旧型サラミスで生きる1年戦争   作:カズkaz

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いよいよ、ホワイトベースと共にサイド7へ向かう主人公達。
運命の日が近づいて来ます。もちろん、あの人物たちも登場するわけで・・・。
では、28話どうぞ。


28話 運命の日 ガンダム大地に立たず?③

地球軌道から脱出した第41任務部隊。7隻の大所帯ということもあり、どうしても部隊内での連絡や通信をしなければならないこともある。ただ、可能な限りジオンに見つかる可能性を低くしたかったオレはルウム以来のあの戦術を使うことにした。

 

「司令、サンジャシントとホワイトベースの有線ケーブルも接続を完了しました。これでどの艦も複数のケーブルでの接続を完了。通信ラグもありません。各線の長さは平均して1500メートル、予備は各艦3000メートルを確保しています。」

 

「よし、参謀長、よくやってくれた。ミカサ、ヤハギ、ウィンチェスターの第1001巡戦組はともかく、ピッツバーグ、デトロイト、サンジャシントの3隻は初めての接続だが、大丈夫かね?まして、ホワイトベースは艦隊行動も慣れていない。無理を言ってすまんな。」

 

「全くです。コープ司令。ルウムの時は見ているだけでしたが、やってみるとこれは中々厳しい。第1001巡戦隊、さすがは訓練隊出身ですね。」

 

「なんだ、オットー艦長、もう根を上げたのか?どうやら、訓練が足していないようだな?コープ司令、もう少し艦隊運動の訓練を増やしますか?」

 

さっそく有線を使って行っている艦長会議の冒頭、弱音を吐いたのはピッツバーグのオットー艦長だ。確かにルウムではアイツの艦は有線接続してなかったな。それにしたって第41任務部隊になってからもうかなり経ってるんだが、まだ慣れてないか。それに対してニヤニヤと笑いながら提案してきたのはヤハギのリヒャルト少佐だった。

 

「そうだな。これくらいで根を上げているようでは困る。リヒャルト少佐の言う通り、特訓するべきかな。」

 

オレも悪のりしてそう言うと慌てたように反応したのはカワベ少佐だ。

 

「勘弁してください。コープ司令。ウチの艦はやっとサンジャシントに慣れて来たところなんですよ。細かな艦運動のクセもまだ掴みきれていないのに特訓されては叶いません。」

 

「それは逆だそ、カワベ艦長。艦のクセに慣れていないからこそ、特訓してそのクセを掴むのさ。」

 

静かに指摘するリューデッツ少佐。訓練艦の時にも静かにかつ厳しく候補生をしごいていたが、相変わらずだな。そしてそれを聞いてデトロイトのヘルツ少佐とピッツバーグのオットー少佐は顔を強ばらせている。うーん、しごき足りないようだ。

 

「第1001巡洋艦戦隊は訓練隊だったのですか?てっきり私は第4艦隊の虎の子の部隊だったのだとばかり思っていたのですが。」

 

そんなオレたちの軽口を聞いて不思議そうな表情で質問してきたのはホワイトベースのパオロ艦長だった。そうか、ミカサら3隻が旧型サラミスなのを知らないのか。

 

「実は開戦まで、ミカサとヤハギ、ウィンチェスターはルナIIで訓練艦として運用していたのですよ。この3隻はサラミス型の初期ロット、先行量産艦でしてね。ミカサはカーゴ・ベイの増設で分かりにくくなっていますが、ヤハギやウィンチェスターには左右の副艦橋が無いでしょう?ミノフスキー粒子によるレーダー妨害が判明する前の艦なのです。まぁ、そのお陰で、レールガンを4門も積めているのですけどね。」

 

「なんと、そうでしたか。確かにサラミス型の最初期案ではレールガンによる遠距離戦が考えられていましたな。私が予備役に入る前でしたのでよく覚えています。」

 

うんうんと頷きながらパオロ艦長が話す。そうか、パオロ艦長が年齢の割に階級が低いのは予備役からの復帰組だからか。そう言えば、原作でそんな会話をしていたのを見た覚えがあるな。

 

「まぁ、旧型ですが先行量産艦だったお陰でエネルギーキャパシタも大きいですし慣れれば扱いやすい良い艦ですよ。こいつは。」

 

リヒャルト少佐が嬉しそうに応える。そう、旧型ということで開戦までは何かと不遇な扱いをされていたオレたちは、その分乗艦への愛着が強い。リューデッツ少佐も別のサラミス型からなる巡戦隊の指揮官を打診されたが、ウィンチェスターから離れたくない、と、断ったらしいからな。

 

「それはともかく、そろそろ会議を始めるぞ。まずは現状の確認からだ。参謀長、頼む。」

 

「はい、お任せください。ではまず本部隊の現状からですが、サラミス型3隻、ネルソン型3隻、ペガサス型1隻の計7隻からなる部隊で、艦載機はセイバーフィッシュが12機、ガンキャノンとガンタンクが各2機、プロトタイプガンダムが1機となっております。このうち、ガンダムについては秘匿対象のため、原則として運用の予定はありません。また、ガンタンクは宇宙空間での運用に向かないため、ミカサカーゴ・ベイの上部甲板に固定の上、迎撃用として運用する予定です。」

 

リューネブルク少佐がすらすらと説明をしながらガンタンクの固定位置を表示させる。艦隊の前方から側方にかけて広い射界を維持できる場所だ。

 

「次に部隊の航行状態ですが、地球軌道を抜けてサイド7への最短経路を進んでいます。初期加速は完了しており、現在は球形陣のままノア近傍までサイレント・ランの予定です。到着は9月15日○○三○の予定。ただし、今後の接敵の如何によって変更となることはお知りおきください。」

 

地球軌道からサイド7へ伸びていく予定航路の破線を見ながら、一同の表情は引き締まっていく。と、ここでヘルツ少佐が挙手してきた。

 

「進路について補足ですが、現在我がデトロイトとカワベ艦長のサンジャシントは協力して重哨戒ローテーションを組んで艦載機を運用しています。常時4機が艦隊の左右と前方に展開し、ジオン部隊の有無を確認しています。ただ、サイド7の周辺には第4艦隊だけでなく、第1第2艦隊からも哨戒部隊が出ていると聞いています。それらとの連携や情報共有は出来るのでしょうか?」

 

ヘルツ少佐の質問にリューネブルク参謀長がこちらを見てきた。オレは一つ頷くと答え始める。

 

「残念だが、通信秘匿のため、情報の連携はできない、ただ、哨戒に出ている部隊には、もしジオン部隊と接敵もしくは発見した場合、全方位向けにその情報を発信するようにルナII司令部から指示が出ている。そのため、よほどの高濃度ミノフスキー散布下でもなければ、ジオン部隊の有無については、我々も知ることが出来る。」

 

「なるほど、了解しました。」とヘルツ少佐の答え。他の艦長達も頷いているので、この点について、情報共有は大丈夫だな。

 

「それと、地球軌道における第4艦隊の陽動任務についてですが。当初、軌道上にて接敵したジオン部隊のうち、ボギー01とボギー03については撃沈、撃破によって撤退に追い込むことに成功しました。問題はボギー02で、チベ級によってサラミス型1隻が撃沈、サラミス型とネルソン型を各1隻損傷し、δ部隊は撤退したとのことです。ただ、α部隊からマゼラン2隻、サラミス2隻、ネルソン2隻の増援が送られ、その部隊の攻撃によりチベ級と輸送艦1隻を撃沈。輸送艦2隻を鹵獲したと。δ部隊の指揮官ヘンリー中佐は乗艦もろとも戦死されたと。」

 

「そうか。ヘンリー中佐が。ネルソン型の運用にやっと慣れてきたと仰っていたばかりだというのに。残念なことだ。」

 

小さく呟いたのはカワベ少佐。ちょうどサンジャシント受領がヘンリー中佐が乗艦としたネルソン型の受領と同じタイミングだったので、色々とやり取りをしていたはずだ。気骨のある人物だと話していたが、亡くなられてしまったか。

 

「それで、参謀長。第4艦隊は予定どおり対地砲撃に移行したのか?」

 

「はい、δ部隊は代わりに増援のマゼラン型が中心になってですが、軌道上からの精密砲撃を実施しているとのことです。現在は北アメリカ大陸やアジア方面を中心に攻撃を行っているとのことです。レーザー通信が届く範囲でセイバーフィッシュを中継地として軌道上からの砲撃に修正を加える、というのは我々第41任務部隊の間接測距射撃が参考になっているそうですよ。」

 

「とはいえ、ぶっつけ本番でそれをやるクレッチマー司令の度胸は大したものですね。地上のジオン兵も反撃不可能な宇宙から射撃されたのでは堪らんでしょうな。」

 

しみじみと呟くのはオットー少佐だ。一門だけのレールガンでの修正射撃の手間を知っているからこそ、だろうな。ヤハギやウィンチェスターなら各艦に4門あるから散布界射撃が行えるためだ。第4艦隊の他のサラミス型も一門しかレールガンを搭載していないので、ピッツバーグと同様の苦労をしながら砲撃しているのだ、おそらくは。

 

「クレッチマー司令のお陰で、ジオン側の耳目は地球軌道に集中しているだろう。今のうちに我々はサイド7ノアまでサイレント・ランというわけだが。万が一、既にサイド7に網を張られていた場合には戦闘となる可能性もある。各艦は警戒態勢を維持したまま、交代で休憩を取らせてくれ。特にヘルツ少佐、カワベ少佐、パイロットの疲労は大きなものとなることが考えられる。リカバリーを十分に取ってやってくれ。」

 

「「アイサー!」」

 

その後、細かな打ち合わせを2・3してから、艦長会議は終了となった。・・・ただ、その直後にホワイトベースのパオロ艦長からのみ『個別通信を求む』と来たのだが。

 

 

「パオロ艦長、どうされたのです?個別での通信とは。」

 

「はっ、お忙しいところ申し訳ありません。コープ司令。実は内々にお話ししておきたいことがありまして。」

 

声を潜めて話すパオロ艦長だが、先程までの艦長会議の時と異なり、背景が艦橋ではない。どうやら、艦長室に席を移して改めて通信をしてきたようだ。念のためにオレも艦長室へ移動して正解だったようだな。

 

「内々に、ですか?どうされたのです?」

 

「実は、ジャブローを発進する直前に気になる情報を耳にしまして。確実な物ではないため先程の会議では言うべきかどうか悩んだものですから。」

 

「なるほど。それで、私にだけ伝えておこう、とお考えになられたのですね。了解しました。お聞きします。」

 

申し訳なさそうに話すパオロ艦長。どうやら、この通信をするかどうかも内心ではかなり悩んだのだろう。それでも伝えておくべき、と考えた事なのだ。よほどの重大事項なのかもしれない。

 

「ありがとうございます。実はルナIIからサイド7の防衛態勢の不備を指摘される少し前、具体的には標準時で8月末日なのですが、地球軌道上にてジオンの部隊が合流し、それから軌道を脱してサイド7方面に向かったらしい、との観測情報があったのです。地上からの望遠観測のため、艦の詳細などは分からぬのですが、気になるのは『単艦のムサイ級に、増援として2隻のムサイ級が合流。補給艦らしき船としばし同航してからムサイ級3隻がルナIIまたはサイド7方面へ向かった。』と言う点なのです。」

 

「単艦のムサイ級に・・・?ムサイ級が単艦で動くなどほとんど報告例がありませんが。」

 

「はい、おまけにその少し前に地球軌道周辺に手練れのムサイ級がいたらしい、という未確認の情報もあったので、気になっておりまして。」

 

なるほど。もしその手練れのムサイ級に増援があった上でサイド7方面へ既に向かわれていたら、この先に網を張られている可能性もある、とパオロ艦長は考えた訳か。ん、待てよ。原作でもサイド7方面へ向かうホワイトベースをシャアのファルメル隊が追尾していたけど、ファルメル隊がその前にどこにいたかは明言されていない。もし、8月末に地球軌道から補給を受けてサイド7方面へ既に移動していたのだとしたら、その未確認のムサイ級3隻にはファルメル隊が含まれている可能性もあるのでは?

もっと言えば、原作と違ってファルメル隊にムサイ級2隻の増援があった、という可能性だってあるじゃないか。

 

「パオロ艦長・・・。ひょっとするとその情報はとんでもないものかもしれません。教えていただいて感謝しますよ。」

 

「そう、なのですか?私が気にしすぎなのか、とも思ったのですが、どうしても気になるもので。」

 

「仮にその部隊が赤い彗星であれば、或いは青い巨星であるなら、奇襲を許せば我々の部隊など一溜りもありません。ですが、知っていれば備えることも出来ます。私の方でも対応策を考えてみましょう。」

 

お互いに敬礼をしてから通信を終えるが、脳内では完全に赤い彗星、シャアの部隊が網を張っていると確信してしまった。やはり来るか。あの野郎。上等だ、迎え撃ってやる。しかしファルメル単艦でも厄介なのに増援がいる可能性もある、ときた。どうするか。

 

「まずはリューネブルク参謀長、そしてハイネ航空長に事態を伝えておくか。・・・私だ。コープ司令だ。参謀長と航空長を艦長室へ、そうだ。出来るだけすぐに頼む。」

 

内線で2人を呼び出してからも、どうするべきかを考える。追尾を許せばサイド7まで付いてこられてしまう。かといってこちらから戦闘を仕掛けようにも敵が引いてしまえばそれまでか。

 

「失礼します。司令、お呼びとの事でしたがどうされました?パオロ艦長からなにか?」

 

おずおずと艦長室へ入ってきた参謀長も、航空長も不思議そうな顔をしている。

 

「ああ、すまないな。実はジャブローで未確認ながら厄介な敵の観測情報があったようでな。その事をパオロ艦長から聞いていたんだ。」

 

そう言って先程聞いたとこをそのまま2人にも伝える。参謀長はみるみるうちに固い表情に変わり、ハイネ航空長も慌てたように携帯端末からデータを確認し始めている。

 

「結論から言うと、もし敵に追尾されたら厄介な敵であっても撃退しなければならん。ジオンにサイド7まで踏み込まれるわけにはいかんからな。」

 

締め括るようにオレがそう言うと、参謀長はしばらく思案した上で反問をしてきた。

 

「しかし、仮に撃退出来たとしても我々がサイド7に向かっていることは航路から明らかです。結局はジオンにサイド7への疑いを確定させてしまうことになりませんか?」

 

「させてしまうだろうな。だが、今回はそれでも構わない。ホワイトベースがガンダムやジムをジャブローへ開発陣と共に引き揚げてくれればサイド7の基地を叩かれたとしてもV作戦の成果を奪われることはない。今なら第1第2艦隊の哨戒隊にも助力を求めることも出来る。まずはなんとしてもホワイトベースがサイド7に入港中にちょっかいを出させないことだ。」

 

「・・・なるほど。ならば確かに撃退することが出来れば時間を稼ぐ事はできますね。必要ならホワイトベースを護衛と共に分派して先行させることも出来ます。」

 

「そういうことだ。その場合はミカサを中心に敵部隊へ押し込んで逆撃を加えてやってもいいしな。」

 

「なるほど、前進あるのみ、と言うことですね!さすが『キュイラッセ・コープ』ですね!」

 

 

「・・・・・・?」

 

「・・・あーー。ハイネ少佐?何を言ってるんだ?」

 

割と重要な会話をしていたと思うのだが、急にハイネ航空長が言い出した。慣れてきたと思っていたが、何だか久しぶりに訳の分からないことを言っているぞ?

 

「ハイネ航空長、その、『キュイラッセ』というのは、中世記にヨーロッパで活躍していたキュイラッセ(胸甲騎兵)のことかね?何故コープ司令にそのキュイラッセの名前を付けているのだ?」

 

参謀長も戸惑いながらも問いかけている。おかしい、本来は潜んでいる可能性の高いジオン部隊の事を話していたはずなのに。

 

「は?いえ、ホワイトベースの航空要員と技術情報を交流していた時に、ジャブローでは司令の事をそう呼んでいる、とお聞きしたものですから。勇敢に突撃する騎兵、コープ司令のイメージピッタリですよね!」

 

「・・・どう思う、参謀長は。」

 

「まぁ、間違いなく揶揄や皮肉の類いでしょうね。」

 

「だよなぁ。・・・ハイネ少佐はまぁ、そういうの気付かんか。純粋と言うか無垢と言うか。まぁそれがハイネ少佐の良いところではあるが。」

 

「司令、そこは天然と仰って良いかと思いますよ。」

 

シリアスな雰囲気は雲散霧消し、なんともいえない感情になっているオレたち2人を見て、ハイネ少佐もやっと何かおかしい、と分かったようだ。あれ?という表情をしている。

 

「ハイネ航空長。戦史の復習だ。中世記後期、ナポレオン戦争のあと、キュイラッセはどうなったか覚えているかね?」

 

「えーっと、確か銃火器の発展によって突撃する度に壊滅的な被害を受ける兵種、ということで衰退していったはずです・・・・あっ。」

 

「そういうことだ。おそらくその呼び名は司令や第41任務部隊のことを快くは思っていない者がつけたのだろうね。今後は口にしないように。」

 

「も、申し訳ありませんでしたっ!!!」

 

顔を青くしながらあわてて謝罪してくるハイネ少佐だが、まぁ悪気が無かったのは分かるので気にはしない。ただ、ジャブローではそういう見方をされているのだ、ということが分かっただけでも十分だ。それに、

 

「気にするな、少佐。確かに我々は旧型サラミスの改装艦にルウムの敗残兵の生き残りだ。レールガンなんぞという型落ちの兵器を使ってもいる。だが、大切なのは連邦が勝利することだ。そのために使えるものはなんだって使えば良い。ジャブローで何と言われようが、連邦が勝てばそれで良いのさ。それよりも、艦載機のローテーションを少し変えてくれ。前方だけでなく、後方も警戒しなければならなくなった。」

 

ハイネ少佐が気にしないよう、努めて明るい声で指示を出すがまだ表情は硬いな。後で参謀長や副長からもフォローを入れておいてもらうか。参謀長に目配せすると小さく頷いてくれたから多分、大丈夫だろう。

 

「では司令、私たちは失礼します。艦載機についてはこちらから指示を出しておきますね。他艦の艦長方にはどのようにお伝えされますか?」

 

「そちらは私から内容をまとめて連絡しておこう。艦載機のローテーションについてはよろしく頼む。」

 

「「アイサー!」」

 

2人が退室したあと、手早く新規に得た情報と今後の方針、打てる手立てをまとめたデータを各艦長へ送付する。次に第1艦隊と第2艦隊からそれぞれ出ている哨戒隊(第1艦隊の部隊が第13任務部隊、第2艦隊が第22任務部隊だ)の予定航路図を呼び出し、現在の第41任務部隊の航路図と重ね合わせる。第13任務部隊は既に後方の位置にまで移動してしまっているが、第22任務部隊ならまだサイド7と我々の間に位置している事になっている。もし、ジオン部隊と戦闘となれば協力を求めることが出来るだろう。第13任務部隊も戦闘に気がつけば駆けつけてくれるかもしれない。

第22任務部隊にはレーザー通信を行っておきたいが、さすがに距離が遠すぎて今は無理か。前方哨戒の艦載機に通信を託す手もあるが、確実に伝わるとは限らない。だが、念の為にでも通信は預けて置こう。ヘルツ少佐にはその事も伝えておかなくてはな。

 

「原作通りならシャアが、あの赤い彗星の野郎がこの先の宙域に網を張っている。サイド7まで付いてこさせるわけにはいかんぞ。」

 

一人気合いを入れ直すと、艦長室から艦橋へ向かうのだった。

 

9月14日03:06 あと半日ほどででサイド7の管制宙域に差し掛かろうという時に、いよいよオレたち第41任務部隊はジオンからの接触を受けた。航路の外れに浮くおそらくはコロニー建設時の小惑星から出たであろうデブリの影から飛び出してきたザクIIが艦隊の100キロ近くまで接近してきた時はそのまま攻撃をしてくるか、と慌てたがどうやら撮影をしていたらしくしばらくするとまた離れていった。退避方向は艦隊進路から見て7時の方向。やはり、後方から接近してきたか。

 

「参謀長、どう思う?任務部隊を分けて敵部隊を抑えたいが。」

 

「分派して抑える事には同意しますが、まずは敵の戦力を確認しなければ。それと、地球軌道からここまで我々が航海していることから、目的地がルナIIではなくサイド7であることはジオンにもう知られてしまいました。増援が来て、襲撃されてはたまりません。ノアでの積み込みを急ぐよう、パオロ艦長に指示すべきですね。」

 

「まずは敵の確認、分派する部隊の準備とサイド7での早急な積み込みを指示、ジオンの増援が来た場合に備えての第22任務部隊との連携か。」

 

「ですね。第22任務部隊と連絡が付いていたことが幸いでした。」

 

昨日、第41任務部隊と第22任務部隊はレーザー通信を行い、お互いの情報を交換すると共に、想定されるジオン部隊の撃退協力を依頼していた。第22任務部隊の戦力はマゼラン型1隻にサラミス型2隻、ネルソン型2隻。艦載機は定数12機のはずだが、なんとネルソン型のカーゴ・ベイ側面などに露天係止までして16機を連れてきているらしい。司令のトライン中佐は長くマゼラン型で副長を勤めていたらしく、艦載機の運用は不慣れだから少しでも多く搭載したかった、と話していたが戦力が多くなるのはこの場合、大変ありがたい。

 

「サイド7の近傍に位置している第22任務部隊に、我々の後方の敵部隊迎撃を依頼するのは無理だ。ジオン部隊の撃退は我々が、サイド7の防衛を第22任務部隊が、と分担すべきだな。」

 

「第22任務部隊には、その旨を直ちにレーザー通信を送りましょう。それと、司令は分派組の指揮をとりたいとお考えですよね?ホワイトベースの護衛は、ヤハギとピッツバーグに任せ、護衛指揮をリヒャルト少佐に依頼されてはどうですか?」

 

参謀長は通信長に指示を出しながら、ニヤリとこちらを見てくる。司令がジオンの抑えに回りたいのは分かってますよ、といった感じだ。

 

「さすが参謀長。良く分かってるじゃないか。そうだな、そうしよう。ヤハギ、ピッツバーグには引き続きホワイトベースの護衛を指示。指揮はリヒャルト少佐にとらせる。それとハイネ航空長、現在後方を飛んでいるのはどの機体だ?」

 

「現在、後方7時の方向にサンジャシント搭載のランス03、4時の方向にはランス06が哨戒行動中。既に2機ともザクIIの退避方面に向かわせています。」

 

「よし、敵を見つけても絶対に手を出さないようにレーザー通信で念押ししてくれ。それと他の哨戒行動中の機体は引き返させ、武装を用意して欲しい。」

 

「アイサー。」

 

リヒャルト少佐にも護衛を指示し、パオロ艦長にも分派することを伝える。パオロ艦長も迎撃の必要性は受け入れてくれた。まぁ、オレが分派迎撃の指揮を取ることを伝えると驚いていたが。

 

「まさか、大佐が迎撃側の指揮を取られるとは。やはりそこまでの敵がいるとお考えで?」

 

「他ならぬ中佐からの情報にあった部隊の可能性を考えますと。最低でもムサイ3隻、もし増援が更にあればこちら以上の隻数も考えられます。念のために、ですよ。

なに、心配なさらずとも騎兵の槍先にジオンの将官ヘルメットを掲げてご覧にいれましょう。」

 

「・・・っ!大佐、それは・・・!」

 

騎兵、とオレがわざわざ言ったことでおそらく自艦の乗組員からジャブローでオレが『キュイラッセ』と揶揄されていることが伝わったと分かったのだろう、パオロ艦長の顔色が変わる。

やはり、パオロ艦長自身はその2つ名には否定的なのだろう。紳士的な態度を崩さなかったし、こちらに対する態度には敬意がこもっていた。たしか、ワッケイン司令の恩師に当たる方とのことだが、それだけの事はある人物だ。おもむろに姿勢を正すとこちらへ敬礼をしてきた。

 

「コープ大佐、どうかご無事で。ホワイトベース乗組員と私は、決して大佐も第41任務部隊も失われて良い人材だとは考えておりません。」

 

「そのお言葉だけで、十分ですよ。それに軍人は必要とあらばその命を擲つことも必要です。それより、パオロ艦長、2つだけ差し出口をお許しください。」

 

こちらも答礼しつつ答え、更に懸念点を伝えておく。

 

「私がジオンの指揮官なら、サイド7に何かあると分かった時点で潜入部隊を編成して送り出します。既にコロニー内にジオンの兵が侵入していてもおかしくない。どうかお気をつけて。そして基地司令にも潜入部隊を警戒しながら積込を行うよう、コープが希望していたとお伝えください。」

 

「承知しました。必ずやお伝えしておきましょう。」

 

深く頷きながらそう答えるパオロ艦長に、オレはおそらく原作やこの後の宇宙世紀の歴史にも関わるもう1つの提言も話す。

 

「そしてもう一点、開発主任のテム・レイ主任についてですが。民間出身ということで危機感が薄いお方でした。警備を厳重に、と基地司令には既にお話ししていますが、ジオンがレイ主任のご家族に手を出さない保証はありません。もしテム・レイ主任をホワイトベースでジャブローへ護送されるなら、ご家族もご一緒に護送すべきではないかと。」

 

「テム・レイ主任はともかく、ご家族はただの民間人です。その方々をホワイトベース、軍艦に?」

 

さすがにパオロ艦長も驚いた様子だが、改めて危険性を伝えておく。

 

「では、ご家族はノアに残したままにしますか?そしてジオンに人質にでも取られて主任が脅されて情報漏洩を許すことになればどうしますか?ジオンの襲撃に備えた緊急避難とでもすれば名目は立ちます。どうか、ご存念の片隅にでも。」

 

「・・・。分かりました。ですが、大佐と分派組がジオンを退けてくださればその心配もしなくてすみます。どうか、ご無事で。」

 

「ありがとうございます。お互いに任務を全ういたしましょう。」

 

お互いに無事に再開できることを願いつつ、通信は終わったのだった。

 

 

「有線ケーブルの切り離しを確認!進路反転、ウィンチェスター、デトロイト、サンジャシントは我に続け!」

 

スラスターを激しく噴射しながらミカサが艦首を降り、ウィンチェスター以下の3隻がそれに続く。一方でホワイトベースとその左右を守るように位置するヤハギ、ピッツバーグは進路はそのまま推進器を最大噴射し最大戦足でサイド7に向かう。ジオン部隊の接触を受けた以上、これから先はサイレントランを続ける必要は無いためだ。一方でミカサを始めとした分派組もメインスラスターを最大噴射した。

 

「ウィンチェスター、本艦の前方に付きます。続けて、デトロイトとサンジャシント、本艦左右へ。デトロイトからは観測機、オウル01とオウル02発進します。」

 

「哨戒機アルバトロス06よりレーザー通信。前方のジオン部隊はムサイ級3隻とのことです。」

 

「敵のムサイは左舷側よりボギー01、ボギー02、ボギー03と呼称。まずはレールガン射撃からだ。アルバトロス、オウルの両隊には観測任務を下令。本艦目標ボギー01。ウィンチェスター目標ボギー02。敵艦との距離250キロから射撃開始。」

 

分派部隊は便宜的に第41-2任務部隊と名付け、哨戒機が捕捉したジオン部隊へ急接近しながら攻撃の準備を整える。(ヤハギのリヒャルト少佐率いる部隊は第41-2任務部隊だ。)後方の敵が3隻、ということはパオロ艦長から聞いていた事前の観測された部隊へ増援などはなかった、ということか。それならば分派した4隻で十分に対処できるはず。出来るだけ敵の撃破を急がねばならない。

 

「現在の距離400キロ。敵艦よりザクの発艦を確認。現在の数は6機です。」

 

「6機?3隻から出てくるにしては少ないな。最大で12機出てくるもの、と覚悟していたんだが。」

 

「何らかの作戦でも考えているのでしょうか?」

 

疑問を口にしたのはハイネ航空長で、頷いているのが砲術長だった。

 

「距離をもう少し詰めてから発進させるつもりかもしれな。だとしても、何とも中途半端な数だが。ともかく、こちらが手控えてやる必要はない。レールガンの攻撃は予定どおり。ガンキャノンとガンタンクの出撃は少し待て。」

 

「アイサー!ジオン部隊からのMSの発進は8機で止まりました。」

 

変な相手だ。連邦がネルソン型と連携させることでマゼランやサラミスからレールガン攻撃をすることはジオンにも広く知られている。そのため、レーザー通信を用いた現実的な射程である250キロを切るあたりからMSを一気に出撃させるのが定番の対応策となってきているのだが、何故、いま相対している部隊は1隻分にあたる機体を温存するなんて変な事をしている?

何か理由があるのか?変と言えば、3隻の配置も変だ。数で劣るのは分かっているのだから3隻とも砲撃できるように横隊を取るべきだろうに、なぜか1隻は後方に控えたままだ。あれでは前方の艦に射界を遮られてしまうだろうに。手負いの艦か?だが第22任務部隊からの情報ではジオン部隊との戦闘はサイド7方面では起きていない。

 

「奇妙な相手だ。何を考えているのか。」

 

「確かに。間もなく相対距離300キロを切りますが、近頃ジオンがよくやる『ダンス』もほとんどしていません。狙ってくれと言わんばかりです。」

 

『ダンス』というのは、ジオンの哨戒部隊がここ一月ほどで良くやるようになった艦隊機動だ。レールガンの射撃対策としてらしく、不規則なスラスター噴射で艦を上下左右に揺らしながら接近してくる。レールガンの弾丸は金属の塊で爆発しない。榴弾や時限信管付きの砲弾のように破裂して弾片被害を与えることが出来ないのだ。

乗っている側からすれば艦の動揺が激しくて乗り心地は最悪だろうが、(航洋艦はそういったものだと聞いたことがあるが)艦が沈むよりはまし、ということだろう。

だが、目の前の相手はそれをしない。正確には、しているが通常の揺れよりも振れ幅が小さく、また1度あたりの動揺周期も長い。ますますもって怪しい。

 

「・・・何かあるな。砲術長。最初に狙うのをボギー01からボギー02へ変更。ウィンチェスターと2艦で集中射撃する。」

 

「アイサー!何かあるとお考えで?」

 

「あからさますぎるからな。どう考えても変だ。場合によっては・・・・・・。」

 

考え込み、途中で会話が途切れたオレを参謀長も砲術長も不思議そうに見てくる。ただ、オレの表情から何か考えを整理していると分かったのだろう。2人とも話しかけずに待ってくれている。艦橋要員も同じで、ミカサの艦橋内は一時、静まり返った。

 

「そうか、しまった!目の前の部隊は囮で、本命は隠密機動でサイド7に取りつく腹か!」

 

「囮部隊、ですか。では早急に撃退してサイド7に向かわねばなりませんな。」

 

打てば響くような参謀長の返答だが、それでは遅い。

 

 

「それでは遅い可能性がある。航空長!艦載機を1機、至急連絡機として飛ばしてくれ。サイド7と第41-2任務部隊にも別動隊の敵襲の連絡を!」

 

「あ、アイサー!発進予定のオウル04を連絡機とします。コードネームはホーク01です!」

 

にしても観測機からは敵艦を3隻確認していた。なぜだ?

 

「司令、大変です!先行していたアルバトロス06よりレーザー通信!」

 

「なんだ!?」

 

「更に接近し詳細観測を行ったところ、ボギー02は光の反射率などに異常を認められる。デコイ、バルーンの可能性あり、とのことです!」

 

「バルーン?そうか、それで3隻に見せかけていたと言うことか!?」

 

バルーンだと?そんなもの一年戦争の期間中に使用されたなんて話あったか?というか待て、ならばレールガンの砲撃目標を変えなければ!?

 

「ウィンチェスター、第一射撃発射しました!」

 

「っ!本艦は射撃待て。ウィンチェスターの射撃結果を待ってから再度、射撃目標を指示する!」

 

レーザー通信の内容はウィンチェスターからも確認できたはず。ということはリューデッツ館長は本当にバルーンかどうかを確認するために距離260キロと予定より早く射撃を開始したのだろう。

 

「オウル02より観測結果。ボギー02は着弾の瞬間に破裂。バルーンだった模様。そしてボギー01と03は急速に『ダンス』を開始せり!」

 

「くそっ、やはりデコイを紛れさせていたのか。敵が『ダンス』をほとんどしていなかったのはバルーンデコイを曳航していたからだ。砲術!本艦目標ボギー01、ウィンチェスター目標ボギー03!直ちに沈める!」

 

「アイサー!オウル01より観測結果を受理、砲撃開始します!」

 

艦体から鈍い発射の振動が伝わり、光弾が両舷から1発ずつ飛んでいく。ウィンチェスターからも少し遅れて4発が飛んでいく。

 

「まさかデコイとしてバルーンを使用するとは。これは戦術として報告しておかねばなりませんな。」

 

「そうだな。遠距離からのレールガン対策としても有効だろう。リューネブルク参謀長、観測結果も添えて報告を作成しておいてくれるか?」

 

「はい、了解しました。」

 

「本艦、第一射撃。外れました。次弾、発射準備します。」

 

「砲術長、準備でき次第撃って構わない。早急に敵を沈めてくれ。」

 

「アイサー!第2射、撃ちます。」

 

「アルバトロス06より緊急!出撃していたMS8機が全て艦隊方向へ移動を開始しました。」

 

レールガンの第2射と被るように報告があがる。ジオン側もデコイがバレたので一気に戦闘にもつれ込ませて我々を拘束したいのだろう。ムサイからの砲撃も直に始まりそうだ。

 

「航空長、ガンキャノンとガンタンクを出撃させよ。ガンキャノンはセイバーフィッシュと共同でMSへの牽制。ガンタンクはムサイへの攻撃に当たらせる。」

 

「アイサー!出撃準備中のオウル隊全機も出撃させます。」

 

レールガンの射撃は続く。第2射ではウィンチェスターがボギー03に1発命中させるが与えた損傷はそれほどではないようで、敵は砲撃を開始してきた。第3射ではミカサとウィンチェスターどちらも1発ずつを命中させた。ボギー03は右舷推進機を破壊し、行き足が衰えている。ボギー01は主砲塔をひとつ潰したようだが、残念ながら戦闘は継続出来るようだ。そして、

 

「MSザクII4機、ウィンチェスターに近づく。メガ粒子砲対空射撃開始します。」

 

「サンジャシントもウィンチェスターを掩護射撃!残り4機はどうか。」

 

「2機ずつに分かれ、本艦とデトロイトに向かってきます!」

 

「砲術長、レールガンはそのまま敵艦を射撃。主砲、ならびに対空砲で迎撃始め!航空長、ガンキャノンとセイバーフィッシュにはウィンチェスターに向かっていくザクIIへ牽制を行うように伝えよ!」

 

「「アイサー!」」

 

「航海長、回避運動任せる!砲術長へ回避方向を伝えることは忘れるな。」

 

「アイサー!取り舵一杯、上げ舵20!」

 

航海長の返事と共に艦橋から見える戦闘光が急速へ右下へとずれていく。これまで見えていなかった後方のデトロイトの艦首が見え始めたところで今度は『面舵10!下げ舵15!』という報告が聞こえ、デトロイトの艦首が今度は左上へと見えなくなる。

 

「レールガン、第5斉射。撃ちます!」

 

それと同時に砲術長からの射撃報告も聞こえる。主砲はMSに向けてショットガン射撃を続けており、対空砲も撃ち方を始めている。カーゴ・ベイの上部甲板に見える出撃を命じたガンタンクからも砲撃の様子が見えており、ムサイ級への攻撃を行っている。と艦橋の窓越しに遠方で大きな爆発の光が見えた。

 

「司令、ウィンチェスターより報告。ボギー03の撃沈を確認。続けてボギー01へ射撃を行う。とのことです。なお、MS1機も撃墜とのこと!」

 

「よし、やったな!ボギー01も沈めるぞ!」

 

「司令。ガンキャノン1号機より報告。ウィンチェスターに向かっていたMSのうち、2機はガンキャノンに気を取られているようです。」

 

「副砲術長より艦橋へ。本艦に接近のMSのうち、1機に損傷を与えました。脚部破損のため、撤退する模様。続けてもう1機へ攻撃を集中させます。」

 

「了解した。ウィンチェスターとデトロイトはどうか?」

 

CICから迎撃の指揮をとる副砲術長が報告してくる。副長もモニターにいるので問い返すと、確認の後、副長が返答してきた。

 

「デトロイトも迎撃していますが、ガンキャノンに警戒しているのか、あまり突っ込んで来ないようです。射撃は続けています。ウィンチェスターは先程の報告通り、1機を撃破。もう1機はガンキャノンの2機と合流しようとしているようです。」

 

「司令、よろしいですか?」

 

報告を共に聞いていた参謀長がおもむろに話しかけてくる。

 

「どうした?参謀長。」

 

「敵のMSですが、動きがぎこちありません。連携もお粗末です。もしかすると新兵ではないかと。」

 

「・・・。参謀長もそう思うか?」

 

やはり参謀長もそう思ったか。MSの分かれ方からしてレールガンの搭載数が多いウィンチェスターを警戒したのだろうが、それなら全機でかかった方が確実に撃破できたはずだ。おまけに襲撃にかかろうとした時にガンキャノンを見るなり目標を変えてしまった。いくらMSとはいえ、一端艦への攻撃機動の加速を取っていたのに急に進路を変えるのは無駄が多い。

 

「確かにMSパイロットは新兵だろうな。だが艦の方は手練れだぞ。残り1隻だが巧みに進路を変えながら接近してくる。」

 

現に今も射撃をしてくるムサイ級にはなかなか攻撃が当たらない。どころか距離を詰めてきたためにだんだんとメガ粒子砲の射撃が正確になってきている。

 

「航海長、回避運動を徹底させてくれ。通信長、他艦にも回避の徹底を指示だ。」

 

なんとか被害をおさえたままでサイド7へ向かいたい。時間を稼がれてしまったのは癪だが、サイド7近傍に戦力を集中させればジオン側はそれだけ手を出しにくくなるはずだからだ。

 

「ガンキャノンと共にザクIIを牽制していたオウル08、被弾。観測装備を破棄すれば戦闘継続は可能とのことです。いかがいたしますか?」

 

「念のために1度後方へ撤退させ・・・!?」

 

ハイネ航空長に返事をしかけたところで艦橋から見えていたデトロイトにムサイからの砲撃の光が吸い込まれる。被弾した!?

 

「デトロイト、被弾!」

 

「損害知らせ!デトロイトの援護に入る!副砲術長、主砲射撃はデトロイトの援護へ!」

 

大きな爆発の光を見ながら直ちに援護の指示を出すと、すぐさま航海長がミカサを変針させ、デトロイトの右舷側に寄り添うように艦を移動させた。艦橋から見たデトロイト。カーゴ・ベイの正面扉はぐちゃぐちゃになっているが、推進器などは異常がないようだ。爆発の連鎖も無い。大丈夫か?

 

「デトロイトより報告!右舷カーゴ・ベイに被弾、火災発生するも鎮火の見込み。艦体へは被害なし、とのこと。」

 

「了解した、不幸中の幸いか。デトロイトには艦の保持に全力を尽くすよう伝えよ!」

 

カーゴ・ベイには艦載機の整備員を中心にかなりの人数がいたはずだ。戦死者も出ただろう。だが今は艦を沈めないこと、戦闘に勝つことが最優先だ。非情にならなければならない。そして今度はこちらの反撃だ!

 

「司令、ガンキャノンより報告!ザクIIを1機撃破!」

 

「砲術より報告!本艦とウィンチェスターの射撃、命中弾あり!敵艦にかなりの損害を与えた模様!」

 

「サンジャシントより、敵MS1機に直撃弾!爆発を確認!」

 

「本艦の対空砲にてデトロイトへ接近中のMS1機に命中弾、損害不明ながら敵機は撤退しつつあり!」

 

朗報が立て続けに入ってくる。これで脅威は残り3機のMSのみ、か?

 

「砲術長、念のためだ。ボギー01が沈むまで射撃は継続させよ!航空長、ガンキャノンには引き続きMSへの牽制を指示!」

 

「あ、司令お待ちください!ガンタンク1号機の射撃、ボギー01に命中!敵艦爆沈しました!」

 

「なに!?」

 

確かに近づきつつあったムサイのいたあたりに爆発の光が見える。ガンタンクの30センチ砲の砲撃が命中したのか!

 

「司令、残っていた3機から発光信号!これは・・・降伏信号です!あっ、撤退しつつあった機体からも!?」

 

「なにっ!?」

 

敵の母艦は沈み、戦闘開始からかなり時間が経っている今、MSだけでこのルナIIの裏庭のような宙域に残されても生きて帰ることは難しい。確かに降伏はあり得る選択肢だが・・・

 

「恐らくはこれも時間稼ぎの一手ではないでしょうか?」

 

参謀長の意見に渋い顔をしながら頷くしかない。そう、戦力として残ったMS3機だけではじり貧で、殲滅されるのは時間の問題だっただろう。奴らの任務が時間稼ぎと戦力の誘引であったなら、その残り少ない戦力で有効な時間稼ぎの方法は、まさにこれだ。

 

「間違いなく、敵の指揮官の命令だろう。母艦が沈められたら降伏しろ、とでも言われていたのだろうな。だが、降伏信号を確認してしまったら、無視することは出来ん。南極条約違反になってしまう。手順に則り、武装解除をして捕虜を収容しなくてはならん。」

 

「何より、見捨てればあのパイロット達は確実に命を落とすことになります。人道的にも見捨てることは出来ませんね。」

 

「・・・・。通信、デトロイトのヘルツ少佐を呼び出してくれ。」

 

「は、少々お待ちください。ミノフスキー濃度が濃いので、この距離ですので有線を繋ぎます。」

 

少し待っている間にハイネ航空長へ艦載機の収容指示も出す。デトロイトの右舷カーゴ・ベイが使えないから、本艦にも無理やりセイバーフィッシュを3機積み込まなければならなくなった。時間は掛かるが仕方ない。そうこうしているうちに、メインモニターにヘルツ少佐が映る。有線接続ができたようだ。

 

「デトロイトのヘルツ少佐です。司令、お呼びとのことですが。」

 

「応急修理の最中にすまんな。艦の状態はどうだ?」

 

「はい、敵の射撃はカーゴ・ベイを正面からまっすぐ撃ち抜いた形になります。右舷カーゴ・ベイは全損。確認中ですが、整備班や応急班を中心に戦死者は20名近くになります。」

 

「そうか。だが、沈まずにすんで良かった。一先ず、デトロイトは応急修理を進めてくれ。それと、そんな状態の貴艦に頼むのはすまないと思っているのだが、降伏したザクII4機の武装解除と捕虜の収容もお願いしたい。第41-1任務部隊はサイド7へ向かわなくてはならん。戦力を減らさぬためにも、デトロイト1艦のみをここに残して他の3隻はすぐにノアへ向かう事になる。頼めるか?」

 

オレがそう伝えると、ヘルツ少佐はしかしすぐさま頷いてくれた。

 

「了解しました。艦の修理、及び降伏した機体の武装解除を行います。本艦の艦載機についてはどうなさいますか?」

 

「ミカサとサンジャシントで3機は積み込ませ、サイド7へ連れていく。デトロイトには3機残して行く。それでなんとか周囲の警戒をしてくれ。」

 

「はい、その点についても了解です。なに、ここはルナIIの裏庭です。ゆっくりと時間をかけてもジオンに襲われる恐れは少ないでしょう。大丈夫ですよ。それで、武装解除が終われば、本艦もサイド7へ向かいましょうか?応急修理を行えば、戦闘も可能ですが。」

 

ヘルツ少佐が努めて明るく話す。いくらルナIIの裏庭とはいえ、今回の部隊のようにジオンが入り込む可能性はある。現にサイド7にもムサイ1隻が接近している可能性が高いのだ。そこに1隻だけの手負いの艦がいれば容易く沈められてしまうだろう。その危険を承知の上で受け入れてくれたのだ。

 

「いや、貴艦の状態は深刻だ。無理をせず、ルナIIへ帰還してくれ。後方には第13任務部隊も展開している。そちらに合流し、現状を伝える事も頼みたい。」

 

「・・・了解いたしました。司令、ご武運を。」

 

「ありがとう。ルナIIでまた会おう、少佐。」

 

互いに敬礼し、通信が切れる。どうか、生き残ってくれ。そう願いつつも、気持ちは切り替え、指示を出す。

 

「デトロイトを残し、他の3隻は進路反転。サイド7を目指す!ブルグミュラー01になんとしても追い付くぞ!最大戦速!」

 

メインモニターの隅に表示されている時刻は、既に9月15日1200を過ぎていた。




28話をお送りしました。過去最長の話となってしまいました。途中で切ることも考えたのですが、会議シーンが長々と続くだけの話は詰まらないな、ということで前半戦までお届けしています。

また、後書きの場ですが、以前にも少しご指摘をいただいていた、宇宙世紀における歴史の時代区分について、ここで少し解説を書かせていただきます。
原作において、ギレンやキシリアは西暦期のことを「旧世紀」と呼ぶことがありました。また、ギレンがWWIIのドイツ指導者についてデギン公王とギレンとで話した際には、「中世期の人物ですな」と表現することもありました。

また、近年は西暦何年が宇宙世紀元年なのか、について明記されなくなっていますが、過去の作品記述の設定においては、西暦1999年地球連邦の結成、西暦2045年に第1号コロニーの建設開始、コロニーの完成と宇宙移民の開始に伴い、宇宙世紀へ移行との設定があります。

そして、近年の作品ではガンダムUCにおいて、リカルド・マーセナス首相が首相官邸ラプラスの完成と官邸機能の移設をもって宇宙世紀元年とする、というシーンもありました。

ただ、現実の世界では、現在(西暦2026年時点)においてもちろん地球連邦は結成されていません。そのためこれらの設定を参考にしつつ、それぞれ年代をずらして考えてみました。

そこで今作では、
西暦2060年  地球連邦結成
西暦2085年~ 第1号コロニーの建設開始(と同時に首相官邸ラプラスの建造開始)
西暦2100~2120年頃 宇宙世紀に移行
と考えました。

そこから遡って、
現代 → 宇宙世紀移行以後
近代 → 西暦2070年~西暦末年(地球連邦が存在する 
     西暦の期間)
近世 → 西暦1945年~西暦2069年(WWII終結から地球   
     連邦結成まで)
中世 → 西暦1945年以前(~西ローマ帝国滅亡年)
古代 → 西ローマ帝国滅亡以前

と考えています。今後も歴史上の出来事について触れる際、この基準で記述をしますのでご了承ください。
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