強い想いで魔法少女が生まれる世界に現れてしまったモンスターTS転生ロリ 作:暁刀魚
魔法陣を展開してから、半月が経過しようとしていた。
アリスがやってきてから数えると、そろそろ一月になる。
アレから大きな事件は起きず、平和な日常を私たちは謳歌していた。
――はずだった。
それが、どうしてこんなことになってしまったのだろう。
悔やんでも悔やみきれない、あの時ああしていれば、もっと私がしっかりしていれば。
そんなことばかり考えてしまう。
しかし、現実にそれは起こってしまった。
もう取り返しのつかないところまで来てしまったのだ。
ならば目を背けてはならない、逃げてはならない。
眼の前の現実に――
――魔法少女への変身に成功し、興奮のあまり立ったまま気絶しているウイナの存在に。
「大丈夫かウイナ――――!」
「ウイナ様――――!」
二人して、完全に白目を剥いているウイナに駆け寄る。
いや現在は戦闘中なのでそんなことしている暇はまったくない。
……のだが、それはそれとして私はウイナが世界で一番大事だし、私がウイナを優先したら敵より私を優先するのがアリスであった。
「クソ、一体誰のせいでこんなことに!」
「おそらくひいさまが、うっかりウイナ様が尾けていることに気付かず現場に急行したためと思われますが……」
「ウイナ……! 絶対に許さないぞ、魔物!」
「あ、はい」
――ことの発端は今から小一時間ほど前。
久しぶりにこの街へ、魔物が出現したことによって発生した。
時刻はそろそろ日が暮れる時間帯、私はウイナに「絶対外に出るんじゃないぞ、絶対だからな」と言い聞かせて外に出てきたのである。
が、どういうわけかウイナはついてきてしまった。
「私はそれを、ここ最近テレビで見たから知っています……フリです! 絶対にフリですよひいさま!」
「なん――――だと――――」
「ひいさまって、すごくウイナ様のお姉様ですよね」
アリスに滅茶苦茶辛辣に二人してたまにすごいドジするよね、と言われてしまった。
まぁ、実際それでやらかしたばっかりなのに、またやらかしてしまったのは痛恨である。
といっても、正直時間の問題といえば時間の問題だっただろう。
アリスが家にやってきてからは、アリスと二人きりの時間が増えてウイナを一人にすることが多かった。
結果、どっかしらで一人で行動したウイナが私を見つけるのは、どうしようもなく必然だったのである。
「だからって、変身した瞬間気絶しなくても……」
そうしてついてきてしまったウイナは、私たちと魔物の戦いを目撃。
危ないと割って入った瞬間、魔法少女に覚醒――変身した。
しかしそれは、魔法少女オタクのウイナにとってはあまりにも酷な出来事。
自分が神聖なる魔法少女になってしまったという衝撃に耐えきれず、気絶してしまったのである。
それが、現在に至るまでの顛末だ。
「とりあえずウイナを守りながら、あいつを何とかするぞ!」
「魔法少女に変身すれば、魔力がその身を守護しますので、変身している間は問題ないかと思います。ですが、それを理由に民草を守らぬのはエーレンベルクの名に恥じます!」
それはそれとして、問題は今私たちが相対している魔物である。
こいつ、なんと私の魔法陣レーザーを耐えきった。
方法はとても原始的で、私のレーザーは魔物を倒すと効果が消える。
つまり、
なんとも恐ろしい方法で、こちらの攻撃を対策したものだ。
「かつて、攻城戦において捕虜を軍の前面に立たせ進軍するという卑劣な戦法を取った将がいたと聞きます。それを思い出す、おぞましい戦法です」
「それを九歳の貴族令嬢に聞かせた大人も、私はヤバいと思う」
眼の前にいるのは、一言でいえば数メートルサイズの亀の魔物だ。
その魔物の甲羅の一つ一つに、別の魔物が貼り付けられている。
種類は様々で、前に見かけたコウモリの魔物も混じっていた。
「加えてあの魔物……最上位魔物ですね」
「たしか、下位、中位、上位、最上位っているんだっけ。魔人は?」
「魔人も強さはピンからキリですが、最低上位は持っているかと……」
私はその間に、弾丸を亀に向かって発射する。
エイムはクソでも、何発か撃てば流石に幾つかは命中するのだ。
それを亀は自身の甲羅をファンネルみたいに浮かせて、的確に守ってみせた。
厄介なことに、命中するとまず貼り付けられた魔物が消し飛び、もう一発命中させてようやく甲羅が消える仕組みになっている。
つまり二重の盾なのだ、完全に私をメタるための魔物というわけか。
対策は魔法陣に手を加えることなんだけど、アレに手を加えるのが強すぎるので、とりあえず外部の人に見てもらえるまで保留中。
手を加えることはできます、どうなるかが全く読めないだけで。
まず何と言っても私自身があまりにも不確定要素すぎる。
「といっても、死ぬほど連打すれば倒せるわけだけど……」
「能力は最上位の中では比較的おとなしい方ですね。しかし連打しすぎると、街でひいさま以外の魔法少女が活動できなくなります! おそらくはそれが狙いかと」
「狙いって、やっぱりこれさぁ……誰かしらの手が入ってるよね?」
「……はい」
アリスの言葉に、私はあまり指摘したくなかった事実を指摘した。
そしてアリスもその”誰か”が誰なのか、皆目見当がつかないようである。
とりあえず、ここからは向こうの手のひらの上で踊らないよう気をつけつつ、こいつを倒すしかないのだが――
「はっ! お、お姉が魔法少女でアリスちゃんも魔法少女でアタシがアタシがアタシがアタシが魔法少女――――!?」
やべっ。
ウイナの意識が戻ってしまった。
「ウイナ!」
「お姉! これ、一体どういうこと――!?」
「ひいさま、私が魔物を抑えます、その間に説明を!」
「ご、ゴメン頼んだ!」
本当は私が抑えたほうが効率がいいんだろうけど、ウイナに説明する上では私のほうが絶対スムーズなんだよな……!
まあアリスができるというなら、任せてしまおう。
「まず聞いてくれ、ウイナ。この世界には魔法少女が実在するんだ。今アリスが戦ってるように、魔物と呼ばれる存在と戦うのが魔法少女の使命……らしい」
「まってお姉! 何一つ理解できないんだけど、全然ついていけないんだけど! でも聞いていい!?」
「何だ!?」
バタバタと、ウイナは私やアリス、それから自分の衣装に視線を向けながら叫ぶ。
「私が魔法少女
「魔法少女様!?」
「だ、だって恐れ多すぎるよ!? 魔法少女様なんだよ!? しかもピンク系!!」
ウイナの衣装は、ピンク基調のフリフリスカートという、私も想像した通りの衣装だった。
幸いなことに露出は少ない。
「あたしがピンクなんて、絶対荷が重いよ!!」
「しょうがないだろ、そもそも髪色がピンクなんだから!」
昔からウイナが自分を魔法少女にする時の落書きも、衣装ピンクだったじゃん。
当時のことは持ち出すな? えーしょうがないなぁ。
「というか……お姉の魔法少女衣装が想像通りすぎるよぉ! 紫ベースだし、シルエットがすらっとしてるし、正統派ライバルって感じだし。やっぱり私夢を見てるの? お姉が理想の魔法少女過ぎてこわいよぉ」
「夢じゃないぞー?」
「それに、正統派ライバル系のえっちな衣装のお姉がすけべすぎる!」
「えっちとかすけべとか言うんじゃありません!」
君9歳でしょ!
自分用の本棚の裏にエッチな魔法少女の本を隠してるのは知ってるけど!
後私の衣装は普通に恥ずかしいんだからな!?
「っていうか、魔法少女様が他人に敵を任せて困惑してるなんてダメじゃん! 魔法少女様はもっと気高くて……純粋で……高潔じゃないといけないんだよ!」
「いや、ウイナは今日初めて魔法少女になったんだから、見てなさいって!」
「お姉が心配してくれるのもわかるけど、アリスちゃんも心配だよ!」
うおおお、ウイナの中で厄介な魔法少女のオタク部分と、正義のヒロイン部分が同時に叫んでいる!
「それにぃ! アリスちゃんの魔法少女姿似合いすぎだよぉ! 騎士の魔法少女なんだね! 鉄兜っぽいカチューシャが可憐すぎるのおおおおお! お姉も如何にもクールな感じですっごくお姉に似合ってるし! 特におヘソが出てるのがすごくライバルって感じのセクシーさで惚れ惚れしちゃう! ああああああアリスちゃんがにとーりゅーで立ち回っててすごいいいいいいい! ぎゅんぎゅん動く! んはああああ、横顔凛々しすぎなのおおおお! やだやだやだ、胸が苦しい! 苦しくてしんじゃうううう!」
――そしてオタク部分が暴走を始めた。
崩れ落ちるウイナ、両手で頬を押さえながら、への字にへたりこみお尻を揺らして悶えている。
えっち……じゃない!
興奮して悶えてくれてる分には問題ない、このままアリスと交代して私が前に出よう。
向こうは私対策にああいう魔物を用意しているわけだけど、やりようはある。
と思った、その時だった。
「何よりお姉は何!? アタシの感情パンクさせたいの!? えっちえっち! おヘソ周りが全開でやばいよー! 特に背中がすごいの! 衣装がぴっちりだから肩甲骨が、肩甲骨が浮いてるの! 何かな! 舐めればいいのかな! 土下座して地面舐めたら舐めさせてくれるかな! あああああああっっっっ! ふ゛と゛も゛も゛ぉ゛ぉ゛ぉ゛ぉ゛ぉ゛お゛お゛お゛お゛お゛お゛! スカートっぽい部分から太もも見えた! え、全開!? 全部見えてる!? 見えちゃっていいの!? ダメダメダメダメ、えちえちすぎるー!」
「全身どころか脳内までピンクになるのやめて?」
「あああああああ、感情があふれてきちゃうのおおおおお!」
――ウイナの足元から、ピンク色の光が噴出した。
「な、なんですかひいさま!?」
「いや、解らない。多分ウイナの魔法だ!」
「んひょおおおおおお!」
ウイナを覚醒させたのは、私たちを守りたいという気持ちと魔法少女への強い思いだろう。
すなわちウイナの魔法がこのタイミングで発動するのは、正常な動作なのだ。
であれば、ウイナの魔法を見極めるためにもここは待ちの姿勢だ。
そう思って、光の行く末を見守っていると――
――クソデケェ光の私が出現し、亀の魔物を踏み潰した。
ぷち、と。
亀が潰れた。
「あっ」
「あっ」
「んひゅっ」
私とアリスが、驚き口を開き、ウイナは何かやばい笑みを浮かべながら体をびくんと震わせた。
……今ウイナが性に目覚めなかったか!?
いや、それどころじゃない。
「え、……っと、アレ私だよな?」
「私にも……アレはひいさまに見えます」
「……………………だよな」
全身が光に覆われた私……というか、光だけで構成された亀よりもでかい私がそこに立っている。
無論光だけでそれを私とは判別できないが――シルエット的に明らか私の魔法少女服を着ているのだ。
「これがウイナの魔法……」
「……おそらくですが、ウイナ様の魔法少女へのあこがれと、誰かを守りたいと思う心……それからひいさまへのきょうし……強い思いがこういった形で発現したのではないかと」
「おひょ……んひょ……」
理屈としては、わからなくもない。
多分応用を利かせれば、他にも色々とできることはあるんだろう。
それはそれとして、これがウイナの魔法かぁ……ウイナの魔法かぁ……
「いや結構想像通りだな……」
「はい……」
「んひぇ……あへぇ……」
びくびくと震えるウイナをみていると、納得しかないのが困るんだが。
とりあえず、亀の魔物は見れば念入りにすり潰されて、消えてしまったようだ。
仮に残っていても、甲羅に張り付いた魔物はもう居ない。
多少ゴリ押しすれば、なんとかなる範疇のはず。
であれば、興奮しきったウイナを回収し、自宅で色々と説明をするべきなんだろう。
かくして私はウイナを抱えると変身を解き、自宅を目指すのだった。
――なお、道中に慌てた様子で「寝過ごした!」と叫びながら、先日すれ違った大学生のお姉さんと再びすれ違ったが、特に何か聞かれることはなかった。
はい(本作二回目)。