天神の加護と共に   作:キヨシ

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題名から分かる通りあの人が出て来ます。


第16話 ブラザー爆誕!

暗雲の垂れ込めがちな鬱蒼とした山裾の廃校跡地で、四人の呪術師……あるいは未来の特級たちが出会おうとしていた。

湿った風が吹き抜ける中、長身の女性――九十九由基が、退屈そうに首を回しながら隣の少女に視線を投げる。

「で? 冥冥、君の自慢の弟子ってのは遅刻かい? 12歳にしてあの身長と筋力、おまけに呪力操作のセンスもずば抜けてるって話だがね」

「ふふ、彼に限って遅刻はないよ。時間と金の管理において、私の教育は完璧だからね」

銀髪の美貌の術師、冥冥は優雅に柄付の扇子を揺らした。その傍らには、小学六年生とは思えぬ筋骨隆々の巨躯を誇る少年――東堂葵が、腕を組んで仁王立ちしている。東堂の瞳には、まだ見ぬ同い年の共闘術師に対する鋭い品定めと、隠しきれない期待が宿っていた。

「ほう……Ms.冥。その弟子とやらは、俺の『相棒(ブラザー)』になり得る男なのか? 俺の基準は厳しいぞ」

「葵、焦るなよ。ほら、来たよ」

九十九の言葉に誘われ、足音が一つ、静かに近づいてきた。

茂みを割って現れたのは、一人の少年だった。

土師菅公(はじすがきみ)。今年で12歳。しかし、その身長は178センチメートルに達していた。常人であればもてあますような高身長でありながら、全身には無駄な贅肉はおろか、重苦しい太り過ぎの筋肉すら削ぎ落とされている。しなやかで長い肢体は、まるで研ぎ澄まされた日本刀のように無駄のない美しさを漂わせていた。

「遅くなりました、冥さん。途中の境界線で呪霊の残穢を少し清掃していました」

「ご苦労様、菅公。今日もいい仕上がりだね」

菅公は軽く一礼すると、九十九と東堂に向き直った。菅公にとって、二人は今日が初対面だ。

東堂葵の視線が菅公の全身を射抜く。菅公もまた、同い年とは思えない東堂の圧倒的な威圧感を正面から受け止めた。二人の間に、ピリリとした静寂が走る。

その静寂を破ったのは、東堂の雷鳴のような大声だった。

「初めましてだな、土師菅公! 俺は東堂葵! 早速だが……ひとつ質問させてもらう!」

東堂は一歩踏み出し、菅公の鼻先に太い指を突きつけた。

「お前は、どんな女がタイプだ?」

九十九が楽しそうにニヤニヤと笑い、冥冥は扇子の陰でくすりと微笑む。菅公は眉一つ動かさず、至極真面目な顔で東堂の目を見返した。

「……女のタイプ、か」

菅公の頭裏に、ある光景がフラッシュバックする。

それは彼が5歳の頃、呪具の調整に伴って訪れた禪院家の広大な屋敷での記憶だ。そこで出会った同い年の双子――禪院真希と真依。虐げられながらも鋭い眼光を秘めた少女たち。そして、何より師である冥冥の美貌。

菅公は腕を組み、淀みなく言い放った。

「胸が大きく、腰から太腿にかけてのラインが『黄金比』を描いている女性だ。ただ胸が大きいだけでは駄目だ。くびれからの滑らかな曲線、そして太腿の肉付きが完璧な調和を保ってこそ、真の美と言える。具体名を挙げるなら、冥さんや……昔会った禪院家の真希、真依のような骨格の持ち主だ」

その言葉を聞いた瞬間、東堂葵の顔色が劇的に変わった。瞳に激しい情熱の炎が宿り、ぽろぽろと目から涙が零れ落ちる。

「おお……! なんという気高きこだわり……! ただの大きさではなく、腰から太腿への黄金比だと……!? まさに男のロマン! 完璧な答えだ、土師菅公……いや、ブラザー!!」

「急にブラザーと呼ばないでくれ」

冷ややかに返す菅公だったが、東堂のテンションは最高潮に達していた。

「まあまあ、仲良くなれたようで良かったじゃないか」

九十九が笑いながら二人の肩を叩く。

「さて、Ms.冥。今回この二人に合同任務を組ませた本当の理由は?」

冥冥は静かに扇子を閉じた。

「菅公はね、その圧倒的な才能ゆえに、今まで私以外の術師とまともに共闘した経験が無いんだよ。他人の動きに合わせる、あるいは他者を巻き込まずに戦うという戦術的視野を学ばせるには、同年代でトップクラスの打撃力を持つ東堂君が最高の壁であり、相棒になると思ったのさ」

今回の任務目標は、奥多摩の深い山中に潜む特級呪霊「土蜘蛛(つちぐも)」の討伐。本来なら一級術師が複数名で当たるべき大物だった。

「行くぞ、ブラザー! 俺たちの初陣だ!」

「だからブラザーはやめろ。……行くぞ、東堂」

◇

湿った風が巻き起こる深山幽谷。旧坑道の奥深くに足を踏み入れると、空気はヘドロのような呪力で重く澱んでいた。

「ギギ……ギチチチチッ!」

暗闇の奥から、無数の不気味な複眼が怪しく光る。体長五メートルを超える巨大な躯体。八本の頑強な節足と、鋭利な大顎。特級呪霊「土蜘蛛」が、縄張りを侵した幼き人間たちを喰らおうと這い出てきた。

「ハッ、特級とはいえ所詮は虫ケラ! 先陣は俺が切る!」

東堂が大地を蹴り、一瞬で土蜘蛛の懐へと潜り込む。呪力を纏わせた重厚な拳が、土蜘蛛の顔面に叩き込まれた。

ドォンッ!!

凄まじい衝撃波が坑道を揺らす。しかし、土蜘蛛は硬質な外骨格でそれを受け止めると、吐き出された無数の粘着糸と鋼鉄をも断ち切る足先で東堂を弾き飛ばそうとした。

「フンッ!」

そこへ、残像を残して滑り込んできたのが菅公だった。

菅公の戦闘スタイルは徹底していた。彼は通常の戦闘では意図的に術式を使わない。師である冥冥から叩き込まれた呪力操作の極意と、天性の体術のみで戦うのだ。

「フッ……!」

菅公は土蜘蛛の振り下ろされた節足を、最小限の紙一重でかわす。同時に、流れるような動作で相手の関節部へと踏み込んだ。

12歳の細身に見える体躯のどこから発せられるのか、正確無比な呪力の集中。

ゴガァンッ!!

菅公の掌底が土蜘蛛の関節を打ち抜く。内部へ浸透した呪力の波動が外骨格を内側から破壊し、巨大な節足の一本が爆散した。

「ギシャアアアアッ!?」

「ほう……! 術式を使わずにその威力、その精度! やるなブラザー!」

吹き飛んでいた東堂が空中での体勢を整え、壁を蹴って戻ってくる。菅公と東堂。初共闘とは思えぬ呼吸で、二人は土蜘蛛を畳みかけた。東堂の力強い打撃が土蜘蛛の体勢を崩し、菅公の鋭い貫手や蹴りが確実に関節と目を破壊していく。

しかし、特級呪霊はただ叩かれるだけの存在ではなかった。

激痛と死の恐怖に晒された土蜘蛛が、狂乱の呪力を全開にする。

「ギィエアアアアアッ!! 領域展開――『蛛網凶獄・粘糸毒殺界(しゅもうきょうごく・ねんしどくさつかい)』!!」

一瞬にして周囲の景色が塗り替えられた。

そこは、上下左右すべてが無数の太い粘着糸で埋め尽くされた、巨大な蜘蛛の巣の胎内。足場はネバネバとした糸に奪われ、空間全体には触れるだけで皮膚を溶かす強酸性の毒胞子が充満していく。

「チッ、領域展開か……!」

東堂が顔を顰める。領域内では呪霊の術式が必中となる。無数の毒糸が、全方位から逃げ場なく二人に向かって襲いかかってきた。

「東堂、下がりな」

静かな、だが絶対の確信に満ちた菅公の声が響いた。

「なに?」

菅公は深く息を吐き出し、これまで体内に抑え込んでいた膨大な呪力の奔流を開放した。その全身から、バチバチと黄金の火花が散り始める。坑道全体を圧迫するほどの、神聖にして苛烈な気配。

「冥さんとの約束でね。普段は術式を封印しているんだが……特級の領域を相手に手加減していては、師匠に怒られる」

菅公の瞳が、黄金色の雷光を宿して輝く。

「術式開帳――『落落雷雷(らくらくらいらい)』」

菅公が右手の指先を土蜘蛛へ向けた。集束する絶大な雷撃の呪力。

「順転――『飛雷遠雷(ひらいえんらい)』!」

ズドォォォォンッ!!!

指先から放たれた一筋の閃光が、領域内を乱舞していた大量の毒糸を焼き払いながら、土蜘蛛の巨躯を直線状に穿った。光速に近い雷霆の貫通力。土蜘蛛の胴体に直径一メートル近い大穴があく。

「ギ、ギギャアアアッ!?」

「なっ……なんという威力の術式だ……!」

東堂すらもその破壊力に目を見張る。だが、菅公の攻勢は止まらない。土蜘蛛が怨嗟の声を上げ、領域の必中効果をもって無数の毒針を菅公の全方位から放った。

「無駄だ」

菅公の姿が、一瞬にして消失した。

反転――『雷化舜動(らいかしゅんどう)』。

自身を雷そのものへと変化させ、光速の領域で移動する絶対の移動術式。全ての毒針は菅公の残像すら捉えられず、空を切る。

次の瞬間、土蜘蛛の頭上に菅公が現れていた。行動自体が光速に達しているため、そこに上乗せされる運動エネルギーは常識を遥かに超越する。ただのシンプルな拳の振り下ろしが、質量を超えた絶望の破壊力へと変貌していた。

ドガアアアアアアアアンッ!!!!

「グギャアアアッ!?」

光速のパンチが土蜘蛛の頭部を叩き割り、巨大な躯体が領域の底へと叩きつけられる。空間全体が激しく揺れ動く。

満身創痍となった土蜘蛛は、残された呪力を振り絞り、領域内の粘着糸を一点に集めて菅公と東堂を押し潰そうと蠢いた。数千、数万の糸が巨大な津波となって二人を飲み込もうとする。

「しぶといな。なら、磁性から壊す」

菅公は空中から両手を広げ、領域全体へ向けて拡張術式を展開した。

拡張術式――『死苦発苦(しくはっく)』。

菅公を中心に、強大な電磁波が放射される。空間に満ちるあらゆる物質、そして呪霊自身の呪力粒子に強力な磁力が強制付与された。

「ガッ……ギギギッ!?」

引き合い、反発し合う極端な磁力波によって、土蜘蛛の迫り来る糸の群れは互いに絡まり合い、自壊を起こして破砕していく。さらに土蜘蛛自身の体内の呪力と肉体も磁気嵐によって激しくねじ切れ、内部から崩壊を始めた。

「終わりだ、特級」

菅公は地面に着地すると、静かに両手を結んだ。

特級呪霊の領域を、上から完全に塗りつぶすための至高の秘術。12歳にして彼が到達した、神域の領域。

「領域展開――『桑原桑原(くわばらくわばら)』」

ゴォォォォォォォォォン……!!

土蜘蛛の不気味な蜘蛛の巣の領域が、まるでガラスが割れるように粉々に砕け散った。

代わりに広がったのは、どこまでも続く神聖なる無限の雲海。

そして、雲海を突き破るように天へと聳え立つ、幾千、幾万もの黄金の鳥居。

静寂と、神聖な雷鳴の響きが支配する絶対の神域。

「こ、これは……なんという美しく、荘厳な領域だ……!」

東堂葵はその光景に息を飲み、心底からの感動に震えた。

領域の真ん中で、土蜘蛛は神聖な空気に圧迫され、指一本動かすことすら許されずに伏していた。

菅公が静かに手をかざす。

「桑原、桑原。神の雷に焼き尽くされよ」

ドドドドドドドドドドドドドンッ!!!!

天空から、数億という単位の黄金の雷霆が途切れることなく降り注いだ。

雲海が黄金に染まり、天と地を繋ぐ光の柱が領域内を埋め尽くす。

「ギ―――――――――――――――ッ!!!」

悲鳴すらも雷鳴の轟音にかき消され、特級呪霊「土蜘蛛」の肉体、呪力、そして魂の欠片に至るまで、文字通り何一つ残さず消滅していった。

雷光が収まり、黄金の鳥居と雲海がゆっくりと霧散していく。

二人が戻ってきたのは、静まり返った元の廃校跡地だった。土蜘蛛の残穢すら残っていない、完璧な祓除。

「……ふぅ」

菅公は小さく息を吐き、乱れた前髪をかき上げた。

その背中に、ドスドスと重い足音が近づいてくる。振り返る間もなく、東堂葵が菅公の肩を力強く掴み、感極まった表情で叫んだ。

「素晴らしい……! 素晴らしいぞ、ブラザー!! 術式を使わぬ圧倒的な体術のキレ! そして解禁された術式の苛烈さと領域の美しさ! お前は最高だ!!」

「だからブラザーと呼ぶなと言っている……が、まあ、お前の体術のサポートも悪くなかった」

菅公が少し呆れたように、けれど嫌がりもせずに返すと、東堂は豪快に笑った。

「ハッハッハ! 照れるなブラザー! 任務も終わったことだ、今から俺の行きつけの店で高タンパクなメシでも喰いながら、好きな女の『黄金比』について朝まで語り明かそうじゃないか!」

「断る。僕は冥さんとの反省会がある」

「遠慮するな! Ms.冥も誘えばいい! Ms.冥の腰から太腿のラインも実に素晴らしいからな!」

「おい、東堂。師匠の体型を勝手に評価するな」

そこへ、拍手をしながら冥冥と九十九由基が歩み寄ってきた。

「見事な連携だったよ、二人とも。菅公、共闘の感覚はどうだったかい?」

「……悪くありませんでした。東堂の動きは無駄がなく、僕の打撃の射線を邪魔しなかった。連携の経験としては良いデータが得られました」

「ふふ、それは良かった。これで君の術師としての価値がまた一つ上がったね。今日の依頼料、九十九からの仲介料も含めてしっかり計算させてもらうよ」

銭ゲバな師匠の言葉に菅公が苦笑していると、九十九がニヤニヤしながら菅公の顔を覗き込んできた。

「いやあ、土師菅公くん。君の術式と領域、噂以上だねぇ。それにしても『黄金比』か……将来が楽しみな大物だよ、君は」

「九十九さんまで茶化さないでください」

菅公は溜め息をつきつつも、自身の掌を見つめた。

初めての同年代との共闘。そして術式の解放。

178センチのしなやかな身体に秘められた才能は、この合同任務を経て、さらに高く、鋭く研ぎ澄まされたのだった。

 




はい、と言うわけで我らがブラザー東堂葵君の登場です。やはり我らがブラザーは欠かせませんね。ついでにプー太郎こと九十九由基さんも登場しました。そう言えば九十九由基って年齢何歳なんでしょうね?外見はどう見ても20代後半にしか見えませんね(笑)次回は誰を登場させようかな〜♪
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