第4艦隊司令部からの帰り、ミカサの停泊する第57ポートへ戻ってくるとちょうど帰還時に見た対岸のマゼラン型が出港するところだった。誰もいないポート管理部横の休憩スペースにある張り出し窓からその艦を調べてみると、第4艦隊第32戦艦戦隊の旗艦マレーヤだった。
ミカサと同じくルウム戦役を生き残り、単艦でルナIIまで帰り着いたマレーヤは前部主砲を始め艦首部に大きな被害を受けていたものの、艦の主要部が無事だったためにミカサとほぼ同時に再就役し第4艦隊の少ない残存戦艦として他艦隊の残存艦と共にルナII防衛の中核に充てられているはずだ。
「問題は、そのマレーヤの奥に停泊してたマゼラン型なんだが・・・・。
マレーヤがいなくなって改めて見てみると、どう見てもミカサと同じような舷側カーゴ・ベイが装備されてるよなぁ。(さっきの見間違いじゃなかったのかぁ。)
しかもカーゴ・ベイの下面に付いてるの、レールガンじゃないか?どういうことだ?オレたちの出港前はあんな艦見なかったよな?」
「さすがミカサのコープ艦長。すぐに航空戦艦ヴィクトリーの装備にお気付きになられましたね。」
「うぇっ!?」
独り言のつもりが返事があったとこに驚いて振り向くと、いつの間にか休憩スペースにはオレ以外にもう一人人がいた。痩せ気味の長身、眼鏡をかけきっちりと中佐の技術士官の制服を着こなし敬礼しているのは・・・
「確か・・・、ハインライン中佐、だったか?ヴィクトリーというのがあの艦の名前なのか?」
慌てて答礼しながら尋ねると、ハインライン中佐は笑顔で教えてくれた。
「そうです。クレッチマー司令の肝煎りで改装されることになった、第4艦隊の新旗艦ヴィクトリーです。元々はここルナIIで建艦中だった通常の指揮艦用マゼランだったのですが、ルウム戦役を受けて損傷艦受け入れのために一時的に建艦を中止していましてね。そこにクレッチマー司令がミカサのような航空機運用の出来る戦艦にしたい、とのご要望を受けまして。同様に改装することになったマゼラン8隻とあわせて、トラファルガー型航空戦艦、もしくは指揮艦タイプのみはヴィクトリー型と呼ぶ予定になっている艦ですよ。ちなみに一昨日にロールアウトしたばかりです。」
「はぁ、トラファルガー型、ですか。」
うーん、なんだかこれも聞いたことのあるような艦種だ。航空戦艦、ってことはあれか?
旧日本海軍の伊勢級みたいな艦ってことだよな?これももしかしなくても登場時期、かなり早まってないか?
「ミカサのような、ということはあの艦もセイバーフィッシュを搭載するので?カーゴ・ベイの大きさからして倍以上、20機くらいは載せられそうですね。」
「さすが、ネルソン型を指揮されている艦長は一味違いますね。とても鋭い。カーゴ・ベイの容積はたしかにネルソン型のおよそ2.5倍あります。ですが残念ながらヴィクトリーは通常のマゼランと同じく副艦橋を搭載していたため、カーゴ・ベイの中にはその艦橋設備がそのまま埋もれているのですよ。なので搭載出来るのは16機にしかならないのです。」
「ああ、なるほど。」
あー、確かにサラミス、マゼランどちらも主艦橋と副艦橋は指揮系統ネットワークのハブとして様々な回線や生存系などの設備が集められている。簡単には取り外せないはずだからなぁ。実際にミカサの準同型艦のはずのネルソン型は搭載機が6機だったと聞くし。その点、副艦橋の無かったミカサは搭載機を増やせた、と聞いていたし。
「というか、中佐。先程、第4艦隊の新旗艦と仰いましたか?では、クレッチマー司令の座乗艦ということなので?」
「もちろんです。言い出しっぺが乗らずにどうする!と断言されてますよ。ウキウキされながらですが。そのため、損傷艦であるトラファルガーだけでなく、新造艦の旗艦型マゼランだったヴィクトリーにも急遽、同じようなカーゴ・ベイを取り付けることになったのです。おまけに、ミカサと同じようなレールガンも取り付けてほしいと仰られて。」
うわぁ、その時のクレッチマー司令の様子がありありと思い浮かぶ。だが、レールガン?製造されていないはずなのにどうやって搭載したんだ?要塞砲に転用されたのをまた外したのか?
「中佐、レールガンはどうしたのです?ミカサの修復時に追加搭載を希望した時は現物がない、と断られたのですが。」
「ああ、その事ですか。実は戦訓検討で第1001巡洋艦戦隊の戦果が改めて注目されましてね。」
「我々の?」
「そうです。長距離からのレールガンによる敵艦への狙撃と、近距離でのメガ粒子砲による対MSショットガン砲撃です。中佐が提出された報告には長期戦となった時にショットガン砲撃は砲身寿命と砲撃精度に難がある、とのことでしたが砲身内部のコーティングを改良することと、射程を切り詰め収束率を下げることで対応できそうなのですよ。」
ゴソゴソとタブレットを操作すると休憩スペースの壁面表示が急に艦の三面図に切り替わった。えっ、これハッキングしてない?大丈夫?
心配するオレを他所にハインライン中佐の説明は続いている。
「コーティング処理をした砲身は徐々に製造が始まっており、トラファルガー型にも順次搭載されています。ただ、新砲身は射程距離で現行砲身にやや劣ることも判明したのです。」
中佐の説明にあわせて三面図のレールガン部分が拡大される。おい、ほんとにミカサのものと同じレールガンじゃねぇか。
「そこで注目されたのが中佐指揮のミカサです。2門という少ない搭載数でも、数隻でレーザー通信を絶やさぬようにしながら打ち込んでいけば十分実践に耐えうる、と分かったので一度は閉じられていたレールガンの製造ラインを再稼働させることになったのです。まぁ、ネルソン型は母体となった通常生産型サラミスのジェネレーター出力的に一門しか運用できない、もいうことで引き続き搭載の予定はありませんが。マゼラン型なら2門から4門は搭載することが出来る、と判断されたので試験的にヴィクトリーにも2門載せることになったのです。ちなみに製造はまだ開始されていないのであれはルナII表層からひっぺがしてきたものですけどね。」
「呆れた。わざわざ要塞砲にしていたものをまた艦載に転用したと?大変な手間をかけたものですね。まぁ、即戦力にはなるのでしょうが。」
かなり驚きながらオレが応えると、さすがのハインライン中佐も苦笑いをしている。
「まぁ、我々技術部も再生産されるのをお待ちになっては、と伝えたのですがね。少しでも早く運用データを取りたい!と力説されてしまいました。基地司令もその熱意に負けたようです。」
一通り、ヴィクトリーの説明をし終えると壁面モニターは通常の待機画面(最近はコロニー落着前の地球の映像が多い)に戻る。ハインライン中佐はヴィクトリーに用事があるのか『ではまた、』と短く言うと対岸への連絡通路へ向かっていった。
「そうかぁ。クレッチマー司令が推進してるためにネルソン型にしてもトラファルガー型にしても半年以上も(いや、一年近くも、か?)登場が早まったのか。もしかして、原作だとクレッチマー司令はゲッチンゲンと一緒に沈んでおられたとか?それがオレたちが救助したことで歴史の展開が変わったのかもしれないな。いや、でもネルソンやトラファルガーが損傷したことはどう説明するんだ?分からんなぁ。バタフライ効果ってやつか?何が何に影響して変化したのかさっぱりだ。」
ミカサへの連絡筒へ向かいながら一人ボソボソと洩らしながら進むオレ。だからだろう。後ろから来る人に気付いていなかった。
「ゲッチンゲンと共に司令が沈んでおられたら、って不吉なこと仰ってますね。まぁ、クレッチマー司令からすれば空母と沈むなら本望でしょうけども。」
「うぉあ!?誰かと思えばハイネ中尉!?いつからそこに?」
「そこまで驚かれなくても?いえ。ミカサに向かう艦長のお姿が見えたので、つい今しがた急いで追い付いてきたところですが。」
軽く敬礼しつつ応える中尉。驚いたな。一人言聞かれていたか。あんまり不味いこと言ってないよな?オレ。
「あぁ、そうだったのか。いや何、ミカサにしても司令の新旗艦にしても、航空機搭載の艦が急速に増えているのは何故か、と思ってな。」
「あぁ、帰港時に見えていたあのマゼラン型ですか?クレッチマー司令の旗艦なのですね。どうも、私の同期が航空要員として乗艦することになるらしく、先ほどまでその話をしていたのです。なんでも、レールガンも搭載していて、ミカサのような観測射撃を行うことを想定しているとか。ミノフスキー粒子のためにレーダーが役に立たなくなったので航空機の活用に方針転換したのでしょうか?」
「なんだ、そうなのか?ならあの艦のことはおいおい情報が入ってくるかもしれんな。よろしく頼むぞ、航空長!」
オレがそう言うと何故かハイネ中尉はげんなりした顔になる。どうした?
「その同期から全く同じことを先程言われました。ミカサの運用ノウハウを教えてくれ、と。」
「あぁ、なるほど。あちらからすればオレたちこそ先行事例になるか。味方が生き残るためだ。詳しく伝えてやるといい。」
「あんまりしつこく聞かれるので疲れるんですよ?ですが了解しました。」
そうやり取りしながらもミカサに帰ってきたオレたち。次の出撃まではしばらく間が空くといいのだけどなぁ。
そう考えつつも、恐らくそうはならないであろうことも、何となく分かってはいるのだった。
17話でした。ネルソン型やトラファルガー型の早期登場はクレッチマー司令のため。そしてどうやら正史ではクレッチマー司令はルウムでMIAだったっぽい。というお話です。ネルソン型が出るならば、当然?トラファルガー型も出さなきゃですよね。