強い想いで魔法少女が生まれる世界に現れてしまったモンスターTS転生ロリ 作:暁刀魚
その日、魔法少女たちは未曾有の事件を経験した。
自我を保った魔人というこれまでにない存在との対決。
それがどうでもよくなるくらいやべえモンスターの大暴れ。
どれをとっても、現代ではそうそう経験できない類の事件だ。
とはいえ、多くの魔法少女はたまたま現地に集結し、捜索と掃討に加わっただけ。
ほとんどは、運命の魔法少女……あるいはモンスターとでも呼ぶべき安城コトとその関係者によって解決した。
それでも確かに、自分たちが大きな事件の真っ只中にいたということは、彼女たちにとって大事な経験になるだろう。
なんならそれは魔法少女としての経験以上に、人生における経験としても確かな糧となるはずだ。
ただ、それはそれとしてちょっと想定外な事態に陥っている者がいた。
久藤スミカである。
具体的にいうとスミカは現在……
「さすがですスミカさん!」
「スミカさんはこの事を全部読み切っていたんですよね!?」
よくわからないが、賞賛されていた。
なんで……?
どうやら、今回の事件解決にはスミカの行動がもたらした偶然が、大いに関係しているらしい。
具体的にはミシェルの捜索と、最後の掃討だ。
どちらも人手がなければ解決しなかった問題。
その人手を手配できたのは、スミカの行動によるところが大きいという。
「スミカさんはあえて体調を崩したと報告する事で、有事の際の戦力確保を上に促したんですよね!」
違います。
ただ、結果的にそうなった事自体は事実だ。
もしスミカがスムーズにコトたちを見つけていたら、もっと事態は性急だったはずである。
しかしスミカが時間を稼いだのが功を奏して、こうして人手を確保できたのである。
無論、理由だった体調不良はガチな上に偶然なのでそんなこたー全くない。
なのに何故か、すごいすごいと言われている。
原因は他にも二つあって、
「やっぱり、旧世代の本当の戦場を知ってるスミカさんだからこそ、できた采配なんですね!」
まずこれ。
旧世代の魔法少女そのものが誤解されている。
現代の魔法少女は戦いを知らない。
しかし旧世代はそうではないのだ。
そこに加えて、アリスやコトの、旧世代の中でも怪物じみた強さを持つ魔法少女の戦いを間近に見たことで、スミカもそれくらいできると思われてしまった。
そんなことありましぇえん、スミカは君たちとそんなに魔力量変わらない一般魔法少女ですぅ。
んで、もう一つがこれ。
「あの安城コトと、正面から渡り合ったなんて、恐ろしすぎてスミカさんもやばいです!」
はい。
間違ってはいないけど、間違ってます。
渡り合ってません、幼児退行起こしてよしよししてもらってました。
しかもこれの何がまずいって、間違いなくスミカが安城コト係になるという点だ。
死ぬ気で嫌がれば上の人も、最初のうちは考慮してくれるかもしれない。
だが結局最終的にはコトのヤバさに上が手を焼いて、自分にお鉢が回ってくるのだ。
何もかも読める展開すぎる。
いやだ、コトはすごいと思うけどできるだけ自分とは関係のないところで活躍してて欲しい!
そんな事を考えているスミカだが、スミカは知らない。
今後もスミカは勘違い街道を突っ走り、魔法少女世界において「安城コトに比肩するかもしれない傑物」と周囲から認識されるようになることを。
◯
ミシェルは、ゆっくりと瞼を開く。
身体は気だるいが、これまで感じていた底知れない絶望感は感じない。
ただただ、自分が生きているのだという実感だけがそこにあった。
「いき、てる……」
「起きましたか」
「んひゃい!?」
その時、隣から突然声をかけられた。
視線を向ければ自分と同じように横になっているアリスの姿があって、思わず飛び起きてしまう。
「まだゆっくりとしていた方がいいですよ。身体は快調でも精神が疲れていますから」
「……よくわかってるじゃん」
「私も以前、同じ経験をしました」
魔人から解放されて、開放感を感じる。
そんな稀有な経験をする人間が二人も現れるなんて、しかもそれが無二の親友同士なのだから、思わず可笑しくて笑ってしまう。
見ればアリスも、同じように苦笑していた。
思うところは同じなんだろう、安城コトはとんだモンスターだ。
「……にしても、こんな風に私を寝かせておいていいの? 元魔人だよ?」
「それなのですが……考えてもみてください。ミシェルは計画を失敗しました」
「いきなり刺してくるようになるなんて、ちょっとは成長したじゃん」
「……結果、今のミシェルの評価はどうなると思いますか?」
どうって、元魔人の悪者だろう……とミシェルは考えて、すぐに気づいた。
自分って別に、なんの悪いこともしてないな?
「……どころか、数々の予言を的中させて、その多くは人々を救うものだったはずです」
「人の考え読まないでくれる?」
「しかも、本来起こるはずだった大きな戦争すら止めて見せたそうじゃないですか。自分の予言を的中したことにするために」
「…………」
つまり、要するに。
「今のミシェル、やったことだけ見ればひいさまよりとんでもない大英雄ですよ?」
まぁ、はい。
一応、ミシェルの目的を弾劾するものは出てくるだろう。
というかミシェルがそうして欲しい。
自分は間違ったことをしたと思っているし、何より大英雄扱いは死ぬほど恥ずかしい。
「ただ、ひいさまがそれを許してはくれないでしょうね」
「……ふん、あいつのそういうところが嫌いなの」
「ミシェルはひいさまが、大好きなんですね」
「どうしてそうなるの!!」
なんて、二人は互いに数百年振りの言葉を交わす。
数百年の時間が嘘みたいに、それはかつてとなんら変わらない光景だった。
少しだけ、アリスが大人になっているとミシェルは感じたけれど、それくらい。
「……まぁそれに、功績があいつよりすごいのなんて、どうせ今だけの話でしょぉ」
「それは……そうかもしれませんが」
「そうに決まってるじゃん。だってあいつぅ、これからもっとすごいことをするよぉ? いろんな奴が頭を抱えて、そして慄くのぉ」
「……ですね」
ミシェルは未来を予知しなかった。
それでも、自分の予言が絶対に正しいと確信している。
それくらい、安城コトが規格外な存在だからだ。
「……それにしても、これからどうしよっかぁ」
「一緒に暮らしますか? ひいさまに頼めばきっとなんとかしてくれますよ?」
「………………ぐうううう!」
アリスとは一緒にいたいが、コトの手は絶対に借りたくない。
そんな葛藤を抱えながら、けれどもミシェルは未来に意識を向ける。
向けていいのだと、心の底から思うことができたから。
なお、この二人のやりとりをこっそり盗み聞きしていた魔法少女たちが二人の百合に悶えていることを、二人は知らない。
◯
「お姉ー、あんまり無茶しないでよー」
「してないしてない、今回だってちゃんと魔力はミリ残ししたんだぞ? ゼロにならなきゃ魔人になる心配はないからな」
「雑なお姉がミリ残しなんてできるわけないじゃん! 実は枯渇してるんでしょ!」
「いや今回はほんとしてないんだって……想定より結構残ってるな」
「そっちかぁ……」
私は戦闘が終わったあと、ミシェルが拠点としていた山奥のビルの前にある開けた土地でだらっと寝転んでいた。
いやぁ、激戦だったなぁ。
もっと慎重に戦っていればもう少し余裕を持って倒せそうな感じではあったけど、全力で戦うなんてこれが初めてだし仕方ない。
初めてじゃなくても、似たような結果になるとは言ってはいけないぞ。
「それで……本当に終わったんだよね?」
「ん? ああ、それは間違いない。この場所にはもう、誰かを苦しめるような瘴気はないよ」
「……そっか」
私はウイナの問いかけを聞いて起き上がり、逆にウイナは座り込む。
二人して座りながら、周囲に視線を向けた。
アリスとミシェルはこの場にはいない。
魔法少女達は私に話しかけるのがこわいのか、スミカさんの方に集合している。
「……あのさ、これからどうなるんだろ。アタシたちのこととか……魔法少女そのもののこととか……お姉のこととか」
「んー、そうだなぁ」
珍しく、というべきか、ウイナは少し不安そうだ。
それは私が神様みたいだと言った時の雰囲気に近い。
私がどこかへ行ってしまいそうで、心配なのだろう。
「まず私たちは、ちゃんと外部の魔法少女達の組織に加わることになるだろうな。まずそもそも、組織の名前を知らないから聞かないと」
「聞いてなかったの……?」
「それどころじゃなくって……」
いやぁバタバタしてましたからね、スミカさんと出会って以降……
具体的に言うと、アレから一夜明けてないんだぜ……
多分この会話が終わったらウイナは寝る。
「まぁ多分、色々とゴタゴタはするだろうけど……最初にやるのは、魔人を人間に戻すことになるだろうな」
「ああー……」
「ちなみに現存してる魔人は、魔人が元魔法少女だってしってる魔法少女たちで構成された特殊部隊が、被害を出さないように魔人を封じ込めてるらしいぞ」
スミカさんにちらっと聞いた。
あの人も、魔法少女を引退したからなんだろうけど、魔人の秘密を知ってるあたり結構すごいよな。
「何にしても私の最終目標は、魔物と魔法少女の消滅だ。誰の犠牲も出すことなく、この世界から失われる必要のない命が失われることのないようにしたい」
「……大変じゃない? 方法は考えてないんだよね?」
「まぁなぁ。ミシェルから何か聞き出せりゃいいんだけど」
何にしても、これから色々とやることは増えていくだろう。
ミシェルの現代における生活の基盤をどうするかって問題もあるし。
魔法少女組織にまかせておけって話ではあるけど、完全に丸投げともいかないだろう。
何より私自身が、魔法少女組織に色々と謝罪……もとい、説明しなきゃいけないことも多い。
「まぁでも、私としては……ちょっと楽しみでもあるんだ」
「楽しみ? 変なの」
「自分のやりたいことと求められてることが一致してるからな、ウイナもやりたいことを見つければ、きっと分かるさ」
「むぅー、またそうやって子供扱い……ふああ」
「無理するなよ」
いいながら、こてんと私の肩に体を寄せるウイナの頭を撫でる。
空を見上げると、満天の星と遠くにある天眼の魔法陣が飛び込んできた。
綺麗な星空だ、魔法陣も荘厳な雰囲気があるので、こうして眺める分には見ていて楽しい。
未来もきっと、こういう楽しいことが待っているんだろう。
大変なこともあるだろうけれど、私は生きているんだから。
生きているだけでも、きっといいことはあるはずだ。
でも、今は――
「全部、終わったな」
その達成感を噛み締めながら、隣で寝息を立てるウイナと共に、明日へ思いを馳せるのだ。
というわけで、これにて一区切りとなります。
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