綴理が生徒会室に入ると、そこには沙知の姿があった。
「…来てくれたねぃ」
「…中止?」
綴理は恐る恐る沙知にそう問いかけた。
「まぁ、そうだよ」
「っ…」
沙知から言われた言葉に落ち込む綴理に、沙知は続けて言った。
「綴理、中止という言い方はよくない。実際、ここまで綴理のおかげで最高の催しになったと思うよ。天候というものはどうしようもない、胸を張って、みんなを送ろう」
「…今ならみんな、満足して帰れる?」
「ああ、十分すぎるほどにね」
「それとさっき、未来が来て」
「みくが?」
「そう」
それは遡って数十分前_未来以外のみんなが部室まで話をしていた最中の事である。
「ライブは無理そうですか?」
「ああ、天候はどうしようにもないからね」
未来は、沙知先輩の元を訪れていた。
「そうですよね。今から
「ああ…ん、今、なんて言った?」
「さぁ?知りませんよ、沙知先輩が何か聞こえたんじゃないですか?」
「いやいや、聞き逃す訳…今、今から晴れるって言ったよね?こんな雨なのに」
「…やっぱり聞こえていましたか…夕虹は晴れってやつです」
「なんだいそれは」
夕方に東の空へ虹が出るのは、西側の空がすでに晴れて太陽が輝いている証拠。
雨雲が東へ去り、回復に向かう確かな兆しと言い伝えである。
「今朝みたいな快晴とまでは行かないでしょうけど、ライブできるくらいには回復するみたいですけどね」
僕がそう言うと、沙知先輩は驚きの表情を浮かべた。
「未来…この天気でやろうって言うのかい?」
「どうしても無理な時は、僕だって諦めますよ。雨が止むまで待ってられるかって話ですよ」
「分かった…綴理とも話すから、ちょっと待っててくれ_」
そんな話をしたと沙知は、綴理に話した。
-時は戻って-
「綴理も、良い同級生を持ったね」
「みく…」
「あはは、私が同じような事をさせたら惚れていたかもしれないね」
と冗談であるが、そう話す沙知に綴理は口を開いた。
「さち」
「ん?」
「ひとつ聞かせてほしい、今までボクは怖くて、聞くこともできなかったけど」
「綴理?」
「生徒会長はさ」
綴理はそう前置きを置いて、深呼吸をして
「…ライブができるなら、やりたいと思ってくれてる?」
「なっ…」
「ボクたちのこと、どうでもいいって思ってない?正しければなんだって良いわけじゃ、ない?ボクたちを置いていった時、あっさりじゃなかった?」
綴理は思っていた気持ちを沙知にぶつけた。
「そっ、そんなの…バカだな、あたしは。そんな、機械みたいに思われていたのか。そのことに気付きもせずに…あたしは嫌われて当然、って、蓋をして…あたしは……ライブができるならやりたい。今までだって正しいことを、しなきゃいけないからやってた。スクールアイドルクラブのことは今でも大好きだ。……去年辞める時、部室で一人泣いてた。一年生には内緒だぞ?」
「っ…」
「今日だって、できることなら、みんなに最高の一日を届けたい。キミたちに…最高の一日を作ってほしい。キミたちの全てがうまく行ってほしいと、いつも思ってるよ」
「…そっか」
「ごめんねぇ…勝手に、いなくなったりして。置いて、いったりして」
「ボクはただ、わかんなかったんだ。さちがどんな気持ちだったのか」
「あたしがバカだったんだ…あたしの気持ちなんて、言う資格ないと思ってたからさ、結局離れるのに、つらいなんて…ムカつくだろう?」
「ううん。それが……それが聞きたかった。ボクはそんな簡単なことも、聞けなかったんだ」
「…気付いてやれなくて、ごめんね」
「それも、いい。ボクも気付けたのは、ついさっき。さやが、教えてくれたからだから。離れるのは、誰だってつらいことだって。今は、さちのことすごいと思う。ボクだったら、離れることを選べない…」
「そっか…ありがとう、綴理」
「…ねえ、さち。ボクは、このまま終わらせたくないよ」
「その気持ちは、分かるけど……でも」
「今はもっと強く思う。みんなに伝えたい。雨は、止むものなんだって……違うな。――みくと同じで止むまで待たない。ボクたちの気持ちで、どうにでもなるんだって!」
「綴理?」
「一緒に来て。さち」
「うわわっ! 綴理!?」
その後、綴理は沙知を部室まで引っ張っていった。
「ボク、追いつけた?」
「はい、待ってました」
「綴理先輩、聞いてください。色々考えたんです!」
「名付けてーー野外ステージにデカい傘計画!!」
「生えるの?」
「生やす!ほら、アンブレラスカイ!!」
「アンブレラスカイっていうのは、たしか晴れた日にやるものだったはずだけど、でも発想はそこから。花帆ちゃんがね」
「はい! あたし、思ったんです! みんなの心に、大きなお花を咲かせるって約束したんだから――どうせなら、傘も大きな花みたいにしちゃおうって!」
「たくさんの傘を繋ぎ合わせて、屋根みたいにしようというお話です」
「お花ね、お花!」
「花帆さんのアイディアには賛成だし、実現できるのなら素晴らしいものができると思うのだけれど…」
「どうですか?沙知先輩」
「当たり前みたいに聞くけど…ふつうは中止だよ、これ」
「だったら綴理と一緒に来ないでしょ、ま、それ以前に、『綴理先輩が必ず沙知先輩を説得してきますー』って言って回ってた子が居たからなんだけど」
「だ、誰でしょうね…!」
「大量の傘と、それを繋ぎとめる人手が欲しい。そうだね?」
『はい!』
「あい分かった。実行委員会を動かそう。そして、学院事務に傘のストックが山ほどあったはずだ。それを使いたまえ!」
「…すごいなあ。未来といい、みんなは、これじゃ1人で中止を考えてたあたしがバカみたいだねぃ」
「ううん。スクールアイドルクラブのみんなのおかげ。……スクールアイドルクラブが、残ってたおかげ」
「そっか。……そっか」
「……行っておいで、綴理。キミたちの手で、最後まで……最高の日を作りに!」
「ん!」
沙知先輩は、ポケットから一枚のCDを出してきた。
「それから、もしよかったらなんだけど。……これ、持って行って?」
「これは?」
「随分前に作ったんだけど、結局渡せなかった。あたしが、キミたちのために作った曲。あたしが好きな……雨が止むやつだ」
「そうだよ……?」
「! ありがとう、さち!!」
沙知先輩と綴理のやり取りを見て、この二人の関係は以前のように戻ったと確信した。
その中で、沙知先輩が声をかけてきた。
「それにしても、今回は未来にしてやられたねぃ」
「いつもやられてるんで、一回くらいはやり返しておかないとなんで」
「もしかして、キミぃ、私に恨みとかある感じ?」
「さぁ、どうなんでしょうかね」
「その笑顔、怖いよ」
その後、一時に比べて収まった中でのライブ『アンブレラスカイ』は大成功に終わった。
そういえば、吟の事すっかり忘れていたけど、大丈夫だったのかな。