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あ、この番外編は連作となっております。本編とは交互に投稿出来たらベストかなぁって考えていますので、順序が変わったりします。ご了承ください。
番外編1 なんで私の世界にいなかったの?
『さすがは百花繚乱の委員長!次もお願いします!』
(辛い)
今日も完璧な委員長を演じる。
『アヤメは凄いね……私じゃ追いつけないや』
(苦しい)
今日も完璧な幼馴染を演じる。
『今日もあの子がトラブルを解決したんだとよ!あそこまで出来た子はいないねぇ』
(……しんどい)
今日も、完璧な七稜アヤメを演じる。
被った仮面が外れず、今日もどこかが擦り切れていく。誰かからの期待が、誰かからの願望が本当の自分を陰に追いやっていく。誰も本当の私を見ない。誰も私を支えてくれない。誰も頼ることが出来ない袋小路に落ちていく。
「……眠れない」
本当の自分って何?本当の七稜アヤメって誰?みんなが見ているのは本当に私なの?そんな思考に嵌っては抜け出せず、生きるには欠かすことの出来ない睡眠すら嫌になってくる。
例え夢を見て体が回復したとしても、目に突き刺さる朝日が新たな
(……私は何がしたかったんだろう)
ただ、困っている人がいるのが見過ごせなかっただけだ。ただ、大切な人に誇れるように生きたかっただけだ。
なのになんで、今はこんなにも苦しいのだろう?
「……」
瞳を閉じれば、目の前は何もない。自分以外誰もいない家なのだから当たり前だが、物音も時計の秒針が時を刻む程度だ。
唯一体のみが生きようとして、眠りへと誘い始める。あぁどうか、一時でもいい休みを得てほしいと願って。
◇◆◇◆◇
「……?」
目が覚める。しかして見覚えのない部屋だ。はて、自分はこんな梁のある家で寝ていただろうか?
不思議と軽い体を起こし、辺りを見回す。何故か自分は布団で寝ていたし、周りに三人ほどの布団もある。そのどれもが空となっていたが、誰かが寝ていた形跡自体はあった。
「ここは…どこ…?」
「おう寝坊助、やっと起きたか。休日だからって爆睡すんじゃないよ、生活リズムが崩れるぜ?」
「えっ」
「飯が冷める前に食べに来いよ」
部屋の扉から顔を出したのは、鬼の面を被った男の大人だった。誰だ、なんで自分と同じ家にいる。"完璧な七稜アヤメ"という仮面を被ることも忘れて鬼を見つめ、見られていた鬼が訝し気にアヤメを見る。
「お前……」
「鬼さーん!洗濯物乾いたよー!」
「ん、おー!先に畳んどいてくれ、すぐに向かう!」
聞いたことはないがとても明るい声に返事を返し、もう一度アヤメへと目を向ける。仮面の奥の目は影で見えないが、何処かこちらを案じる目をしている気がした。
「……とりあえず飯食ってこい。じゃあな」
「は、はい」
有無を言わせない雰囲気に負け、素の返事をすれば鬼は姿を消した。
……とりあえず、言う通りにしよう。混乱しながらではあるが、アヤメは行動することにした。
(広い…)
自宅の何倍もある屋敷を歩き、広間らしき場所に着いた。広間には炬燵と机にテレビが置いてあり、炬燵には多すぎず少なすぎない食事が置いてあった。
白米にお味噌汁、カリカリに焼けたベーコンとサラダ。朝食として考えるととても安定した食事が温かみを持ってアヤメを待っていた。
座布団に座ったアヤメは躊躇ってしまう。思考は常に警戒モード、この状況は夢なのか?それとも誰かが自分を誘拐していて、この食事に何か盛っているかもしれない。その思考確かに正しい。寝て起きたら知らない家にいたのだから仕方なくもあった。
「……いただきます」
しかし胃は正直だった。どう見てもおいしい料理でこれといった違和感も感じないし、そもそも嫌な予感すらしない。ならば頂かない方が食事に失礼と考え、ベーコンでご飯を丸めながら口に運ぶ。
「……!おいしい…!」
食べれば食べるほど箸が止まらず、胃が次の料理を欲しがってしまう。味がする料理を食べるのはいつぶりだろうか。自炊や食堂で食べることはあれど、まるでゴムを食べているような味しかしなかった。それが仮面を被った自分の心の悲鳴とはついぞ気づかなかったが、今口にしている料理をひたすらに食べ進める。
「ご馳走さまでした…」
ものの十分ほどで米粒一つ残さず食べ、手を合わせる。ちゃんとした食事をした気分になるのはいつぶりだろうか。
食事に意識が向いていると、後方から足音が聞こえた。先程の鬼だろうか、それともさっき聞こえた誰かか?そんな予想をアヤメは立て……裏切られる。
「あ、アヤメ。ちゃんと起きたんだね」
「……っナグサ?」
「?うん、私だよ?」
雪花を連想させるような白髪に白い肌、あまり表情筋が動かなそうな顔をした自身の幼馴染がそこにいた。そして反射的に仮面を被る。"完璧な七稜アヤメ"という偽りを。
「…あーごめんごめん!久しぶりに熟睡しちゃって、頭がぼーっとしちゃっててさ!」
「……」
「ナグサももうご飯は食べた?やっぱりおいしいよね~、いくらでも食べたくなっちゃう!」
自分が違う自分を偽るという矛盾に心が軋み、つらつらと嘘を吐く自分に泣きたくなる。違う、これは私じゃない。私は完璧なんかじゃない、ただの人間なんだ。そう思いながら、御稜ナグサが望む自分になっているはずと不安になってしまう。一体どっちが本当の私なんだろう。
対するナグサはアヤメが喋り始めた瞬間に目を見開いていた。アヤメが話終わるころには自身の銃に手を伸ばし、相手に悟られないように構える態勢に入る。アヤメはそれに気づかない。演じてしまうことに必死だったから、悟られないようにすることに必死だったから。
「……ねぇアヤメ。一昨日、連休に入って明日から何しようかって話し合ってたよね。昨日はみんなでたこ焼きパーティーをして、レンゲ達も誘いたいよねって言ってたね」
「そうそう!美味しかったな~たこ焼き!せっかくだからレンゲも来てほしいってやっぱり思っちゃうな~」
「そうだね。けどその後、何があったか覚えてる?」
「……えっと」
話せない。わからない。知らない。知る由もない。昨日のことなんて覚えていない。たこ焼きの味だって、レンゲのことだって考えてすらいない。だけど喋らないと、"完璧な七稜アヤメ"でいないと……!
「えっと…確か、みんなでデザートを食べようとしてたっけ?」
「違うよ?お風呂に忘れ物しちゃったアヤメがお風呂中の鬼さんと鉢合わせちゃったんだよ」
「あーそうそう私と鬼さんがお風呂で鉢合わせて…えっ噓でしょ私そんなの知らない」
「うん嘘だよ。だって鉢合わせたのはユメさんと私だから鬼さんそんなこと知らないもん」
「はい???」
「でも一個だけわかったことがあるよ」
バックステップで距離を取り、百花繚乱制式ライフルを構える。照準はアヤメの利き腕側に向け、回避行動を優先するなら足を狙えるようにする。逆に武器を取るなら腕を撃ち抜けるようにする。例えアヤメだろうと当てられる自負がナグサにはあった。
「あなたは私の知ってるアヤメじゃない。アヤメがちゃんと私を見てって言ってたから気づいた」
「あなたは誰?」
アヤメの動きが止まる。そして心の中でナグサの言葉をオウム返しするように口ずさむ。あなたは誰?と。それは今のアヤメにとって最も触れらたくない部分であり、よりにもよってナグサによって突き付けられた。
(私だって言いたいよ、あなたは誰だって)
それが目の前のナグサに対してか、自分自身に対してかはわからなかった。
アヤメは仮面をつけた自分を見透かされたようで動きが止まり、ナグサもまたアヤメらしき人物の動きを注視しているため動けないでいた。というのもナグサ視点からするとアヤメから悪意は感じず、特に悪さをしたようにも見えない。気づいた理由だって、歪な笑顔を張り付けたようなその姿があまりにも痛々しかったからだった。鬼が家に上げている以上敵ではないという事実もそれを後押ししていた。
「ナグサ、撃たなくていい。お前さんも、下手に動くんじゃねぇぞ」
膠着状態に陥った空気に割り込むような声が響いた。そして気づけば、己の肩に手が乗っていた。後方には先程アヤメを起こしに来た鬼が立ち、こちらへ視線を投げかけていた。いつ、どうやって、だって入り口側はずっと見えていたのに一切気づかなかった。
「ユメは畳んだ洗濯物を入れに行ってもらってる。それが終わってから…現状の確認をしようか、オレ達の知らないアヤメ?」
肩に置かれた手は添えられただけであり、まるで力は籠っていなかった。さながら口喧嘩を止めようとして諫める、大人の手のように。
◇◆◇◆◇
「はい、お茶」
「……ありがとう、ございます」
「…うーん。鬼さんの言う通りだね。アヤメちゃんだけどアヤメちゃんっぽくない!」
「オレらが知ってるアヤメは子供っぽさが残ってるからな。断じて仮面を被った内側で泣いてるやつじゃない」
「……っ」
広間に設置されていた炬燵に入り、いつもの雑談の構図を作る。しかし実態は三対一に近く、目の前に置かれたお茶に手が伸びることはない。鬼の言葉もまた、アヤメの心を言い表していたことでその肩が震える。
「…悪いな、お前さんは隠してたのかもしれんが……オレからしちゃあそんな声で泣いてんのに気づかないほど馬鹿じゃない」
「泣いてなんか……」
「じゃあなんでお前さん、ナグサにお前は誰だって聞かれた時叫んでたんだよ。そんなの私が知りたいって」
「……!」
ユメが入れた茶を飲み込み、息を吐く。ただただ射抜くような赤い瞳がアヤメに向けられ、少しばかり居心地が悪いような気分になる。
「オレは最初に会った時点で気づいていたんだが……アヤメ本人ではあったから一旦様子を見ようとしたんだよ。まさかナグサが会って数秒で気づくとは思わなかったがな」
「アヤメから私をちゃんと見てって言われたから、ちゃんと見ていただけ「ねぇ」…?どうしたの?」
「本当に私が言ったの?そんなこと……」
「…うん。私がアヤメに寄りかかり続けたことをアヤメに……混じっちゃうか。こっちのアヤメに謝ったの。そしたらこっちのアヤメが、今度からはちゃんと私自身を見てねって。それに……」
「……それに?」
「私が、アヤメのことを支えたいって思ったから。なら相手に盲目的になるんじゃなくて、強みも弱みも理解して補うように支えなくちゃならない。それが、副委員長になろうとする私のするべきことだから」
「……ッ」
「……あなたがアヤメなのはわかった。だけど、どんなアヤメなのかはまだ知らない。お願い、あなたのことを教えてほしいの」
ナグサの言葉がアヤメの心にしみるほど、その口が固くなっていく。例え言葉を口にしたくても、今まで"完璧な七稜アヤメ"を演じてきた自分自身が話そうとしない。
楽になろうとしても、今までの自分がそれを許さない。それだけ、アヤメの心に降り積もった諦観と絶望は心の膿を作り出していたということ。
「……なぁ、アヤメよう。お前さんが喋れないなら、オレの推測を話してもいいか?頷くでも、首を振るでもいい。何か、反応してほしいんだ」
その言葉に、アヤメが鬼の方へと目を向ける。優しく、こちらを案じる声に惹かれて視線が交差する。そしてやっと気づいた。こちらを射抜くあの赤い瞳は、仮面の裏にいる私を暴こうとする瞳じゃない。
父親が娘を案じ、何か出来ることはないか探そうとする瞳だ。決して私のことを偽物と見ているのではない。仮面を被った自分も、その内側で泣き叫ぶ自分も平等に見ている。射抜いているように見えたのはそのせいだ。
そしてそれは他の二人もそうだった。ナグサは申し訳なさげにこちらを見ており、ユメと呼ばれた先輩は心配そうにこちらを見ている。だがどちらも、暖かい。決して否定せず、寄り添うような肯定。
"例えあなたがなんであろうと、あなたはあなた"
そんな声が聞こえてきそうな視線。
「……わたし、は」
◇◆◇◆◇
ボロボロと乾いた泥が崩れるようにアヤメの口から語られる、たった一人に頼り続けた業の話。仲間も、周りの人も、傍にいた幼馴染も気づかなかった、一人孤独に戦っていた少女の嘆き。話し終えたアヤメは沈んだ瞳で俯く。広間の空気が重くなったように感じ、三人も口を開けない。
ナグサは目の前のアヤメから聞いた自分がいつかの自分であったことを悟り、ユメはたった一人に頼り続けたせいで一人の少女が泣いていた事実に、鬼は自身が恐れたことが起きた己のいない世界があったことを知ったことで口を閉ざしてしまう。
鬼が思わず目元を手で覆ってしまうほどに、一人の少女が抱いた苦しみは深い。大人が背負うべき苦しみすら子供に背負わせていたこと、そして直接的な手助けが出来ない事実が鬼を苛ませる。
「……アヤメちゃん」
「……なんですか、ユメ先輩」
炬燵を抜け出し、アヤメの傍へと近づくユメ。鬼とナグサが何をするのかと見守っていると……
ギュッ……
「っ!?────……」
ユメの下へと抱き寄せる。割れ物を扱うように抱きしめ、自身の体温でアヤメを包み込む。一瞬だけ驚くも、何をされているのかを理解してアヤメは無抵抗でユメに抱きしめられ続ける。
「……私はアヤメちゃんじゃないから、どれだけ辛かったかはわかんない。でも、誰かの助けになりたいって気持ちは私もわかるんだ」
「……」
「だから、そんな私でもアヤメちゃんに言えることは……今まで、ほんっとうによく頑張ったね!」
「────」
「委員長になってからも、それ以前からもアヤメちゃんはずっと誰かの力になってたんだよね?それって、本当に凄いことだって思うの!私も生徒会長だったけど、ホシノちゃんがいなかったらただのお飾り会長でね…だけど、アヤメちゃんはたった一人で頑張ってきた。だから……」
「……ぁ」
「……だから。今まで、お疲れ様でした。今は少しだけでもいいから、ここで休んでいってね。アヤメちゃんは、本当に頑張ってきたんだから」
その言葉は、その太陽のような暖かい微笑みは、氷のような冷たさとなってしまった血を温めて。三人によって砕かれた"完璧な七稜アヤメ"という仮面を取り払って。
みんなを見守っていたい、誰かの助けになりたい、大事な友達の傍にいたい、そんな願いを持ったただ一人の少女へと戻していく。
「……う、ぁ」
もう流すことが出来ないと思っていた涙が溢れ、喉が震える。不意に背中から誰かに抱きしめられ、さらに大きな腕でユメごと抱きしめられる。
ナグサと鬼が、今のアヤメにしてやれることを理解したからだった。それは、ユメのようにアヤメの軌跡を称賛すること、今までよく頑張ったと認めてやること、そして抱きしめ、少しでも休めるようにすること。
「ひっ、ひっ……!あ、ああぁぁぁ……!」
「……アヤメ。本当に、お疲れ様…」
「あぁ。そして、本当によく頑張ったな。たった一人で、こんな小さな肩で背負い続けてきたんだからな…」
あたたかい。流れる涙が、積もりに積もった痛みと共に溢れ出る。体に回された白い手が、頭に添えられた優しさと温かさを持った手が、優しく撫でる誰よりも厚く力強い手があまりにも心地いい。
「ぁあああああぁぁぁぁ……ッ!!」
白いアヤメの花言葉は、「優しさ」「あなたを大切にします」。誰かがために費やした優しさには、きっと優しさで報われるべきなのだろう。
そして七稜アヤメは久方ぶりの涙を流した後、疲れ果てたように眠りに落ちるのだった。
『一方その頃』
鬼ぃさんがいるアヤメ(以下鬼アヤメ)「うーん…!よく寝たぁ!だけどなんか体が重い……ん?……え、なんで百蓮があんの……?」
鬼アヤメ「というかなんで家にいるの?鬼さんの家で寝てたはず……(ナグサに連絡中)……あれ、なんで鬼さんの連絡先消えてるの?なんならユメさんのも無いじゃん」
鬼アヤメ「……なにか起きてるな。よし、(連絡取り消し、今日は一日休む旨の連絡を百花繚乱グループトークに投下中)」
鬼アヤメ「さて、と。最悪の場合鬼さんがいないかもしれないから、事情を聞くべき相手を考えないと……陰陽部のニヤちゃんは良い子だけど、胡散臭いしパス。修行部のミモリちゃんは…連絡先ないから無理かな。イズナちゃんは…こっちも連絡先ないから無理だな。なんでこんなに連絡先無いの?こうなったら……」
鬼アヤメ「ОKクズノハ!私の現状を教えて!!」