蓮ノ空のアイドルクラブのマネージャーの話   作:桜紅月音

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93.あなたに響く曲

 

その日の放課後

 

「うーん…」

 

「もう1曲作るなら、やろう」

 

梢と綴理の二人はそう話していた。

そこに

 

「やっほーあれ…一年生ズは?」

 

「この時期の一年生は卒業式の予行、会場設営の仕事があるのよ」

 

「去年、やったでしょ」

 

「この前、四人だったときも、それだった」

 

「あーそんなこともあったっけ。二年で良かったー」

 

めぐがそう言うと、僕達三人は黙りこんでしまう。

 

「…昼間、沙知先輩来たじゃん?」

 

「そうね。この部室を見納め…だったわね」

 

「やっぱり、いつも明るい沙知先輩でも卒業前はしんみりするのかな」

 

「どんな人でも沙知先輩みたいになるよ」

 

「ええ、未来の言う通りだと思うわ。3年間を過ごした学び舎を離れることになるのだもの。 私だって、その時になったらどう思うか分からないわ。…ただ」

 

「…それだけじゃない気が、した?」

 

「…綴理はそう思った?」

 

「分かんない、こずの言う通りかもしれないし、ただ…留年はしたくは、なさそうだった」

 

「ふふっ。留年したくはないでしょう。でも、そうね。この学校に対する未練というより、私は沙知先輩のあの目に…なんというか、後悔のようなものを感じた気がするの」

 

「後悔…さちが…」

 

「ま、さんにんもそんな風に思ったんだったら、話が早いや」

 

「慈?」

 

「理由はわかんないけど、シンプルにさ。残り短い学校生活、沙知先輩にあんな顔で過ごさせるの、なんか腹立つなーと思ったの。私はね。せっかく沙知先輩のためにーってこっちがやってる時だからかな、余計に」

 

「そうだね。ボクもそう思う。じゃあ、行く?」

 

「よしっ!生徒会室に乗り込んで沙知先輩にとびっきりのサプライズするか」

 

僕とつづが席を立つ。

 

「話が早いじゃん。二人とも」

 

続いて、めぐが席を立つ。

 

「…腹が立つかは、おいておいて。そうね。私もーー最後くらいは、良い後輩で居たいわ」

 

そして、三人は沙知先輩を呼びに、僕は生徒会長である朱鷺に話をして、生徒会室の鍵を借りに行った。

 

 

-生徒会室にて-

 

「突然こんなとこ呼び出すからびっくりしたよ。もうあたしは生徒会長じゃないんだからね」

 

「すみません先輩。ここが1番、落ち着いて話せると思ったので」

 

「ふむ?…なんというか。このメンバーというのも、久しぶりな感じがするねぃ。綴理の好きなお菓子も…まだあったかなぁ」

 

沙知先輩はそう言って、戸棚の方に向かっていく。

 

「ありがと」

 

「少しは遠慮というものをね…」

 

「まあまあ、良いじゃないか。えっと、この戸棚の奥にしまってあったから…」

 

沙知先輩はそう言って、背伸びをして取ろうと頑張るが届いていなかった。

 

「あー私が取る私が取る。無理しないでくださいちっちゃいんだから」

 

「ちっちゃいゆーな」

 

「この感じ懐かしい」

 

僕が目の前で繰り広げられる光景を見てそう呟くと、続けてつづが声を出した。

 

「昔、こずがさ」

 

「?」

 

「ああやって高いところに手を伸ばしてたさちの両脇をさ、後ろからがばっと持ち上げてさ」

 

「あー…」

 

「さち、あの日は何も言わずに、日が沈むまで窓の外を眺めていたね」

 

「良かれと思ってやったのよ、私は…!」

 

「そんな強きで言わなくても…」

 

その時、戸棚を相手に頑張っていた沙知先輩にめぐが話しかける。

 

「……あのさ、沙知先輩」

 

「ん、しょ、くんのっ…ん?」

 

「なんか、卒業以外でセンチになってることないですか?わりとそんな感じがして、私たちみんなで来たんですよ。けっこう、頼りになる後輩でしょ、私たち」

 

めぐがそう言うと、沙知先輩はため息を吐き

 

「そうだね、いやぁ…情けないね。あたしは相変わらず。そんなに分かりやすかったか」

 

「こずもさちも。分かりにくいけど、付き合いも長いので」

 

「私のことは今はいいのよ…沙知先輩、何かあるなら話してもらえませんか。私たちはただ、卒業までの時間を、沙知先輩にそんな顔で過ごしてほしくないだけなんです」」

 

こずがそう言うと、沙知先輩はこずの気持ちが伝わったのか。話を始めてくれた。

 

「キミたちにとって、後輩はどんな子たちだい?」

 

「…どんな、ですか。一言で言い表すのは、とても難しいのですが…」

 

「スクールアイドル、とか…?」

 

「なんか…全部。みたいな」

 

「今はそれで十分さ。改めて、大切な出会いだったみたいだね。あたしも、自分のことのように誇らしい。キミたちが、一年生との出会いを嬉しく思っているように…あたしにとっても、キミたち新入生は…救い、だったんだ」

 

「あの問題児どもが?」

 

「自分で言うんか…」

 

めぐの言葉に、僕は咄嗟に突っ込みを入れた。

そのやり取りに、沙知先輩はクスっと笑ってくれた。

 

「あはは、そうとも。三年生の先輩たちが卒業して…あたしはひとり、この部活に残された。…新入生が誰も入って来なければ、ここの部員はあたしだけ。…つまり、廃部が間近に迫っていたんだ」

 

沙知先輩の言葉は、僕達の心に刺さる。

 

「三年生の先輩たちは、あたしにとっては恩人でね。理事長の孫娘として、言われた通りのことしかしてこなかったあたしを…このスクールアイドルの道に引き込んでくれた大切な人たちだ」

 

「だから、本当に怖かったんだ。もしも誰も入って来なかったら、誰もスクールアイドルクラブに興味を持ってくれなかったら――。これまで先輩たちが積み上げてきた、重ねてきた歴史を。あたしが潰すことになるって」

 

「そうならなくて良かった」

 

「そうだね。最高の後輩に恵まれたおかげだ」

 

沙知先輩は続けて言う。

 

「あたしは先輩に恵まれた。後輩にも恵まれた。でも、だからかな。その間を繋いでいたあたしは、先輩に恵まれた分を、後輩に返せた自信がない。こうして、キミたちにこんなことを言ってしまってるんだから、なおさらね」

 

慈「…」

 

「思えば、多くつまずいてしまった。キミたちを傷つけてばかりだったし…助けてもらってばかりだった。だから、だからあたしはせめてー」

 

そのタイミングでつづが話に入ってきて、僕達の方を向きながら

 

「みく、こず、めぐ」

 

「どうした?つづ」

 

「わがまま言ってもいいかな」

 

「いいよ」

 

「ものによる、と言いたいところだけれど、きっと、考えていることは同じだから、構わないわ」

 

「つづの言いたいように言ってやれ」

 

「キミたち、何を」

 

「聞いて、さち。さちにしか届かない、150点」

 

ここで僕は、持ってきていたアコギギターを持って

 

「好きなタイミングでどうぞ」

 

「うん」

 

つづが歌いだすタイミングで僕はギターを弾き始める。

それは、沙知先輩に内緒で作っていた曲を沙知先輩に届ける。

 

沙知先輩との思い出、先輩から貰った物、言葉。支えてもらった事。全てをこの曲に乗せて_

 

そして、沙知先輩が大好きだったこと。周りの意見なんて関係ない。誰が何と言おうが、沙知先輩はかっこよくて可愛くて、素敵で、最高の先輩だったんだってことを_この曲に乗せて伝えた。

 

 

 

「っ……」

 

「ごめんね。さちに貰ったものは、後輩に返せばいいって言われてたけど…どうしても、さちに返したかった」

 

「これが私たちの気持ちです」

 

「ねえ、沙知先輩。私たちがここに居るのは、あなたが居たからだよ」

 

「沙知先輩のおかげで僕達は救われてきました。スクールアイドルを辞めた後も、ネット禁止令が出そうになった時も、必死になってくれた先輩が情けないなんて事はないんです…自分の事を情けないとかそんな事言わないでください…もっと自分の事を信じてあげてください…!」

 

「うっ…くっ、あ…」

 

沙知先輩の瞳からは、涙が溢れるように落ちる。

 

 

『以上、第102期蓮ノ空学院スクールアイドルクラブでした』

 

 

 

 

 

-その後-

 

 

「ありがとう朱鷺。沙知先輩に気持ち伝える事が出来たよ」

 

生徒会室の鍵を朱鷺に返しに行って僕はお礼を伝えた。

 

「良いって事よ。俺だって沙知先輩には恩を感じてるんだから」

 

「朱鷺君のおかげだったんだ。ありがとね」

 

「おおう、藤島も良かったな」

 

「まあね」

 

「藤島、良かったさ、この後、一緒におでかけしないか?」

 

「え~どうしようかな」

 

朱鷺からの誘いに、あざとい反応をするめぐなのであった。

 

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