天神の加護と共に   作:キヨシ

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第2話です五条悟との隔絶した力への憧憬と焦りを胸にした菅公はどう振る舞うのかお楽しみください。


第2話 高みへの発露

あの蒼く澄み切った瞳を、土師 菅公(はじ すがきみ)は生涯忘れることはないだろう。

数ヶ月前、父様に連れられて赴いた呪術界の会合でのことだった。

『六眼』と『無下限呪術』を併せ持つ、現代最強と謳われる男——五条 悟。

彼がふと菅公へ向けた視線は、一切の悪意も敵意もない、ただの「観測」だった。だが、たったそれだけのことで、菅公は己の存在が深海に沈められたかのような圧倒的なプレッシャーと、途方もない実力差を肌で理解してしまった。

(あんな化物が、この世にはいるのか)

土師家は、日本三大怨霊と恐れられる菅原道真、その菅原氏のさらなる祖にあたる由緒正しき呪術師の家系である。

菅公自身もまた、その血の濃さを証明するかのように、5歳にして強力な術式『落落雷雷(らくらくらいらい)』を顕現させていた。雷を自在に生み出し、操るその力は、大人たちをも驚嘆させるものだったが、あの蒼い瞳の前では、ただの静電気に過ぎないと思い知らされたのだ。

「……父様」

土師家の広大な庭で、指先にバチバチと紫電を這わせながら、菅公は縁側に座る父様・宗矩(むねのり)に声をかけた。

「どうした、菅公」

「俺は、もっと強くならなきゃいけない。五条悟……あいつの背中に追いつき、追い越すために」

「……五歳児が口にする目標としては、あまりに遠大だな」

宗矩は呆れたように息を吐いたが、その目には確かな期待が宿っていた。

菅公は小さな拳を握りしめる。

「俺の術式『落落雷雷』は強力だ。でも、呪力だけであいつには勝てない。基礎が……体を動かす土台が決定的に足りないんだ。父様、俺に体術を教えてくれる奴を紹介してくれ。それも、とびきり強い奴を」

宗矩は少しの間沈黙し、やがてゆっくりと頷いた。

「よかろう。お前の術式は強力ゆえに、制御には精密な肉体の操作が不可欠となる。体術を極めることは、術式の底上げにも繋がるはずだ。……心当たりが一人いる。少々、値は張るがな」

数日後。

都内某所の高級ホテルのラウンジで、菅公と宗矩は一人の女性と対面していた。

長い銀髪を顔の片側で三つ編みにし、口元に妖艶な笑みを浮かべる長身の女性。

一級呪術師、冥冥(めいめい)。

「……冗談でしょう、宗矩さん?」

出された紅茶に口もつけず、冥冥は値踏みするような視線を菅公に向けた。

「いくら土師家の当主からの依頼とはいえ、5歳の坊やの『お守り』なんて。私の時間をなんだと思っているんだい。ベビーシッターなら、もっと安くて適任な業者がいくらでもありますよ?」

「お守りを頼むつもりはないさ、冥冥。私はこいつに、実戦で通用する体術の基礎を叩き込んでほしいと言っているんだ」

宗矩はそう言うと、テーブルの上に分厚い封筒を滑らせた。しかし、冥冥はそれにチラリと目をやっただけで、ふぅとため息をつく。

「金銭(これ)で私の時間が買えるのは事実だけど、投資にはリターンが必要。この子がそれだけの価値を持つかどうか……」

「価値なら、ありますよ」

大人たちの会話を遮り、菅公は冥冥を真っ直ぐに見つめた。

「冥さんは、お金にしか興味がないと伺っております。でしたら、僕に投資してください。僕は将来、必ず五条悟を超える術師になります。僕の体術を冥さんが鍛え上げたとなれば、呪術界での冥さんの『箔』は今よりずっと跳ね上がるはずです」

5歳児らしからぬ、理路整然とした、しかし野心に満ちた物言い。

そして、その言葉と同時に、菅公の小さな体からバチリと空気を焦がすような紫電が迸った。ラウンジの照明が一瞬だけ明滅し、周囲の空気が重く、そしてビリビリと痺れるような呪力に包まれる。

「……ほう?」

冥冥の目が、初めて興味深げに細められた。

卓越した呪力操作、そして何より、その瞳に宿る飢えた獣のような野心。

「土師家の末裔、『落落雷雷』の使い手……話には聞いていたけれど、実物は想像以上だね。なるほど、確かに将来の『極上の商品』に育つ可能性はありそうだ」

冥冥は赤い唇を釣り上げ、長い指でテーブルの上の封筒を引き寄せた。

「いいだろう。引き受けよう。ただし、私は金には厳しいけれど、指導にはもっと厳しいよ? 5歳だからといって、容赦はしない。泣いて逃げ出しても、返金は一切受け付けないからそのつもりでね」

「望むところです。どうか、厳しいご指導をよろしくお願いいたします、冥冥先生」

丁寧な口調の裏に不敵な笑みを隠し、菅公は深く頭を下げた。

現代最強の術師に焼き付けられた焦燥感。

それを原動力に、血統の誇りと雷の如き才能を秘めた5歳の童子は、守銭奴の一級術師を師と仰ぎ、地獄の修練へとその小さな足を踏み出したのだった。

 




菅公の体術の師匠を誰にするかでかなり迷いました。他の候補として伏黒甚爾、九十九由基、夏油傑が上がったんですがやはりココは我らが冥冥姉様に御出馬願いました。
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