強い想いで魔法少女が生まれる世界に現れてしまったモンスターTS転生ロリ 作:暁刀魚
――魔物が一掃されてから九年、魔法少女の世界は大きな変革を迎えた。
中でも最も大きな変化は魔法少女専用スマートフォン、及び各種アプリの登場である。
魔法少女達は魔法少女としての定期的な訓練を受けるのと引き換えに、魔法少女しか使えない特別なスマホを支給されるようになったのだ。
そこには専用SNSや、魔法少女だけが使える便利なサービス、様々なものが揃っている。
これを目当てに魔法少女を続ける者も出てくるくらいには、魔法少女専用スマホ――マギホは少女たちに欠かせない物となっていた。
そんなマギホのSNS「マギッター」では、現在ある話題がトレンドとなっていた。
『運命の魔法少女がまた動き出したんだって。魔物と戦ってるって聞いたよ』
『ウチらもよーやく魔物と戦うときが来たっていうのに、また運命の魔法少女のところに魔物が引き寄せられたら、ウチらも先輩みたいに戦わずに引退することになりそう』
『まぁ私はそれでもいいけど、それはそれで残念だよね。せっかくアニメみたいに魔法少女になれたのに』
九年の経過は、一定以上の年齢になると魔力が衰え引退を余儀なくされる魔法少女の顔ぶれを一新させた。
また、覚醒する魔法少女も個人的な願いを叶えるために覚醒することがほとんどであり、現在の魔法少女は総じて危機感が薄い。
そこで前世代の魔法少女や、その協力者を中心に何とか魔法少女の質と連携を高めようと作られたのがマギホであり、マギホを手に入れるための育成カリキュラムだ。
――まぁ、そのカリキュラムも運命の魔法少女によって無駄になりそうなのだが。
『運命の魔法少女って、九年前の人じゃなかった? 普通に考えたらもう引退してるんじゃない?』
『魔法少女に覚醒する年齢の下限は、記録上九歳だっていうから、そこから九年経っててもギリギリ十八でまだ引退してない可能性はあるんだって』
『何より、使ってる魔法が明らか九年前と同じだっていうからなぁ。やばいよね、あの空に浮かんだ天眼の魔法陣』
そんな現代魔法少女が専ら噂にしているのが、例の空に浮かんだ魔法陣なのだ。
瞳をかたどったような形をしたそれは、ある日突如として運命の魔法少女が誕生した街の上空に再び姿を見せた。
九年前につけられた通称が、天眼の魔法陣。
そして
まぁ実際には少し違うのだが、傍目にその違いはわからないのであった。
『何でアレ、一日中空に浮かんでるんだろうね。マギチューブのライブ映像いつみても消えてないんだけど』
『アレこそ運命の魔法少女様の導きなるぞー! 救いたまえー! 崇めたまえー!』
『ずっと浮かんでるの怖すぎる、中にはこうやってあれを崇めてるイっちゃってるのもいるし、これが魔法少女の終焉なの? いや、終焉いや……ああ、窓に……窓に!』
『逝ったか……まー、流石にそろそろ消えるっしょ。あんなやばい魔法そうそう維持できるわけないし』
魔法少女達は、運命の魔法少女に対して極端な反応を見せていた。
崇め奉るもの。
恐怖し世界の終わりを悲観するもの。
前者はただふざけているものも混じっているが、中には本気で天眼を救済だと思っている者もいた。
それだけ圧倒的すぎるのだ、現代の魔力に乏しい魔法少女達にとっては。
後者に関しても、反応は真逆でも感じているのは同じ根源的な恐怖だ。
魔力に対する恐怖と、いまだ存在すら知らないのに悪寒を感じさせるやらかしゴッド本人への畏怖が混ざったものだった。
『それで、これから上の人達はどうするの? 確か、当時と違って一応中で魔法少女が活動できるギリギリの魔力濃度なんだっけ?』
『だからといって魔法少女を派遣する――とはならないみたい。変身してなければ普通に活動できるし、アタシ達実戦なんて経験したことないから危ないし』
『というか現代の魔法少女が行ったら、潰れて変身とかないと一生動けなくなるって教官言ってたよ』
『こわー』
現代の魔法少女は、総じて魔力量が少ない。
魔物に襲われた結果、生存を願って覚醒するという昔から平均して魔力量が高くなりやすい覚醒方法が、今は取れなくなっているからだ。
大抵の魔法少女は、明日学校に行きたくないとか、好きな人ができたとかそんな理由で覚醒する。
現地ではぁはぁ言いながらも普通に活動できているアリスは、年若いのもあって魔力量は現状ほぼトップクラスといっていいだろう。
『確か、当時その街で魔法少女をしてたOGが一旦調査に行くんだって』
『土地勘あるから選ばれたんだ。でも、その人変身できないんだよね、危なくない?』
『変身できるけど弱くて子供の私たちか、変身できないけど大人の人しか今いないし、しょーがないって』
『あーあ、私も伝説の騎士様みたいな魔法が使えたら、ビシッと活躍できるのにね』
『せっかく魔法少女になったのにねぇ。アニメみたいに活躍したいよね』
少女たちは、そんなことをどこか他人ごとのように考えていた。
魔法少女になる子供は、多くの場合魔法少女アニメを見て育っている。
だから魔法少女に対する憧れはそこそこあるのだが、現状はそれを活かす場所がないのだ。
そんな状態で、ただカリキュラムを受けるだけで日々を過ごしている。
とはいえカリキュラム、お給料が発生するのだから魔法少女たちも不満はない。
上は財源の確保で常に頭を悩ませているというけれど、自分たちは恩恵を受ける側なのだから気にする必要はない。
このまま何事もなく人生は過ぎていき、自分たちは運命とは関係なく魔法少女を終える。
魔法少女という特別になっても、きっと自分たちは
――そう、彼女たちは信じていたのだ。
これから先起こる、某モンスターロリの横暴と、世界の変革。
その真っ只中に立たされていると、知る由もなく。
◯
久藤スミカ。
現在は都会の大学に通う大学三年生。
かつて、かの惨劇――運命の魔法少女の横暴を世界で初めて目撃した魔法少女である。
そして今回、再び発生した運命の魔法少女案件を、再び押し付けられた哀れな少女(自認)でもあった。
「……かえり、たく、ない」
大学生になっても特に背が伸びなかった百五十後半の少女は、一人車の中でうなだれていた。
そこは数年ぶりに帰ってきた、自身の故郷。
大学進学と同時に魔力を失い魔法少女を卒業したことで、二度と帰るまいと誓った生まれ故郷。
あの惨劇を思い出してしまうトラウマの土地――まぁ普通に学生生活は満喫したが――に、帰ってきてしまったのである。
「いやだぁ……またあのヤバい魔法少女を間近で感じるの……いやだぁ……」
スミカはごくごく普通の少女であった。
陰キャ、オタク、運動ベタ。
魔法少女になった理由も、推しライブを初めて現地観戦した時に感情が高ぶりすぎたから。
そんなどこにでもいる女子が、スミカなのである。
なお、今回の偵察任務の給料を死ぬほど要求する図々しさも持ち合わせていた。
「……実家に顔出す前に、ちょっとコンビニでお菓子買ってこ……」
そんなスミカは、現在財布の中身が無敵である。
結果、普段なら節制しようと我慢するお菓子も、遠慮なく買えてしまうのであった。
――任務終了後に増える体重の存在を、スミカはまだ知らない。
「わっと、すいません」
「あ、ごめんなさい!」
「ん、どした?」
「ウイナ様、大丈夫ですか?」
そんなスミカは、どんくさいが故に道を駆けていた二人の少女のうち一人と接触してしまう。
お互いに怪我はないし、ちょっと触れた程度だったが謝罪の言葉を述べる。
接触したのは、幼い桃色髪の少女だ。
隣には紫髪のよく似た顔つき――双子だろうか――の少女と、金髪の少女が立っている。
「いや、えと、あたしが考え事してたせいで……」
「こ、こっちこそ慌ててて……ごめんなさい! あ、お姉さんって、観光で来たんですか!?」
「え? あ、いや、実家に帰省する……だけ……」
なんだか、凄まじくグイグイくる子に声をかけられてしまった。
これが陽キャか……と慄くスミカ、話を切り上げたのは紫髪の少女だ。
「はい、ウイナそこまで。すいません妹が」
「い、いえいえ」
「ご実家に帰られるのでしたら、ごゆっくり羽を休められるのがよいかと」
そして最後に金髪の少女が、なんか随分とかしこまった態度でそう言って、三人は去っていった。
しかしスミカはこの時、どうしようもなく自分の体が恐怖に震えていることに気づいていない。
防衛本能が、気づいた瞬間かつてのトラウマでやばいと判断したのだ。
――だからこの時、スミカはマギホを起動して魔力を検知しようとしなかった。
もししていたら滞留しまくった運命の魔法少女の魔力と一緒に、金髪少女の使用する翻訳魔法を探知できたはずだ。
マギホには、そういった便利な能力も色々と備わっているのだから。
しかし流石にそれは、いささか無茶な話である。
起動するにも結構お金がかかるから、常時起動してくれとは上の人間も言えないのだ。
なお、天眼の魔法陣が展開されたことでコト達が夜のパトロールをしなくなっている。
対するスミカは、魔物は夜に発生するから魔法少女も夜に行動するという先入観から夜しか捜索を行わず。
結果長期のすれ違いを発生させることになるのだが、スミカはまだそのことを知らない。
こうして、現代の魔法少女とやらかしゴッドにして運命の魔法少女、安城コトの邂逅は、早速変な方向へと進み始めたのだった。
マギッターの名称が変更されることは今後一生存在しないのでご安心ください。