強い想いで魔法少女が生まれる世界に現れてしまったモンスターTS転生ロリ 作:暁刀魚
久藤スミカは完全に頭を抱えていた。
どうしよう、全然合流できない――――
魔物が現れ、魔法少女が戦闘したことをマギホが探知してアラームを鳴らしたにもかかわらず、寝過ごした。
慌てて駆けつければ、既にそこは戦闘が終わった後。
最初のうちは夜に活動するものだと思って、夜にしか探知を行っていなかったのもまずかった。
そこら辺に気付いて探知を常にするようにしたら、今度は自分が体調を崩して家から出れなくなってしまったのである。
上に連絡しても「じゃあ体調治ったらまたよろしく」とのことで増援はなし。
家のベッドで療養しながら、時折魔法少女の魔力が探知に引っかかる。
でも動けない。
スミカはただただ申し訳ない気分になるしかないのであった。
――しかし、そんなスミカに変化が訪れたのは、再び出現した魔物を魔法少女が探知したとマギホが通知した時だ。
そろそろ体調も回復し、次の探知には反応できるだろうと楽観していたスミカ。
そんなスミカを――誰かが見ている気がしてならない。
常に誰かが、こちらを見ている。
なんていう妄想じみた感覚を、スミカは覚えてしまっていた。
在りえない話だ。
今のスミカは魔力を失った元魔法少女。
魔法少女の魔法は魔物と魔法少女にしか効果がない。
翻訳魔法や人払いの魔法といった基礎魔法はその限りではないけれど、それにしたってこんな感覚を覚えることはないはずだ。
もしあり得るとしたら、それは”フラッシュバック”のようなものではないかと思う。
かつて感じた恐怖、トラウマがスミカに警鐘を鳴らしている。
スミカにとってのトラウマは――言うまでもなく、あの天眼の魔法陣以外にあり得ない。
ようやくマトモに動けるようになって、スミカはマナ感知眼鏡を身に着けて、窓から空を見上げた。
魔法少女を引退した人間が、魔力や魔物を視認するためのそれは、当然ながら天眼の魔法陣も視界に捉えることが出来る。
九年前、スミカを勢いよく街の外へ吹き飛ばし、眼の前に地獄のような光景を作り上げた元凶。
他の魔法少女はともかく、スミカはこの街で暮らしていたからあの期間中、町中で何度も魔物を魔法陣がすりつぶす光景をスミカは見てきた。
魔法少女は変身しないと魔法を使えないし、変身を解けばあの濃密な魔力の中でも活動できる。
でも、魔法は視認できるのだ。
だから――スミカは見てしまった。
空から悍ましい数の流星が降り注ぎ、あらゆる魔物を根こそぎ屠った光景を。
その恐怖は、未だに心の奥へ刻まれている。
日常生活に支障をきたすほどの恐怖ではないし、むしろ面倒だった魔法少女としての業務を終わらせてくれたから、感謝すらしているのだが。
それはそれとして、怖いものは怖い。
そんな複雑な乙女心を魔法陣に向けていると、不意に悪寒が走った。
今は夜、空はマナ眼鏡をかけている分には魔法陣の光で明るいとはいえ、それでも部屋の中は電気をつけておらず、暗い。
もし後ろに何かいたら、そう思ってしまったら――スミカは後ろを振り返れなくなってしまう。
怖い、怖い怖い怖い。
何よりまずいのは、この場に自分以外の人間がいないということ。
そして自分がもう魔法少女ではないということ。
もし仮に魔物が後ろにいるとしたら、それだけで自分は詰みだ。
いくら魔法少女がいるとしても、こんな部屋の中にいる魔物まで退治することはできない。
現代は魔物の探知技術が向上していることから一般人の魔物被害は減っているし、ここ九年はそもそも魔物がほとんど出現していない。
今だって、天眼の魔法陣などの影響で魔物がこの街に集まりがちだから、被害はほぼ出ていないのだ。
だがそれは同時に――この街では魔物がいつ出現してもおかしくないということ。
そして何より、マナ探知眼鏡やマギホを保有している自分が、魔物に襲われる可能性は少ないながらも人よりは高いということ。
そんな危機感から、恐怖を乗り越えてスミカは振り返った。
結果そこに、人は居ない。
まぁ実際、仮に魔物が出現したとしても、それは野良の魔物だ。
野良の魔物は天眼に灼かれて消えるので、スミカの懸念は杞憂なのだけど。
何にしても、スミカはほっと胸を撫で下ろした。
そして、部屋の中を確認してからもう一度外に目をやって――
「ミ ツ ケ タ」
窓枠に張り付いてそうこぼす少女に、スミカは絶叫することになった。
◯
しょうがないから、こっちから魔法少女を探すことにした。
そこで役に立つのが、空に展開された魔法陣。
元々、遠見として街を俯瞰するのが本質の魔術なんだから、当然これで魔法少女を探すのは妥当ということだ。
改めて遠見の魔法を使ってみると、幾つかわかる事がある。
まず、変身している魔法少女の魔力は探知が可能だ。
おそらく魔物の魔力も探知可能だけど、探知した瞬間自動迎撃でバシュッとされてしまうのでよくわからない。
んで、解ったことは――探しに来てるの、魔法少女じゃないんじゃね? ということ。
考えてみれば、どうせ私の魔力が充満してる今のこの街で、マトモに行動できるのは一部のへんた……強者だけだ。
アリスは気合で耐えているし、ウイナは私と血が繋がっているからか魔力の影響が少ない。
そんな状況で十代の少女を行動させるくらいなら、元魔法少女の大人を行動させたほうがいいだろう。
考えてみれば当然の話だった。
そうと分かれば、今度は微細な魔力を追いかけることにした。
なにせ相手は元魔法少女、現在は魔力を持っていない。
であれば、魔力を探知するには何かしらのアイテムが必要なはず。
基礎魔法の存在を考えれば、そういうアイテムが現代で開発されていてもおかしくない。
そしてそういうアイテムの魔力は魔法少女のそれと比べると微細だろうが、常に魔力を発している。
この考えは、アリスからも”ありうる”と太鼓判を押してもらった。
結果、しばらく私は魔力を捜索した後――発見に至ったのだ。
眼鏡をかけて、こちらを見上げている女性を。
そしてその女性と二回すれ違っていることを思い出した私は、急いで女性の元へ向かった。
ここを逃すと、またなんかよくわからないすれ違いが発生しそうだったからだ。
結果、窓に張り付いて女性を死ぬほど驚かせてしまったけれど――
「……夜分遅くに大変申し訳ありませんでした」
「い、いえいえ……と、というか何かむず痒いので普通にタメでいい……よ?」
「えっとじゃあ失礼して……私は安城コト、貴方は?」
「く、久藤……スミカ……です」
スミカさんの方が敬語になってる――
先程ビビらせてしまったのが、よほど効いているらしい。
申し訳ないことをしてしまった。
「それでその、コトちゃんが……えと……」
「あの空の魔法陣の魔法少女であってるよ」
「天眼の魔法陣……やっぱり」
天眼……というのは外部での私の呼び名だろうか。
アリスのように、二つ名が既についているということだろう。
「――運命と天眼の魔法少女」
「それが私の、外での呼ばれ方なのか……?」
「まぁ、そんな感じ……かな」
いいながら、眼鏡をかけたままのスミカさんは、空の魔法陣に目を向けた。
天眼の魔法陣……ウイナが喜びそうな呼び名だ。
そして――
「ところで――あの魔法陣って……いつ消えるんですか?」
「…………っすー」
私は、スミカさんの言葉に大きく一つ吐息をこぼした。
さて、考えなしにでてきちゃったけど……周りにアリスもウイナもいないけど――どうやって説明したものかなぁ。
ここまでのアレヤコレヤ。
そうして色々悩んだ挙げ句、まぁ多分バレているだろうな、という理由で――
「ええとじゃあ、まず私が赤ん坊の頃から魔法少女してる話からするんすけど……」
「は?」
――と、口にしたら死ぬほど理解できないものを見る目でみられた。
やっべ、話題選択ミスったぞ?
完全にモンスターなんよ。