その日の放課後
「うーん…」
「もう1曲作るなら、やろう」
梢と綴理の二人はそう話していた。
そこに
「やっほーあれ…一年生ズは?」
「この時期の一年生は卒業式の予行、会場設営の仕事があるのよ」
「去年、やったでしょ」
「この前、四人だったときも、それだった」
「あーそんなこともあったっけ。二年で良かったー」
めぐがそう言うと、僕達三人は黙りこんでしまう。
「…昼間、沙知先輩来たじゃん?」
「そうね。この部室を見納め…だったわね」
「やっぱり、いつも明るい沙知先輩でも卒業前はしんみりするのかな」
「どんな人でも沙知先輩みたいになるよ」
「ええ、未来の言う通りだと思うわ。3年間を過ごした学び舎を離れることになるのだもの。 私だって、その時になったらどう思うか分からないわ。…ただ」
「…それだけじゃない気が、した?」
「…綴理はそう思った?」
「分かんない、こずの言う通りかもしれないし、ただ…留年はしたくは、なさそうだった」
「ふふっ。留年したくはないでしょう。でも、そうね。この学校に対する未練というより、私は沙知先輩のあの目に…なんというか、後悔のようなものを感じた気がするの」
「後悔…さちが…」
「ま、さんにんもそんな風に思ったんだったら、話が早いや」
「慈?」
「理由はわかんないけど、シンプルにさ。残り短い学校生活、沙知先輩にあんな顔で過ごさせるの、なんか腹立つなーと思ったの。私はね。せっかく沙知先輩のためにーってこっちがやってる時だからかな、余計に」
「そうだね。ボクもそう思う。じゃあ、行く?」
「よしっ!生徒会室に乗り込んで沙知先輩にとびっきりのサプライズするか」
僕とつづが席を立つ。
「話が早いじゃん。二人とも」
続いて、めぐが席を立つ。
「…腹が立つかは、おいておいて。そうね。私もーー最後くらいは、良い後輩で居たいわ」
そして、三人は沙知先輩を呼びに、僕は生徒会長である朱鷺に話をして、生徒会室の鍵を借りに行った。
-生徒会室にて-
「突然こんなとこ呼び出すからびっくりしたよ。もうあたしは生徒会長じゃないんだからね」
「すみません先輩。ここが1番、落ち着いて話せると思ったので」
「ふむ?…なんというか。このメンバーというのも、久しぶりな感じがするねぃ。綴理の好きなお菓子も…まだあったかなぁ」
沙知先輩はそう言って、戸棚の方に向かっていく。
「ありがと」
「少しは遠慮というものをね…」
「まあまあ、良いじゃないか。えっと、この戸棚の奥にしまってあったから…」
沙知先輩はそう言って、背伸びをして取ろうと頑張るが届いていなかった。
「あー私が取る私が取る。無理しないでくださいちっちゃいんだから」
「ちっちゃいゆーな」
「この感じ懐かしい」
僕が目の前で繰り広げられる光景を見てそう呟くと、続けてつづが声を出した。
「昔、こずがさ」
「?」
「ああやって高いところに手を伸ばしてたさちの両脇をさ、後ろからがばっと持ち上げてさ」
「あー…」
「さち、あの日は何も言わずに、日が沈むまで窓の外を眺めていたね」
「良かれと思ってやったのよ、私は…!」
「そんな強きで言わなくても…」
その時、戸棚を相手に頑張っていた沙知先輩にめぐが話しかける。
「……あのさ、沙知先輩」
「ん、しょ、くんのっ…ん?」
「なんか、卒業以外でセンチになってることないですか?わりとそんな感じがして、私たちみんなで来たんですよ。けっこう、頼りになる後輩でしょ、私たち」
めぐがそう言うと、沙知先輩はため息を吐き
「そうだね、いやぁ…情けないね。あたしは相変わらず。そんなに分かりやすかったか」
「こずもさちも。分かりにくいけど、付き合いも長いので」
「私のことは今はいいのよ…沙知先輩、何かあるなら話してもらえませんか。私たちはただ、卒業までの時間を、沙知先輩にそんな顔で過ごしてほしくないだけなんです」」
こずがそう言うと、沙知先輩はこずの気持ちが伝わったのか。話を始めてくれた。
「キミたちにとって、後輩はどんな子たちだい?」
「…どんな、ですか。一言で言い表すのは、とても難しいのですが…」
「スクールアイドル、とか…?」
「なんか…全部。みたいな」
「今はそれで十分さ。改めて、大切な出会いだったみたいだね。あたしも、自分のことのように誇らしい。キミたちが、一年生との出会いを嬉しく思っているように…あたしにとっても、キミたち新入生は…救い、だったんだ」
「あの問題児どもが?」
「自分で言うんか…」
めぐの言葉に、僕は咄嗟に突っ込みを入れた。
そのやり取りに、沙知先輩はクスっと笑ってくれた。
「あはは、そうとも。三年生の先輩たちが卒業して…あたしはひとり、この部活に残された。…新入生が誰も入って来なければ、ここの部員はあたしだけ。…つまり、廃部が間近に迫っていたんだ」
沙知先輩の言葉は、僕達の心に刺さる。
「三年生の先輩たちは、あたしにとっては恩人でね。理事長の孫娘として、言われた通りのことしかしてこなかったあたしを…このスクールアイドルの道に引き込んでくれた大切な人たちだ」
「だから、本当に怖かったんだ。もしも誰も入って来なかったら、誰もスクールアイドルクラブに興味を持ってくれなかったら――。これまで先輩たちが積み上げてきた、重ねてきた歴史を。あたしが潰すことになるって」
「そうならなくて良かった」
「そうだね。最高の後輩に恵まれたおかげだ」
沙知先輩は続けて言う。
「あたしは先輩に恵まれた。後輩にも恵まれた。でも、だからかな。その間を繋いでいたあたしは、先輩に恵まれた分を、後輩に返せた自信がない。こうして、キミたちにこんなことを言ってしまってるんだから、なおさらね」
慈「…」
「思えば、多くつまずいてしまった。キミたちを傷つけてばかりだったし…助けてもらってばかりだった。だから、だからあたしはせめてー」
そのタイミングでつづが話に入ってきて、僕達の方を向きながら
「みく、こず、めぐ」
「どうした?つづ」
「わがまま言ってもいいかな」
「いいよ」
「ものによる、と言いたいところだけれど、きっと、考えていることは同じだから、構わないわ」
「つづの言いたいように言ってやれ」
「キミたち、何を」
「聞いて、さち。さちにしか届かない、150点」
ここで僕は、持ってきていたアコギギターを持って
「好きなタイミングでどうぞ」
「うん」
つづが歌いだすタイミングで僕はギターを弾き始める。
それは、沙知先輩に内緒で作っていた曲を沙知先輩に届ける。
沙知先輩との思い出、先輩から貰った物、言葉。支えてもらった事。全てをこの曲に乗せて_
そして、沙知先輩が大好きだったこと。周りの意見なんて関係ない。誰が何と言おうが、沙知先輩はかっこよくて可愛くて、素敵で、最高の先輩だったんだってことを_この曲に乗せて伝えた。
「っ……」
「ごめんね。さちに貰ったものは、後輩に返せばいいって言われてたけど…どうしても、さちに返したかった」
「これが私たちの気持ちです」
「ねえ、沙知先輩。私たちがここに居るのは、あなたが居たからだよ」
「沙知先輩のおかげで僕達は救われてきました。スクールアイドルを辞めた後も、ネット禁止令が出そうになった時も、必死になってくれた先輩が情けないなんて事はないんです…自分の事を情けないとかそんな事言わないでください…もっと自分の事を信じてあげてください…!」
「うっ…くっ、あ…」
沙知先輩の瞳からは、涙が溢れるように落ちる。
『以上、第102期蓮ノ空学院スクールアイドルクラブでした』
-その後-
「ありがとう朱鷺。沙知先輩に気持ち伝える事が出来たよ」
生徒会室の鍵を朱鷺に返しに行って僕はお礼を伝えた。
「良いって事よ。俺だって沙知先輩には恩を感じてるんだから」
「朱鷺君のおかげだったんだ。ありがとね」
「おおう、藤島も良かったな」
「まあね」
「藤島、良かったさ、この後、一緒におでかけしないか?」
「え~どうしようかな」
朱鷺からの誘いに、あざとい反応をするめぐなのであった。