天神の加護と共に   作:キヨシ

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次話の投稿です。今回は五条悟との邂逅です。


第1話 最強との邂逅

木犀の香りが微かに漂う、広大で静寂に包まれた日本家屋。

土師菅公は、前を歩く父の広い背中を見上げながら、よく手入れされた軋まない廊下を静かに歩いていた。数日前に訪れた禪院家もそうだったが、御三家と呼ばれる一族の屋敷には、どこか人の息遣いを拒絶するような冷たく重たい空気が澱んでいる。

(禪院家で会ったあの双子……真希と、真依と言ったか)

呪力を持たないと大人たちから冷ややかな目を向けられながらも、真っ直ぐな瞳をしていた少女と、その後ろで怯えるように身を縮めていた少女。五歳という同年代でありながら、彼女たちが背負う理不尽な重圧は、菅公の目にも異様に映った。

そして今日、足を運んでいるのは五条家。菅公の生家である土師家は、大怨霊・菅原道真を祖とする五条家にとって、さらにその源流に遡る氏族である。血の繋がりで言えば遠い親戚にあたるが、呪術界における政治的権力差は天地ほどもあった。今日は土師家当主である父が、五条家の重鎮たちへ挨拶と報告を行うための退屈な会談の日だ。

客間で父が大人たちの堅苦しい挨拶を始めたため、同席を免除された菅公は一人、縁側に出て庭の鹿威しを眺めていた。

「へぇ、お前があの土師家の神童くん?」

不意に、頭上から声が降ってきた。

足音も気配も一切なかった。反射的に身を強張らせて振り返ると、そこには丸い黒のサングラスをかけた白髪の長身が立っていた。

東京都立呪術高等専門学校の黒い制服。しかし、着崩したその出で立ちからは、とてつもない質量の呪力がダダ漏れになっている。空気が彼を中心に歪んでいるような、息苦しいほどの存在感。

現代最強の呪術師、五条悟。

まだ学生でありながら、既に呪術界の頂点に君臨しつつある男。五歳の菅公でさえ、本能があの男には触れるなと激しい警鐘を鳴らすほどの圧倒的な『強者』だった。

「年寄りの長話から逃げ出してきちゃった。堅苦しいのは嫌いなんだよね」

縁側にどかっと腰を下ろした五条は、サングラス越しに蒼い瞳で菅公を覗き込んだ。その瞳——『六眼』に射抜かれた瞬間、菅公は自分の臓腑の底、呪力の源から術式の構造まで、その全てを丸裸にされたような錯覚に陥った。

「ふーん……なるほどね。菅原より古い土師の血。どおりで、俺らと似たような呪力の匂いがするわけだ」

五条の口角が面白そうに上がる。

「術式は『落落雷雷』だっけ。五歳でもうその呪力出力……雷の性質変化もバッチリ出来てるみたいじゃん。いいね、数日前にお前が会ったっていう禪院のところの落ちこぼれ双子より、よっぽど見込みがある」

その言葉に、数日前の記憶が蘇る。

大人たちから向けられていたあの双子への蔑みの視線。それを最強の呪術師からも突きつけられたような気がして、菅公の胸の奥で苛立ちが跳ねた。

バチッ、と。

無意識のうちに、菅公の指先から青白い火花が弾けた。空気が焦げる匂いが漂い、微弱な雷撃が縁側の空気を震わせる。

「……あいつらを、落ちこぼれなんて言わないでください」

五歳の子供とは思えない、静かで通る声だった。指先に集束した雷の呪力は、五条という底知れない怪物を前にしても決して消えることはなかった。

五条は一瞬だけ目を丸くしたが、直後に「あははっ!」と楽しげに笑い出した。

「いいね、生意気だ! 俺の前でそんな闘気を剥き出しにする奴なんて、最近じゃ傑くらいしかいないのにさ。しかも、たった五歳で」

最強の呪術師は、面白がるように菅公の頭を撫で回した。わしゃわしゃと髪を乱されているのに、確かな感触と自分の頭の間に「何か一枚の絶対的な壁」があるような、ひどく奇妙な感覚だった。それが彼の持つ『無限』であると、菅公の直感が告げていた。

「強くなれよ、菅公。その『落落雷雷』で、いつか俺を楽しませてよ。期待してるからさ」

そう言い残し、五条悟は手をひらひらと振りながら、ふらりと庭の奥へと消えていった。歩くたびに周囲の空気を従えるような、嵐の中心のような背中だった。

残された菅公は、乱れた髪を小さな手で直しながら、指先に残る微かな雷の熱を強く握りしめた。

あの絶対的な強さ。そして、触れることすら許されない無限の壁。

恐怖はなかった。ただ、あの壁をいつか自分の雷で撃ち抜いてみたいという、純粋で獰猛な闘志だけが五歳の胸に宿っていた。

空を見上げると、遠くの山際に、今にも雷雨を降らせそうな黒雲がゆっくりと集まり始めていた。




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