旧型サラミスで生きる1年戦争   作:カズkaz

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前話にて、ジオンの降下部隊への攻撃、という戦闘を終えルナIIへ帰還を果たした第1001巡洋艦戦隊。
輸送艦11隻撃沈4隻撃破、ムサイ級2隻チベ級1隻に損傷を与えつつ、自部隊にはほとんど被害を出さないという完勝を成し遂げます。
しかし、あるお方にはその戦闘のなかで気になる部分があるようで・・・
では、16話どうぞ。


16話 クレッチマー司令の航空教室

地球の低軌道帯での戦闘を終え、ルナIIへ帰還を果たしたオレたち第1001巡洋艦戦隊は第4艦隊に割り振られた57ポートへと入港した。

 

ここは本来、マゼラン型のような主力艦を停泊させるためのポートなのだが、ミカサがカーゴ・ベイを増設し艦幅が増したことを受けて、クレッチマー司令から直々に第1001巡洋艦戦隊はここのポートを使うように、と指示があったため、訓練期間中から我々はここに停泊をさせて貰っている。なかなかの贅沢なのだが、とはいえ、艦幅を気にせず入港できることは今のミカサにとっては大変ありがたいので、辞退することなくその特権を活用させて貰っている訳だ。

 

『・・・ポートコントロールよりミカサ。貴艦の無事の帰港を祝福する。大活躍だったようじゃないか。ジオンの奴らを溺れさせたんだってな。スカッとしたぜ!幸運を!』

 

「こちら、ミカサ。感謝する。次も同じように勝てるよう祈っていてくれ。」

 

「艦長、ポートの自動入港システムを終了しました。ミカサ、着舷作業完了です。」

 

「了解した。達する、司令艦長より戦隊各員へ。諸君、4日間の作戦任務ご苦労だった。欠落艦なく無事に帰還できたことは諸君の奮励努力のお陰だ。ありがとう」

 

ポート管理部との通信、航海長からの報告を聞きながら、戦隊全艦に訓示を伝える。生きて帰ってこれた。怪我人も出たとはいえ、戦死者無しに帰ってこれたのは本当に幸運だった。もしジオン降下部隊の護衛艦が積極的に交戦しに来れば、あるいはβ群のザクがこちらに襲撃しに来ていたら、被害はもっと大きかったかもしれない。

 

「艦長、第4艦隊司令部より艦長へ出頭要請が来ています。戦闘の詳細を報告してほしい、とのことです。クレッチマー司令直々の署名入りですよ。」

 

「うわ、マジか。絶対に艦載機運用について聴きたいからじゃないか。航空長、付いてきてくれるか?」

 

「申し訳ありません、艦長。損失したセイバーフィッシュの補充機の手続きを急がねばなりませんので同行は難しいかと。(あと、クレッチマー司令と航空機運用の話になると長いので、嫌ですし・・・)」

 

「え、今なにか小声で怖いこと言わなかった!?」

 

「いえ、なにも申し上げておりませんよ。では、失礼します!!」

 

脱兎のごとく、艦橋を飛び出すハイネ大尉。あれ絶対に逃げたよな?マジか、航空畑のハイネ大尉でも嫌がるくらいかよ、クレッチマー司令の航空談義。

 

艦橋にいる、航海長や砲術長も笑っていやがる。仕方ない、一人で向かうか。

 

「副長、艦の補給物資の手配、怪我人の移送、頼めるかね?」

 

「はい、お任せください。それと艦長、戦隊の艦長全員で検討会議をしませんと。現在が3月10日の0600時ですので、各艦長へ0900時から実施するようお伝えしてもよろしいですか?」

 

「うん?そんなに急がなくても・・・・?あっ、いや!?そうだな、それで頼む!」

 

副長が仕方ないなぁ、という顔で確認してきたが最初は何の事か分からなかった。戦隊の艦長会議なら、司令兼任のオレが遅れるわけにはいかない。ナイスだ副長!これでクレッチマー司令に捕まっても逃げる口実が出来た!

 

「ありがとう、副長!では行ってくる。艦をよろしく頼む。」

 

機密扉からポートの司令部へ続く扉へ向かって無重力を泳ぐ。艦を振り向けば既にポートの作業員が艦に取り付いて整備を始めてくれていた。更にミカサの奥にヤハギが停泊し、艦尾側にはウィンチェスターも見える。

ポートの対岸側にはマゼラン型が2隻停泊しているが、1隻は修理中のようだ。その奥側のマゼランはなんだか見慣れない、いや見慣れた構造物が付いている気がするが、見なかったことにしよう。うん、そうしよう。

 

第4艦隊の司令部は第57ポートを含め、割り振りされたポート全体を管理しやすいよう、ルナII全体から見れば表層に近いところにある区画を借りきって設けられている。開戦前ならもっとルナII深層の防御の硬い区画にあったのだが、クレッチマー司令の希望でルウム戦役から帰還後にここへ移された。

お陰でポートから報告に来るにはエレベーターを2回乗り継ぐだけで良く、便利なのだがこれ絶対に司令が気軽に出撃できるように、だよなぁ。

 

「第1001巡洋艦戦隊、先任艦長、コープ中佐参りました。」

 

「ID確認、無事のご帰還おめでとうございます、中佐。」

 

守衛の中尉(既に顔馴染みになっている)がIDを確認しながら笑顔で声をかけてくれる。小声で礼を伝えつつ、司令部の中に入ると朝早い時間帯でも既に旗下の部隊への指示や物資の手配などで忙しいのだろう、事務方の将官が忙しそうに動き回っている。それを横目にオレは司令官室へ向かう。クレッチマー司令の直々の署名入り、という事は最初に司令本人に帰還を報告しなくてはならない。

 

「失礼します。クレッチマー司令、第1001巡洋艦戦隊コープ中佐、ただいま帰還いたしました。」

 

「良く来た、中佐。座って少し待ってくれ急ぎの決裁を終わらせねばならん。」

 

事務作業中なのか、タブレットになにか打ち込みながら資料を見ていた司令に声をかけると、司令は視線をあげないままで短く返答をするとそのままタブレットを見つめ続ける。

言われた通り、司令官室の応接スペースに腰かけて待っていると、10分ほどで司令が大きく伸びをしてからこちらへ向かってくる。

 

「すまんな、中佐。待たせてしまった。ルウムでの損傷艦が復帰し始めたのは有り難いのだが、何せ人員も物資も不足気味、艦も戦訓を受けて改装するのが多くてな。事務仕事がいっこうに終わらんのだ。早いところ、旗艦の調子を確かめたいというのに。」

 

「優先して修理していただいた我々としては、頭が上がりません。誠にありがとうございます。」

 

「構わんよ。貴官らはそれだけの戦果を上げ、旧式艦だ、何だと言われていた乗艦の価値を示したのだ。私がしてやれるのはその手伝いをすることだけだからな。それに第4艦隊にしても所属艦が活躍してくれれば補給の優先度が上がる。Win-Winだ。」

 

本当なら、事務官も増やしてほしいのだが、とぼやく司令に思わず笑ってしまう。本当にこの方は。それにしても旗艦?新しい旗艦が任務に出ている間に決まったのか?

そういえば、さっきポートで見かけたあの艦・・・。

いや、触らぬ神に祟りなしだな。聞かなかったことにしよう。

 

「それと、今回の哨戒任務における報告書です。帰還途中に纏めておきましたので、既に概要はお伝えしていますが、我々、第1001巡洋艦戦隊は地球降下軌道にてジオンの2部隊と遭遇。レールガンによる長距離射撃で輸送艦11隻を撃沈、4隻大破。護衛のチベ級1隻、ムサイ級2隻にも損傷を与えました。チベについてはかなりの被害を与えましたのでしばらくは戦闘に耐え得ないかと。」

 

一息にそこまで報告してから、持参したデータチップを応接机の上に置きながら続きを話す。

 

「こちらの被害は艦載機1機の損失と、弾片被害による負傷者若干名となっています。詳細はこの報告書をご覧ください。補給と修繕については明後日、1130時を目処に完了する予定です。なお、セイバーフィッシュの補充については現時点では未定です。」

 

「うむ、確かに報告書は受けとった。既に概要報告についても目を通している。大戦果だな、中佐」

 

「ありがとうございます。」

 

データチップの報告書を提出するとにこやかに受けとる司令。だが、心なしかその笑顔が怖いのは何故だろう。

 

「だがな、中佐。いささか艦載機運用については反省点が多いのではないかね?特に貴重なセイバーフィッシュを1機放棄した、というのはいただけんな。」

 

来た!やっぱり来たよ。艦載機の運用について何かあるんじゃないかとは思ったが。こんな予想が当たっても嬉しくないぜ。

 

「と、おっしゃいますと?小官としては人員の欠員なく帰還できたことでホッとしているのですが。」

 

脳内では嫌な予感が的中して泣きそうだが、表面上そんな様子を見せる訳にはいかずにオレは惚けてみる。

 

「何を言う、中佐。その1機の損失が敵による攻撃ならばともかく、航続距離の不足によるものであるなら、それは運用方法が不味かった、ということだぞ!報告書によれば戦闘開始前の段階で・・・・・!!」

 

あー、いかん。クレッチマー司令のスイッチが完全に入ってしまった。今提出したばかりのデータチップにあるログを参照しながら、ミカサの艦載機運用の振り返りを始めてしまったじゃないか。こうなるともう逃げられない。訓練期間にも何度となく出くわした航空屋モードだ。

この司令、いい人だし現場の意見を重視してくれる有り難い上司なのだが、こと航空機が関わると人が変わってしまう。元々パイロット志望だったという噂も聴いたことがあるが、だからなのか航空機やその運用については本当にうるさ・・・、いや厳しいのだ。

 

「まずだ、中佐。哨戒行動に入ってからの運用についてだが、前方に哨戒機を常駐させることは良い。もっとも不意遭遇戦が起こりうるのは正対する敵だろうからな。だが後方や左右を全く艦載機で確認しないのは不味い。例えば戦域のはるか前方で初期加速を行い、そこから慣性航行してきた敵の部隊があればどうする?MSならアンバック機動、敵艦ならガス噴射で軌道変更をすれば熱探知等にも捕まらん。いわゆるサイレント・ランだ。慣性航行とはいえ、初期加速でかなり速度を上げることだって出来る。それにどう対応する?」

 

「それは、・・・・。今回の作戦では可能性が低いため考慮しておりませんでした。」

 

「だろうな。確かに地球の低軌道に向けて高速で慣性航行などしたくはない。だが戦争は化かし合い騙し合いだ。こちらが対策をしていなければいつか敵がそこを突いてくる。今回のルウムでのMSのようにな。」

 

オレの返答に尤もだ、と頷きつつもそう話す司令。確かにそうだ。そして対策を怠った代償は命で払わなければならなくなる。

 

「そこでだ、今回のようなケースだと連邦標準戦術集の航空運用におけるSe58のパターンを使えばだな・・・!!」

 

あ、良いこと仰ってたと思ったらまた急に航空屋モードだ。苦笑しつつも司令の話す内容はどこまでも実践的だ。ハイネ大尉にばかり艦載機運用を一任するわけにはいかないのだから少しでもオレも身に付けなくては。

 

「あの、司令。ご教示いただけるのは大変ありがたいのですが、艦長会議がありまして。0830時までにはミカサへ戻りたいのですが。」

 

とはいえ、エンドレスで聴くのは無理だから予防線だけ張らせて貰おう。

 

「むっ、そうか。残念だな。新艦種での航空機運用の貴重なデータだ。軽く半日程かけて検討をしたかったのだが。ならあと2時間ほどしかない。要点を抑えてしていくか。」

 

軽くで半日!??ありがとう副長、半日が2時間にまで縮まったよ。君は救世主だ!

だが、今日のオレには救世主がもう一人いたらしい。

 

「何朝から寝言を言ってるんですか。任務から帰還したばかりの部下を巻き込んで検討会って。半日どころか2時間でも許しませんよ。許容できるのは1時間までです。」

 

司令官室の扉から入ってきたのは救世主こと参謀長のフレッチャー大佐だ。重傷でしばらくはルナIIの軍病院に入院加療していたのだが、3月に入って職務に復帰されている。今も左手はギプスで固定されたままだが、眼光は鋭い。

 

「コープ中佐も司令の航空談義に巻き込まれるより、艦長会議までに少しでも休む必要があるはずです。検討は我々でも出来ますし、今すぐでなくても大丈夫なのですから、彼を休ませてあげなくては。」

 

「むっ。たしかにそうか。すまんな中佐、出来るだけ手短にすませることにしよう。」

 

「いえ、ありがとうございます。司令、参謀長。」

 

お礼を伝えると参謀長は軽く微笑みながら、手にしていた書類を机上の未決のカゴにいれる。

 

「中佐はまずはしっかりと休みたまえ。司令、こちら急ぎの書類ですので決裁お願いしますね。では、失礼。」

 

きっちりと釘刺しながら退室されていく。第4艦隊に所属するものには有名な話だが、クレッチマー司令の暴走を止められるのは参謀長のみ、というのはやはり本当らしい。見事な忠告だ。

 

結局、オレが司令から解放、もとい軽い検討会が終わったのはそれから58分後の事だった。1時間を越えようとした瞬間に再び司令室に入ってきた参謀長がクレッチマー司令の耳元で何か一言言うと、即終了となったのだ。

 

オレは1時間という短時間で詰め込まれるように話された司令の航空運用に関する話を反芻しつつ、ミカサへ戻ることにした。

 

 

 




はい、ということで第16話でした。クレッチマー司令の航空好きの一面が少し描けたかな、と思います。
ちなみに、本当は戦闘時の艦載機運用について一つ一つクレッチマー司令に語らせようと書きかけたのですが、自分でも読むのがしんどくなったので割愛しました。(文字数も前話を越えそうだったので)
クレッチマー司令の話した内容については、今後、艦載機運用を描くなかで少しずつ、出せていけたら、と考えています。

この場をお借りして、誤字の修正やコメントをくださっている皆様、お気に入り登録してくださっている皆様、誠にありがとうございます。これからもゆっくりとしたベースではありますが、更新を続けていけたら、と考えていますのでよろしくお願いいたします。

また、別作品になりますが、銀英伝の2次小説「銀河の歴史がまた1ページ?描かれたくない男の歴史」もアップをしています。銀英伝も昔から好きな小説なので、旧型サラミスと同様、更新を続けていけたら、と思います。良ければご一読いただけると幸いです。
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