強い想いで魔法少女が生まれる世界に現れてしまったモンスターTS転生ロリ 作:暁刀魚
さて、異界の方はというと身体をボロボロにさせていた本体が、強引にその体を再構成させていた。
翼を失い、下半身を失い、片手を失った羊頭の悪魔。
残されたもう片方の手を、極限までデカくして振り下ろそうとしている。
アレが他の魔法少女に届くことはないだろう、彼女たちは異界の隅で逃げ出す手のひらの相手をしているからな。
ちょっとやそっとビームの流星を受けても消し飛ばない程度には腕が大きく、おそらく普通にやっていればあの腕は私に届くだろう。
「あの腕が私を殺すか、殺せないか、それで勝負が決まるってわけだ」
まぁ、話がわかりやすくて助かる。
こっちの懸念点は他の魔法少女の飛行魔力に魔力を結構注ぎ込んだこと。
未来が改変されて、いきなり殺されるということを避けるためだ。
残る魔力は少ない。
それでもまぁ、やることは結局変わらないんだが。
「……ん?」
――その時だった。
暴雨の中をすり抜けて、一つの手が私に迫ってくる。
逃げ出そうとする手のひらの一部が、うっかりはぐれてここまでやってきたのか。
私は何気なくそれを、てしっと弾いた。
あ、やべっ(弾いてから罠かもしれないことに気づくやつ)。
一瞬焦ったが、私の脳裏に流れ込んで来たのは、純粋なただの問いかけだった。
――――お前は、何者だ。
悪魔が私に、問いかけてきているのだろう。
恐怖と、畏怖と、それから困惑。
無数の感情がないまぜになっていた。
「私が何者……か。そんなもん――」
私は、振り下ろされる拳を見上げた。
未来の改変が、私の身動きを止める。
いよいよ、最後の攻防が始まるのだ。
そんな中で私は少しだけ――
「――私のほうが知りたいよ」
その問いかけに、意識を傾けていた。
◯
私は転生者だ。
それが理由で赤ん坊の頃に魔法少女へ覚醒し、瘴気を見ることができた。
前者はわかる、この世界の理屈でも説明できる現象だ。
でも、後者は?
一体どうして、私には瘴気なんてものが見えるのだろう。
見える理由なんてものはどうでもいいんだ、どうせまた変な理由だろうからな。
大事なのは、意味だ。
私にこの力が宿ったから、私はアリスとミシェルを救うことが出来た。
そのことには、きっと大事な意味ってやつがあるんだと思う。
私は生まれ変わって、死にかけて、二回も死を間近に経験してきた。
あれは、怖い。
自分が自分でなくなってしまうかのようだ。
ああ、そうだよな。
考えてみれば当然だ。
私が魔法少女になったのは、生きたいと願ったから。
でもそれはあまりに当然のことで、私の強さの理由でしかない。
二つの要因が重なれば、ここまでモンスター級の魔力になりますよってだけの話だ。
だから意味っていうのはそのことじゃなくて、それによって私が感じたことが大事なんだと思う。
私が魔法少女になったあと、もう一度私は死にかけた。
でも、それを色んな人たちの努力で乗り越えた時、確かに私は感じたんだよ。
それは安堵だ。
自分が生きているということへの強い安堵。
私はそれを感謝という形で周囲に返したいと思っているけれど。
あの時、もうこれからは元気に生きれると両親や医者に言ってもらえた時。
私が感じた安堵は、二度の死を間近に経験しなければ、理解できなかったものだと思う。
とはいえ、それと魔法少女が直接関係あるかっていえば、実際はない。
でも、私は救われる以前に魔法少女となったことで、この世界には奇跡があると理解していた。
そしてその奇跡を、今度は死を乗り越えるという別の形で実感したんだ。
そうなると、何が私の中に芽生えるか。
「それは……
ポツリと、こぼす。
迫り来る拳を前にして、私は一つの小さな結論を出した。
「私が手に入れたのは奇跡は起きる……いや、
どんなやつだろうが、どんな困難を前にしようが、私は絶対に奇跡を起こしてみせる。
絶望? 諦観? バカにするな、そんなもんは生まれ落ちる時前世に落としちまったよ!
「私に瘴気が見える意味! 私だったからこそ起こせた奇跡! それは、不条理を打ち破ること!」
ありがとよ、神様だか世界の意思だか知らないが、私に前世の記憶を残してくれて。
――過去を見た。
何度も何度も仮想の未来を繰り返し、疲弊しながらも折れなかった魔法少女を見た。
最後にたどり着いた答えが、親友の犠牲という結論だった時の絶望は、どれほどのものだったろう。
それでも止まれなかった少女が私の前で浮かべてくれた、無垢で優しい本物の笑みを。
「――ミシェルや」
――過去を見た。
半身とも言える相棒に見捨てられ、それでも魔法少女を諦めなかった騎士を見た。
ここで自分が倒れたら、異界を作るほどの魔物を世界に解き放つことになる、そんな状況を前にして、騎士は一歩も引かない。
そうして魔人となってしまった少女は、数奇な運命の果てに私と巡り会ってくれた。
「――アリスや」
――――あり得たかもしれない、今を見た。
私というバグが発生せず、一人で世界を生きることになった妹を見た。
どこか大事なものを欠けたような感覚を抱えながらも、誠実に、真っ直ぐに少女は生きる。
たとえその最後に待っているのが、犠牲の伴う運命だったとしても。
「ウイナが辿っていたかもしれない不条理、どうしようもない現実」
そんな、私と関わった人々の、過去と今を想像する。
魔法で過去と未来を予知したとかそういう話ではなくて、きっとそうなんだろうと思いを馳せたのだ。
そして私は、あることを強く感じる。
「そんな現実――クソ喰らえってんだ!」
私は、全身から魔力を噴出させた。
迫りくるクソでかい拳、動けないからだ。
レーザーでの対処は不可能、だったらどうする?
答えは決まってる。
正面から全力で魔力をふかして、
シンプルでいいだろ? 私にぴったりだ。
「おおおっ! っっらあああああああ!」
未来改変には、悪魔の魔力が使われている。
ミシェルのときと同じようにそれ以上の魔力をぶちまけながら、私は強引に動くのだ。
「私が何者かって、お前は聞いたよな!」
ついにその時は来た。
拳はもはや目前まで迫り、私もまた無理矢理に拳を引き絞る。
全力で、拳を前に突き出す態勢。
「私は、魔法少女だよ。奇跡を起こす存在だ!」
ウイナ達が、逃げ出そうとする悪魔の手をひっ捕まえてボコボコにしている。
特にウイナは、勢いよく無数の手を蹴り飛ばして消滅させながら、笑みを浮かべる余裕すらあるようだ。
「それでも足りないのなら――あらゆる絶望と不条理を踏み潰さなきゃ起こせない奇跡があるなら、私は――」
拳の奥にある、魔神の顔を覗き見る。
感情のようなものは読み取れない。
だが、確かにヤツの存在そのものが語りかけていた。
お前はなんだ、と。
「私は――――
そして、振るった。
全力で、拳を。
悪魔とモンスターの拳は激突し――
私の拳は、一撃で悪魔とその拳を、跡形もなく消し飛ばした。
視界を覆うほどに巨大だった黒の塊が、一瞬にして消え去る。
レーザーの豪雨で白く染まった視界。
その先に、一人の少女が見えた。
意識を失ったミシェルが、悪魔から解き放たれたのだ。
私は直ぐにミシェルのもとへ駆け寄って、その体を抱きかかえる。
天眼を使って、周囲を見渡した。
どうやら逃げ出した悪魔の手も、魔法少女たちによって殲滅されたらしい。
成し遂げた魔法少女達は、互いに顔を合わせて、どこか達成感に満ちた笑みを浮かべている。
なおウイナは……何やらこちらへ祈りを捧げていた。
なんで……?
ともあれ――終わったのだ。
「……全部、終わったな」
異界が、ゆっくりと崩れ始めている。
抱きかかえたミシェルは、意識こそ失っているものの呼吸はしっかりしていた。
魔人としての魔力は感じない、今のミシェルはどこにでもいる普通の少女のように見えるだろう。
「――――帰るか」
そうこぼした私の言葉は、自分でもびっくりするくらい明るい声音である。
こうして長い長い一夜は――ミシェルとの戦いは、ここに決着したのだった。
次回で一区切りです。