天神の加護と共に   作:キヨシ

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原作では描かれなかった交流会の書いていきたいと思います!


第48話 交流会1

夏の面影をほんのわずかに残す風が、京都駅のホームを爽やかに吹き抜けていく。まだ残暑の厳しい日差しが差し込む中、土師菅公(はじ すがきみ)はその場に静かに立っていた。

身長一八三センチメートル。十五歳とは思えぬ凛とした佇まいと、どこか浮世離れした静謐な気配を纏う少年だ。

彼がなぜ、今この京都にいるのか。実家である土師の家柄に関連する所用でもなければ、幼馴染である禪院真依との密やかな逢引でもない。話は二週間前、東京校の教室で繰り広げられた“あの不条理な光景”へと遡る。

◆

二週間前、午前の授業が終わった直後のことだ。

教壇に立った最強の呪術師にして担任の五条悟が、あまりにも軽々しい調子で口を開いた。

「皆んな聞いてるかも知れないけど、二週間後に京都校で交流会やるからねぇ〜」

語尾に音符でもつきそうな呑気な声。しかし、教壇を見つめる生徒たちの反応は皆無だった。

(((((交流会?)))))

禪院真希、パンダ、狗巻棘、乙骨憂太、そして菅公。全員が言葉を失い、キョトンとした顔で五条を見つめている。

「アレ? 説明して無かったっけ?」

事も無げにあっけらかんとのたまう五条に対し、教室内の空気は一瞬で氷点下へと叩き落とされた。

(((((ダメ教師……)))))

言葉を交わさずとも、その場にいた全員の心が完全に一つになった瞬間だった。

そんなダメ教師こと五条悟から、改心する様子もなく改めて交流会の概要が説明される。

* 毎年一年に一回、東京校か京都校のいずれかで開催されること。

* 開催場所は前年度の勝利校になること。

* 交流会は二日間に分けて開催され、内容は主に集団戦(一日目)と個人戦(二日目)であること。

* 基本的に「相手を殺す」こと以外は何でも有りの呪術合戦であること。

* 参加できるのは二年生以上であること。

淡々と箇条書きのような説明を聞いていた真希が、ふと眉をひそめて当然の疑問を口にした。

「ん? まてよ。参加出来るのは二年からって事は、アタシらは参加出来ねぇって事じゃねえか」

「そうだよなぁ。何でオレ達に報告したんだ?」

パンダが腕を組んで頷き、狗巻も「こんぶ」と同意の声を上げる。

「慌てない、慌てない。今回皆んなに報告したのは、ある“重要な内容”を説明する為だよ〜」

(((((重要な内容???)))))

胡散臭さ満載の笑みを浮かべる五条に、クラス一同は半信半疑ながらも聞き耳を立てる。

「それは――」

思わせぶりに言葉を引き伸ばす五条は、懐からスマートフォンを取り出すと、わざわざドラムロールのBGMを響かせ始めた。

(((((うっぜ〜……)))))

全員が心の中で盛大な溜め息をつきつつも五条の言葉を待つ。

「特例として憂太と菅公を特別参加させるからで〜す‼︎ はい、拍手‼︎」

大袈裟な身振り手振りで発表する五条。

一瞬の静寂の後、教室内に怒号が響き渡った。

「「はぁ〜‼︎」」

「えぇ〜‼︎」

「何で二人だけ参加なんだよ!」と真希が身を乗り出して捲し立てれば、「そうだ、そうだ、差別はよくないぞ!」とパンダが追撃し、狗巻も「おかか‼︎」と抗議の声をあげる。一方の乙骨憂太は、高専に入学してまだ三か月弱しか経っていない身でそんな重要イベントに突如放り込まれることとなり、目を白黒させてパニックに陥っていた。

「はい、はい、騒がない、騒がない」

パンパンと手を叩きながら生徒たちを宥める五条。

「今回、二人を参加させるのにはちゃんとした理由が有るんだから」

五条は少しだけ声を落とし、説明を始めた。

「まず、憂太だけど……皆んなも知っての通り、今も彼の持つ力(里香)に疑問を持つ輩が多い。憂太の有用性を証明する機会として、今回の交流会を利用するんだ」

その説明には、真希たちも「なるほど」と渋々納得の表情を見せた。当の乙骨だけは相変わらず「僕が……?」と不安げに肩をすぼめているが。

「そして菅公だけど……」

五条は菅公の方を向き、ニッコリと満面の笑みを浮かべた。

「今年こそ東京校を勝たせたいから無理矢理、ねじ込みました〜‼︎」

そのあまりにもテキトウすぎる理由に、教室の全員が綺麗にズッコケた。

「いや〜、ここ数年、東京校の負けが込んでるからねぇ。名誉挽回も兼ねて、一年の最高戦力を送り出す事に決めました‼︎」

「……はぁ」

菅公は深い溜め息をつき、頭を抱えるしかなかった。

菅公は、菅原道真の先祖にあたる古代の陰陽呪術家系・土師(はじ)家の正統な末裔である。その秘めたる資質と領域展開すら含む術式『落落雷雷(らくらくらいらい)』の脅威は、五条家との浅からぬ血脈の縁もあって五条悟自身が最もよく理解していた。

かつて和歌山の古い古墳にて、土師家の血を引く者のみが開扉を許される遺物『光盤文書』を発見した菅公は、そこに記された知識と、あらゆる物体・呪力・術式をも断ち切る特級呪具『緋蝕刃(ひしょくじん)』、そしてその七つの型を会得していた。さらには自らの意思で冥冥に弟子入りし、過酷な実戦を幾度も潜り抜けている。自らの雷が覚醒によって赤く染まり、その威力が数十倍に跳ね上がって以降、彼は自身の圧倒的な破壊力を制御するため、通常の戦闘ではあえて術式を使わず体術と剣術のみで戦うようにしていたほどだ。相手が「敵」と定まれば容赦なく皆殺しにする冷徹さを持ち合わせつつも、平時は極めて理知的で温和な少年――それが土師菅公という存在だった。

五条の「勝たせたいから」という安易な私情によって、その「最高戦力」が姉妹校交流会という政治的意図の渦巻く場へ投入されることになったのである。

◆

――そして現在。

京都駅のホームで、迎えの車を待つ菅公の隣には、ガチガチに緊張した乙骨が立っていた。

「ぼ、僕、本当に参加して大丈夫なのかな〜……」

オロオロと周囲を見渡しながら自信なさげに呟く乙骨。菅公はそんな彼の様子に優しく目を細めると、安心させるようにその両肩を力強く掴んだ。

「乙骨君。君が入学して三か月弱、君は必死に僕の指導に喰らいついて来た。それに、棘君が居たとは言え、的確なフォローで準一級呪霊を祓ったんだ。充分に交流戦に参加する資格が君には有るよ。だから胸を張って堂々としていれば良い。あんまりオドオドし過ぎてると、『里香ちゃん』に呆れられるよ」

“里香”という名前を口にされた瞬間、乙骨の目つきが変わった。自分を愛し、守ってくれている彼女に恥ずかしい姿は見せられない――そう自分に言い聞かせるように、乙骨はぎこちなくも深呼吸をして背筋を伸ばした。

「……うん。ありがとう、菅公君」

「それに」と、菅公は乙骨と自身の右隣に視線を向けながら微笑んだ。「頼れる先輩達も居るんだ。安心して背中を預ければ良いよ。ですよね、先輩」

彼らの隣には、圧倒的な存在感を放つ二人の男女(?)が立っていた。

「おう! 任せとけ、今日の俺は最高に運が向いてっからよ!」

拳を力強く握りしめ、豪快に言い放つのは金髪ドレッドヘアの男。

「運が良いって……金ちゃん、アイスの当たりクジ引いただけでしょう」

呆れた口調で煙草(の形の駄菓子)を咥えながら突っ込むのは、背の高い美女風の男の娘。

今回、交流会に初参加となる一年生たちの引率役を引き受けた二年生、『秤金次(はかり きんじ)』と『星綺羅羅(ほし きらら)』である。派手で癖の強い二人だが、その実力は本物だ。後に秤金次は五条悟をして「僕と並ぶ術師になる」と言わしめるほどの才能を秘めている。

「そう言えば、三年生の先輩達はどうしたんですか?」

菅公がふと疑問を口にすると、秤はめんどくさそうに耳を穿ちながら答えた。

「あぁ? アイツら任務で出張らってて参加出来ないんだと」

「まぁ、呪術師って中々自由に時間とれないからねぇ。仕方ないよ」

綺羅羅が肩をすくめて付け足す。それを聞いた乙骨は目を見開いた。

「えぇ‼︎ じゃあ、東京校のメンバーって先輩達と僕達だけなんですか⁉︎」

「まあ、精鋭揃いと思えば悪くないさ」

菅公が苦笑交じりに宥めていると、駅のロータリーに京都校からの迎えの車が滑り込んできた。

乗り込んだ面々は、揺られる車内で雑談を交わしながら、ライバル校である京都府立呪術高等専門学校へと向かった。

◆

京都校に到着した東京校一行は、敷地内の広場でさっそく京都校の生徒たちと顔合わせを行った。出迎えたのは、今年二年生になったばかりの『加茂憲紀(かも のりとし)』と『西宮桃(にしみや もも)』の二人だった。

「久しぶり、加茂君!」

狩衣に身を包んだ糸目の長身男子へ、菅公が親しげに声をかける。加茂憲紀は菅公を見ると、姿勢を正して折り目正しく頭を下げた。

「土師殿、久方ぶりです」

「相変わらず硬いなぁ。菅公でいいって。“殿”なんて言われる様な身分じゃないし」

頬を掻きながら笑う菅公に、加茂は少し困惑したように咳払いをした。

「う、うむ。では……菅公と呼ばせてもらおう」

二人が初めて出会ったのは三年前。加茂が初めて呪詛師狩りの任務に赴いた際、冥冥の弟子としてすでに数々の修羅場を潜り抜けていた菅公が、サポート役として同行したのがきっかけだった。それ以来、めったに会う機会はなかったものの、菅公が高専に入学してからは定期的に連絡を取り合い、近況を報告し合う間柄となっていた。

「今回の交流会、全力で挑ませてもらう」

キッパリと宣言する加茂に対し、菅公は和やかに微笑み返す。

「此方こそ。加茂君がこの三年でどこまで腕を上げたか、じっくり拝見させて貰うよ」

加茂への挨拶を済ませた菅公は、続いてその隣に立つ小柄な女子に視線を向けた。

「初めまして、西宮先輩。東京校の土師菅公です。今日は宜しくお願いします」

父・土師宗矩から「初対面の挨拶を怠る者に勝利なし」と耳にタコができるほど叩き込まれてきた菅公は、丁寧にお辞儀をする。

「こちらこそ、西宮桃だよ。今日は宜しくね。貴方の話は真依ちゃんからよく聞いてる」

特徴的なツインテールを揺らしながら、西宮桃は砕けた態度で返事をした。独特の髪型に少し驚きつつも、その可愛らしい佇まいに菅公は思わず笑みをこぼす。真依と真希――かつて五歳の頃に禪院家の屋敷で出会い、共に幼少期を過ごした仲良しの二人。真依が京都校で彼女とどんな話をしているのか想像し、少し心が温かくなるのを感じた。

だが、その平穏な空気は次の瞬間、地響きのような大声によって一変する。

「ブラザ〜!!!!!!」

「「「!?」」」

上空から、筋骨隆々の大男が両手を大きく広げ、弾丸のような勢いで降下してきた。

加茂も西宮も、そして乙骨もあまりの事態に目を見開く。

しかし、菅公だけは「……またか」と深く頭を抱えた。

(あいつ、本当に懲りないな……!)

瞬時に集中を高めた菅公は、術式『落落雷雷』の応用であり、拡張術式『死苦発苦(しくはっく)』の極小展開を行う。自らの周囲の空間に電磁波を走らせ、強力な磁界による不可視の簡易バリアを作り出した。

ズドォォン‼︎

激しい衝撃音とともに土煙が巻き上がる。加茂や西宮、乙骨たちが思わず激しく咳込み、顔を背けながら周囲を確認した。

土煙の渦中にいたのは、溢れんばかりの超絶な筋肉を誇る男――京都校二年の『東堂葵(とうどう あおい)』であった。東堂は、菅公に向かってフルスロットルでハグをかまそうとしていた。

「相変わらず元気だね〜、東堂君……」

呆れ果てた声で呟く菅公。東堂は煙の中からギラギラとした目を輝かせ、胸を張った。

「当然だ! 高田ちゃんのファンたる者、いつ何時でも全力で彼女を応援できるよう、常日頃から元気である事を心掛けているぞ!」

「……相変わらず意味が分からないよ」

京都校の面々が「また始まったか」と言いたげに酷い顰め面をしている。しかし、乙骨はふと妙なことに気づき、目を丸くした。

全力で菅公に抱きつこうとしているはずの東堂が、菅公の十センチ手前、何もない空間でピタリと停止し、不自然に空中で力んでいるのだ。

これこそが、菅公が東堂の不意打ちハグを阻止するためだけに特別開発した電磁バリアであった。簡易版とは名ばかりで、フルスピードで突進してくるF1カーすら難なく静止させる絶対的な耐久力を誇る。

「あのねぇ、東堂君。毎回毎回言ってる事だけど、僕がハグするのは愛する女性だけと決めてるんだ。例え友人でも、男とハグなんてごめん被る!」

きっぱりと拒絶する菅公。しかし、東堂の脳内妄想の暴走は止まらない。

「何を言うかブラザー! 親友たる者、友情を深め合う為にハグをするのは当然だろう! 思い出すんだ、あの夏の日の甲子園! 優勝を決めたオレ達は、グラウンドの真ん中で熱い抱擁を交わし合ったじゃないか‼︎」

熱弁をふるいながら『存在しない記憶』を怒涛の勢いで垂れ流す東堂に、菅公はバリアを維持しながら必死でツッコミを入れた。

「だから! 僕、中学行ってないし、甲子園に出た事も無いってば!!」

だが、東堂はまったく人の話を聞いていない。さらに全身の筋肉を膨張させ、バリアを強引に破ろうとパワーをかけてくる。菅公の展開した電磁バリアが「ミシミシ……!」と悲鳴のような音を立て始めた。

(くっ……この筋肉ダルマめ、力任せに破る気か……! こうなったら、最後の切札を使うしかない……!)

菅公はわざとらしく「はぁ〜」と深い溜め息をつくと、冷ややかな、しかしどこか諭すような声で言い放った。

「東堂君。そんな強引で落ち着きのない態度じゃ……高田ちゃんに嫌われるよ」

ピクッ。

“高田ちゃん”の名前が出た瞬間、東堂の全身から力が抜け、ピタリと動きが止まった。菅公はその隙を見逃さず、畳みかける。

「前に東堂君に連れられて行った高田ちゃんの個別握手会イベントでね、僕、コッソリ聞いてみたんだ。『どんなタイプの男性が好みですか?』って」

「な、なんだと……!? お前、高田ちゃんにそんな質問を……!?」

東堂の顔色が目に見えて変わり始める。菅公はさも真実であるかのように言葉を繋いだ。

「そしたら高田ちゃん、なんて言ってたと思う? 『情熱を秘めつつも、普段は落ち着いた態度の男性が好みかな』って言ってたよ」

「情熱を……秘めつつ……普段は、落ち着いた……!?」

東堂の顔が急速に青ざめていく。菅公は追い打ちをかけるように、優しく、しかし残酷に指摘した。

「今の東堂君の態度を見たら、高田ちゃんはどう思うかな? どう見ても落ち着きなんてないよね。そんな猪突猛進な態度のままじゃ、一生、高田ちゃんに振り向いて貰えないよ?」

「た……高田ちゃんの好みから……俺は……ハズレていた……ッ‼︎」

絶望のあまり膝から崩れ落ち、地面に両手をついてガックリと項垂れる東堂。その巨体が小さく見えるほどショックを受けている。

菅公はバリアを解除すると、静かに歩み寄り、東堂の目の前にスッと手を差し伸べた。

「だからね、東堂君。高田ちゃんに振り向いて貰えるように、情熱を持ちつつも、普段はどっしりと落ち着いた大人の男を目指そう。分かったね?」

諭すような菅公の言葉に、東堂はゆっくりと顔を上げた。その目には、感動と改心の涙が溢れていた。東堂は菅公の手を固く握り返す。

「ありがとう……ブラザー! 俺は間違っていた……! 確かにそうだ、高田ちゃんは情熱を誰よりも持っているが、決してそれを他人に押し付けたりはしない! とても懐の深い女だ……! そんな彼女にふさわしい男になるためには、この俺ももっと懐の広い、落ち着いた男にならねばならんのだ……!」

「分かってくれて嬉しいよ、ブラザー」

菅公が心底安心したように微笑み、東堂の肩を優しく叩いた――その瞬間だった。

東堂の瞳に、再び爆発的な情熱の炎が燃え盛った。

「うぉ〜〜〜〜〜〜〜っ‼︎ やはりお前は最高だ、ベストフレンドーーーーーッ‼︎」

「えっ、ちょ――」

改心したはずの東堂が、言葉の壁を突き破る勢いで飛びかかり、菅公の全身を骨が鳴るほどの超力でド直球に抱きしめた。

「やっぱり他人の話を聞いてなかったーーーッ!!? だから男とのハグは嫌だってば〜〜〜〜〜〜〜〜っ!!!???」

京都校の境内に、菅公の魂の叫びが木霊した。

あまりの怒涛の展開と、目にも留まらぬ感情の乱高下。ついていけなくなった乙骨憂太は、秤金次の広い背中に隠れながら、ただただプルプルと震えていることしかできなかった。

 




やはり東堂は欠かせませんね!今後の展開を楽しみにお待ちください!!次回は真依ちゃんを出したいと思います。
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