「すみません、先輩方ーー」
花帆ちゃんが戻ってきた。
「花帆ちゃん、どうしたの?」
「…梢、先輩?今、泣いて…」
いやぁ…見られてしまったか…こずは、僕の制服で涙を拭いて、僕から離れていつも通りに振舞う。
「ごめんなさい、なんでもないの、大丈夫だから。心配、しないで」
「それは無理あると思うけど…」
僕がそう言うのと同時に、花帆ちゃんが言う。
「…梢先輩。あたしじゃ、だめですか?」
「違うの。これは、人に話しても、仕方のないことで」
「でもあたし、聞きたいです。先輩がどうして泣いているのか。あたしじゃ、だめですか…?」
「話してあげたら?一緒にユニット組んでるんだからさ」
僕の言葉に、こずはしばらくの間考えてから、口を開いた。
「悔しいの、あと、少しだったのに、ラブライブ!優勝に、手が届いたのに!」
「梢先輩…」
「幼い頃から、ずっと目指していたの!夢だった。ようやく叶えられるって、思ったのに!私はまた、ダメだった…!」
こずはそう言いながら、その場に倒れ込む。
そんな彼女を僕はしっかりと支える。
「ダメだったの…私は、いつもそう…!本当に欲しいものだけ、手に入らないっ…!みんな、スクールアイドルで『なにか』を見つけて、輝いてる…それなのに、私だけ、私にはなにもない…優勝できなければ、私には、なにも…!」
「そんな、なにもないなんて、どうして…先輩は、なんでもできるじゃないですか!」
「それだけじゃ、だめなの…!だって、夢を叶えるために、なにもかも懸けて、ここにいるんだから…!」
「なにもかも…」
それは、幼い頃の梢の話_
「ねえ、みく!私、スクールアイドルになるわ!」
「こずならきっと凄いスクールアイドルになれるよ」
「うん!ラブライブ!で、あの子たちみたいにーー私も、ぜったいに、優勝してみせるんだから!」
「なら、僕もこずのために頑張るよ」
「ええ、お互いに頑張りましょう!」
「約束だよ!」
「ええ、約束」
その時、梢と未来の指は固く結ばれた。
_________
「憧れたスクールアイドルに、私もなりたかった…そのために、がむしゃらに走り続けて…みくにもたくさん迷惑をかけて…でも、なれないの…私には、もう、なにも…」
こずの涙は収まる所か、酷くなっていく一方だった。
僕の制服は、こずの涙でかなり濡れてしまっていた。
「こず…」
「梢、先輩…」
その時だった、花帆ちゃんが目の前までやってきた。
「花帆ちゃん…?」
「ーー優勝しましょう!」
「…え?」
「だったら優勝しましょう!来年こそぜったい、梢先輩の夢を叶えましょう!」
「花帆さん…?」
「先輩がどんな決意でラブライブ!に臨んでいるのか、あたし、ぜんぜんわかりませんでした。わかった気になってただけだったんです。ずっと先輩のそばにいたのに、先輩が何度も夢を話してくれたのに…」
「花帆ちゃん…」
「ユニット失格です。だからーー今度こそ、あたしたちで先輩の夢を叶えましょう!」
「どうして…」
「そんなの、決まってます。あたしをスクールアイドルに誘ってくれたのは、梢先輩です。この学校を辞めようっかって悩んでたあたしを救ってくれたのは、梢先輩なんですよ。花咲きたいっていうあたしの夢を、助けてくれたのも梢先輩なんです」
そんな事もあったな…花帆ちゃん、本気で辞めそうだったもんね。
「あたしはこれからもずっと、梢先輩に笑っていて欲しいんです!スクールアイドルとして過ごした日々が、悲しい思い出になっちゃうなんて、そんなの、ぜったいにだめです! あたしも、もっともっとがんばります。朝練だって、サボらず毎日来ます、文句も…たまには、言うかもしれませんけど…!」
言うのか…ううん…このくらいは許してあげよう…
「でも、いっぱい努力して、きっと、花咲いたスクールアイドルになりますから!梢先輩のことだって、あたしが、花咲かせてみせます!」
「花帆さん…」
「ひとりでがんばるのが大変だったら、すぐそばに、あたしやみく先輩がいますから。くじけそうなときでも、今度はあたしが支えますから。だから…なにもないなんて、言わないでください」
「梢先輩には、未来先輩には一緒に居た時間では負けますけど、みく先輩だけじゃなくて、日野下花帆がいるんだって、そう信じてもらえるように、がんばりますから」
「一緒に、夢を信じてくれる…?」
この時には、こずの涙は止まっていた。
「もちろんです!」
「あたしたちでーー夢を叶えましょう!」
「ありがとう、花帆さん…」
______
放課後、みんなを集めて、高台までやってきた。
「なんでみくはジャージ姿なの?」
「どこかの誰かさん達が泣きじゃくるわ、よだれするわで洗濯に出したから」
僕がそう言うと、本人たちは目を逸らした。
別に気にしてないからいいけど、
「それにしても」
「すっげー!この季節に、雪ひとつないじゃん!」
ルリちゃんが言う通り、高台から見える景色は、雪一つなかった。
「私たちの日頃の行いがいいから、だよ!」
「夕焼けが街並みを照らして…とてもいい眺めですね」
「みんなが見えるね」
「よく見えるね」
「観光にきたわけじゃないのよ」
「わかってます!来年の誓いですよね!」
「ルリは!スクールアイドルでもっともっと『楽しい』を見つける!」
「私はもちろん、無敵のスクールアイドルになって、世界を夢中にさせてやること!」
「ではわたしは……
「蓮ノ空さいきょー」
「僕は、良い曲を作ってスクールアイドルクラブのみんなの事を支えていきたい!!」
「あたしは花咲く自分になれるようにがんばる!それと、たくさんの人の笑顔を花咲かせる!それと、100万人でライブをする!基礎練もしっかりする!夜のお菓子はなるべくガマン!」
「いや多いなキミ」
「あとはね、あとはね」
花帆ちゃんは、そう前置きを置いて_
『ラブライブ!優勝っ!』
『おおー…』
花帆ちゃんが言った言葉に、僕とこず以外のみんなからそう声が漏れた。
『ふふっ』
そして、そんなみんなを見てくすっと笑う僕とこず
「みんな、来年こそは必ず、全員で願いを叶えましょう」
こずがそう言うと、みんな返事を返す。
「蓮ノ空学院スクールアイドルクラブ、今この時を大切に Broom the smile!」
『Broom the droam!』
「頼りにしているわね、
「ーーはい!」
二人のやり取りを僕は穏やかな表情で見るのだった。