ミカとカズサがパン屋でアルバイトをするお話   作:空を飛ぶジンベエザメ

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11話 私のことも忘れてもらっては困りますよ!!!

バラバラになったり頭がズタズタになったりしているオートマタの残骸を避けながら、ミカ達は扉の無くなった大聖堂の入り口から外に出た。ずっと薄暗い部屋にいたから、月明かりでも眩しく感じる。

 

「皆さん早く!こちらです!」

 

外に出ると、入り口の傍で待機していた二人の正義実現委員会が、少し先に停めてある二台のジープに誘導を始める。聞き覚えのある声に、カズサは自分の左側を走るその生徒の顔を見て、歓喜の声を上げた。

 

「アンタも来てくれてたんだね!!」

 

声をかけられ、その子は少し照れくさそうに笑った。

 

「ハスミ先輩が運転手に指名してくれたんです。『貴女もこの作戦に加わるべき人間です』って。ご無事なようで、本当に良かった...!」

 

「...うん!」

 

嬉しくなって、カズサもはにかみながら頷いた。ミカやレイサだけでなく、お店の常連客さんまで自分達を助けに来てくれた。その事実は、強がりと空元気の裏で心の中に溜まっていた冷たい不安と心細さを融かしてくれた。もう、大丈夫。あとは皆に任せていればいい。あの車に乗れば、全部終わる―

 

 

 

ズズーンッ!!

 

 

 

カズサの安心感は、その爆音と、何時かと同じように、爆炎を伴いながら宙に浮き上がったジープによって掻き消された。

 

『...!危ないッ!!』

 

炎上したジープが轟音を立て地面に墜落した直後、ジープ達が噴き上げる黒煙の中から、何かが高速で飛来して来た。危険をいち早く察知したイチカとハスミはスイーツ部の前に立ちふさがり、肉壁となる。だが―

 

『......ッ!!』

 

二人の足元に着弾した光の玉は地面に触れた瞬間、凄まじい大爆発を起こした。爆風をまともに浴びた一同は全員漏れなく宙を舞う。

 

(なに、これ...)

 

体に力が全く入らない。意識がどんどん薄れていく。今まではっきりと見えていた夜空が、今はひどくぼやけて見える。何だか、息をするのも面倒になってきた。

 

爆風を受けた時点で途切れ途切れになっていたカズサの意識は、地面に叩きつけられた衝撃で、完全に失われた。

 

 

 

 

 

「...う...う、ん...」

 

朦朧とした意識の中、レイサは目を覚ました。全身がズキズキと痛む。ぼやけた視界の先には、土を盛り上げたみたいに見える黒い塊が。そしてその塊の直ぐ近くに、自分の銃と閃光弾が落ちているのが見えた。

 

「う、マズい...」

 

銃と閃光弾まで這って行こうとして、動きを止めた。

 

『おい、アイツはどうする?』

 

『アイツも見たところトリニティの生徒だ。人質は多ければ多い程いいだろう。拘束するぞ』

 

そんなやり取りが、微かに聞こえた。次第に視界が澄んでくる。どうやら黒い塊だと思っていたものは、ついさっきカズサが話しかけていた正義実現委員会の女の子だった。そんな彼女と自分の銃を乗り越え、二体のオートマタがゆっくりとこちらに歩いてくるのが見えた。

 

「...!!」

 

オートマタの姿を確かめて初めて、レイサは今置かれている状況の深刻さを理解した。

 

周囲には、数え切れない位の大量のオートマタ。更にその中には、多数の機関砲やロケット砲を備えたゴリアテの姿もある。

 

闊歩するゴリアテの一体が、炎上するジープをまるでボールのように蹴とばした。その足元には、銃を向けられた状態で両手を上げているイチカとハスミの姿が。二人共オートマタ達を睨みつけてはいるものの、その顔には強い疲労と、痛みに耐えている苦悶の色がありありと浮かび上がっていた。

 

「杏山、カズサ...」

 

ミカやカズサ達、もう一人の正義実現委員会の姿は見えない。多分、自分の見えないところに吹き飛ばされてしまったのだろう。

 

(どう、しよう...)

 

相手はこちらの数十倍の規模。先程イチカ達が捌いたオートマタ達とは比にならない戦力だ。例え先生の指揮があって、自分も万全の準備があったとしても正面から相手して勝てる戦力では無い。そしてその自分も満身創痍で、たった今拘束されようとしている。レイサは生まれて初めて、絶望という感情を味わった。

 

『おい、待て』

 

レイサまであと一歩の距離まで迫った時、オートマタ達が足を止める。振り返ると、今しがた自分達が乗り越えた生徒が苦しそうなうめき声を上げていた。

 

『コイツ、まだ意識がある。先に拘束するぞ』

 

オートマタ達はくるりと踵を返してその子に歩み寄ると、目を覚ましたばかりのその子を地面に強く押さえつけた。意識は朧気でも痛みは感じるようで、その子は苦しそうに顔を歪める。

 

(そんな乱暴は、私が許しません...)

 

その光景を見た瞬間、レイサの身体は勝手に動いていた。例え肉体がボロボロだとしても、自警団としての誇りと正義感は失われていなかった。

 

レイサが動いているのを確かめたのか、その子はハッとした顔でレイサを見た。その直後、オートマタ達に気付かれないよう口だけを必死に動かしてレイサに何かを訴え始める。

 

(やめて、ください...?そうは、いきませんよ...。待ってて下さい...今、助けますから...)

 

その子は明らかに「止めて下さい」と言っていた。レイサのことを庇おうとしてくれているのだ。このまま動いていては自分と同じ苦痛を味わうことになる、と。しかしレイサはその制止には一切従わず、どんどんと銃と閃光弾に近づいていく。

 

『ん?』

 

しかし閃光弾まであと少しといったところで、こちらに背を向けるオートマタに気付かれてしまった。

 

『何だ、お前も目を覚ましていたのか。危ない危ない、もう少しで後ろから撃たれるところだった』

 

余裕と嘲りを伴った声色で、オートマタが立ち上がる。レイサのことを脅威とみなしていない証拠だ。しかし

 

「油断しましたねッ!!」

 

こちらの存在を悟られた瞬間、レイサは打ち上げられた魚のような動きで閃光弾に跳びついた!驚いたオートマタが慌てて駆け寄るが、その時にはもう、レイサは閃光弾をしっかりと握っていた。

 

「待って下さい!!それ投げちゃダメなヤツです!!」

 

遂にその子が声を上げる。しかしレイサにその声は届かなかった。レイサは寝転がったままの姿勢でピンを抜き、手にしたものをハスミ達に向かって放り投げた!例え傷ついていようと彼女達を動けるようにするのが、今の状況を打開するには最良だとレイサは考えたのだ。

 

「イチカさん!ハスミさん!目を瞑って耳を塞いで下さい!」

 

そう叫んで、自分も同じ行動を取った。瞬間、凄まじい閃光と高音が周囲を包む......ことは無かった。

 

「あれ...?まさか不発!?」

 

レイサは慌てて目を開ける。視界の先にあったものは、イチカとハスミの直ぐ傍に転がる、真っ赤な煙幕を空に向かって一直線に吹き出す閃光弾だった。光と爆音で相手を怯ませる閃光弾から、どうしてあんな真紅の煙が。

 

「何やってるんですかレイサさん!!あれは閃光弾じゃなくて、砲撃地点を砲兵に伝える信号弾です!!ジープに備え付けているものを、レイサさんも見たでしょう!!??」

 

「ふぇえ!?そ、そうだったんですか!!?あ、でも大丈夫ですよ!だってこの辺に展開中の砲兵部隊なんていないでしょう?」

 

 

 

『信号を確認!こちらトリニティ・アリウス合同砲兵隊!只今より指示地点に砲撃を行う!!全隊斉射用意、撃てーッ!!!』

 

 

 

ジープに載った無線機が生きていたようだ。背後から響いたその無線を聞き、イチカとハスミは、それはそれは深いため息を吐いた。

 

「やってしまいましたね、レイサさん...」

 

「まぁでもこれで、この状況は何とかなりそうっすね...」

 

「私達も何とかされそうになっているのをお忘れでは...?」

 

「まぁそこは大丈夫っすよ...多分...」

 

 

 

ズドーンッ!!!

 

 

 

瞬間、降って来た砲弾がゴリアテの一体を貫いた!大爆発と共にバラバラになるゴリアテ。そしてそれを皮切りに、凄まじい砲撃の応酬が辺りを包んだ。

 

「このバカ宇沢ーッ!!!」

 

砲弾が撃ち込まれる毎に、飛び散る土と共に爆発四散するオートマタとゴリアテ。そんなカオスな状況でも、カズサのその声はハッキリと聞き取れた。見上げると、ミカ、カズサ、アイリ、ヨシミ、ナツ、そしてもう一人の正義実現委員会の子が宙を舞っている。爆発に巻き込まれ、刹那の空中散歩を強要させられたのだろう。

 

大粒の涙をこれでもかと浮かべている正義実現委員会。鬼の形相でこちらを見下ろすカズサ。そしてその他の者は、困ったように笑っていた。釣られて、レイサも苦笑いを浮かべる。

 

「まぁ、結果オーライ、ですよね...?」

 

「それは貴女が言う言葉じゃないと思いますよ、レイサさん...?」

 

「はい、ごめんなさい...」

 

そんなやり取りの直後、背後で大爆発が起きる。その爆風に晒され、レイサ達もまた、空中浮遊のメンバーに強制加入させられたのだった。

 

 

 

『砲撃終了!』

 

 

 

奇跡的に生き残った車載の無線がそう告げた時、不良たちが用意したオートマタとゴリアテは全て破壊されていた。辛うじて動いている個体も四肢が弾け飛び、戦闘どころではない。イチカの言う通り、レイサの奇策(?)により、一同は何とか危機を乗り越えた。

 

「アンタってヤツは!」

 

「カズサちゃん落ち着いて!レイサちゃんがいなかったら私達絶体絶命だったんだよ!?」

 

「そんなん関係ない!一発引っ叩かないと気が済まない!離してミカ先輩!」

 

「カズサちゃん何でレイサちゃんにそんな厳しいのさ~!」

 

「皆さん、大変申し訳ございませんでした...」

 

平謝りを繰り返すレイサに制裁を加えようとして、ミカに羽交い絞めされているカズサ。そんな彼女達を見つめるその他メンバー。全員髪の毛が鳥の巣のようになっているが、砲撃に晒されて頭髪が乱れるだけで済んでいる辺り、流石としか言いようが無い。だがその時である。

 

「地震...!?」

 

地面がぐらりと強く揺れ、ミカは思わずカズサを離す。揺れはどんどんと大きくなり、そして

 

『何...!?』

 

起きた光景に、一同は絶句した。砲撃によりできたクレーターのような大穴の一つから、間欠泉の如き勢いで大量の水が噴き出したのだ!水は空中で広がり、雨のように降り注ぐ。

 

「痛ッ...!」

 

水滴が目に入った瞬間鋭い痛みに襲われたカズサは急いで目を覆った。この刺激、ただの水では無い。

 

「これ、塩水だ...!」

 

カズサの横にいたアイリがぽつりと呟く。そう、たった今噴き出したその水は真水ではなく、口の入っただけで身震いしてしまう程に濃い、塩水だった。

 

「あ、そういえば...」

 

塩辛い雨に晒されながら、ミカはハルナが言っていた言葉を思い出した。

 

 

 

「実は私達、つい先程までアリウスの自治区内で、張り巡らされたカタコンベの何処かに眠っているという岩塩を探していたのです。悠久の時が生んだ、ミネラル豊富な岩塩。それを求め、未だに復興の手がかかっていない荒廃した自治区内を放浪していた時、偶然古い教会の前に停まる黒いワゴン車を発見したのです」

 

 

 

どうやらレイサが要請した砲撃は、地下に眠っていたお宝まで掘り出したようだ。

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