイドルも、梢にとっても同じなんだよね。できないこともあるなら、できるようになるまでやる。できないのは自分の努力が足りないからだ、って」
「そ、それは…なんだって、そういうものでしょう?」
「私が梢だったら、1時間で心折れてる」
「ボクなら5秒」
「それはなんでも早すぎる…」
「でも…私も、嫌なのよ。私の力が及ばなかったばかりに、誰かが悲しい顔をするのは…私は、できるなら、音楽のように完璧なものになりたい。五線譜の上、たったひとつの構成要素が欠けていたら、それはもう完璧ではなくなってしまうの」
「梢…完璧な人って居ないよ…?」
「それでも…」
「綴理、梢のほっぺをひっぱっちゃえ」
慈に命令を受けた綴理は、梢のほっぺを引っ張った。
「これで完璧じゃなくなったね!理想から遠ざかったよ!」
「もう!人がせっかく真面目に話しているのに!…まったく…ふふ、でも、ありがとう。少し、心が軽くなったわ」
「少しだけなんだ」
「しょうがない。梢は結局、背負い込むのも好きなんだから」
「そういうわけじゃ…ないと、思うわ」
「だね…」
「それじゃあ、この若木証明書?ってやつ、どうしよう」
綴理がそう言ったので、僕はすぐさまこう返した。
「破ってしまえば?」
「うん!残しておいたら、梢が自室に置いて飾って『戒めよ』とか言いそうだし」
「で、でも、過去に犯した過ちに向き合うのは、成長のために必要なことで…」
「ほんとにやるつもりだったの!?自罰的も行き過ぎるとそういう趣味の人みたいなんだけど!」
「別にやりたくてやっているわけじゃないわ!」
「ん、とりあえず、持って帰ろうか」
四人で学校の外に出ると、既に真っ暗になっていた。
「周りになんにもない学校だから、星だけはきれいなんだよねえ」
「私は好きよ、この帰り道。春夏秋冬、いろんな星が見られて」
「あれ?そういえば紙って2枚あったよね?もう1枚は?ボクの想像にしかいなかった?」
「…忘れていたわけじゃないわ。見せるタイミングがなくて」
そう言って出してきたのは、ラブライブのエントリーシートだった。
驚く慈と『去年も見た』という綴理
「もちろん、去年とは違うわ。去年出場をしたのは、私と綴理だったけれど」
「今年は6人、3ユニット!」
「DOLLCHESTRAで出られるんだ」
「そういうこと、本当にやりたかったことが、できるようになるわ」
「去年と違って、本当の自分達でラブライブに出られるって事だ」
「みくは出ないけどね」
「ふふっ、あれはあれで勉強になったけれど…そうじゃなくてね」
「なんかその言い方、さやみたい」
「みらくらぱーく!で、世界を塗り替える日がきたかー!」
「私たちスリーズブーケならきっと、最高のスクールアイドルに手が届く。そう、あの日に夢見たような」
「誰が勝っても負けても、恨みっこなしだからね」
「ええ、もちろん」
「でも、ボクとさやがいちばんだよ」
「それって勝利宣言かー!?この天才がー!」
「うふふっ、あなたたちって、仲がいいんだが悪いんだが…」
「…でも、きっとかけがえのない関係なのよね。だって、誰が欠けても成り立たない。『蓮ノ大三角』ですもの」
「蓮ノ大三角」
「綴理ー?」
「いい事を考えた。星を折ろう」
『?』
次の日、ホワイトボートに折り紙で作った星の大三角が飾られることになった。