強い想いで魔法少女が生まれる世界に現れてしまったモンスターTS転生ロリ   作:暁刀魚

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ご注意ください。


九 どうして私はそうなのか

「やっちゃったなぁ……」

「やっちゃいましたねぇ……」

 

 私とアリスは、空に煌々と浮かぶ魔法陣を見上げている。

 魔法陣は先程一度だけ、空からピカッと降り注いだ光があらぬ方向へと飛んでいった。

 多分、正常に稼働しているのだろう。

 今後一生、私の消えないタトゥーとして。

 

「……これを見れば、流石に外の魔法少女もやってくるだろ」

「……ですね」

 

 私たちが魔物退治を始めた理由、そもそも私が魔力をぶちまけないようにしないといけないと考えた理由。

 外部の魔法少女との連絡という点において、この魔法陣は絶大な効果を発揮するだろう。

 それ以上に、何やってんだこいつと思われそうなだけで。

 

「ひいさま……次からはその、相談をしてくだされば私は助けになりますから。ひいさまに救われたこの命、ひいさまに捧げると決めています」

「ありがとな、アリス。……でも今の時代に命を捧げるっていうのは、ちょっと重いぞ?」

「そ、それは……気をつけます」

「お互い気をつけよう、うん」

 

 アリスにここまで心配させてしまって、少しだけ自分が情けないな。

 真面目にやろう、真面目にやろうとは思ってる。

 でも、ふとした時にこうやって、ダメな私が顔を出す。

 

「……アリスは誤解してるかもしれないけどさ、私って()()()()()()()()()()()()()()

「それは……」

「むしろ、逆。無頓着にならないように、頑張って努力してるんだよ」

 

 ウイナのことを常に気にかけているのも、男子たちの問題を返そうとするのも。

 私がやろうとおもって、そうしているだけなんだ。

 本当の私は――少なくとも前世の私は、そういうことに興味がなかった。

 だから基本ぼっちで、社会生活をギリギリ送れるだけのダメ人間だったんだよ。

 でも、今はそういう自分を抑えようと思ってる。

 なんでかって――

 

「返したいんだ。皆に礼を」

「返したい?」

「だって――私が生きてるのは、皆のおかげだから」

 

 立ち上がって、アリスに手を差し伸べる。

 アリスがその手を掴んで立ち上がり、私たちは祖父の家の縁側へと腰掛けた。

 そして、不思議そうにこちらを見つめるアリスに返す。

 

 

「――私、赤ん坊の頃はずっと死にかけてたんだよ」

 

 

 TTTS、という病気がある。

 双胎間輸血症候群。

 血の流れの不均衡によって、双子の胎児に均等に与えられるはずだった栄養が片方に偏ってしまう病気。

 私はそれによって、生まれる時に危うく死にかけてしまっていたほどの、未熟児だった。

 元気でいられたのは、私が魔法少女になったばかりの頃だけで、それ以降はずっと病気と隣り合わせ。

 両親は共働きだったから、自然と祖父母の家に預けられ――看病されながら育ってきた。

 身体は小学生になる頃には成長がおいつき、今ではこうして元気に過ごすことができているけれど、私はせっかく生まれ変わったのに、危うくもう一回死んでしまうところだったのである。

 

「その時、家族にはすっごい迷惑をかけた。ウイナだって本当は遊びたい盛りだろうに、家族が私にかかりきりだったから、寂しい思いをさせただろうな」

「……」

「だから、返さなきゃって思うんだ。私なりに、私の出来ることを。結果として力不足だから自分のことは蔑ろにしちゃうし、やらかす時はやらかしちゃうんだろうな」

 

 なによりそれは付け焼き刃なんだ。

 前世の経験なんて、ほとんど役に立ってない。

 アリスの手続きをするための方法を調べる際の取っ掛かりに使うくらい。

 勉強も小学生の頃はいいけど、中学以降はどうなることやら。

 ただそれでも、やらかしてしまったとしても。

 

 

「――でも、やめるつもりはないさ。だってこれが、私のしたいことなんだから」

 

 

 ウイナのことも、アリスのことも、周囲のことも。

 それから魔法少女のことだって、私はやめるつもりはない。

 だってやめちゃったら、前世のように何の価値のない自分に戻っちゃったら――私にもう一度生を与えてくれた神様に、人生を与えてくれた家族に、申し訳が立たないんだから。

 

 

 ◯

 

 

 アリスが目覚めた世界は、すべてが変わっていた。

 かつて自身の誇りだった家は既になく、いるのはアリスという居場所のない少女だけ。

 いっそ永遠に魔人でいられたら、どれほど良かっただろう。

 そんなことを考えてしまうほど、アリスは実は弱っていたのだ。

 もとより自分は誇り高き魔法少女でありながら魔人に落ちた身。

 こんなふがいない自分に、どれほど価値があるのだろう、そう自問してしまうこともある。

 だが、そんなことお構いなしに安城コトはアリスに新しい人生を与えた。

 

 安城コトは、子供らしからぬ子供だ。

 大人相手に大人顔負けのやり取りを丁々発止にしてみせる。

 妹君やアリス、周囲の子供達への対応がとても同年代の子供とは思えない。

 しかし同時に隙も多く、何より自分を蔑ろにするその姿は、危うい。

 気がつけばアリスは、そんなコトから目を離せなくなっていた。

 

 ――どうしてか、その姿にかつてアリスとともに戦った相棒、大切な親友のことを思い出してしまう。

 その親友とコトは、ある意味で何から何まで対極にある存在なのに。

 

「ひいさまの願いは理解できました。ですが……このままでは、ひいさまがいつか倒れてしまうかもしれません」

「わかってるさ。だからこうして、パトロールしなくていいように魔法陣を作ったんだろ」

「それは……ですが……いえ、それだけではないのです。ひいさまが誰かに礼を返そうと無茶をするのは、きっと今回に限らないはずです」

 

 だってコトは、アリスがこの時代で生きるために、あちこちへ飛び回ってくれたではないか。

 きっと、これからもそういう生き方を続けていくのだろう。

 自分をないがしろにして、誰かのために奔走するのだ。

 

「それにしたって、爺さんの助けは借りただろ。私は別に、自分だけですべてを何とかしようとは思ってないよ。アリスが無理しすぎだっていったら、こうしてすぐに別の方法を考えただろ」

「……ですが、行動そのものを止めるつもりはないのですよね?」

「ないな」

 

 どうしても、アリスは憂いてしまう。

 かつての自分を見ているようで。

 騎士であり、貴族であるアリスには民を守る責務があった。

 少なくともアリス自身はそう考えて、相棒の言葉も無視して無茶をして――そして、魔人に堕ちたのだ。

 いつかコトも、同じように無理がたたって破滅の道を歩んでしまうのではないか。

 どうしても、そう考えてしまう。

 

「ん-、じゃあさ。一つ言ってみていいか?」

「なんでしょう」

「魔法少女は、魔物と戦う。そうしないと人々が傷ついてしまうから。だからアリスは魔物と戦うんだよな?」

「……はい」

 

 少なくとも、それがアリスの矜持だ。

 人々の営みを守り、尊厳を守る。

 そんな魔法少女の存在を、アリスは素晴らしいものだと思っていた。

 

 

「――でもぶっちゃけ、魔法少女ってクソじゃね?」

 

 

 そんなアリスに、あろうことかコトはとんでもないことを言い出した。

 

「な、い、いきなりどうしたのですかひいさま!?」

「いや、別に乱心したつもりはないぞ? 考えてもみろ、魔法少女って十代前後の女子にしかなれないんだよ。普通そうやって人々を守るのは、大人の仕事だろ?」

「それは……」

 

 ――それは、魔法少女としては思ってもみない考え方だ。

 だってこの世界は、生まれたときから魔法少女が存在している。

 魔物と戦うのだって自然の摂理だし、それを疑問に思うものはいない。

 ……いや、一人だけアリスには心当たりがあるが、それは例外だ。

 コトが、そうであるように。

 

「だから私は、そもそも魔法少女として魔物と戦うより、魔物と魔法少女がこの世界から存在しなくなったほうが健全だと思う」

「……確かに、それは一つの考え方として疑いようもなく、()()()と思います」

 

 考えてもみなかったことではある、しかし確かにそれは正しい。

 そしてそんな考えを抱く人間は、こうも思うとアリスは想像できた。

 

「――だから、そんなクソみたいなことのために、私は命を懸けたくなんてない」

 

 ああ、なるほど。

 ようやくアリスは理解できた。

 コトは確かに無茶をする。

 けれども、それだけではない。

 そこには確かに、線引きがあるのだ。

 コトなりに、無茶をしないための線引きが。

 そしてそうなると、アリスにはもう一つ疑問が浮かぶ。

 

「……ひいさまは、どこに線引きの基準があるのですか?」

()()()()()()

「っ!」

「一度死にかけたからこそ、思うんだよ。もう死にたくないって。そうすると自然と、生きてさえいればやり直せるって、そういう考え方になる。ようするに――」

 

 コトは、アリスに顔を向けた。

 瞳をのぞき込み、そして笑うのだ。

 

 

「生きてるだけで、偉いだろ」

 

 

 ――柔らかな笑みをうかべて、安城コトは”そこ”にいる。

 その笑みを、どうしようもなくアリスは美しいと思うから。

 だからきっと、アリスはもう一度何もかもが変わってしまったこの世界で、生きてみようと思えたのだろう。




今回でプロローグが終了となります。
次回から新展開、お楽しみに。
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