雨を避ける為に近江市場に入った二人は、話をしながら市場内を歩いていた。
「ねえ、さや」
「はい」
「DOLLCHESTRAというユニットは、劇場の名にふさわしく、舞台の上で人々に想いを伝える”居場所”そのもの…さちは、そう言ってた」
「…。そうですね、DOLLCHESTRAは、わたしの居場所です。ちょうど、ここがそれを教えてくれたようにも、思います。スクールアイドルを応援してくれる人たちがいて、教えてくれた。ここが、わたしたちの舞台なんだって」
さやかは、経験したこと、思った事を話す。
「ボクは…居るだけで良いって、言われたんだ」
「それを言ったのは、沙知先輩だったんですね」
「うん、何も返せないまま、いなくなって。全部さちが正しいから、言われた通りにしてて…ボクに後輩ができたときに、頑張ればいいって言われてて」
綴理はそう言い、続けて話す。
「去年さちが教えてくれたこの場所で、今年のボクは、ボクで居て良いんだって思えたんだ。来年素敵な出会いがあればボクもスクールアイドルになれる…そう言われた場所で、ボクはスクールアイドルになれたから。だからここは、ボクにとっても、きらめきを教えてもらった場所。そのきらめきは、さちに何か返せるって、そう言ってる」
「はい」
「でも、ボクはまだ、ちゃんと分かっていない気がするんだ。居るだけで良いって言われた理由、DOLLCHESTRAをやろうって言われた理由…。そのどれも、ボクは勝手に分かった気になっているだけで、さちがくれたものを、ひなどりみたいに受け取っているだけで」
「わたしには、そうは見えませんけど…それを分かるために、雨上がりを探していたんですか?」
「雨が上がるときはいつも、ボクはボクで居て良いんだって思えた気がした。だから、今日それを感じて、意識して……今度こそ、言葉にしたいんだ」
二人がそんな会話をしていると、二人に気付いた市場の人達が声をかけに来た。
もう知り合いの枠を超えて、家族みたいな関係になっている。
「あ、皆さんこんにちは。いえ、雨宿りというわけでもないんですが」
「やほ。みんな。あ、ほんと?雨が上がるまで居て良い?」
綴理がそう聞くと、市場のみんなは了承してくれた。
「…ずっと居て良い?そっか。ありがと」
そして、市場のみんなはそれぞれ仕事の持ち場に戻っていった。
「みんな、怒らないね」
「ずっと居て良いって、言ってくれましたからね」
「ん、みんないつも、居て良いって言ってくれる…」
その時、さっきまで降り注いていた雨の音が段々と小さくなっていき、そして完全に止まった。
「雨が…」
「ああ…そっか」
「先輩?」
「さや、ボク、ようやく分かった気がする。…雨上がりの時に、ボクがボクで居て良いんだと思えたのは、その瞬間が大事なんじゃないんだね。それまでに積み重ねた、みんなとの関係…気持ち、ボクをボクで許してくれる、みんなの顔、この胸の内の温かさ」
「この市場みたいに、みんなが居る場所が…ボクの居場所なんだって今は分かる。今のボクの周りには、みんなが居る。だってボクは、スクールアイドルだから」
「沙知先輩への気持ちをまとめるためのリボン、見つかりましたか?」
「うん。さちが、居るだけで良いって言った理由、DOLLCHESTRAを選んだ理由。それは、ボクに”スクールアイドル”を教えるためだったんだね。いつかボクがボク自身を、スクールアイドルだと思えるように……リボンは、すごく簡単だった。 ボクにスクールアイドルを教えてくれて、ありがとう」
綴理は、曲の振り付けで伝えたい事が決まった。