強い想いで魔法少女が生まれる世界に現れてしまったモンスターTS転生ロリ   作:暁刀魚

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一 モンスターロリ、産まれる

 仮に、強い想いを抱いた少女が、勝手に魔法少女へ覚醒する世界があったとしよう。

 その魔法少女が魔物と戦う世界があったとしよう。

 そんな世界にTS転生者が生まれてしまったら、どうなるだろう。

 

 まぁ私のことなんだが。

 

 まず第一に、強い思いってのが問題だ。

 それは非常に曖昧なもので、()()()()強い思いを抱いている存在が居たら、魔法少女になってしまうのではないか。

 たとえば――自我がまだ発達していない赤ん坊に、前世の記憶というノイズまみれの意志が宿ったら、果たしてどうなる?

 

 

 答えは、ある時ベッドで赤ん坊ライフを送っていた私の服装が、ひらひら魔法少女服になることで証明された。

 

 

 え、なにこれと思う暇もない。

 不意に近くで、禍々しい気配を感じ取ったからだ。

 それは、どこか疲れた様子の母親から溢れ出るものだった。

 魔法少女がいるということは、それと戦う敵がいるということ。

 そいつはきっと、よくある人の心を喰って育つ怪物なんだろう。

 そんな怪物が、私と妹、双子の赤ん坊のことで悩む母親を狙ったのだとしたら。

 思わず、私はそいつに敵意を向けた。

 ――許して置けぬ。と。

 

 

 瞬間、禍々しい何かは私にだけ見える、指先から発射された光に貫かれて消し飛んだ。

 

 

 これは後に知ったことなのだが、この世界の魔法少女は意志の強さが魔力の量に直結するらしい。

 私は相対的に誰よりも強い意志を持って魔法少女になった。

 当然、その魔力量は規格外のものとなる。

 ただ、厄介なのはそれだけではない。

 私はTS転生者なのだ。

 つまり前世は元男。

 この世界では、男が魔法少女になることはない。

 結果、何が起こるかと言えば――

 

 ――バグる。

 

 かくして、私はそんな世界に生まれ落ちた。

 この世界の常識をひっくり返す、モンスターTS転生ロリとして。

 

 

 ♪

 

 

 私、安城コトは安城家の双子の姉として生を受けた。

 どうやらこの世界には、魔法少女が存在するらしい。

 実際にそれを魔法少女と呼称するのか、私以外に魔法少女が存在するのか。

 正直疑問に答えはない。

 だって赤ん坊だから。

 まだこちとら生後数ヶ月なんだぞ? 状況把握なんてできてたまるか。

 というか、生まれてしばらくは色々事情があって、ろくに状況把握もできなかったし。

 今でもその事情は継続していて――というか、今この瞬間がたまたま落ち着いているだけで、私の体は本来まともに動けるような状態じゃないのだ。

 いつまたぶり返すかわからない。

 この安定が、一時的なものだということは自分が一番よくわかっている。

 

 わかったことといえば、この世界は前世現代日本とだいたい同じであるということ。

 やたら容姿端麗な女性が多く、髪色もカラフルということだ。

 妹のウイナがピンク髪で私が紫髪なのに、誰もそれを疑問に思わないあたり、この世界ではそれが普通なんだろう。

 

 自分が女になったことは深く考えないことにした。

 だって赤ん坊からスタートなんだから、性別に現状違いなんてない。

 成長するうちに慣れるだろ、多分。

 

 自分が魔法少女であるという確証はない。

 いきなり服がフリフリになったことで、そうなんだろうなあという推測を立てているだけだ。

 ところで私の衣装、鏡で見る限り結構露出が激しいんだけど、どうなってんの?

 赤ん坊に着せて誰が得するの?

 

 とにもかくにも、今は魔法少女としての能力を検証する必要がある。

 なにせ、魔法を使えるようになれば今の私の“現状”をなんとかできるかもしれないからだ。

 今は不思議なくらい体が動く。

 妹と同じベッドで生活して、泣く妹を横目に魔法の練習なんてできるくらいには。

 でもこれが長くは続かないことを、私は漠然と理解していた。

 生まれた時に聞こえた周囲の声――泣き声や、医者の切迫した声――を覚えているから。

 

 最初は衣装が気になったので、鏡が近くにあって人の目がないタイミングで変身を試してみた。

 変身とかまだ全く口にできないけれど、思考するだけで体は光に包まれるらしい。

 気がつけば、なんか露出の激しい対象年齢が高そうな魔法少女になっていて、ちょっと引いた。

 あとデザインの方向性的にこれ女児向け魔法少女の世界じゃねえな、と覚悟を決める。

 マスコットが出て来たら遠慮なく射殺することにしよう。

 

 そこからは、夜にこっそり練習することにした。

 妹が夜泣きしていないタイミングを見計らって、変身して色々試すのだ。

 まずそもそも、この世界の魔法は意志というのが重要なのだろう、ということは何となく察しがついた。

 強く念じることで魔法少女に変身できるし、母親に取り憑いた怪物もあの光線のようなもので倒せる。

 だったら念じればどんなことでもできるのかっていえば、そうではないだろうけど。

 

 色々念じてみたが、できることは限られていた。

 まずサクッとできたのは浮遊。

 魔法少女なんだから飛べるだろうと真っ先に試して、案の定成功したのだ。

 流石に赤子の身で自由自在に飛び回る度胸はなかったので、ちょっと浮かぶ程度にとどまったが、感触的には飛行もいけるはず。

 それ以外のことはあまり成功しなかった。

 火や光を生み出そうとしても失敗。

 というより何か壁のようなものがあるように感じられた。

 その壁を破壊することができるかまではわからないが、無理に試すことはないだろう。

 

 浮遊以外で使えて便利だったのは遠見だ。

 ベビーベッドの中にいながら、外を見る魔法。

 これがあれば、この世界の様子を観察することができる!

 魔法少女に関する情報も集められるだろう、と思ったら少し制限があった。

 視点を移動できないのだ。

 どうやら私の視界は私が立っている場所の上空に出現し、周囲を見渡すものらしい。

 固有魔術だ!

 これ単体なら強いか弱いかはなんともいえないが、私には母親に取り憑いた怪物を倒した“アレ”がある。

 上空から街を見下ろすと、一般的な街の風景が目に入る。

 自分の家が一軒家であることからそんな気はしていたが、街の規模はそこまで大きくない。

 地方の一都市ってところか。

 

 そんな都市のあちこちに、母親から感じられた禍々しい気配が複数感じ取れる。

 

 広域の探査、比較的便利な魔法だ。

 これと私の“アレ”を組み合わせると、いい感じにシナジーが発生する。

 具体的には、私が禍々しい気配に向かって敵意を向けて、それを()()する。

 すると、

 

 

 木っ端微塵に、弾け飛んだ。

 

 

 うん、かなり便利だ。

 なんとなく感触的に、私は視界に収めた相手を遠くから攻撃することができるのだろう。

 空に視界を移動させられるのと合わせて、上空から一方的に狙撃するのがセオリーか。

 しかもこれの恐ろしいところは、移動しているのは視界であるということ。

 私自身は地上にいるから、どれだけ敵が空を探しても私を見つけることはできない。

 代わりに私も視界が空にあるから肉体は無防備になるんだけど……

 

「おんぎゃあ!」

 

 その時、隣で寝ていた妹のウイナが夜泣きを始めた。

 私は慌てて、他の気配も纏めて吹き飛ばしてから魔法を解除する。

 さらに変身も解除して元に戻ると、そのまま何事もなかったかのようにたぬき寝入りを始めた。

 そんな私の横でウイナはあやされているわけだが、要するに視界が空にあっても耳は地上にあるのだ。

 周囲に警戒してくれる仲間がいれば、カバーは可能だろう。

 何にしても、しばらくはこんな感じで夜に練習をするべきだな、と眠気に負けながら私は考えるのだった。

 

 それから、しばらく私は魔術を練習し続けた。

 夜になったら視界を空に広げて、湧いてる気配を撃つ、ひたすらに撃つ。

 気配は毎日湧いて出て、その度に全部すり潰す。

 気分はさながらFPSの狙撃だ、ちゃんと狙わないとたまに外れる。

 しかし撃っても撃っても減らないのは何か? 現代が病んでるって言いたいのか?

 あんまり否定できないな。

 というかむしろ、日を追うごとに増えている気すらする。

 しまいには明らかに気配どころじゃない、魔物としかいえないビジュアルの敵すら現れ始めた。

 

 流石にこれは当てるのが難しい、こちらの攻撃を普通に避けてくるからだ。

 当たれば一発で弾け飛ぶし、私のエイムを磨かなくては。

 なお、脅威度は上がっているものの、向こうはこっちを捕捉できていないようだから、私や家族が危険に晒されることはないだろう。

 

 それにしても、不思議と魔法少女を見かけることは全然ないな。

 私がこうして魔物をバシバシしているのは、練習という意味もあるのだが魔法少女を釣り出すという意味も含まれている。

 これだけ魔物を殺ってれば、流石に気づいて現場に現れるものと思うのだが。

 

 それにしても当たらんな。

 私が前世の頃、エイム力皆無で狙撃銃が大の苦手だったとはいえ、こんなに当たらないものか。

 ええいクソくそ逃げるな! ってか今の当たってただろ! おいチートだぞズルは許さんぞ!

 あああああああ!(当たらなくて怒りの連射で強引に殲滅)

 くそ、くそ、だから砂は担ぎたくないんだ。

 まあ残弾は気にする必要ないくらい連射できるから、当たるまで撃てばいいんだけどさ。

 

 それはそれとして困ったことが起きた。

 魔物の数が多すぎる。

 奴らついには昼にも街を闊歩し始めたぞ。

 昼はいつ母親の目がこちらに向くかわからない。

 魔法は変身しないと使えないから、どうしても人目がないところじゃないとダメなんだよな。

 かわいい赤子が突如としてセンシティブ衣装を身にまとったら母が卒倒するぞ。

 かと言って変に被害が出ても困る。

 

 私は少し考えて、ある方法を実行に移した。

 まず一瞬でいいので母親の目が離れた隙に変身、事前にイメージしておいた魔法を展開。

 即解除。

 隣でウイナがきゃっきゃと喜んでるが、赤ん坊に見られる分にはセーフだろう。

 使った魔術は非常に単純なものだった。

 

 夜までひたすら発射を連打し続ける魔法だ。

 

 これなら私が変身を解除しても、使用された魔法は残る。

 常に空から弾丸が発射され続けるから、多少エイムがアレでもなんとかなる。

 物理的な被害は発生しないし、一般人には魔物は見えないみたいだから、隠匿も問題なし。

 これで夜になったら残った魔物を一掃すれば大丈夫だろう。

 

 と思ってたら、今日の夜に魔物が出ることはありませんでした。

 まあ……あんだけバカスカ撃ったらそうなるか。

 というかその後、魔物が出てくることはなかった。

 殲滅できたということだろう。

 ……なら、いいか!

 

 

 ♪

 

 

 その日、魔法少女の世界に天から裁きの光が降り注いだ。

 魔物たちはなすすべもなくねじ伏せられ、魔法少女すらも近づけない。

 これが果たして、一人の赤ん坊魔法少女によるものだと、果たして誰が気づくだろう。

 

 この年、()()()()において、運命の魔法少女と呼ばれる存在が誕生すると予言されていた。

 誰もが思うことだろう、これが運命の魔法少女の生まれた余波か、と。

 しかし違う。

 実際にこれをやったのは、運命の魔法少女として生まれた安城ウイナ、その()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()である。

 予言はすでに覆された。

 しかし誰も、そのことに気づくことはない。

 

 

 何せ、バグである安城コトの魔法により、一時的にこの世界の魔物が根絶されたのだから。

 

 

 魔物自体は、人類が生きている限り勝手に湧いてくるためそのうち元に戻ってしまうが、それでもあまりにとんでもないことである。

 それゆえに、まさかそれが赤ん坊魔法少女の横暴であるということも、それを為したのが運命の魔法少女ではないことも、誰も気がつくことはなかった。

 

 ゆえに、世界は知らない。

 ここに一匹のモンスターが爆誕したことを。

 世界を揺るがす運命よりも、さらに意味のわからないバグが、世界をいずれしっちゃかめっちゃかにすることを、今はまだ誰も知らない。




やらかし魔法少女の物語ー、よろしくお願いいたします。
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