百鬼夜行の鬼   作:龍玉

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原作のアヤメがこっちのアヤメを知ったら内心ぐちゃぐちゃになりそう。
……(何かを閃いた音)


第十二話 夢見

 

 黄昏の寺院を訪れて数日。鬼の家は今日も平和に時を過ごす。ユメが鬼の家に住むようになったことで、基本的に家を空けていた鬼は家で日々を過ごすようになり、今日も庭で木刀を振っていた。縁側ではユメが三色団子を頬張り、嬉しそうにアホ毛を揺らす。鬼が試作品として作ったもので、試食して感想を伝えることを頼まれている。

 

 いつもの二人は今日は家におらず、百花繚乱紛争調停委員会の先輩後輩に問い詰められているので珍しく学校で対応中だった。

 というのも二人、クズノハと会うことが最近では眉唾物の話となっており会うこと自体が本当か怪しまれるものであるというのを忘れていたのだ。それゆえに、つい先日の帰り際にクズノハと会った時のことをうっかり話してしまい、「今日はここからここをあんたが…」と巡回ルートを決めていた現委員長が耳にしてしまった。

 もしかしたら聞き間違いの線もあると考えたものの、念のため話を聞いてみれば「実は鬼さんと~」と楽しそうにアヤメが話すもんだから「これ本当じゃね?」となり、一緒に帰ろうとしていたナグサも引っ張って来て根掘り葉掘り聞きだした。

 

 結果、最初は半信半疑で聞いていた委員長と三年生(珍しく慌ててたので集まった)達だったが「鬼さんと会いに行った」と言われた途端脱力するように机に伏せた。「ほな本物かぁ……」と揃って呟いたとかなんとか。色々と信頼できる大人である鬼が一緒に行ったのなら信頼度は高い。悲しいことに。

 

 そう、悲しいことにだ。現在の委員長や前委員長はクズノハに会うことが出来ていなかったためだ。百蓮を引き継いでいるとはいえ、その真価を発揮することが出来ない現実は彼女たちに焦燥感を持たせた。

 それによってどうやってクズノハに会ったのかを知るためにアヤメとナグサを巻き込んで教室に缶詰めになっている。100%の力を発揮できないでいる等、百鬼夜行の治安維持組織として危険すぎる話のため当たり前と言えば当たり前だった。

 

 問題はアヤメとナグサはクズノハに会うための資格を鬼から聞いてはいるがあまりにも困難なものであり、それを知った全員で頭を悩ませていることだろうか。

 

 そんなこともつゆ知らず、鬼は庭に立てている藁へと木刀を叩きつける。その一本一本が重々しい音を立てており、すぐに藁が壊れるのではないかと思ってしまう程だった。しかし藁は大きな損傷も無く、今もそこに鎮座している。

 

「……フゥーッ…ユメ、味はどうだ?」

「おいしいよー!鬼さんって本当に料理が上手だよね~」

「自炊してたら色々と試したくなっただけだよ。ユメはドジが無かったらもっと料理がしやすいんだがな」

「ひぃん…でもでも!鬼さんと一緒に作るようになってからはちゃんと作れるよ!この前はお魚の塩焼きも作れたから!」

「おぉ、確かにちゃんと作れてたな。自宅に帰らずここで食うようになったあいつらも旨そうに食ってたっけ」

 

 思い出すのは少し前、クズノハに会った直後ぐらいのことだったか。いつものように鬼の家にやってきた二人を出迎えると、ユメが決心した顔で厨房に向かった。三人で不思議に思っているとユメが振り返り、握りこぶしを作って微笑みかける。

 

「今日はいいことがあったんだよね?それなら今日こそ私一人で作って、二人のことをお祝いしたい!」

「おいおい、オレがいなくて大丈夫か?」

「大丈夫!問題ないよ」

 

 いいこととは、二人に新しく出来た後輩の中から百花繚乱紛争調停委員会に参加した後輩が二人おり、アヤメとナグサのことを慕ってくれているのだとか。無事に後輩が出来たかつ仲良くなれそうということもあり、それを祝おうとして意気揚々と向かうユメを見送った。

 その結果出てきたのは魚の塩焼きではあるものの、何故か食べると元気になる料理であったことを覚えている。二人も満足げな顔で食べており、ちゃんと祝う気持ちが伝わったであろうことはわかる。

 

 そんなことを思い返しつつ、体中に括り付けた重りと後ろに伸びたゴムバンドを外す。外したゴムバンドが勢いよく戻った方向へと目を向けると巨大な重りが存在し、生半可なパワーでは動かなさそうに見える。すると鬼の影が重りへと伸び始め、沼に沈むように徐々に姿を消していく。

 

「今日はここまでかねぇ。そろそろ洗濯物を干さねぇとな……ユメ、手伝ってくれ」

「うん!まっかせてよ~」

 

 最近の鬼にはある悩みがあった。それは、洗濯物である。というのも元々は一人で住んでいた家であり、使うとしてもタオルや刀を拭くためのハンカチ等と鬼の着替え程度の男物しかなかったからだ。しかし最近になってユメが鬼の家に住むようになったことと、いつもの二人組が風呂と夕食を済ますようになってからは洗濯物に女性物が含まれるようになった。さすがに就寝時は鬼がズルをして送り届けているが、このままだと住む場所をこっちに移し替えない。

 それは一旦置いておくが、とにかく女性の洗濯物など鬼からすれば頭を悩ませるものナンバーワンである。誰が悲しくて犯罪者になりたがるというのか。しかも相手は花も恥じらう女子高生達なのだから、傍から見たら事案である。というかオレが洗うことに抵抗感を覚えないのかと三人に聞いても……

 

「「「鬼さんなら気にしないよ?」」」

 

 と返される始末。鬼は頭を抱えた。

 

「…………ハァ……」

「どうしたの鬼さん?ため息なんてついちゃったら幸せが逃げちゃうよ」

「せめてお前さんらの下着ぐらい自分で洗ってくれって思ってるだけだよ」

「……鬼さんなら、別にいいよ…?」

「…………」

 

 無言で物干し竿に洗濯物を掛けていき、小物系はピンチハンガーに付けていく。最後に鬼が一つ火を灯し、乾いた風を発生させる札を部屋内に設置して洗濯を終える。お茶を入れて広間に座り、ユメと鬼が向かい合う。

 

「……アヤメはまだわかるんだよ。あいつにとって、周りからの期待と願望は息苦しいものだった。そんな中に含まれてなくて、寄り添う形になったオレに何かを抱くのは仕方ない。ナグサもそうだ。隣に立つ幼馴染に似合う自分を演じようとして、本当の自分を受け入れられなくて……オレがそれを肯定した。弱かろうと強かろうと、アヤメはアヤメであり、ナグサはナグサだと。自分の一番脆い所に触れちまったから嫌われる可能性もあったがな……」

「……」

「オレにどんな思いを抱こうとあいつらの自由だ。それを置いていくのも、持ち続けるのもあいつらの自由。それだけの環境の変化があったからな。……けどな、ユメ。オレはお前さんにまだ何もやれていない」

「違うよ」

「何が違うって言うんだ。お前さんの夢はまだ叶えてやれず、後輩に会わすことだって出来ちゃいない。なのになんでオレに、そんな目を向けるんだ」

「だって、私の夢を笑わないで真剣に聞いてくれたから。私に頭を下げてでも、ホシノちゃんに会わせてくれるって言ってくれたから。……あの砂嵐の中で、私を助けてくれたから」

「……」

 

 あの砂漠に一人倒れたユメは、後悔にまみれた心でホシノに謝っていた。馬鹿な生徒会長でゴメン、ずっと困らせちゃってゴメン、さよならを言えなくて、本当にゴメンと……。

 吹き付ける砂嵐に自分の体を傷つける砂。自分が今どこにいて何時までいるのかわからない世界で、馬鹿であろうと誰かを思う心を持った一人の少女は死に怯えながら瞳を閉じようとして……。

 

 唐突の快晴の空に、呆然とした。何かを切り裂く音と、その衝撃で吹き荒れる風。ぼやけた視界で見えたのは誰かがこちらへと走ってくる姿だけだったが、何故か安心した。

 呼びかけられていたような気もするが声は出せず、口元に水を運ばれても飲むことが出来ない。あぁ、自分はこんなことも出来ないほど弱っているのか…どこか他人事のように考えていると、不意に目の前の誰かが面らしきものを外し、口に水を含んで…自分の口元に暖かい何かが当てられた。そして気づく、これってキスされてる?と。

 困惑するも体は生存しようとして流し込まれた水を必死に飲み込む。少量だったがそれはユメの体に足りなかった水分を補給し、ギリギリのところで命を繋いだ。

 

「あの時は本当に驚いちゃった。私初めてだったもん」

「ヴッ……」

「ふふ…でもそのおかげで、私は今も生きれてるんだ。鬼さんがあの時、私のことを助けてくれたから」

 

 鬼が死角からの致命的打撃を受けて胸を押さえて呻き、その隙にユメが鬼の傍へと近づいく。いつしか肩が触れ合い、共に体温を感じ合う。

 

「私知ってるよ。鬼さんが時間が出来た時にアビドスに行って、ホシノちゃんの様子を見守ってくれてるの」

「何で知ってんだよ…お前さんってもうちょっと馬鹿な子って印象だったんだが」

「ひ、ひどい!確かに馬鹿だけど、ちゃんと何とかしようとしてるんだよ!むー、そんな鬼さんには…こうだ!」

「ちょっ」

 

 ユメが鬼の面に手を伸ばし、鬼が慌てても遅い。外した面の奥側と同じく面を外したユメの顔が触れ合い、一瞬の空白が生まれる。

 

「……私の初めてだから、ちゃんと責任取ってほしいな」

「………………せめて卒業まで待ってくれません?」

「ふふふ、はい!」

 

 面を付け直し、ひねり出すように声を出す鬼。

 「ちゃんと卒業したいだろうしな」という鬼からのおまけで、ユメの付ける面は成長はするが体の老化が進まない。運命を乗り越え、彼女が面の力無しで生きれるようになったころにまた青春を送るために付けたものだった。なので鬼の言う卒業は最低でも彼女の後輩が卒業するまでに叶えるつもりの発言であり、その期間は一年どころではないのだが……それでもユメは楽しそうに笑う。それだけ目の前の存在と共にいれるということだから。

 

 

 

 

「……鬼、さん?」

「「あ」」

「あ゛~疲れたー!でも先輩達の考えもわかるからなぁ、鬼さんに頼んだ方がいいのかな。とにかく、鬼さーん!一緒に鍛錬しようってあ゛ーーーーッ!!?

 

 いつの間にか来ていた二人にやっと気づいた鬼とユメ、絶叫してユメばかりずるいと突撃するアヤメ、脳が破壊されたナグサ。

 今日も鬼の家は平和です。

 

 




なんでナグサって不憫なのが似合うってしまうんだろうか……。
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