「コープ少佐は耳敏いな。まさか修理改装がまだ終わっていないネルソンのことも知っているとは。」
驚きつつ、そう言うクレッチマー司令の言葉にハッとする。そうだよ、まだ開戦冒頭ではネルソンが軽空母になっていないんだ。そうか、一週間戦争のコロニー迎撃で損傷して軽空母のカーゴ・ベイを取り付けられた、というのがこの世界でのネルソン型なのか。
「あぁ、いえ。そこまででは。たまたま工廠にてそうした改装を受けているサラミスがいる、と聞いたことがあったもので。」
慌てて誤魔化すがしっかり名前まで言っちまったよ。おい。大丈夫か?
「まぁルウムからの帰還艦の損傷修復でルナIIはバタバタだからな。機密もなにもあったものではないし、同じサラミス型なのだから話題にものぼりやすいか。そんなことより、サラミス型巡洋艦で艦載機を運用できるというのは非常に魅力的だろう!巡洋艦戦隊の規模で艦載機が自由に運用出来れば哨戒も戦闘も戦術の幅が大きく広がるからな!私が戦隊司令を勤めている間にこうした艦が登場していればどれ程に楽しかったか!!ネルソンは第8艦隊の所属だが、こんな艦ならぜひ我が第4艦隊にも欲しいからな!!」
あっ、誤魔化すというかクレッチマー司令、艦載機を運用できるって点でテンション上がってて細かいことが気にならない状態だわ。さすが連邦軍一の航空屋と言われるだけの御仁だ。
自分がミカサの艦長ならこんな運用をしたい、と力説してるけど、これもう軽空母に改装するの確定されてるよな?オレ、艦載機運用とかあまり詳しくないのだが。というか、この勢いだとまたミカサを座乗艦にしようとするのでは?ちょっとそれは勘弁して欲しいのですけど。
「あ、あのー。司令?」
「っっと。済まない少佐。つい運用しがいのある艦になりそうで想像すると楽しくてな。ということで、ミカサについてはネルソンに準じた改装を施して、軽空母型の巡洋艦、ということにしたいのだ。いわゆる航空巡洋艦だな。申し訳ないがこれは決定事項として既に工廠には伝えてある。」
「は、はい。そこについては了解しました。改装期間はどの程度になるのでしょう?また、取り付け直す予定だったレールガンはどうなるのでしょう?それと、ミカサを含め第1001巡洋艦戦隊には艦載機運用のノウハウを持った人員がおりません。そこについては要員を補充していただけるのでしょうか?」
恐る恐る声をかけると、やっと落ち着いたらしい司令が再起動した。あんなテンションで話す司令、ミカサ艦長に着任して以来初めて見たぞ。
「改装期間は本日から7日間だ。ネルソンでもコロンブス型の船体構造を流用することで短期間で改装を完了させたらしくてな。同様の手法をミカサでも取ることになっている。またレールガンも両舷のカーゴ・ベイの更に外側に一門ずつ装備する事で対艦打撃力も維持させる。貴官の艦の運用にレールガンは必須のようだからな。」
「まさか、そんなに早く改装が完了できるのですか!?ありがたいですが、運用出来るようになる艦載機はどの機種で何機程でしょうか?」
「艦載機はセイバーフィッシュになる。カーゴ・ベイの前方には伸縮式のカタパルトも搭載予定だから離着艦に問題はない。機数は片舷に4機で計8機だな。」
「8機も。確かにそれは運用の幅が大きく広がりますね。それで、運用要員はどうなるでしょうか?」
机上のモニターでカーゴ・ベイ部分の構造を詳しく映し出しながら説明する司令。心なしかまた饒舌になってきたぞ。
「要員については、ルウムで貴官らが救助した将兵の中にかなりの数、第4艦隊の航空要員が含まれていてな。そこから抽出するよう手配した。沈んだコロンブス改型空母で艦載機を運用していた者達だ。頼りになるはずだぞ。」
「ということは、司令ご自慢の空母打撃群の要員ですね。それは有難い。航空隊長も配置していただけるのでしょうか?」
「あぁ、取っておきの逸材が生き残っていたからな。実はもうここに呼んでいる。ハイネ大尉、来てくれるか。」
そう言いながら司令部要員が集まる一角に声をかけると1人の女性士官がこちらに歩いてきた。
「ハイネ・クリスティーナ大尉であります。ルウムでは撃沈された空母アムルタートに航空副長として乗艦していました。少佐に助けていただいたこの命、第1001巡洋艦戦隊にて活かしたいと考えております。よろしくお願いいたします。」
見事な敬礼と共にハキハキと話す20代半ばだろうヨーロッパ系の彼女を見る。空母アムルタート、というとクレッチマー司令座乗艦の空母ゲッチンゲンと戦隊を組んでいた艦か。司令部直属の空母で航空副長ってかなりのエリートじゃないか。まだ若いはずなのに凄いな。そんな人材がうちに来てくれれば確かに新設の航空隊もいち早く戦力化できるかもしれない。
にしても空母アムルタート、っていかにも沈みそうな名だな。実際に沈んでるし。いやあれはガンダムではなくてとある銀河の英雄達の方か。
「よろしく頼む、大尉。我々は艦載機運用については素人だ。大尉の識見をぜひ、我々にも教えてくれると助かる。」
答礼しつつ答えるが、気になっている事を聞いてみた。
「早速だが大尉。仮に8機のセイバーフィッシュをサラミス型で運用するとして、要員は何名ほどになるだろうか。また可能なら8機のうちの何機かを哨戒・観測機として専任したいのだが、それは可能だろうか?」
「8機の運用、となると整備、管制、パイロットを交替勤務分も含め60名ほどになります。サラミス型の整備要員にも機体整備を手伝っていただけるなら50名でも可能です。また、どの程度の哨戒・観測任務につかせたいかによって、編成も変わってきますね。どのような運用を考えておられますか?」
少し考えつつも即答するハイネ大尉。司令が逸材、というだけあって打てば響くような回答だ。
「ミカサと同型の2隻はいずれもサラミス型の先行試作艦でな。大型レールガンを搭載している。艦載機に観測をしてもらって遠距離での砲戦の精度を上げたいと考えているのだ。無論、ミノフスキー粒子の影響で通信は難しいとは思うが。」
「なるほど、そうなりますと長距離砲撃戦の着弾観測ですね。その程度なら、通常型のセイバーフィッシュに観測ポッドを取り付けて対応できます。レーザー通信で観測結果を母艦に送信すれば粒子の影響も無視できるかと。」
「なるほど。では、それで準備を進めよう。大尉にも早速働いてもらうことになる。この後すぐに戦隊幹部と打ち合わせでも良いだろうか?」
「はい、問題ありません。よろしくお願いいたします。」
こうして、ハイネ大尉を伴ってミカサに帰艦したのだが、副長も工廠から既に航空艤装を追加することになった事を聞いたようで、サクサクと打ち合わせは進んだ。
ヤハギ、ウィンチェスターとの連携も含めて検討はしていくが、航空隊の主任務はやはり哨戒・観測となりそうだ。ザクIIに限らず、MSの機動力と太刀打ちするのは難しいから、戦闘に下手に出すより支援任務に注力してもらった方が効果的だという判断になった。
どんどんカーゴ・ベイが取り付けられて行くミカサを見ながら、訓練計画や戦隊での連携についても詰めていく。改装が始まってからやけにクレッチマー司令がミカサを訪れるようになった事を警戒しつつ、(まさか本当にミカサを艦隊旗艦にしないでしょうね。司令!?)
あっという間にレビル将軍の『ジオンに兵なし』演説や、2月7日のジオンによる地球降下作戦も始まった。ジオンの奴ら、まさか月面のマスドライバーで地球を狙うとは、ホントに狂ってやがるな。
ともかく、戦局が急激に進展しつつある2月10日、ミカサは航空艤装を身に付け、修理ポートから宇宙へと再び漕ぎ出した。既に修理を終えていたヤハギ、ウィンチェスターと、ちゃっかり編成替えで配置されることになったピッツバーグを含む4隻で第4艦隊第1001巡洋艦戦隊として再スタートだ。(ちなみにピッツバーグ艦長のオットー大尉は至極当然、という顔をしていた。だから何でやねん。)
これから半月ほどは航空隊の運用や戦隊での連携訓練を行い、再戦力化を進めていくことになる(予定だ。)
「航空長、早速だが艦載機の発進、着艦訓練を行う。第8訓練宙域に進入次第、全ての艦載機の発進を始めてくれ。」
座り慣れたミカサの艦長席で、こちらは新設された航空隊長席に座るハイネ大尉に告げる。
今回は艦載機部隊の発進の様子を良く見るため、副長もCICから艦橋へ上がってきているので、以前より艦橋が狭く感じるのはご愛敬だ。
「はい、艦長。発進開始は1235からの予定。航空隊、発進準備かかれ。」
「中佐、司令席に座らなくて良いのですか?」
航空隊へ指示を出すハイネ大尉を見つつ、艦長席横に浮かぶ副長がオレに話しかけてくる。
「正式に司令になったからって、オレはミカサの艦長であることに変わりはない。良く慣れたこの席の方が便利なんだよ。それとも、この席に座りたいのか、オットー少佐殿?」
横に浮いている副長を睨みつつ答える。そう、オレはルウムでの功績(敵の撃沈もさることながら、味方将兵の救助を評価された。そこは嬉しい。)4隻のサラミス型を束ねる戦隊司令を兼務して中佐に昇進した。副長のオットー大尉も少佐になり、オレが司令としての仕事に手を取られる間は副長が艦長代行を取ることになっている。
(にしても同じ戦隊にオットー大尉とオットー少佐がいるの紛らわしいよな。ホントに何でピッツバーグはしれっとうちに編成替えされてるんだよ。しかもこの2人、遠縁の親戚だったって、宇宙世紀にそんな偶然あるのか?)
「私はCICの副長席の方が慣れておりますのでご心配なく。まぁ艦長はその席の方がいきいきと指揮されていますし、乗組員一同、そのままの艦長でいて下さった方が安心いたします。」
こちらの考えなど知らぬ様子で副長が答える。
たわいのないやり取りだが、ルウムを生き残れたからこそ叩ける軽口だな。
そうこうしているうちにミカサを先頭とする単縦陣の4隻はルナIIの天頂方面に設定された第8訓練宙域に進入、艦載機の発進訓練や観測機との連携訓練を始めるのだった。ミカサはカーゴ・ベイの上下にも対空砲を追加設置したし、新しい位置に付け替えたレールガンも砲撃訓練をしなくてはならない。時間は短いが訓練を疎かには出来ないのだ。
(新しいミカサの力を活かして、なんとしてもこの戦争を生き延びてやる。)
左舷遥か遠方に見える地球と、戦隊周辺を飛び回る艦載機のスラスター光を見ながら、オレはそう考えるのだった。
第14話でした。もともと第13話と1話で考えていたのですが長くなったので分割、そのため早くに投稿できました。
大好きなネルソン型軽空母スタイルのミカサ、出港です。
にしても分割前が5000文字だったはずなのに、13・14話あわせて9000文字越えになっている不思議。
もりもり肉付けしすぎました。何故だ。