強い想いで魔法少女が生まれる世界に現れてしまったモンスターTS転生ロリ   作:暁刀魚

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二十三 私は貴方が好き

 アリスのやっていることは、ままごとのような傲慢だ。

 アリスはミシェルを救ったけれど、世の中にはミシェルのような人間なんて山ほどいる。

 救われなかった者にとって、アリスのやさしさはどれほど残酷に映るだろう。

 

 何よりアリスは本人が思っているほど、恵まれた立場ではなかった。

 貴族の令嬢、見目麗しく立ち居振る舞いも洗練されていて理想的。

 しかしミシェルを拾ってきたときのように過度にやさしく、女性でありながら騎士にあこがれる生き方に周囲は呆れと嘲笑を向けていたのだ。

 

 そんな中でただ一人、ミシェルだけがアリスの味方でいてくれた。

 言動はどこか人を小ばかにした様子で、アリスにも厳しい言葉ばかり投げかける。

 それでも魔法少女として人々を守ろうとするアリスの隣に、常にミシェルは文句を言いながらついてきてくれたのだ。

 時にはアリスをふざけた言動で笑わそうとしてくれたし、アリスが疲れているときには「サボろう」と言い出してアリスに休憩を促した。

 

 アリスはそのことに感謝しながらも、どうしてもわからなかった。

 どうしてミシェルは、そこまでアリスの味方でいてくれたのか。

 無論、命の恩人なんだから、という考えは当然のものだ。

 少なくとも、ミシェル本人はアリスに対してそれを理由として語っていた。

 それでも、もっと本質。

 根底にあるものを、アリスはついぞ理解することができなかったのである。

 

 だけど、アリスは魔人から魔法少女に戻って、安城コトという少女にであった。

 生真面目で、誰かのために率先して行動を起こす。

 ちょっと抜けていて不真面目なところもあるけれど、むしろそんな側面のある少女が、あそこまで博愛をもって動けることはすごいことなのだと、アリスは思う。 

 そしてそんなコトを見て、ようやく一つだけ、分かったことがある。

 それは――

 

 

 〇

 

 

『あーもうほんと最悪! なんでそんな嬉しそうなの!? キモイキモイキモイ! さっさと倒れてよ、変態ッ!』

「ふふ、現代の言葉も使うようになったのですね、ミシェル。人は変わるものです」

『解った気で言わないで! あーもう、なんで倒れないわけ!?』

「んぐぉっ! まだ、まだぁ!」

 

 アリスが、ミシェルのこぶしに押しつぶされそうになりながらなんとか起き上がろうとしている。

 痛みを興奮に変えて魔力の圧を何とかしたとしても、今のアリスの状況は絶望的だ。

 圧倒的に、出力が違いすぎる。

 この差をひっくり返すとなったら、アリスが取れる手段は――一つしかない。

 

「ミシェ、ル……! 私は……貴方の、ことが……!」

『っ! アリスちゃん、アンタまさか……!』

 

 アリスから、壮絶な量の魔力があふれ出す。

 それは、魔力の圧を当然として、ミシェルのこぶしを持ち上げるには十分な量の魔力だった。

 本来ならありえない量の魔力の放出。

 アリスの体に、光のヒビのようなものが生まれていく。

 それは、以前話に聞いていた、魔法少女が魔人化するかもしれないリスクと引き換えに起こすことのできる一時的なパワーアップ方法――

 

『――魔力暴走を起こすつもり!?』

「だああああっ! っらああああああああああ!!」

 

 そしてついに、アリスがミシェルのこぶしを吹き飛ばし、起き上がる。

 両手に再び剣が出現し、ミシェルに切りかかった。

 

『せっかく人間に戻れたのに、もう一回魔人になるつもり!? アリスちゃんってキモいだけじゃなくて、バカだったの!?』

「別に、魔人になるつもりはありませんよ。魔人は魔力暴走による枯渇が起きた際、一定以上の絶望が心にたまっていることで起こります。今の私に――絶望なんてみじんもない!」

 

 両者の力量差は、拮抗が可能なほどに縮まった。

 しかしそれでもなお、上に立つのはミシェルのほうだ。

 激突した剣とこぶしは一瞬拮抗したのち、こぶしが剣を砕いてしまう。

 だが、直後には次の剣がアリスの手に握られていて、そして再びアリスは剣をふるう。

 

「私は嬉しいんですよ、ミシェル。こうしてまた、貴方と出会えたことが!」

『アタシはぜんっぜんうれしくない。一度魔人になって死んだのに、もう一度亡霊として目の前に現れるなんて!』

「亡霊ではありません、生きています! こうして言葉を交わし、ミシェルに問いかけることだってできる!」

 

 ミシェルの蹴りがアリスに突き刺さる。

 それを受け止めながら、アリスは笑みを浮かべていた。

 痛みもあるだろう、体のヒビはどんどん大きくなっている。

 それでも、アリスは全く止まる気配を見せない。

 

「なぜ魔人になったのです! なぜ予言を残したのです! なぜ魔法少女と魔物を滅ぼそうとするのです! わからないことだらけです、今のミシェルは!」

『言うわけないでしょ!? アンタにアタシの考えなんて解るわけないんだから!』

「ええ、わかるわけがありません。私はミシェルではないのですから!」

 

 激しいぶつかり合い、お互いにもてる全てを出し尽くすような、そんな戦い。

 見ているこっちが圧倒されてしまうその戦いの中で、アリスは何度も何度もミシェルに肉薄する。

 

「ですが、ミシェルにはミシェルの願いがあって、矜持があって、私とともにいてくれたことを――知っています!」

『はぁ!? そんなこと――』

「あるに決まっています! だって、ミシェルは常に本気で私と向き合ってくれていると、私はしっているのですから!」

 

 両者には力の差がある。

 それをひっくり返すことは容易ではない。

 このままただ打ち合いを続けていたって、アリスに勝機はないのだ。

 ――だったらどうする?

 

「だから私も、より本気を出します!」

『今までが本気じゃなかったとでもいうつもり!?』

「そうではありません。自分が出せる限界を――自分を()()()()()()限界を征くのです!」

 

 アリスは、さらに魔力を放出する。

 それは危険な行為だ、しかしアリスはひるまない。

 今の自分は希望に満ちていて、魔人になどならないと知っているから。

 何より、仮に魔人となっても戻してくれる者がいるから、これは無謀ではないのだ。

 

「この時代にもう一度生を受けて、学びました。人には限界がある。そしてその限界は、誰かの手を借りることで乗り越えることができるのだと!」

『何を――』

 

 ついに、アリスの一撃が、完全にミシェルと拮抗した。

 苦々しげに顔をゆがめるミシェル。

 そんなミシェルに、アリスは言った。

 

 

「魔物と魔法少女をこの世界から消し去るというのなら――()()()()()()()()!」

 

 

 その瞬間。

 ミシェルの動きが、止まった。

 そこをアリスが――押し込む。

 ミシェルの腕が、後方にはじかれた。

 アリスが、ようやくミシェルを上回ったのだ。

 

『……は、はぁ!? 自分が何を言っているのかわかってんの!?』

「わかっています。無論、そのために今ここにいる魔法少女たちを犠牲にするのは反対です。だから、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()!」

 

 ああ、それは。

 私がアリスに言ったことでもある。

 魔法少女や魔物なんて、いないならその方がいい。

 

「ミシェル一人では、犠牲を出す方法しか答えを出せなかったのだとしても! 私となら……いえ、皆となら、もっといい方法が見つかるかもしれません!」

『ぐ、この……っ!』

 

 剣が腕を弾く。

 腕はさらに変形した。

 ドリルのような形、あの腕は自由自在に形を変えることこそが本質なのだろう。

 すなわち、予知した未来に対応するための。

 しかし、アリスは止まらない。

 突き出されたドリルを、剣を添えるようにして受け流す。

 そして、踏み込んだ!

 

『そんな! なんで!』

「なぜなら、私は!」

 

 ミシェルに隙が生まれて、アリスが懐に潜り込む。

 両者の立場が決定的となった。

 

 

「私は、貴方が大好きだからです! 大好きな貴方の、力になりたい!」

 

 

 気がつけば、アリスはミシェルを押し倒していた。

 片方の剣がミシェルの首元を通り過ぎて地面に突き刺さり、停止している。

 それは、要するに。

 

「……勝った、の?」

 

 ウイナがこぼす。

 状況は一目瞭然だ。

 アリスが上に、ミシェルが下にある。

 沈黙が満ちた。

 ゆっくりと、周囲の魔力が霧散していく。

 倒れていた魔法少女達が起き上がり、アリス達に視線を向けていた。

 終わったのだ、と言う安堵の視線。

 しかし、

 

「……違う」

 

 私は、確かに感じ取っていた。

 これは、決して“終わり”なんかじゃない。

 私は見たのだ。

 アリスに押し倒されたミシェルが、音もなく何事かを口にしたのを。

 そして、

 

 

『そんなの……お断りに決まってるじゃん!!』

 

 

 ミシェルは、周囲に撒き散らしていた魔力を収束させて、アリスを貫いた。

 

「が、あ……」

『く、ふふ……すごいね、アリスちゃん! アタシに予言の魔法で集めた魔力がなかったら負けてたかもしれないよ! でもね、アタシは負けてない!』

「ミシェ……ル……」

 

 アリスは吹き飛ばされて、そして手を伸ばす。

 そんなアリスの手を振り払うように、ミシェルは腕をさらに巨大なドリルへ変化させた。

 

『一緒にやろう? アタシの力になりたい!? バカにしないでよ! アタシのことなんて何も知らないくせにッ!!』

 

 そして、それを、

 

『この願いは、予言は、運命は! アタシのものだ! 誰にも、譲ってやるもんかッッッ!!』

 

 アリスに向けて、突き出した。

 

 

「そこまでだ」

 

 

 それを、私が。

 

「ひい……さま……」

 

 安城コトが受け止めている。

 正面から、両手で抱え込むように。

 

「お疲れ様、アリス。……ここからは、私に任せてくれ」

「ひいさ……ま……! ミシェル……は……!」

()()()()、後はこっちでもなんとかするさ」

「ありがとう……ござい……ます」

 

 そうして、アリスは意識を手放した。

 自由になったウイナが、慌ててアリスの名を呼んで飛び出す。

 そしてアリスを抱えたところを確認した時点で、私は視線をミシェルに向けた。

 

「……待たせたな、ミシェル」

『安城……コト!』

「やろうぜ、ここからは思いっきり……やれる場所でな!」

 

 私はミシェルの腕を抱えたまま、飛び出す。

 ミシェルごと、向かうのはミシェルの拠点だ。

 そこは、異界と化した亜空間につながっている。

 そこでなら、思う存分私達は戦えるだろう。

 

『く、ふふふ! 余興としては楽しかったよ! だから……ふざけた余興の分、思いっきり殺してあげる!』

「上等ッ!」

 

 かくして、私たちは異界に飛び込んだ。

 そこで、最後の戦いが始まる。

 アリスから、私はバトンを託された。

 ミシェルの過去、ミシェルの抱えているもの。

 その輪郭を、私は掴むことができたのだ。

 でも、まだ一つ足りない。

 ミシェルの底――本質を、私はこの戦いで知らなければならない。

 

 ああ、しかし。

 ミシェル、お前はどうしてあんなことを呟いたんだ?

 

 

 遅いよ、なんて。

 

 

 答えは、でない。

 だからこの戦いで、聞き出すしかないだろう。

 ミシェルの底にあるものを、ミシェルが隠した本当の言葉を。




すごい、スタイリッシュでクールで最強無敵な魔法少女みたいだぁ……
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