公式の設定などとは異なる部分が多くありますのでお許しください。もし、看過できないという場合にはそっと読むのをやめるに留めていただけると幸いです。
クレッチマー司令からV作戦の機体を受領することを告げられてから早いもので3週間が経とうとしている。我々、第41任務部隊は試験に間に合わせるためか最優先で補修整備と補給が為され、3日前にはサンフランシスコに変わるネルソン型として新たにサンジャシントが配属された。艦長はなんとサイド6リーアから帰還してきたばかりのカワベ少佐だ。乗組員達もサンフランシスコからの生還兵が大半を占める。
まさかこれほど早くまた共に戦えることになるとは思っていなかったが、裏を返せばそれだけ連邦軍全体がV作戦に掛ける期待が大きい、ということでもあるのだろう。
自ずと俺たちの双肩に掛かる重みも増すわけで。
数日前から胃痛を訴える任務部隊幹部が出始めたのは気のせいではないだろう。
一方のオレはというと、そうしたストレスは感じておらず、むしろガンダムの母艦を指揮できる、ということにテンションが上がっていた。
ガンダムプロトタイプを指揮できるのだからワクワクしてしまうのは仕方ないだろう。
ただ、オレが無意識に「ガンダム」と呟いていたのを聞いた幹部からは「ガンダムとはなんですか?」と言われてしまった。そういえば、RX-78(そしてRX-79)という型式番号でしか呼ばれておらずガンダムという名前は聞いたことがなかった。
聞かれたその場では誤魔化したのだが、慌てて司令から受け取っていたデータチップを再度読み込んでいく。するとU.C0078年の概念設計の時点でコードネームとして「ガンダム」という名前が与えられていたことが分かった。その事を改めて伝えながら「ガンダム」という名前を使っていくと、機体そのものが届く前に任務部隊に名称が広がって行く事になった。防諜対策としてはよろしくないのかもしれないがルナIIの中であれば問題はないだろう。
「いよいよ、今日か。」
U.C0079 8月2日。朝からそわそわとしながら艦橋に詰めていたオレは何度目かの呟きを漏らす。そう、今日いよいよV作戦の成果たる連邦製MSが第41任務部隊に届くのだ。
既にミカサのカーゴ・ベイには小改装と共にV作戦の機体整備用の機器やメカニックが配属された。艦載戦闘機はサンジャシント艦載機に配属替えされ、4機のMSを受け入れるためのガランとした空間が広がっている。
「また仰ってますよ、司令。ソワソワしすぎです。」
「航空長か。君だって新たな部下に指揮下になる新兵器、気にならないのか?」
ハイネ少佐(MS受け入れに伴う艦載機部隊の再編で、ハイネ大尉は少佐に昇進した。しかもV作戦の関係者が副官として付くことになっている。技術少尉らしいその技術士官の彼も今日、機体と一緒に配属される予定だ。)
「気にならないと言えば嘘になりますが、既に概要は受け取っていますし、任務部隊全体の艦載機の調整やら受け入れ準備やらでバタバタでそれどころではありませんでしたよ。」
「まぁ、確かにカーゴ・ベイに小改装を加えるのもかなり急だったものなぁ。とはいえ、もうすぐルナII工廠から届くハズだ。準備は万端かね?」
「準備万端整えております。司令、それもお尋ねになるの2回目ですよ。」
「あっと、すまん。」
「お待ちかねのようだな。コープ大佐。たった今、届いたぞ。」
そう話していたところに後ろから声が聞こえ振り返るとやはりクレッチマー司令だった。
「司令、やはりいらっしゃいましたね!届いたということは機体とご一緒にいらしたので?」
「そうだ。たまたまだがな。さすがというか、大きいぞ。」
そう言いながら左舷側の窓を指し示す司令。つられて窓際まで移動するとかなり大きな梱包物がベイ奥の搬入口から引き出されるところだった。
完全にシートで覆われているが、横たわった人の形なのは分かる。1、2、3、いま4機目が出てきた。少しずつ輪郭も違うようだ。
「大したものですね。3ヶ月ほど前には影も形もなかったのに。もう試作機の実験にまでこぎ着けるとは。」
しみじみ呟くオレ。原作を読んだときにも思ったが4月にV作戦を開始して、9月には完成機があるんだから配備まで5ヶ月。試作機に至っては3ヶ月ほどで作られているのだから異常とも言えるスピードだ。
「ジオンの鹵獲機体をリバースエンジニアリングしたことに加え、今はノアにいる開発主任が戦前から概念設計は行っていたらしいからな。連邦としても注力した結果でもある。とはいえ、いまからの試験でどうなるか、だが。」
「RX-79に関しては3タイプも作られていますしね。一本化しなければ量産効率も落ちてしまいそうです。」
「上層部もそこは気にしているようだ。先だって試験が開始されたジャブローでも各機体の比較はかなり意識しているらしい。大佐、貴官の率直な評価も待っているぞ?」
「それは・・・、責任重大ですな。了解であります。」
ミカサのカーゴ・ベイにゆっくりと運び込まれる機体を見ながら、オレはそう返事をするのだった。
「ただいま、試験機と共に着任いたしました。技術少尉相当官のフランクリン・ビダンであります。乗艦許可を願います。」
やや崩れた敬礼とともにそう申告してきたのは30前後のやや小柄な人物だった。神経質そうな見た目もさることながら、その姓に聞き覚えがある。
「ミカサ艦長兼、任務部隊司令を務めるコープ大佐だ。ビダン少尉?で良いのかな。相当官ということはもしや民間からの出向かね?」
ビダン、ビダンねぇ。何だか聞いたことあるぞ?一年戦争の後の作品の登場人物にそんな名前の奴いなかったか?
オレ、初代しかちゃんと知らないからなぁ。
そんな考えはおくびにも出さず、目の前の人物と会話を続ける。「相当官」が付くということはメーカーからの出向人物である可能性が高い。
「はい、アナハイム・エレクトロニクス社からRXシリーズ開発に伴い、連邦軍へ出向しています。開発計画では主任のテム・レイ少佐相当官の補佐をしております。今回は宇宙空間での試験にご協力お願いします。」
敬礼を早々に下ろすと(厳密に言うと上官が下ろしてからでないと不敬にあたるのだが、オレより先に下ろしていた。多分、知らないな、こいつ。)そう話し始めるビダン少尉。
結構気難しそうな話し方をしている。不機嫌そうなオーラも出ている。だが、テム・レイ少佐がたしか40代半ばのハズだからこの歳で補佐をしているなら(しかも宇宙空間での試験監視を任されるなら)相当に優秀なのか。
ビダン、うーん思い出せないなぁ。たしかに聞いたことあるハズなんだが。
「我々はMSと戦ったことはあるが運用は当然したことがない。少尉のアドバイスは貴重だ。よろしく頼むぞ。」
「はい。早速ですがRX-78系列とRX-79系列についてご説明をさせていただいてもよろしいですか?」
「ああ、会議室に移動しよう。リューネブルク参謀長、ハイネ少佐、それに副長も付いてきてくれ。」
ビダン少尉を先導するように移動しながら3人にも声をかける。副長はCICからだが、会議室にはほぼ同時に着くだろう。クレッチマー司令も、と思ったが司令はいつの間にかカーゴ・ベイに行ってしまわれていた。どうやらMSを直に目にしたいらしい。やっぱり行動派だよなぁ。
会議室での打ち合わせは1時間ほどで終わったが、事前に貰っていた情報に加え、設計段階での大まかな運用方針や使用する技術の課題なども説明された。(ちなみにカーゴ・ベイに張り付いていたクレッチマー司令は30分ほど前にフレッチャー大佐に回収されていったそうだ。相変わらず、参謀長には頭が上がらないらしい。)
どうやら学習型コンピューターがまだまだ性能的に未熟なので、その経験を積ませることを主眼において最初期段階では運用を行う方が良いらしい。無重力下では機体を動かすだけでもかなりの学習をさせなければバランスを崩したりエラーメッセージを吐き出したりするので、まずは1機ずつ慎重に運用しながらになりそうだ。
「説明を聞いていると、こちらが考えていた以上に未成熟な段階で試験を開始させているようですね。見切り発車といってしまえばそれまでですが、それだけ戦中を意識しているのか。」
リューネブルク参謀長の呟きは呆れと戸惑いが半々といったところだ。
「開発陣は学習型コンピューターでなんとかなると考えているようだが、『武人の蛮用はお控えください』とキッパリ言われてしまうと使いづらくて叶わんな。」
神経質そうな、という予測は当たっていたようで、ビダン少尉はかなり細かなところまで試験実施について注文をつけてきた。まだまだ機体を振り回すような試験は出来ないということだろうが、基本的に軍人を信用していなさそうな言い回しもしていたなぁ。
にしてもビダン、やっぱり思い出せん。
「ともかく、まずは1度目の試験に出てみてから、だな。実際に物を動かしてみないと判断がつかん。パイロットはもう着任したか?」
「そうですね。確かに司令の仰る通りです。はい、先程から航空長が待機室でブリーフィングを始めています。」
「よし、部隊全艦に連絡。予定どおり、1200時を目処に出港、標準航行序列にて演習宙域S34に向かう。確かまずは単機での動作試験からだな、参謀長?」
「はい、各艦へ伝達します。そうですよ、司令。ガンダムタイプのRX-78からです。」
「よし、航空長。試験中はデトロイトとサンジャシントの艦載機を重哨戒ローテーションで回してくれ。くれぐれもジオンに試験を悟られないようにしたい。ノア近辺はこちらの内庭とはいえ、忍び寄られる可能性はあるからな。」
「アイサー。ビダン少尉、しばらく艦載戦闘機の発艦指揮にあたりますので、ガンダムの発艦準備を進めておいてください。」
返答したハイネ少佐、後半はカーゴ・ベイのコントロールルームに陣取るフランクリン・ビダン少尉への指示だろう。
「司令、ミカサの舫い綱外します。タグボート接近します。」
「了解した。微速前進、ポート発進手順に従って港外へ出る。航海長、頼むぞ。」
「アイサー。お任せください。」
「司令、第4艦隊司令部より通信。『貴任務部隊ノ無事ナル帰還ヲ望ム。人形ヲ失ウナカレ。』です。」
「司令部に返信。『誓って連邦のMSを戦力化せん。人形にあらず、ジオンの脅威となる剣たるべし。』送れ。」
「アイサー。司令部宛て返信送ります。」
クレッチマー司令も搬入時の様子を見て、人形と表現したのだろうが、いつまでも人形のままでは役に立たない。試験を進めてデータを蓄積し、早く戦力にしていかなければな。(ちなみに後ほどこのやり取りを聞いた某少尉は人形と言われたことに大変ご機嫌を損ねたらしい。)
「と思っていたが、ここまでひどいとは。呆れたな。」
思わず声に出ていたオレの愚痴はしかし、参謀長や航海長、航空長にも大きな頷きと共に受け入れられた。
オレ達の視線の先、モニターに映るのはガクガクと震えるように動くRX-78プロトガンダムだ。
何というか、動きがぎこちないだけでなく、一つ一つの動きと動きとに間が空いている。やっと動いたかと思うとそれなりにスムーズに動くこともあるのだが、バランスを崩したりあらぬ方向へ漂ったりするとそのリカバリーがまだ上手く行かないようで、ミカサの予定航路から逸れてしまうこともしばしばだ。
その度にミカサや第41任務部隊は進路を微調整している。
「何というか、まだまだ手足の操作に慣れていない様子を見受けられますね。鉄騎兵もこうだったのですか?」
「確か、データチップの映像ではあちら(鉄騎兵)はゆっくりとした動きではあったが。ここまでぎくしゃくはしていなかったな。」
以前に見た映像を思い出しながら話すオレ。対して参謀長は思案顔だ。
「となると、やはり新型?の学習コンピューターの蓄積データが足りないことが原因でしょうか?」
「可能性はあるが、ビダン少尉にも意見を聞いてみないことにはな。・・・ああ、艦長だ。ビダン少尉、いま良いかね?」
艦長席の内線からカーゴ・ベイの指揮室を呼び出す。航空課の管制員が出るがすぐにビダン少尉に変わってもらった。
「少尉、試験中にすまんね。ガンダムの試験の様子について、君の意見を聞きたいのだ。」
「試験について、ですか・・・。はい、どうされましたか?」
「いま、艦橋でもガンダムの様子を見ているのだが、鉄騎兵の時と比べても動きがぎこちなく感じてな。性能の問題なのか別の要因なのか。貴官の見解を聞きたい。」
「RCX-76と較べて、ですか?性能ではRX-78が遥かに格上ですよ。現在の機動性能が劣っているように見えるとするならば、それは機体制御の中枢を担う学習コンピューターのデータ蓄積量が少ないためです。今日より明日、明日より明後日、と機動制御は改善されます。司令におかれましては、そのための試験遂行をお願いしているのです。」
内線越しに少尉に一気に捲し立てられる。参謀長にも聞こえていたようでいつも冷静なリューネブルク少佐にしては珍しく目を見開いてこちらを見ていた。
「どうやら技術少佐にとっては作品を貶されたように感じたようですな。」
「みたいだな。とはいえ、現状からどこまで改善されるのか。多少動きが良くなってもザクIIに負けていては意味がないしなぁ。」
『ジオンのザクIIに負けるなどあり得ません!!!!』
「うぇっ!?あっ、内線繋いだままだったのか。」
参謀長と話している最中にいきなり聞こえたビダン少尉の怒鳴り声に驚いて右手を見れば、内線を切り忘れていた。あわてて少尉に謝ってから内線を切る。とはいえ、
「今回のMS試験、前途多難かもしれませんな。」
「だなぁ。最上位機であの様では・・・。司令部が何というか。」
「それは、出撃時のように『人形』遊びと言われかねませんねぇ。」
窓越しに見える操り人形のようなガンダムを見つめながら、艦橋ではオレと参謀長のボヤきが続くのだった。
と言うことで、第22話をお送りしました。
副題はズバリ、某技術少尉の心の声です。
ただ、試験が始まった段階ではきっとRX-78もRX-79も動きはぎこちなかっただろう、という妄想から今回の話となりました。
また、原作に出てくるキャラとしてパパ=ビダンにもご登場いただいています。カミーユ君は御歳9歳。サイド7にはまだ移住していません。
おそらくカミーユ君が本作に出てくることはほとんど無いと思うのですが、その分パパには活躍していただきたいと思います。