ミカとカズサがパン屋でアルバイトをするお話   作:空を飛ぶジンベエザメ

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6話 誘拐

「忘れ、物...あ、そうだ...!」

 

レイサの何気ないその一言が、偶然にもカズサを暗い妄想から引き戻してくれた。カズサは頭を軽く振って、張り付いていた表情を引き剥がすと、エンジェル24に入った時からずっと持っていた紙袋をレイサに差し出した。

 

「あのさ。これアンタに、プレゼントなんだけど...」

 

「え」

 

レイサは紙袋を直ぐには受け取らず、キョトンとした顔で袋とカズサを交互に見た。

 

「ど、どうして私なんかにプレゼントを...?誕生日もとっくに過ぎましたし...ハッ!まさか爆弾...!?」

 

「なんでそうなる!!恥ずかしいから早く受け取ってよ!」

 

カズサはレイサに紙袋を強引に押し付けた。ふわっとした感触が、袋越しでも伝わってきた。少なくとも爆弾ではなさそうだ。

 

「中、見てみて」

 

「は、はい...」

 

ぶっきらぼうに言われ、レイサは袋に手を入れて中身を取り出した。

 

「クッション...」

 

星型の大きなクッション。それが、渡された時の感触の正体だった。自分のパーソナルカラーに合わせた薄紫色のそのクッションを、レイサはじっと見つめる。

 

「アンタは知らないかもしれないけどさ。私、一か月くらい前にバイト始めたんだ。それで中学生の時にやりたい放題やってた分、初めてのバイトで最初に貰ったお金くらいは誰かの為に使いたいなって思ったんだ。だからそれ、あげる。そのクッション高反発のヤツだから枕の代わりにもなるんだって。アンタ、シャーレのカフェにある椅子でいっつも寝てるでしょ?その時にでも使って」

 

瞬間、レイサの瞳がそれこそ星のように輝き始めた。

 

「ありがとうございますッ!確かにこのクッション、凄い反発力がありますね!こんなにギュってしても直ぐに元通りになります!」

 

貰ったクッションを力強く抱き締めるレイサ。小さな子供が大事なぬいぐるみを持っているみたいで、カズサは思わず笑みを溢した。

 

「アンタやっぱり分かりやすいね。でも喜んでくれて良かった」

 

「唐突にプレゼントなんかを渡されたら照れてしまうかも」と思っていたので、こうやって素直に喜んでくれたのが余計に嬉しかった。

 

「それと杏山カズサ!あなたがアルバイトを始めたということは私も知っていますよ!あなた達放課後スイーツ部も出店していたスイーツフェスタの警備に正義実現委員会が多くの戦力を割いていた関係で、フェスタが終わるまで校内の警備は私達トリニティ自警団が中心に行っていましたから!」

 

クッションを左腕で抱きながら、レイサは右手でカズサの顔をビシッと指さした。

 

「なーんだ、知ってたんじゃん!そしたら私達のお店が優勝したことも?」

 

「はい!」と威勢よく答えながら、レイサは力強く頷いた。

 

「勿論知っていますよ!改めて優勝、おめでとうございます!」

 

「えへへ、ありがと。あ、そうだ!この後時間ある?あるんだったら一緒にお店行こうよ!アンタ来たこと無かったでしょ?」

 

するとレイサは嬉しそうな顔から一転、ばつが悪そうに愛想笑いをしながら視線を逸らした。

 

「え、えっと...。時間はありますし、お気持ちは大変ありがたいんですが...私、人が沢山いる場所が苦手で...。それにお店の人が友達ってのも少し気まずい気がして...」

 

「今更そんなこと気にするような仲じゃないでしょ、私達!良いから行こうよ!お店に遅刻の連絡入れるから、ちょっと待ってて...」

 

レイサの同行を有無を言わさずに決定させたカズサは、レイサの追跡劇に付き合っていたせいで遅れることを伝えようとして、ポケットに手を入れた。しかし

 

「あ、あれ...?スマホ、どこ?」

 

パーカーのポケットは勿論、鞄の中をどれだけ探っても、スマホは出て来なかった。

 

 

 

「...ということで、スマホをどっかに落としちゃったからそのまま真っ直ぐお店まで来たって訳。心配かけてホントにゴメン!」

 

全てを話し終えたカズサは改めて、自分の反対側に座って話を聞いていたヨシミに頭を下げた。

 

「...なるほどね。そういうことがあったのなら仕方ないか。私達の友達の為だもん、カズサならバイクの一つくらいパクっちゃうか!」

 

「グフッ!ご、ゴホッ...!」

 

突然、ハスミにシナモンロールを分けてもらっていたレイサが、飲み込みかけていた欠片を喉に詰まらせたのか勢いよく咳き込んだ。

 

「ちょ、ちょっとレイサちゃん大丈夫...!?」

 

「だ、大丈夫です...!ごめんなさい、急に友達なんて言われたもので...」

 

空を仰いで何とかシナモンロールを飲み込んだレイサは、そう言って力無く息を吐いた。

 

「もう、レイサちゃんまだそんなこと気にしてたの?前にナツ達が言ってたでしょ、私達部活は違くても、もうとっくに友達じゃんって!カズサがレイサちゃんのこと助けたのも、誕生日とかクリスマスでも無いのにそのクッションをプレゼントしたのも、そういうことだからだよ!ね、カズサ!?」

 

「ま、そんなとこ」

 

カズサはクッションを渡した時のように、ぶっきらぼうに返した。途端に、レイサの顔が赤くなる。それを見て、カズサとヨシミは顔を合わせ、仕方なさそうに笑った。

 

「ふふっ、可愛らしいですね。後輩達のこのような仲睦まじい姿を見てると、治安維持活動にも一層の力が入ります」

 

ハスミは微笑みながら、残った最後のシナモンロールを口に入れた。

 

「うんうん!」

 

三人のやり取りを見て、ミカもまた嬉しそうに笑う。しかしその時、ミカはとあることに気付いた。

 

「ねぇカズサちゃん。水を差すようで悪いんだけどさ」

 

「ん?なにミカ先輩?」

 

「カズサちゃんスマホ失くしちゃったって言ってたけど、お店への連絡自体はレイサちゃんのスマホ借りれば良かったんじゃないかな...?」

 

『あ』

 

その事実に今更気付いたカズサ、ヨシミ、レイサの三人はゆっくりと顔を見合わせる。そして

 

「ミカ様の言う通りじゃん!!カズサ!やっぱさっきの話は無し!!アンタは無断で遅刻したのと、それで皆を心配させた罰で減給よ!!」

 

「なんでヨシミがそんなこと勝手に決めるのよ!!それに遅刻なら私よりナツのほうが沢山してるでしょ!?なんで私だけ給料減らされるのよ!?」

 

「話変えんな!!」

 

「ふ、二人共ケンカは止めて下さい~!」

 

平和な雰囲気から一変、ギャーギャー騒ぎながら取っ組み合いを始めた二人を、レイサは慌てて止めようとする。一年生同士が繰り広げる、ケンカとはとても言えないそのじゃれ合いを、ミカとハスミの三年生組は温かい目で見守っていた。

 

 

 

そしてミカ達が店を後にし、今日の営業が終了した夕暮れ時。放課後スイーツ部の4人はオレンジ色の坂道を下りながら、紛失したカズサのスマホを探す為の計画を立てていた。

 

「とりあえずシャーレの周りからだね。やっぱりバイク乗ってた時に落としたのかな?」

 

おばあちゃんから貰った、売れ残りのチョコデニッシュを齧りながらアイリが言った。

 

「だったらもし見つかっても、もう画面バキバキになってるよ...さっきも言ったけど新しいスマホ買うから別に探してもらわなくても良いって...」

 

単純に面倒なのに加え、自分のせいで皆に無駄な時間を使わせたくなくて、カズサは唯一人捜索に非協力的だった。しかし3人はそんなカズサのことなんてお構いなしに続ける。

 

「いいのいいの気にしないで!学校の課題も終わってるから時間あるし!」

 

「優しいおばあちゃんのお陰で減給は無かったけど、いくら稼いでるからってスマホの買い替えは痛い出費でしょ?」

 

「けどもし見つかったら、お礼に駅前のマカロン奢りだよ」

 

ナツの言葉に「やっぱりそれが目的じゃん!」とツッコむカズサ。ただ、探してもらう立場の人間がどうこう言える立場では無いのは分かっているし、それにスマホ一台と全員分のマカロンだったら、どっちが安くつくかなんて火を見るよりも明らかだ。

 

「...分かったよ。皆ありがとう。そしたらとりあえず、シャーレのエンジェル24に戻ろう。あそこの店員さんが拾ってるかもしれないし...」

 

その時、行き先のカーブから、黒いワゴン車が物凄いスピードで飛び出して来た。ドリフトをする勢いでカーブを曲がったそのワゴン車は、4人を白いハイビームで照らしながらスピードを一切緩めることなく、坂道を駆け上がって来る。

 

「え、な、何...!?」

 

その異様な光景に動揺する三人。その一方で、ただならぬ気配をいち早く察知したカズサは一人銃を構える。

 

「皆、銃持って。良く分からないけど、あの車ヤバい...!」

 

「私の後ろに!」

 

愛用の防弾シールドを構えたナツに従い、一同は盾越しに臨戦態勢を整える。ライトを点けている以上、運転手はその姿が見えているはず。にもかかわらず、ワゴン車は速度を維持し続ける。

 

「つ、突っ込んで来る気...!?」

 

「皆避けて!」

 

迫る車体を前に、カズサは反射的にそう叫んでしまった。4人が道路の端に散開したその瞬間、ワゴン車は急ブレーキをかけた。

 

(オートマタ...!)

 

停まった車から降りて来たのは、カイザーPMCやブラックマーケットで運用されている武装オートマタの集団だった。先生の指揮が無い以上、正面からやり合って勝てる相手ではない。

 

『無力化に移る』

 

集団のうちの一体がそう告げた瞬間、グレネードランチャーを持ったオートマタが白い煙を吐き出す擲弾を4人の足元に撃ち込んで来た。弾丸が吐き出す大量の煙に包まれた瞬間、両眼に激痛が走る。

 

「これ、催涙ガス...!?」

 

涙が止まらない。喉も焼けるように痛い。催涙ガスをまともに浴びた4人は全員その場に崩れ落ち、戦闘どころでは無くなってしまった。そんな彼女達に、オートマタはガスをものともせず近づいていく。

 

「こ、いつ...」

 

それでも何とか抵抗しようと銃を構えるカズサ。しかし引き金を引くよりも早く銃を蹴り飛ばされ、あっという間に武装解除されてしまった。

 

『トリニティ総合学園の校章。こいつらで間違いない、連れて行くぞ』

 

オートマタ達は4人を軽々しく担ぎ上げると、手錠とガムテープを用い、慣れた手つきで拘束を施した。そして動けなくなった4人をワゴン車に放り込み、猛スピードで坂を駆け下りて行った。

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