静寂、その場を支配している空気を言葉で表すならばその一言に尽きる。然しそれは誰も発言しないからではない、たった一人の発言を待っているからであった。
直毘人『で、何故あの様な事をしでかした?』
そう問い掛ける禪院直毘人(ぜんいん なおびと)、その声は静かだが重く底冷えする様なそんな響きを発していた。
菅公『仇を受けたので返したまでです』
そんな直毘人相手に何事もない様に返答する土師菅公(はじ すがきみ)ゴクリっ、誰かの喉が鳴った。
直毘人『ウチの女中を再起不能にしておいてか?』
菅公『はい、余りにも品がない上に此方を口汚く罵って来ましたので、無礼討ちの一環として処しました。其れに死んだ訳では有りません悪魔で再起不能にしただけ体調が回復すれば職務復帰も可能でしょう』
???『そないな事聞いとるんちゃうわ、ボケ』
口汚い言葉を発した人物に視線をやる。其処には髪を金髪に染めた男が直毘人と同じく胡座をかいていた。
禪院直哉『ウチのおとんが聞いてんのは、「幾ら替えのきく女中や言うてもまず俺らに許可取らなあかんやろ」言うこっちゃ。其共何か?禪院の下っ端なら坊の裁量で裁いてええとでも思うてたんか?』
菅公『確かに其処には思い至りませんでした、その事については深くお詫び申し上げます。ただ、此方にも二人の女中を手速く片付ける理由が有りましたので』
直毘人『ほう?してその急ぐ要件とやらはなんだ』
菅公『禪院扇様の御息女達です』
禪院扇『あの出来損ない達がどうした?』
髪を後頭部で一本に束ねた初老の男が我が子に対してとは思えない雑言を発した。禪院扇の“出来損ない”と言う発言に思わず反応仕掛けた菅公だが何とか鉄面皮を保ち続けた。
菅公『女中二人が膳をぶちまけた際に割れた破片で御息女の真依さんが手首を切りまして思ったよりも出血量が多かった為、緊急に縫合する必要がありました』
扇『ふん、随分と酔狂な事をする、いっそ見殺しにすれば良いモノを』
直毘人『扇』
自身の子供達の事になると途端に口汚くなる扇に対して直毘人自ら嗜めた。
扇『……失礼しました当主様』
禪院扇も当主自らの注意には流石に黙らざるおえなかったようだ。菅公もこれ以上、汚い口を開き続ける様であれば実力行使で黙らせ様と考え始めていたので正直に言って直毘人の言葉は有り難かった。
直毘人『まあ、倅の言う事はにも一理ある。此方の女中である以上、話は通すべきだったな。で、一応聞いておくが扇の娘の容態は?」
菅公『ご心配なく切創部分はきちんと電糸(でんし)で縫い合わせました。無理に動かさない限りは傷が開く事は有りません』
直毘人『ほお、流石は神医と呼ばれた反転術式使いの倅なだけある、もう電糸縫合(でんしほうごう)が使えるのか?』
菅公『まだまだ母の域には遠く及びませんがアレぐらいの傷であれば問題有りません』
直毘人『ふむ、ならば禪院家にいる間はソイツを使って傷を負った者達の治療もやってもらおう勿論タダでな、其れで今回の一件はチャラにしてやる』
如何やら直毘人はこの条件で手打ちにする様子、これ以上話が大きくなれば土師家や五条家が黙っていないと判断したしたのだろう。実は菅公も自分が出せる手札が少なく余り強く出れない状況だった為、内心ホッとしていた。しかし…
直哉『ちょい待ち、ホンマに其れで終わらせるつもりなん?』
いつの世も場の空気が読めない者は必ずいる。
直毘人『何だ、直哉。何か問題でもあるのか?』
直哉『当たり前や、何でこないな餓鬼の実家の機嫌取る様な裁定にせなあかんねん。どうせこの餓鬼が勝手にキレ散らかして痛めつけたに決まっとる。ならヤラれた女中二人分コイツの実家に縛り結ばせて呪具なり金なり出させればええやろ』
直毘人『呪具も金も腐る程ある、小僧の家から取立てた所でたかが知れとる、逆に期間付きとは言え土師家の神医の力をただで使えるだそっちの方が余程有益だろう』
直哉『せやけど「直哉」っ』
直毘人『小僧はまだ幼いとは言え土師家の次期当主だ、その小僧と禪院家当主の儂が談判して決まった事には例え息子であっても口出しは許さん』
直哉『チッ、はいはい御当主様の仰せのままに』
父ではなく当主としての言葉に思わず言葉を引っ込めた直哉は此方を睨みながら大人しく自分の席に座り直す。内心は兎も角これ以上はこの件には口出ししないと言う事だろう、その間にも菅公と直毘人との間で話は進んで行く。
・禪院家での見習い期間が明けるまで土師菅公は電糸縫合を使った治療を無料で禪院家の人間に施す事。
・土師菅公の治療業務は通常の見習い業務とは別に行う事とする。急患が入った場合は任務以外の時間は全て対応を行う事。
・土師菅公からの要望により現在の居住場所に治療専門のスペースを併設する。又、治療業務中は禪院真希・禪院真依の二名を治療業務の補佐に充てる事とする。
・土師菅公からの要請により禪院姉妹との迅速な連携の為、両名の居住場所を土師菅公の居住箇所の真横に併設する。
と、この様な内容で取り決めが成された。幾ら呪術界の末席に身を置く者とは言え五歳の子供にさせるには明らかな過重労働であるが残念ながらそんな事を気にする者は呪術師には居ないのである。兎も角、土師菅公は最初の難関を無事に突破し真希と真依二人の身の保証の確約を取り付ける事に成功した。そして準備が進んで数日、真希と真依の引っ越しが無事に完了した。※余談だが菅公、真希、真依に絡んだ女中二人は仕事の不手際を責められ禪院家から追放処分を食らっいそれを聞いた何処かの呪術師が黒い笑顔を浮かべていたのは言うまでも無い。
すいません、色々と知恵を振り絞って考えたんですがどうしても3千以上の文字数になりませんでした。今回はこれで勘弁して下さい。