薄暗い旧商店街の路地裏には、湿った風と共に不快な呪力の残穢が重く淀んでいた。
少し離れた場所で、白い目隠しをした男——現代最強の呪術師・五条悟が「やれやれ、相変わらず嫌な味の痕跡を残すねぇ」と軽薄な口調で空間を弄んでいる。
その傍らに立つ少年、土師菅公は、鋭い眼光で足元に漂う残泥のような呪力を睨みつけていた。
菅公は15歳にして183センチという、大人顔負けの長身と引き締まった体躯を備えている。菅原道真の先祖にあたる古代の呪術・葬送一族「土師家」の正統なる血脈を引く彼は、その高貴な出自に恥じぬ圧倒的な才能と冷徹な牙を内に秘めていた。
今日、彼と五条が追っていたのは、同級生の狗巻棘と乙骨憂太が派遣された任務先で対峙したという等級外——準一級相当の呪霊の痕跡だった。そしてその特徴は、菅公の恩師であり師匠でもある冥冥が「自分の買い取ったはずの獲物を横取りされた」と零していた呪霊の性質と完全に一致していた。
「……五条さん。この呪力、間違いないですね」
「うん。僕の『六眼』を誤魔化せると思ってるあたりが相変わらずおめでたいけどね。間違いなく傑——夏油傑だよ」
確定の証言を得た菅公は、すぐさま懐からスマートフォンを取り出し、画面をフリックして目的の番号へと発信した。数秒の呼び出し音の後、耳元から甘く、どこか底知れない艶を孕んだ女性の声が響く。
『私だ。どうだったかい、菅公?』
「以上の事から冥冥さんの獲物を掻っ攫っていたのは夏油傑で間違いないでしょう」
菅公の冷静な報告に、電話の向こうで微かにグラスが触れ合うような音が聞こえた。
『成程ね、相手は夏油君だったか。どうりで痕跡を追えなかった筈だ』
「今まで沈黙を守っていたあの“最悪の呪詛師”がここに来て動き出した、非常に気になる所です。果たして何を企んでいるのやら」
菅公は不快感を隠さずに眉をひそめた。菅公にとって、呪術界の平穏を脅かす者や、自身の身内に不利益をもたらす敵対者は「例外なく皆殺し」にすべき害虫でしかない。
「何にせよコレからも冥冥さん仕事に支障をきたす恐れがある以上、早急に排除したい所です」
『確かにそうだね。だが菅公、相手は特級だいくら君でもそう簡単にはいかないよ』
警告を含んだ冥冥の言葉に、菅公の口元が薄く歪んだ。不遜とも取れる自信に満ちた笑みが、その端正な顔立ちに浮かぶ。
「ソレは重々、承知してます。ただ、僕の最終目標が五条悟や菅原道真の怨霊を超える事である以上、“最悪の呪詛師”程度でもたつく訳には行きません、もし僕の眼前に立術したら全力で抹消します」
電話の向こうで一瞬の間があった後、くすくすと心地よい鈴の音のような笑い声が漏れた。
『良い覚悟だ、期待しているよ未来の旦那様』
その言葉を聞いた瞬間、菅公の背筋に熱い快感が走り、身体の奥底から猛烈なやる気が湧き上がってくるのを実感した。
『ところで』
冥冥が声音を少し低くし、前置きを置く。
『今回の私からの命を君は約束通り半月以内で済ませた、君の私への献身には毎度、感心がさせられるよ…約束通り報酬とは別に御褒美をあげよう』
(そ、そう言えばそんな事言ってたな……!)
報告の達成感で頭がいっぱいだった菅公は、前言を思い出して不意を突かれた。
『今日の午後8時に帝国ホテルへ来なさい、遅刻は厳禁だよ 』
ツィー……という切断音とともに通話が途切れる。
菅公は手に持ったスマートフォンを握りしめたまま、凍りついたように立ち尽くした。
「おいおい菅公、顔が真っ赤だぞ? あの金にうるさい冥さんに何か良からぬことでも吹聴されたか?」
「なっ……何でもありません! 五条さん、僕はこれで失礼します!」
腕時計を確認した菅公の顔色が跳ね上がった。現在時刻は午後6時半を回っている。
(予定の時刻まで、もう時間がない……!)
菅公は五条の制止も聞かず、爆風のような脚力で旧商店街を蹴り出し、東京の街中へと走り出した。冥冥との約束に遅れるなど論外だ。そして何より、今の自分は泥と残穢の臭いが染み付いた任務帰りの身である。最高の男として彼女の前に立つためには、身なりを整え、完璧に洗練された状態でなければならない。
高級ブランドショップへと滑り込み、自身の183センチの長身に合わせた仕立ての良いダークネイビーのスーツと革靴を即金で購入し、速やかに身を包む。鏡に映る己の姿を何度も確認し、髪を整え、微かな香水を纏う。
走り続ける道中、菅公の脳裏にはこれまでの歩みが走馬灯のように駆け巡っていた。
土師家の正統な後継者として生まれた彼は、幼い頃から圧倒的な強さを求めていた。五条家の屋敷で初めて出会った五条悟の「最強」の圧倒的存在感。それに心を奪われた菅公は、五条を超えるための道を探し続けた。
また、5歳の頃に訪れた禪院家の屋敷では、同い年の真希や真依と出逢い、歪んだ家に抗う真希の力強さに触れて親交を深めた。今でもポニーテールを揺らしながら男勝りに笑う真希や、少し意地張りな真依とは親しい友人関係が続いている。
だが、彼を何よりも惹きつけたのは、父である土師宗矩の紹介で出会った一人の女性——冥冥だった。
金の亡者と揶揄されながらも、圧倒的な理と冷徹な実力、そして大人の女性としての妖艶な魅力を持つ彼女に、菅公は自らの意思で弟子入りを志願したのだ。
(僕には、負けられない理由がある……)
菅公は走る足をゆるめず、胸中の内なる力を確かめる。
彼の生来の術式『落落雷雷(らくらくらいらい)』。
さらなる覚醒を経て、彼から放たれる雷は従来の黄色から禍々しく美しい「赤雷」へと変貌を遂げ、その破壊力は数十倍へと 跳ね上がっていた。
指先から超高出力の稲妻を広域・遠距離へ解き放つ術式順転『飛雷遠雷(ひらいえんらい)』。
自らを雷そのものと化して光速で移動し、あらゆる打撃を壊滅的な破壊兵器に変える術式反転『雷化舜動(らいかしゅんどう)』。
強力な電磁波によって人体や物体、さらには呪霊の呪力構造すら破砕する拡張術式『死苦発苦(しくはっく)』。
ツァーリ・ボンバに匹敵する威力を秘めた雷の槍を投擲する極ノ番『雷帝(らいてい)』。
そして、無限の雲海と幾千の黄金鳥居が立ち並ぶ神域を構築し、数億の赤雷で全存在を無に帰す領域展開『桑原桑原(くわばらくわばら)』。
さらに、彼にはもう一つの絶対的な札があった。
和歌山の古代古墳で発見した手のひらサイズのピラミッド型遺物『光盤文書』。金の細工と内部で輝く赤水晶に封印されていたのは、土師家の血脈のみが紐解くことを許された古代の知恵であった。
菅公はその解析によって、特級呪具『緋蝕刃(ひしょくじん)』を手に入れた。
赤く輝くプラズマの刃を持ち、ありとあらゆる物質、呪力、術式、果ては極めれば概念すらも切り裂くその双刃を、彼は3年の歳月をかけて習得した「一の型」から「七の型」までの剣法で完璧に使いこなす。
攻撃と防御のバランスに長けた六の型や、一切の防御を捨て去り破滅的な斬撃を繰り出す七の型——。
通常戦闘では術式を使わずとも、この緋蝕刃と極限まで鍛え上げた肉体だけで菅公は敵を屠り去ってきた。すべては「最強」を超え、そして隣に立つにふさわしい男となるために。
言葉通りの努力と成果を積み重ねてきた彼に、今、冥冥は「御褒美」をくれるというのだ。
午後7時55分。
菅公は洗練された足取りで、帝国ホテルの重厚なエントランスを潜り抜けた。
エレベーターで最上階近くのラグジュアリー・スイートへと向かう。胸の鼓動が、かつてどんな死線でも跳ね上がったことのない激しさで高鳴っていた。
指定された部屋の前に立ち、深呼吸を一つ。
静かにドアノブを回し、部屋へと足を踏み入れた。
間接照明が仄暗く室内を照らし、洗練されたアロマと、微かな高級ワインの香りが空間に漂っている。
大きな掃き出し窓からは、東京の眩い夜景が一面に広がっていた。
「……遅刻せずに来られたかい、菅公」
ソファーに浅く腰掛け、クリスタルグラスを傾けていた女性がゆっくりと振り返る。
そこにいたのは、いつもの戦闘衣ではなく、滑らかなシルクのナイトドレスを身に纏った冥冥だった。編み込まれた銀髪が肩から滑り落ち、豊かな胸元の谷間と、すびやかな脚のラインが惜しげもなく露わになっている。
「……こんばんは、冥冥さん。約束通り、伺いしました」
183センチの恵まれた体を緊張で僅かに強ばらせながら、菅公は背筋を正して答えた。普段の冷徹な殺し屋の顔は影を潜め、そこには15歳の少年の純情さが覗いている。
「ふふ、実に素晴らしい身なりだ。私のためにわざわざ着替えてきてくれたんだね。……実に可愛いらしいよ」
冥冥はグラスをテーブルに置くと、しなやかな動作で立ち上がり、ゆっくりと菅公へと歩み寄ってきた。ヒールの音が静かな室内に響く。
菅公の目線に合わせて見上げるように顔を近づけると、彼女は真っ白な指先で菅公のネクタイの結び目に触れた。
「半月での手配、そして夏油君という大きな尻尾の特定……君の私に対する献身は、口先だけのものではないと改めて実感させられた。本当に頼もしい弟子……いいえ、男だ」
「冥冥さんの不利益になるものを排除するのは、弟子として……当然のことです。それに僕は、貴女の期待に応えたい」
「そうだね。君はいつも私に最高の成果をもたらしてくれる。だからこそ——約束は果たさなければならない」
冥冥は甘い吐息を菅公の首筋に吹きかけながら、その豊満な胸を菅公の分厚い胸板へと押し当ててきた。
衣服越しにも伝わる柔らかな温もりに、菅公の息が詰まる。
「ソファーへ行こうか、菅公」
冥冥に手を引かれ、菅公は促されるままに深く沈み込むソファーへと腰を下ろした。
すかさず冥冥が菅公の膝の上に跨るようにして座り込み、その細い腕を菅公の首に回してくる。長い銀髪が菅公の頬を撫で、芳しい香りが彼の理性を激しく揺さぶった。
「冥冥……さん……」
「なんだい? 未来の旦那様」
彼女の瞳が、獲物を前にした艶やかな光を帯びて菅公を射抜く。
「旦那様」という呼びかけに、菅公の顔が耳まで赤く染まった。だが、彼は逃げなかった。強い意志を宿した瞳で冥冥の瞳を見つめ返す。
「僕は、もっと強くなります。五条悟も、菅原道真も超えて、冥冥さんが欲しいと思うものすべてを、僕の手で手に入れて見せます。……だから」
「だから?」
「僕を……子供扱いしないでください」
菅公は意を決して、大きな手を冥冥の細い腰へと回した。引き締まった彼女の体を力強く抱き寄せると、二人の距離は零になる。
「おや、力強いね……」
冥冥の口元に、満足気で甘い笑みが浮かんだ。
彼女は菅公の頬に手を添え、指先でその唇を優しく撫でる。
「子供扱いなんてしていないよ。君のその身体も、秘められた恐ろしいまでの才能も、私に向ける真っ直ぐな情熱も……私は正当に評価している。君はもう、私を悦ばせることができる立派な男だ」
耳元で低く囁かれたその言葉は、菅公の身体の芯を熱く痺れさせた。
冥冥はそのまま、菅公の耳たぶを甘噛みし、首筋へとゆっくりと唇を滑らせていく。
「んっ……、冥冥さん……」
少年の口から漏れた切ない吐息に、冥冥はくすりと微笑み、彼の顔を包み込んでじっと見つめた。
「今夜はたっぷり……君の献身に対する『御褒美』をあげよう。私を満足させてごらん、菅公」
「……はい。期待以上の成果を、ここでもお見せします」
菅公は覚悟を決めると、目の前の愛おしい師であり、一人の女性である冥冥の唇へと、ゆっくりと己の唇を重ね合わせた。
外の東京の夜景が二人のシルエットを静かに照らし出す中、高級スイートルームの空気は、どこまでも甘く、濃厚な熱を帯びて深まっていった。二人が重ねた唇から、吐息とともに微かな水音が漏れた。
最初は探るようだった口づけは、冥冥が菅公の後頭部にそっと手を回し、深く引き寄せたことで一気に濃厚なものへと変わる。しなやかな舌先が菅公の唇を割り、口腔の奥へと甘く侵入してくると、菅公の背筋を激しい痺れが駆け抜けた。
「ん……、ふ……っ」
183センチの恵まれた体躯を持ち、術式『落落雷雷』や特級呪具『緋蝕刃』を駆使して数々の難敵を叩き潰してきた少年は、いまや師匠であり愛しい女性の腕の中で完全に翻弄されていた。香水と高級ワインが混ざり合った冥冥の甘い香りが頭を麻痺させ、思考が真っ白に染まっていく。
一度唇が離れると、二人の間に銀色の糸が薄く引き、すぐに途切れた。
息を荒く乱し、頬を紅潮させた菅公を、冥冥は熱を帯びた瞳で見つめる。
「ふふ、実に素直でいい反応だ……。戦闘の時の鋭い眼光もゾクゾクさせるが、私に抱かれて蕩けている顔もたまらなく愛おしいよ、菅公」
「冥冥、さん……っ、僕を……からかわないでください……」
言いながらも、菅公は冥冥の細い腰を抱く腕にぎゅっと力を込めた。自分の膝の上に跨る彼女の豊かな体温と、薄いシルクのドレス越しに伝わる柔らかい肉感が、直に太ももへと伝わってくる。
「からかってなどいないさ。本気で言っているんだよ」
冥冥は甘く囁くと、菅公のネクタイを緩め、仕立ての良いスーツのジャケットをゆっくりと肩から滑り落とした。白いワイシャツの上から、15歳とは思えないほど鍛え上げられた分厚い胸筋や、硬い腹筋のラインを細い指先で撫で上げていく。
「見事な体躯だ……。日々鍛錬を絶やさず、私に最高の成果をもたらしてくれる。その肉体も、私への強い執着も……全てが愛おしい」
指先がシャツのボタンを一つ、また一つと外していく。露わになった菅公の胸元に、冥冥は惜しみなくその豊満な胸を押し当て、薄桃色の唇を首筋へと滑らせた。
「あっ……ん……っ!」
喉仏のあたりを軽く吸い上げられ、菅公の口から甘い声が漏れ出る。首筋に付けられる小さな熱い痕に、菅公の指先がソファーの生地を強く掴んだ。
「冥冥さん、ずるいです……。いつも僕ばかり、熱くさせられて……」
「おや、悔しいかい?」
「……すごく、悔しいです」
菅公は意を決したように息を吐くと、冥冥の細い首筋に回していた手を滑らせ、彼女の豊かな銀髪を優しく救い上げた。そのまま冥冥の顔を自分の方へと引き寄せ、今度は自分から唇を奪う。
「んっ……ふ……」
今度のキスの主導権は菅公だった。少年特有の青々とした情熱と、男としての強い独占欲を込めて、冥冥の甘い口腔を貪るように解きほぐしていく。冥冥の喉から小さく可憐な喘ぎ声が漏れ、彼女の瞳に一瞬だけ驚きと、それ以上の歓喜の色が浮かんだ。
唇を離すと、菅公は冥冥の耳元へ顔を寄せ、熱い吐息とともに囁いた。
「僕だって……冥冥さんを僕なしじゃいられなくするくらい、夢中にさせたいんです。お金だけじゃ買えない最高の価値を、僕が貴女にあげます」
「……言うようになったね、未来の旦那様」
冥冥の瞳が妖しく光り、彼女は甘い笑みを深めると、菅公の首に回した腕に力を込めてその体を押し倒した。
二人は重なり合うようにして、深く柔らかなソファーの上へと倒れ込む。
「そこまで言うのなら、見せてごらん。私をどれだけ悦ばせられるか……。今夜は君の『御褒美』だ。気が済むまで、私をその手で抱き締めるといい」
「……言われなくても、離しません」
菅公は冥冥の豊かな腰を抱き寄せ、その滑らかな背中を撫でながら、再び深く、終わりのない濃厚な口づけを交わした。
薄暗いスイートルームの中に、二人の荒い息遣いと甘い水音が深く、熱く響き渡り続けていた。
冥冥さんと菅公がイチャイチャしてるシーンが一度もなかったので今回のお話しは冥冥×菅公のイチャラブ話しにしました。