強い想いで魔法少女が生まれる世界に現れてしまったモンスターTS転生ロリ 作:暁刀魚
『――行くところがないのなら、私のところに来ませんか』
今でも、ミシェルにそう呼びかけたことをアリスはよく覚えている。
重たい雨が降り注ぐ日のことだった。
一人の少女が道端で倒れていて、今にも死んでしまいそうだったのだ。
それを無視することができなかったアリスは、周囲の反対を押しきって少女を招き入れた。
それがミシェルで、以来ミシェルはアリスの侍従となった。
魔法少女になったのは、それからすぐのことだ。
領内を移動しているさなか、魔物に襲われ覚醒した。
アリスとミシェルは、ともに魔法少女となったのである。
『魔法少女なんて、バッカらしい。魔物と戦うより、魔法を使って金を稼いだほうがずっと有意義じゃなぁい?』
『弱き者を守るは強き者の責務です。それにミシェルも、なんだかんだいって魔物と戦ってくれるではないですか』
『それはぁ、そうしないと雇い主のあんたが死んで、アタシが路頭に迷うからでしょぉ?』
そんな話をしながら各地を飛び回って、魔物と戦ったことはアリスにとってかけがえのない思い出だ。
各地の魔法少女と交流を深め、仲間を増やし、この頃のアリスは間違いなく人生で一番充実していた。
まぁ家にバレないよう夜遅くに行動するものだから、眠気と疲労でいつ倒れてもおかしくなかったのだが。
それをミシェルには、何度もとがめられたものだ。
――だが、だんだんとそれも変わっていく。
ミシェルの方が、”何か”に追い詰められていったのだ。
アリスには、それがなんだかわからなかった。
普段のミシェルは、それまでと何ら変わらない様子だ。
しかし時たま、ぱたりと倒れては数日間起きないなんてことがよく発生した。
なぜそんなに無茶をしているのか問いかけても、答えは返ってこない。
そんな日々が続いたある時、事件は起きた。
夜、眠りについていたアリスをミシェルが呼び起こしたのだ。
そしてそこには――変わり果てたミシェルの姿があったのである。
『ミシェ、ル……? どうしたのですか、それは。何があったのですか!?』
『これ、これねぇ? ――魔人になったの。わかるでしょ? 魔法少女が堕ちた先に待っているもの。それが――今のアタシ』
『なっ……』
『くふふ、生まれ変わった気分だわ。ねぇアリス。アタシ……アンタにお別れを言いに来たのよ』
悪い夢だと、アリスは思った。
しかしそこにいるのは、間違いなく魔人と化したミシェルだ。
そして――
『星が空に満ちる時、運命の魔法少女が誕生する。運命の魔法少女は、魔法を終焉に導くことになるだろう』
ミシェルはその予言を残して、姿を消した。
アリスは、いまだにミシェルがどうして魔人と化したのか、何のためにこの予言を残したのか、わからない。
聞き出さなければならなかった。
自分のためにも――コトのためにも。
〇
戦いは、あまりに一方的だった。
そもそも動くことすら苦労する環境で、それを作り出している元凶を相手取るなんて無茶もいいところだ。
アリスは双剣を手にミシェルへ向かって飛びかかる。
その速度は決して速いとは言えず、ミシェルはあくびをしながら回避する始末だ。
続け様に振るったアリスの剣も、ミシェルは緩慢な動作で回避していく。
『あーあ、つまんなぁい。全然勝負になってないじゃーん、アリス。ざぁーこ、ざーこ♡』
「だとしても……私は倒れていません!」
『倒してないだけだって……の!』
ミシェルが反撃に出た。
といっても、隙だらけのアリスの鳩尾に蹴りを叩き込んだだけ。
アリスは吹き飛んで、転がる。
そして、もう一度立ち上がった。
痛みをこらえて近づき、双剣をふるい――再び蹴り飛ばされて地面に転がる。
その、繰り返しだ。
「……アリス」
「わかっています、ひいさま。ですがまだ行けます。……ようやく、ミシェルとこうして正面から対話する機会を得たのです。逃げるわけには……行かない!」
『あーあ、もーほんっとうに昔から変わらないなぁ。そーいうところが嫌いなんだって、どーしてわっかんないのぉ?』
アリスが再び飛び出した。
騎士と双剣の魔法少女であるアリスの魔法は、非常にシンプル。
硝子細工の剣を生み出し、それを二振り振るう。
身につけた鎧と、身体強化の魔法は非常にアリスを堅牢にし、私の全力パンチも一発は耐えてカウンターしてくる。
硝子の剣は一見脆いが、砕けても即座に作り直すことが可能で、とにかく燃費がいい。
さらに魔法の効果か、攻撃力も高い。
私に傷をつけられるのだから、以前戦ったプテラノドンなど、飛んでさえいなければ瞬殺できる能力があるだろう。
シンプルにして完成された魔法少女、シンプル極まりない二つ名が、その証拠。
「はあああ!」
『くふふっ! ぜーんぜん届いてないよ!』
それゆえに、スペック差という崩し難い差がネックになるのだ。
その質実剛健極まりない戦い方は、両者の差を埋めることが極めて難しい。
だから一方的になっているその戦いは、しかし。
ここまで、私達やミシェルの想定以上に長く続いていた。
『あーもう面倒だなぁ。アリスちゃん、どーーーしてそんな頑丈になっちゃったの!?』
「私とて、成長しているのですよ!」
やがて、アリスの頑丈さにミシェルが苛立ちを隠せなくなってくる。
『っていうかぁ、そんな風に
「ええ、そうですね。そして――届きました!」
『ッ!?』
そしてついに――アリスの剣が、ミシェルの頬を掠めた。
アリスの剣速が増していた。
剣をふるうごとに、アリスはその精度を上げていく。
『ああもー、だったらぁ、
「……ようやく、戦闘らしい戦闘になりました……ね!」
業を煮やしたミシェルが、ついに両手に持っていたマスケット銃を構えた。
それと同時に、ミシェルの瞳が光を帯びる。
魔法を発動させたのだと、傍目から見ても理解できた。
そしてマスケット銃の引き金を――引く。
「当たりません!」
『――いいや、
アリスは確かに回避行動を取った。
マスケット銃の射線から逃れ、銃弾は空を切るはずだったのだ。
なのに気がつけば――
「ぐううっ!」
『まだまだァ!』
「く、こ、の……!」
ミシェルは更に引き金を引く。
狙いは適当といって差し支えないはずなのに、そのすべてがアリスに命中するのだ。
そのたびに、アリスは何度も吹き飛ばされてしまう。
「やはり、やっかい……ですね!」
『やはり、じゃないよぉ。魔人になってパワーアップしてるもん! 威力も、精度も、アリスちゃんが知ってる頃とは段違い! くふっ♡』
「それでも……からくりは解っています!」
だが、何度もそんな状況が続いたある時、アリスが
端から見ていると、あまりにも奇妙な光景だ。
アリスがすごいことをしたことだけは、間違いない。
『くふっ……やってくれるじゃぁん』
「……ミシェルの魔法は、未来の確定。ごく短期かつ、マスケット銃を介した未来であれば、
ミシェルが銃を乱射する。
その弾丸をアリスが剣を犠牲に弾いていく。
硝子細工の双剣はその度に砕け、新たなものがまたアリスの手に収まる。
アリスの言葉と目の前の光景を統合すると、ミシェルのはなった弾丸は百発百中。
だからあらぬ方向に放った弾が、アリスに叩き込まれているのだ。
ただし、あくまで捻じ曲げられるのは、弾丸の未来のみ。
最初のミシェルの発砲がわかりやすい。
アリスが回避して、本来あらぬ方向へ飛んでいくはずだった弾丸はアリスの目前に突如として出現した。
命中した段階まで未来を捻じ曲げることは不可能だ。
ゆえにああして、アリスのように剣を捩じ込むことも可能となる。
「届き……ましたよ!」
『わかってるくせにぃ、こっからが大変だって……さぁ!』
そうしてアリスが、ミシェルの目の前まで到着する。
剣が、届く距離にまで。
しかしそこからが大変だ。
アリスが振るう剣はことごとく回避され、ミシェルはマスケット銃の引き金を引くだけでそれがアリスに命中する。
攻撃に専念するアリスはこれを無視するか、ギリギリで回避するしかない。
さらに、ミシェルには蹴り技まであるのだ。
自分の間合いにたどり着いたにも関わらず、アリスは苦戦を強いられていた。
『未来予知の本質は、そりゃ回避に決まってるよねえ!』
「くっ……!」
戦闘自体は成立している。
しかし、状況はだれの目から見てもアリスの劣勢だ。
「懐かしいですね、かつてもこうして鍛錬をする時、私の剣は貴方に届かなかった!」
『昔は殺すつもりで撃ってないっての! 今だって、ぜんぜんアタシには届いてないけどねぇ! 騎士失格じゃん、こんなの!』
「ええ……! 残念ながら今の私はエーレンベルクの名を名乗れぬ身。しかし変わらぬものもあります! 騎士としての矜持は、今も私の胸の中で燃えています!」
無数の“音”が、戦場に響く。
ガラスの砕ける音、発砲音、そして少女たちの叫び声。
『そう、それ! あんだけ家の立場とかそういうの気にしてたくせに、未来に来たらあっさり家を捨てるんだ! 騎士っていうのは薄情だね!』
「捨ててはおりません、今もこの胸にエーレンベルクの名は生きています!」
『あはは、そうだね。じゃあこっちは――捨てちゃおっかなぁ! 昔の
その時だ。
ミシェルの気配が変化する。
まずい、と思ったが――遅かった。
『ねぇ見てよアリス! 今のアタシったら――』
その姿が――
『――こんなに綺麗になったのよォ!』
いびつに、ゆがみ。
変化する。
「アリス!」
私が叫び、そして――
アリスは、黒く染まった巨大な
同時に、ミシェルの姿にも変化がみられる。
その姿は、さながら悪魔だ。
背には翼が生え、尻尾のようなものも見える。
眼窩の全てが黒に染まり、瞳孔は人間らしからぬ金のそれに染まっていた。
何より特徴的なのは、顔の半分が黒く染まっていることか。
左側が何かに飲み込まれたかのように、変質していた。
そして両腕もまた黒く染まり、片方はミシェルの体よりも大きくなっている。
「ぐ、あ……」
『どぉ!? これが今のアタシ。魔人として、最強になった本当の姿! さっきまでの人の姿は、単なるお遊び。昔使ってた
勝ち誇るミシェル。
魔人としての姿を解放し、その笑みは嗜虐に歪んでいた。
『くふふふっ! ねーえコトちゃん。本当によかったのかなぁ!? このまま行ったら、アリスちゃん死んじゃうよ!? どーしてこの魔力密度の中、あれだけ動けたのかはわからないけど――もうそんなの関係ない!』
「……」
ミシェルが、私を見て嗤う。
勝ち誇ったように、見下すように。
だが――
「まぁ、待てよ。……まだ何も終わってないぞ?」
『あ――?』
その時、ミシェルの足元から。
「そう……ですよ、何も……終わって、いません」
アリスが、ゆっくりとミシェルの腕を持ち上げながら、言った。
『な……なん、で』
「なぜ、ですか。……それを説明するには、どうして私があの魔力下でも動けたかについて説明する必要があるのですが――」
なぜ、か。
正直、それは私も気になっていた。
しかし、今。
聞く必要はなくなっていた。
でもこれは、さすがに口にするのも憚られる……と思ったら、ふと隣でウイナが口を開く。
「ま、まさかアリスちゃん……お姉の乱暴で、目覚めちゃったから耐えられてるの!?」
あ、言っちゃった!
アリスは、笑みを浮かべながら……視線を逸らした。
笑みは乾いていた。
そしてミシェルはそれを見てしばらく顔を伏せた後……
『こ、こ、こ、この浮気者ぉおおおお!』
ドロップキックをアリスに叩き込んだ。
アリスの表情は、どこか幸せそうに見えた。
なんかずっとイチャイチャしてたなこいつら……そしてオチはいつものやつです。