強い想いで魔法少女が生まれる世界に現れてしまったモンスターTS転生ロリ 作:暁刀魚
「私の名前は、アリス・フォン・エーレンベルグと申します。ボヘミアの王権を守護せしエーレンベルグの末席に連なるものです」
――ということらしい。
ええと……ボヘミア? どのくらいの時期の国だ?
アリスと名乗ったその少女は、金髪にドレス、いかにも典型的な貴族っぽい見た目。
ただし、お嬢様でありつつ騎士っぽさもある。
少女騎士、って感じ。
まぁあの姿も西洋甲冑だったしなぁ。
「いやいや、無事で何よりだ」
「まずは、魔人と化してしまった私を、再び人の道へ手繰り寄せていただいたこと、感謝します」
「魔人……魔人っていうのか、アレは。魔女とかではなく」
「……?
ああそういう。
ちなみに、どうやって話をしているかといえば、翻訳魔法である。
魔法少女ならほぼ誰でも使えるように開発されたものらしい、私も使えた。
ちなみに、細かいニュアンスは勝手に意訳するらしいので、アリスが現代っぽい用語を使っていてもそれは単純に翻訳魔法の効果である。
「しかし如何にして魔人と化した私に再び人の道を?」
「え? いや、魔人や魔物って黒いモヤみたいなものを放つだろ? それをピンポイントで叩いただけだぞ?」
「モヤ……え? いえ、そんなもの魔人や魔物から感じ取るなんて不可能のはずですが」
「……ええと」
もしかして私……何かやっちゃいました?
「……と、とりあえずだな。魔法少女について、色々と教えてもらえないか?」
「ご存じないのですか? ……ああ、もしかしてなりたての魔法少女なのですね。でしたら、僭越ながら」
いいながら、アリスは騎士っぽい礼をした。
いや多分、正式な騎士の礼だ。
ところでなりたてじゃないです……九年ものの魔法少女です……ちょっとボッチだっただけで……
翻訳魔法とかあるあたり、昔から魔法少女は横のつながりが広かったんだろうな。
国すらまたぐことも当たり前だったんだろう、九年ぼっちを想定できないのは仕方ない。
「まず、魔法少女とは強い思いによって、魔力を覚醒させた少女を指します」
――魔法少女の覚醒は、少年漫画のようなプロセスをたどるらしい。
まず、魔法少女になるものには資格がいる。
魔法少女に対する憧れがあるもの、あるいは人々を守りたいという意志のあるもの。
そんな素質ある少女がその時抱いた思いによって、少女は固有の魔法を使えるようになる。
その時抱いた思いの強さに応じて、魔力の強さが決定する。
この意思の強さというのは、相対的な意思の強さも影響するそうだ。
幼い頃に魔法少女になればなるほど魔力は強くなるという。
いわんや、赤ん坊の頃に魔法少女となった私は、とてつもない魔力を身につけるわけだ。
……ところで、私の抱いた願いって、なんだろうな?
母親を守るために初めて魔法を使ったけれど、あのモヤは変身してから気づいた。
いまいちあの時の状況が今の魔法とつながっているように思えない。
「しかし、魔法少女は十代前後の少女しかなれないのか……」
「……? そうですよ、私が聞いた話ですと、その年頃の少女が最も強く、汚れなく、純粋な願いを抱くのだそうです」
それはなんとも、某契約悪魔の白練りとは正反対の誕生理由だが、本質はずいぶん似通っている。
どっちも、少女に過酷な運命を強いることには変わらない。
「そして、ストレスや負荷がかかると、魔人ってやつになっちまうんだな」
「……そうですね。正確には、その状態で魔力を枯渇させることで魔人へと変貌します」
――例えば、大切な人を守るために疲弊して心をすり減らし、その果てに魔力が尽きた場合。
アリスを見ていると、そんな想像ができてしまう。
いかにも生真面目でノブレス・オブリージュを大事にしそうだからな。
彼女が何を願って魔法少女となり、如何にして魔人へと堕ちたかは……否応なく想像がついてしまう。
まぁ、全く以て的外れな想像かもしれないが、どちらにせよ彼女の深奥に触れるのはマナー違反だろう。
「……それと、魔法少女が魔人へ堕ちる、というのは多くの魔法少女に知られてはいない事実です」
「それそのものが、魔法少女への負担になるからな。わかってるよ、みだりに口にしたりはしない」
「感謝いたします。――
……ひいさま? ええと、お姫様的な言い方だよな?
なんとなくそうじゃないかとは思っていたけど……そのうえであえて目をそらしていたけれど。
やっぱりなんかこう、アリスさん……私のことを勘違いしているな?
ちなみに今私たちがいるのは、私の祖父の家だ。
本来両親やウイナと暮らしている家の隣りにあり、今は祖父一人しかいないため部屋に空きがある。
あと、私の自室はウイナと相部屋なので、私の部屋に連れ込むと宿題真っ最中のウイナと出くわすことになる。
流石にそれは避けたい。
というわけで、今日は祖父の家に遊びに行くと母に告げて、ここにアリスとやってきていた。
「……魔法少女にかんするお話、ありがとう。とりあえずこっちの聞きたいことは概ね把握できた」
「いえ、ひいさまの願いとあらば、この騎士アリス、応えぬわけには参りません」
そっかぁ……
ちなみに、他にも聞きたいことはあるんだけど、現代の魔法少女ではないアリスが知っているとは思えないので聞かない。
今の魔法少女の事情とか。
そして、アリスに礼を言った以上、私は次の話題に移らなければならない。
覚悟を決めて、口火を切った。
「まず、アリス。落ち着いて聞いてほしいんだけど……ここは君の生きてきた時代じゃない」
「……え?」
「おそらく、君が魔人となっている間――数百年が経過している」
その言葉に、アリスはしばらく黙りこくった。
何度か視線を泳がせて、動揺を抑えようとしているように見える。
アリスがどのような対応を取るとしても、私はそこから逃げないと心に決めていた。
しかし、アリスの反応は少し意外なものだった。
「……そう、ですか。そう……なのですね」
「……納得するの?」
「動揺は……あります。ですが、私の時代においても古い魔人というのは、数百の年月を活動しているという話もございました。……私もまた、その一つと成り果てたのであれば、納得はできます」
「そうか……」
私はふと、何気なしに手を伸ばしてしまっていた。
そして、ポン……と、その手をアリスの頭においてしまったのだ。
「え、と……」
「……アリスは、つよいな」
「…………」
「本音だよ、本当に何気なく飛び出した……普通の本音だ」
やってしまった、という思いが少しある。
なんというか、このくらいの年の子が強くあろうとしているのは……微笑ましく思ってしまう。
私だって今はほぼ同年代だし、前世の私がこんなことをしていいような大人だったとは到底思えない。
本当にただの、しがない社畜オタクでしかなかったんだから。
でもアリスは、少しだけ目を細めたあと――その手を受け入れてくれた。
どこか泣きそうになるのをこらえながらも、安堵した様子で、身を任せてくれたのだ。
「……アリス、ここからは真面目な話をしよう」
「真面目な話……ですか」
「まず、私はアリスが思っているような王族でもなければ貴族でもない」
「えっ」
「ごくごく普通の、一般家庭の出身だ」
「で、ですがこの邸宅は明らかに……! 確かに広さはありませんが……!」
いいながら、アリスは庭に広がるそこそこ気合の入った庭園に目を向ける。
祖父が趣味で手入れをしている庭園は、なかなかどうして立派だ。
それを見て、どこか異文化の貴族の邸宅だと思ってしまうのも無理はないかもしれない。
「そ、それにそちらの衣服も……庶民のものとは思えません!」
「これは……そこら辺の店で当たり前に買えるものだよ」
いま来ているのは、ゆったりとしたワンピース。
某しましまのムラムラで母が買ってきたもの。
決して、貴族の正装とかではない。
これが普通のシャツとズボンなら、まだ信じてもらえそうなんだけどな。
「他にも、今のこの国で”戸籍”というものを持たない君の立場は……脆く弱い」
「……」
「君が
私は魔人化を”眠っている”と評した。
魔人だったときの記憶がアリスになく、魔人としての悪事はアリスのせいではないという意図あってのものだ。
そして、真剣な表情で私の言葉をアリスは聞いている。
「そのために、私は今の常識やらなんやらを、君に色々話したいとおもう。君の住む場所と食事も提供する。いいかな?」
「……よいのですか? ひいさまには何ら利益はないように思うのですが」
「いいんだよ。私に利益はなくとも、責任はある」
アリスを人の道に
あと、庶民といっても私へのひいさま呼びは継続なんだ……
「……ひいさま。一つ、お願いがあります」
「お願い?」
「私に社会の枠組みで生きていく手立てがないとおっしゃいました。それに、私一人の衣食住まで面倒を見るとなると、私と同じ年頃のひいさまにはその権限がないように思えます」
「……まあ、そうかもね」
「ですので……こちらで、その費用を用立てていただければ……」
そう言って、アリスは自分が身につけていたあるものを、私に渡そうとしてきた。
ブローチのようだ、色とりどりの宝石が散りばめられている、あきらかな高級品。
「それは……」
私はそれを断ろうとして、少し考えた。
――これ、いい感じにことを収められるかもしれない。
「……なら、そうだね。それ、私が預かってもいいかな?」
「預かる、ですか」
「うん。私が預かって……祖父に保管してもらう」
――祖父は骨董品のコレクターだ。
特に西洋の絵画とかアクセサリに目がない。
だったら、当然この
そして祖父は私のことを溺愛していて、さらにお金にも余裕がある。
「えっと……」
「いいかい、アリス。私たちみたいな子供が、幸福を手に入れるための最も確かな手段。それは――大人の手を借りることだよ」
そう、私自身一度大人になるまで人生を経験したからわかる。
子供というのは、あらゆる面において大人の庇護があって初めて大人になることができるのだ。
私は一度大人になったことのあるものの責務として、大人に目一杯甘えるという義務を果たすことを、思いついたのである。
こうやって上手いことやってると転生者だなって感じがして、個人的に好きです。