では、第26話どうぞ。
サイド7の1バンチコロニー「ノア」から出港したミカサは、宙域外で待機していた第41任務部隊の他艦と合流した後、ルナIIへと帰還した。
帰還途中から改修されたガンキャノンとガンタンクの試験も行ったが、ガンキャノンはともかくガンタンクは宇宙空間で運用するには向いておらず、仮に航宙艦で運用するなら艦体に貼り付いての迎撃任務が主になるだろう。
大口径の実弾兵装は強力だが、機動力が話にならない。
良くこれでハヤト・コバヤシはまともな戦闘が出来たものだ。一方でガンキャノンは重武装に加えてある程度の機動性や小回りも効くのでジムと組み合わせた戦闘も出来そうだ。とはいえ、テム・レイ主任との会議の中で話したようにジムにガンキャノンと同様の肩付け武装を取り付ける方が量産性に優れるのでは、という考えはやはり残っている。整備性からしても同一機種の方が効率は高いだろうからだ。
まぁ、ビダン少尉は新しいMSの試験にウキウキで機嫌が良かったので、往路に比べれば平和だったのは有難い。
「司令、間もなくルナIIの管制宙域に入ります。」
「よし、航海長。操艦頼むぞ。」
「アイサー!自動航法装置、スタンバイ。ルナII管制とのコンタクト良好です。」
「副長、参謀長、しばらく頼めるか?クレッチマー司令への報告をまとめてしまいたい。」
「「了解しました。」」
第41任務部隊自体は襲撃もなく、ルナIIへ帰りつくことが出来た。ただし、今日は9月5日。確か原作でサイド7が襲撃されたのが9月中旬だったから間に合わないかもしれないが、改めてサイド7の防諜・防衛体制の拡充を意見具申すべきだろう。戦闘機を8機譲渡したこともある程度寄与してくれればいいのだが、残念ながら赤い仮面のすっとこどっこいは腕は確かだからそこまで期待することは出来ないだろう。おまけに勘も良いと来てやがるんだからホントにあの赤い仮面の(以下略)は・・・。
戦闘機を譲渡したせいでハイネ航空長の機嫌は急下降している。次の作戦のためにも、なんとか第4艦隊の予備機を融通して機嫌を回復してもらえると助かるのだが。どうなるか。あのビダン少尉が気を遣う程なんだからかなりだぞ。
そう考えていると艦全体に鈍い衝撃が走る。おそらく港湾区画に着いたのだろう。と、同時に艦長室の通信パネルから『司令、ミカサ着舷完了しました。港湾司令部より『無事の帰還を歓迎する』とのことです。』と報告が来た。
「了解した。副長は補給の指示をしてくれ。私はそのまま司令部に報告に向かう。」
そう言うと第4艦隊司令部区画へ向かうために艦内を移動し始めた。
「コープ大佐、良く帰ってきたな。随分と表情が硬いがどうした?V作戦の機体に不具合でもあったのかね?」
司令部区画に着いて最初に出会ったクレッチマー司令の第一声がそれだった。横に立つフレッチャー参謀長も頷いている。ほぼ顔パス状態の警備の兵にも怖がられていたがそこまで表情が硬いか?
「はっ。いいえ、機体には問題はありません。引き渡した機体も新たに受領した機体も、特に旧式となっていたガンキャノンやガンタンクも性能は上々です。ただ、それ以外の部分で大きな問題がありまして・・・・。」
「ほぅ?良し、司令室に来たまえ。詳しく聞こう。参謀長、君も来てくれるか?どうやらかなりの事態らしい。」
「はっ。すまんが誰か、3人分のコーヒーを司令室へ。」
素早く指示を出した参謀長の後ろについて司令室に入ると、コーヒーが来るのだけはなんとか待って、すぐに話し始める。
「まずはご報告です。V作戦の受領機体のうち、RX-79のプロトタイプ3機をサイド7の開発部へ引き渡し、替わってガンキャノン、ガンタンクの改修機を新たに受領しました。帰路にてRX-78との合同試験も実施。ガンタンクは空間運用については課題があるものの、ガンダムとガンキャノンの連携試験、並びにガンタンクの母艦防衛試験については上々の結果を得ています。こちらは試験のデータと報告書の入ったデータチップです。」
「うむ、確かに。だが、その報告だけでは特に任務において重大な問題は発生していないようだが?しかも、速報によると任務部隊の艦載機が8機も減っているようだが。問題は別のところにあったのかな?」
データチップを受け取った参謀長が水を向けるように問いかけてくる。クレッチマー司令もデータが気になるのかそわそわしていたのを、参謀長の言葉にはっとしてこちらを見てきた。
「実は、以前にも意見具申をさせていただいていたのですがサイド7ノアの防諜・防衛体制に致命的な瑕疵がありました。正直に申し上げると、あそこまで無防備な状態で新兵器の開発を行っていたとは信じられませんでした。あれでは、ジオンの目を欺くためのダミー施設だとしてもお粗末過ぎるほどです。」
「何!?まさかそんな。第4艦隊司令部からも以前にジャブローには防衛体制の強化を申し入れているはずだぞ。」
参謀長が驚くがその声を遮るように声を発したクレッチマー司令の声は固く、そして低かった。
「コープ大佐、それより先の報告は少し待ってくれ。フレッチャー、ルナII司令部に連絡を。ワッケイン准将にも聞いてもらった方が良い。コープ大佐、移動するぞ。付いてきてくれ。」
言いながら立ち上がったクレッチマー司令はすぐに司令部区画を出ると、ルナIIの中枢へ向かう基幹エレベーターへ進む。オレがその後ろを付いていき、更にその後ろをフレッチャー参謀長が追いかけてきていた。そうこうして約20分後、何故だかオレはルナII基地司令部の大会議室の正面に立たされている。向かいに座るのはルナII基地司令となっていたワッケイン准将(戦時昇進)、その参謀部の面々、そして第4艦隊のクレッチマー司令とフレッチャー参謀長、更に警備の士官が20名近く。技術部らしい大佐や中佐も数名見える。合計すれば70名近い人物の前に急に立たされると、クレッチマー司令から声を掛けられた。
「第41任務部隊司令コープ大佐。急なことだが、貴官がサイド7で見てきた問題点についてここで報告をしてくれ。これは連邦の命運を分ける重大な作戦、V作戦の成否に関わる事案だ。ルナII基地司令のワッケイン准将にも聞いてもらう。良いな?」
「はっ、はいっ。では報告を始めさせていただきます。サイド7ノアにおける課題として小官が感じたのは大きく分けて4点。まず1点目はサイド7宙域の哨戒についてです。我が部隊が宙域に接近するにあたり・・・・」
こうしてオレは上層部のお歴々の前で1時間に渡り纏めてきていたサイド7の防諜・防衛体制の不備について報告をした。要点は4点、
1、サイド7周辺宙域の哨戒体制が取られていないこと。
2、サイド7ノアコロニーに防衛戦力がほとんど置かれていないこと。
3、コロニー内に侵入された場合の守備部隊が軽装備しかなく、MSが無くとも、重装備の部隊が相手では太刀打ち出来ないこと。
4、V作戦の開発機体や開発計画の中枢メンバー(特にテム・レイ主任)のセキュリティが緩く、また本人にも危機感が全く見られないこと。
要は、全くのダメダメ状態であることを報告した。話が進むにつれて司令2人も参謀連も、警備の士官に至るまで表情が硬くなる。そりゃそうだ。連邦の命運を担うはずの作戦を背負う中枢がこの体たらくなのだから。
「コープ大佐、報告を感謝する。だが、まさかここまでサイド7の体制がずさんだったとは・・・。レビル将軍は万全の体制を敷く、と仰っていたのだが。実現していなくては意味がないな。」
「ワッケイン准将、それよりも最重要人物であるテム・レイ主任が危機感を全く持っていないことが問題だ。何か起こっても本人が危機感を持っていなければ助かるものも助からん。」
「それもそうですが。防衛部隊がある程度整っていれば危機に陥ることも防げますから。ジャブローにはこちらから報告をあげますが、返事を待っていては遅くなる。当座はルナIIの戦力を振り分けます。『中立』の看板に胡座をかいてもらっては困る。事実上のルナII勢力圏なのですし、いっそ防衛戦力を常時周辺宙域に置くことにしましょう。」
「ワッケイン司令、それはあまりに危険なのでは!?同じく中立を宣言しているサイド6リーアを刺激することになりかねません。」
司令2人で話を進めているとルナII参謀部の1人が声を出すが、それを制したのはクレッチマー司令だった。
「今はそんな建前を気にする段階ではない。そもそも、中立を気にするなら、サイド7に極秘基地を置いてしまった時点で連邦は中立を破ったことになってしまっている。それならば万全を期す方が重要だ。サイド7の領宙に入らなければまだ言い訳は効く。」
「クレッチマー司令の仰る通りです。マゼランとサラミスから成る防衛部隊を編成し、直ちに差し向けましょう。ネルソン型かトラファルガー型も編成に入れたいが、そちらは第4艦隊から抽出していただけますか?」
ワッケイン司令の言葉に頷きながらこちらを見てくるクレッチマー司令。あ、もしかしてこれは・・・
「それならばワッケイン司令、適役が目の前にいるではないか。サラミス型3隻、ネルソン型3隻から成る部隊の司令官が。マゼランこそ含まれていないが、まだ搭載艦の少ないレールガンを部隊で11門も保持している。打撃力も充分だ。」
ニヤニヤ笑うクレッチマー司令と生真面目な顔でこちらを見てくるワッケイン司令、つられてこちらを見てくる数十名。あー。やっぱりうちが出ることになりそうなのね。
「交代部隊の編成にもある程度の時間が必要だ。第一陣としてまずはコープ大佐の部隊にサイド7方面の防衛を担って欲しい。必要な物資があれば準備させよう。どうだ?」
「はっ、戦力の必要性を具申したのは小官です。防衛任務、慎んでお受けします。が、我が部隊で試験中のRX-78はいかがいたしましょう?ガンキャノンやガンタンクは旧式と誤認してもらえるでしょうが、ガンダムについてはそうは行きませんが。」
「ガンダムを戦力として活用できるなら、投入しても構わない。サイド7に襲撃があるような事態、と言うことは既にV作戦の事がジオンに知られているだろう。ならば隠す必要はない。無論、単機で突出させて失うようなことはあってはならんがな。ワッケイン司令、それでよろしいですな?」
「ええ、構いません。コープ司令、他に必要なものや質問はありますか?」
「では、1点。仮にジオンがサイド7に襲撃を掛けて来たとして、第41任務部隊だけではV作戦の開発機体や人員、物資全ての回収は困難、というより不可能です。高速輸送艦なりトラファルガー型のような大型のカーゴスペースを有する艦なりが必要となりますが、それは手配出来るのでしょうか?コロンブス型では脚が遅く、任務部隊との連携も困難となりますが。」
ワッケイン司令にそう答えると、司令は右手を顎に当てながら考え込む。その横でクレッチマー司令は何か小声で話していてフレッチャー参謀長に怒られていた。まさかヴィクトリーで自分も出るとか言ったんじゃないだろうな。
「なるほど、確かにその点も重要だな。ルナIIのコロンブス型は数的余裕も無いし、他艦で適切な艦がないかこちらで手配しよう。物資の補給についても第41任務部隊を最優先とする。明日中には再出撃をして欲しいが構わないか?」
「はっ、コープ大佐、任務了解致しました。」
「うむ。詳細と指令書は追って送ろう。」
その後、クレッチマー司令達はワッケイン司令らと引き続き会議を行うらしく、自分だけがポートへ戻ってきた。再出撃の件とサイド7の防衛支援の任務についても各艦の艦長、リューネブルク参謀長とオットー副長らに手短にその事を伝えると、そのまま補給任務の指揮を行っていく。乗員にも短い時間ではあるが交代でルナIIでの上陸時間を取らせていく。
「司令、デトロイトとサンジャシントに補充の艦載機、搭載完了しました。凄いですよ。セイバーフィッシュの最新ブロック生産機です。推力の向上と搭載ミサイル数の増加、これなら従来機換算で戦力として2機増えたようなものです!」
そんな中で帰還時に底辺だったハイネ航空長の機嫌は、最新機の補充によって高高度飛行へと急速な変化を遂げてくれた。これは朗報だ。
「了解した。航空長、直ちに出撃できるようにどの機も整備を進めておいてくれ。」
「アイサー!了解です。」
ウキウキと準備を進めるハイネ少佐と入れ替りで今度はリューネブルク参謀長がこちらに近付いてくる。
「司令、ちょっと困った事態になりましたよ。」
「どうした?参謀長?」
「いえ、それがルナII司令部から第4艦隊司令部経由で届いた今回の防衛任務の指令書なのですが、随伴艦艇のところに奇妙な事が書いてありまして。」
そう言いながら、データパットを差し出してくる参謀長。随伴艦艇、と言うことは先程オレが申し出た輸送艦の事か?
「ありがとう。どれどれ?・・・・ってなんだこりゃ?」
「「地球軌道にて随伴艦艇と合流、これを警護しつつサイド7へ向かうべし。」・・・・?」
思わず大声で読んでしまうオレと、おそらく同じ気持ちなのだろう。指令をそらんじる参謀長。はからずも声が重なってしまうが、ほんとになんだこの指令!?
「一刻も早くサイド7宙域に向かうべき時なのに、なんでわざわざ地球軌道の重力井戸の底まで遠回りしなきゃならんのだ?しかも詳細は軍機って。」
「訳がわかりません。ただ、ルナII司令部の同期から聞くところによると、どうも『ジャブローの指示で、』こうなった、と。」
「なに、ジャブローからの?と言うことは最高司令部か。まさかレビル将軍の指示だと?」
慌てて、声を潜めながら話すがリューネブルク参謀長もそこについては情報がないらしく首を横にふる。
「それは不明です。ただ、かなり強い指示ではあるようです。」
ジャブローからの指示ねぇ。V作戦の開発陣を守るよりも優先して地球軌道から艦艇を警護して、とはなぁ。
あっ、そう言えばホワイトベースはジャブローから宇宙(そら)に上がってサイド7に入港したんだっけか?
んで、それを赤い仮面のヤツに尾行されてきてたんじゃなかったか?と言うことはまさか、ホワイトベースと合流しろってことか?
「まさか・・・・」
「コープ司令?どうされました?」
不審げな参謀長の声を左手でしばし待ってもらい、さらに考える。今が標準時で9月5日16:00、どんなに急いでも出撃できるのは標準時9月6日の22:00といったところだろう。地球軌道までは最速でも3日と半日が必要で、すぐにホワイトベースと合流出来たとしてもおそらく9月10日になる。そこからサイド7を目指すとなると現在の公転位置から逆算して6日は必要だから9月16日。もし途中でジオン、というよりは赤いヤツから妨害をされるようなことがあれば到着は更に遅れることも考えられる・・・
「おい、到着が(原作の襲撃日9月18日)ぴったりになるかもしれないじゃないか。」
「はい?あの、司令、どうされましたか?なにがぴったりになると?」
「第4艦隊司令部はなんと言ってる?」
疑問符を浮かべた参謀長の声をしかし、オレは遮って質問をする。
「はっ!?えぇと、ジャブローからの指示ですので、断ることは出来ないと。ただ、地球軌道にはジオン部隊もいくつも出ています。戦力的に厳しいようなら別の哨戒部隊も同時に地球軌道へ出して、目眩ましをしてくださるそうです。」
「なるほど。了解した。第4艦隊司令部には別部隊の派遣、ぜひお願いする、と返事をしておいてくれ。」
「分かりました。ルナII司令部にも命令受領を伝えておきます。」
「よろしく頼む。」
さて、もし地球軌道で合流するのがホワイトベースなら、間違いなくシャア・アズナブルとその部隊も近くにいるだろう。第41任務部隊はサイド7の宙域防衛だけでなく、ジオン部隊の襲撃対処をしなければならない、と言うことか。それだとMSも、ガンダムやガンキャノンも出さなければ間違いなく戦力が足りなくなるな。原作通りならホワイトベースの指揮官はパオロ・カシアス中佐のはず。合流したらすぐに打ち合わせを出来るように準備をしておいた方がいいな。
「いよいよ始まるのか。だとしたら責任重大だぞ。サイド7が襲撃されるような事態はなんとしても防がねば。」
艦橋にあって、オレだけが今後の展開を想像して慄然としてしまっているが、第41任務部隊は出撃に向け着々と準備を進めていた。
26話をお送りしました。本当は今話で襲撃開始のシーンまで書きたかったのですが、例の如く長文となったため、分割しています。ガンダムが大地に立つかどうかはもう少しお待ちください。
また、多くの感想、コメントや誤字のご指摘、誠にありがとうございます。
今後も拙作をお楽しみいただければ幸いです。