ミカとカズサがパン屋でアルバイトをするお話   作:空を飛ぶジンベエザメ

36 / 42
7話 再会

「ふ~んふ~ん♪久しぶりにマーケット来たから結構買い物しちゃった!」

 

ブランド物のコスメやアクセサリーの袋を手にしながら、ミカはウキウキでテラスへと向かっていた。店を出て丘を降りたミカはマーケットの中でハスミとレイサと別れ、学校に戻る前にショッピングを楽しんでいた。

 

テラスの扉の前に辿り着いたミカ。「中に入ったらどうせ、ナギちゃんが今日の会議のこと話して来るんだろうな~」とか思いながら何気なくドアノブに手をかける。しかし

 

「え」

 

ノブに触れた瞬間、身体の動きが自然と止まった。扉越しからでも伝わる、テラスから漂って来る異様な空気の重さ。この感覚には、覚えがある。何か、とても良くないことが起こっている証拠だ。

 

「ナギちゃん!?」

 

急いで扉を開ける。ミカが感じ取った空気感、それを醸していたのは、会議の際に用いられる長テーブルに腰かけ、その上に置かれた一つのタブレットを食い入るように見つめていたナギサ、セイア、ハスミ、イチカ、そしてレイサの5人だった。

 

「皆どうしたの!?何か...」

 

タブレットに釘付けになったまま、ナギサが人差し指を立てた。「静かにしろ」その指示に従い、ミカは急いで自分の口に手を当てる。

 

「ミカさん、おかえりなさい。帰って早々申し訳ありませんが、こちらに来てこのタブレットを見て下さい。少々刺激的な映像ですが、決して慌てたり、大きな声を上げたりしないように。特に、画面の中の人物については絶対に言及しないように」

 

「......」

 

抑揚が殆ど無い、淡々とした低い声。怒りと困惑が混じったようなその声色に戸惑いつつ、ミカは慎重にタブレットに近づく。そして飛び込んで来た光景を見て、驚きの余りナギサの警告を危うく破るところだった。

 

(カズサちゃん!?それにスイーツ部の皆!?)

 

タブレットに映っていたのは、銃を持ったオートマタ達に囲まれた放課後スイーツ部の4人だった。全員後ろ手を拘束されているようで、ぺたんと座った姿勢のまま、自分達を囲うオートマタ達を恨めしそうに睨んでいる。更に彼女達がいるのは、床や壁がボロボロの石材で出来た無機質な空間。ミカが知っているような場所では無かった。

 

「ナギちゃんこれ、どういうこと...?」

 

『その疑問には私達がお答えしましょう』

 

どうやら映像はライブ映像だったようで、しかもこちらと画面の向こう側の双方で通話ができる状態だったようだ。4人を映していたカメラが動き、声の主を捉える。そしてその正体を知り、ミカは再び息を飲んだ。

 

「貴女達、おばあちゃんのお店で詐欺をしていた...!?」

 

『左様です。久しぶりですね、聖園ミカさん?』

 

勝ち誇ったような顔でこちらに話しかけていたのは、ミカが初めておばあちゃんのお店に足を運んでいた際におばあちゃんからお金を騙し取っていたあの二人組だった。あの後イチカ達正義実現委員会にしょっ引かれ、留置所に放り込まれた筈の彼女達が、何故。

 

「...あの子達、ちょうどスイーツフェスタの二日目が終わった日に釈放されたんっす。留置所にいる間はかなり大人しくて模範囚として扱われていたのと、詐欺の被害も目的も些細なものだったんで勾留時間が大幅に短縮されたんすよ...まさか出所早々、こんなことをするとは流石に予想外だったっす...」

 

ミカの疑問を見透かしたかのように、いつの間にか横に立っていたイチカが、彼女達が何故檻の外にいるのかを説明してくれた。当然その声はナギサと同じ、怒りと困惑が混じった低いものだった。

 

『さて。役者が全員揃ったようなので、改めて我々の目的と要求を説明させていただきます』

 

二人組は4人の前に移動すると、偉そうに両手を広げながら話し始める。もっとも、ティーパーティーに扮して詐欺を働いていただけあって、その口調だけを聞けば、物腰柔らかな司会者のようだった。

 

『単刀直入に申します。貴女達ティーパーティーには、現在推し進めているアリウス自治区の管理運営権を一方的に破棄して頂きたい。今から見せるこの映像を、新生アリウス生徒会に叩きつけた上で』

 

映像が切り替わる。タブレット上に新たに映し出されたのは、アリウス内に今でも存在しているカタコンベの一角に保管された、大量の爆薬だった。いずれの箱にも、アリウス分校の校章が刻まれている。

 

『この映像は我々が独自に作成したフェイク映像ではあります。しかしこの映像の内容が真か否か、というのは我々の目的において重要な問題ではありません。トリニティとアリウス。幾ら互いに歩み寄り始めたと言っても、かつての暗い歴史全てを払拭した訳では無い。この二つの学校は今でも、些細なきっかけで争いの火種となり得る、いわば火薬庫のような存在であるというのは、貴校のトップである貴女達が最も良く理解しているところでしょう』

 

「その映像をアリウスに見せて、『トリニティに譲渡した自治区内のカタコンベに大量の爆薬を発見した』って言って管理権を一方的に破棄する。そうやって私達とアリウスに揺さぶりをかけて、貴女達は何をするつもり?」

 

『残念ながらそれは明かせません。が、火薬庫が爆発し、炎に包まれたところに現れる火事場泥棒が何をするかなど、聡い貴女達なら容易に想像がつくと存じます』

 

ナギサの顔に影が差す。以前混乱に乗じ、ティーパーティーの代理を騙って先生の介入を妨害してきた二人組を始めとして、甘い汁を求めて外道に走る存在はこのキヴォトスに掃いて捨てる程いる。バイクを買う為に個人商店に対して詐欺をしていたコソ泥がここまでの大立ち回りをしてみせたというのは驚きだが、彼女達もそういう甘い汁に魅入られ、誤った道に足を踏み入れてしまった生徒のようだ。

 

『それにこれは、私達の些細な夢を潰した存在に対する個人的な復讐、という意味合いもあります』

 

二人組はスッと身を引き、こちらに視線を向ける4人をミカ達にありありと見せつけた。

 

『人質として彼女達を選んだのは、彼女達のアルバイト先が人気の少ない場所にあったから、という理由だけではありません。従業員達が誘拐されたという事実を知ったら、あのちっぽけな老婦人はどんな思いをするでしょうねぇ?それにその婦人を救ったミカさん自身にも、響かないものが無い、ということはないでしょう?』

 

その言葉と、こちらを見つめるカズサ達の表情を見て、ミカはナギサの言った「画面の中の人物については絶対に言及しないように」という言葉の意味をようやく理解した。

 

スイーツフェスタが終わった日に釈放されたという事実と照らし合わせるなら、彼女達は恐らく、自分とカズサ達の関係を知らない。だがもしミカかカズサ達のどちらかがそれを匂わせるような発言をしてしまえば、スイーツ部の人質としての価値は飛躍的に上がってしまう。そのことを、4人は既に理解しているのだ。だから画面の向こうにいるであろうミカ達に、助けを乞うような言葉を何も言って来ない。自分なんかよりよっぽど「聡い」一年生達だ。

 

『良いなぁ、その表情...その顔を、ずっと見たかったんだ...』

 

ミカの顔を見て二人組は初めて、丁寧な口調の奥に隠した邪悪な心を露わにした。

 

『猶予は明日の午前8時までです。それまでに管理権の破棄を確認できなければ、彼女達の命は無いと思って下さい。それと念のため伝えておきますが、アリウスに加え、シャーレとの連絡網はこちらで漏れなく監視しています。要求に背くようなやり取りが確認された瞬間にも、彼女達の運命が決定されます。それでは、賢明な判断を期待します』

 

最後にそう言って、二人は通話を切った。窒息しそうなくらいに重い沈黙が、テラスを包む。

 

「...全ては我々のミスです。彼女達の腹の内に気付いていれば、このような事態には...」

 

拳を握るハスミの両腕がわなわなと震えていた。自分が呑気にシナモンロールを食べている間にもスイーツ部の皆が狙われていたと考えただけで、情けなさで腸が煮えくり返る思いだ。

 

(レイサちゃん...)

 

そんなハスミに隠れるようにして、俯いたまま何も言わない面々を切なそうに見つめるレイサを見て、ミカはいたたまれなくなった。恐らくは今日の出来事があったのでハスミがナギサ達に許可を取ってこの場に入ることを許されたのだろうが、今のレイサはあらゆる意味で、ここにいてはならない存在だった。

 

「ミカ、何をしようとしている」

 

ミカの手がポケットに伸びたのに、セイアは目聡く気付いた。

 

「彼女達が今言っていたことを忘れたのかい?個人の通話すら盗聴される可能性がある以上、外部に救援を求めるのはリスクが高すぎる」

 

「でも...!」

 

セイアは残念そうに首を振った。

 

「彼女達は我々が秘密裏に進めていた管理権設定の存在を知った。どんな手を使ったかは分からないが、その事実がある以上、下手な動きはできない。君の友人達の命がかかっているのなら尚更だ」

 

「そう、だね...」

 

ミカは先生に連絡を入れたい気持ちを必死に抑え、スマホに近づけていた手を遠ざけた。

 

考え得る限り、最悪の状況だ。今、アリウスとの約定をフェイクの映像と共に破棄なんてすれば、埋まり始めた両者のヒビは歪且つ更に大きくなってしまうだろう。成り行きによっては学園都市全体の問題にも発展しかねない。不幸中の幸いなのは、あの二人組がカズサ達の本当の価値に気付いていないことだろうか。しかし彼女達がどこで捕らえられているかも分からない以上、それが有利に働くことは無いと見ていいだろう。

 

(どうしよう、どうしよう...!)

 

誰も何も決断できず、時間ばかりが過ぎて行く。だがその時

 

 

ヴーッ!ヴーッ!

 

 

突然ミカのスマホに着信が入った。沈黙を破ったバイブレーションの音に、一同一斉にミカの方を見た。ミカは恐る恐るスマホを取り出す。

 

画面に表示された相手の名は「カズサちゃん」。人質として捕らえられている筈のカズサから何故、連絡が来るのだろう。

 

「止めなさいミカッ!!!」

 

しかしナギサが血相を変えた時には、ミカはもう応答のキーを押していた。

 

「もしもしカズサちゃんッ!?」

 

『も、もしもし...?』

 

ミカのスマホから響いた声に、痺れるような緊張がテラスに走った。カズサの番号でミカの電話をかけて来たのはカズサ本人では無く、知らない女の子の声だった。

 

「えっ、と...あなた、カズサちゃんじゃないよね?誰...?」

 

『え、えっと...私、シャーレにあるエンジェル24ってお店で働いているソラという者です。実は先程カズサさんのスマホがお店の傍に落ちてるのを見つけたんですけど、チラッと待ち受け画面を見たら物凄い数の不在着信があって...それでえっと、私、カズサさんに何かあったんじゃないかと思って何とかスマホのロックを解除しようとしたら偶然解除できちゃったんです。そ、それで電話帳を見ていたら「一番大事な先輩」って連絡先があって、わざわざこんな名前で登録する人だったらカズサさんのこと知ってるんじゃないかって、思ったんです...。えっと、変なコト聞きますけど、あなたが一番大事な先輩さんご本人、で合ってますか?』

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。