百鬼夜行の鬼   作:龍玉

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第十三話 龍猫

 

「後輩も連れて来たい?オレの家にか?」

「うん!」

「馬鹿か?」

「ひどくない?」

 

 夏のある日のこと。外とは違いひんやりとした空気が通る鬼の家で、いつもの四人組は夕食を取っていた。今日はそうめんの麺が貰えたので、みんなでちゅるちゅる啜っている。

 

「言っとくけどな、お前さんの目の前にいるのは男で大人で少なくともお前さんよりも強いの三拍子が揃ってるんだぞ。襲われたらどうする」

「少なくとも鬼さんがそんなことする人じゃないってわかってるから大丈夫。それにあの子達だって、身の危険を感じたら対処できるぐらいには実力があるから」

「というか、鬼さんを比較に出しちゃうとダメなんじゃ?私としては鬼さんより強い人がいるとは思えないけどな…」

「……いや、まぁ。それはそうなんだが…オレより強いやつがキヴォトスにいるなら逆に会いたいぐらいだしな」

 

 そう言いながら麺を啜る鬼。ちなみに今日は途轍もなく珍しいことに鬼の口部分が露出している。というのも、面を付けながら食べようとしたら下顎部分を汚し続けるので、仕方なくズラして食べているのだ。どうやって固定しているのかは不明だが、目元とギリギリ鼻が隠れる程度に面を被っている。

 おかげでアヤメは喋りながら鬼の口元を注視し、ナグサは無言で食べながら鬼の口元を凝視している。唯一鬼の素顔を知っているユメは美味しそうにそうめんを食べている。すっごく食べづらい。

 

「う~~ん……まぁ、アヤメとナグサの後輩がどんなのか気にならないって言うと嘘になるが、別に家じゃなくても会えるからなぁ」

「そこをなんとか!鬼さんの家って外よりも涼しいから過ごしやすいし!」

「さては後半が本音だな?」

 

 鬼は時々札を作り出して生活の助けとしている。玄関には外からの音を吸収する札、乾燥する風、冷えた涼しい風を吹き出す札等が主な役割となっている。そのため、吹き抜けとなっている鬼の家でも涼しい夏を過ごすことが出来るのだ。

 

「ナグサはどうなんだ?」

「……」

「ナグサ?おーい」

「……あ、ごめんなさい…えっと、私がどう思うかだよね。私も、二人には紹介したいなって思う」

「その心は?」

「二人にもね、百鬼夜行には私達よりもすごく強い人がいるんだって知ってほしいから。そうすれば二人とも誰かに頼りやすいし、強くなる目標が立てやすいかなって」

「あー…一理あるな…」

 

 確かに百鬼夜行には頼れる人達がたくさんいる。しかし生徒より強いという条件を付けると鬼を除けば0である。そして強くなる目標があれば鍛錬に身が入るというのも事実。これにより鬼はアヤメとナグサの提案を拒否することが困難になった。

 余談だが、何故現三年生を呼ばないのかと聞かれると二人は「紹介できるほど今の先輩達に余裕があるとは思えない」「鬼さんが向こうから聞いてこない限り会うことはほぼ無いって」と言っている。というのも今の三年生たちは卒業を目指し委員会活動を行いながら勉強に勤しんでいる。誰もが地獄を見る受験勉強と入社試験の真っただ中なのだ。

 さらに言えば、鬼はキヴォトスのインフラに携わる(というかほぼ独占している)『大和』の社長。少し前から経営自体は信頼できる部下に任せているとはいえ、面接などでは鬼が担当する予定なのだ。そのため自分から会いに行くと、その生徒のみを贔屓にしている形になり不平等な面接となる。それを避けるため、今の三年生たちとはあまり会わないのだ。

 

 え?今鬼の家に入り浸っている三人は?…さぁ、なんのことやら。

 

「…まぁ、会うこと自体は別に問題は無い。家に来るかはちゃんと聞けよ?ホントに聞けよ?変なことも言うなよマジで」

「だいじょーぶだいじょーぶ!ナグサも一緒に伝えるからさ!」

「ナグサ?本当に頼むぞ?」

「うん、任せてほしい」

「えへへ、アヤメちゃん達の後輩ちゃんかぁ!どんな子達なのかなぁ」

「あ、そういやお前さんの後輩に新しい生徒が来てたぞ」

「ほんと!?どんな子なの!?」

「んーとな、ユメみたいにホワホワしてて…」

「それでそれで?」

「ホシノのことちゃんと考えれてるな」

「…そっかぁ。ホシノちゃん、よかったねぇ…」

 

 ユメがしみじみと呟き、食事が終了してみんなで後片付けをして今日もみんなで川の字で寝る。自分の部屋に女子高生が三人も寝ている現実に疑問を感じざるを得ない鬼だったが、どれだけ言っても朝起きたら横でアヤメとユメ、時々ナグサが寝ている姿を見てからはもう何も言わなくなった。

 ちゃんと客人用の部屋もあるはずなのになぁ…なんならユメの部屋もちゃんとある。そもそも就寝時も自分の家にいるという事実にも目を背けているが。

 

 そしてその翌日のこと。

 

「ふ、不破レンゲです!ご指導のほど、よろしくお願いします!」

「桐生キキョウ、レンゲとは幼馴染です。…よろしくお願いします」

「……アヤメのやつから聞いてるだろうが、鬼だ。鬼面でもいいしあいつらみたく鬼さんでもいい。よろしく」

 

 カチコチに固まりながらも挨拶をする赤髪と龍のような尻尾、角が生えた少女。そしてこちらへ警戒心を見せる二又の尻尾を持った猫のような少女と玄関先で挨拶する鬼。

 少女達の後ろではアヤメとナグサが微笑みながら三人を眺め、鬼の後ろにいるユメもまた三人へ笑いかけながら楽しそうにしている。

 

 そして鬼は何となく察する。そもそも二人が何を言おうと自分は警戒される立場にあったのでは?と。

 

◇◆◇◆◇

 

「そこォッ!って、当たってない!?」

「レンゲ、目で追わないで!」

「鬼さん、こんなにも速くなれるの…!?」

「ちょっとキツイかなぁ!?」

『四人でもギリギリ対処できるレベルだ。連携を崩すなよ』

「わかってるけど…!影を纏いながら影に入って移動されても説得力がない!」

『これぐらいがギリギリ対処できるレベルだって言ってんだろ』

 

「みんなー!頑張れー!」

 

 「今度こそ鬼さんから一本取る!」と意気込んだアヤメの提案により、百花繚乱VS鬼(木刀)の手合わせが始まって数分。鍛錬で鍛え上げた実力を発揮した百花繚乱の面々は鬼を相手にして、誰一人欠けずに影を使わせた。

 それは、決してバラバラに攻めないよう始まりから今に至るまで連携を取り続けた成果でもあった。

 アヤメが遠近中距離で鬼の攻撃を受け止め続け、ナグサがアヤメをフォローすることで体力を温存させる。そしてキキョウがその頭脳で鬼の行動を予測し、その予測を信じてレンゲが突撃する。

 

 さしもの鬼も生身で戦うことを諦め、影を纏って戦い始めた。さらに影纏いだけに飽き足らず、常に移動先に影を置いては違う影から現れて神出鬼没な攻撃をするようになった。

 これには百花繚乱組も攻めに攻めれず、防戦一方の形になる。しかし防戦一方になるだけであり、誰一人倒れていないというのは彼女達の戦闘力の高さの表れだろう。

 観戦しているユメは終わった後の休憩のための準備を行っており、濡れたタオルと飲み物を人数分用意している。

 

「……そろそろ限界か?だけどよく頑張ったな。一人は床ペロさせる気で戦ってたんだが、誰一人として欠けずに戦いきったか」

「はぁ…はぁ…息一つ、切れてないのか…!」

「けほっ…!強すぎる…」

「ふぅ…!ふぅ…!アヤメ、大丈夫…?」

「げほっごほっ!?む、無理ィ……」

「アヤメ!?」

「先輩!?」

「アヤメは特にオレとかち合うように動いてたからな。他の三人以上にダメージを負ってたっておかしくはない。とりあえずお疲れ様。良い連携が出来てたし、反省点は後々言うから……ユメ!」

「はーい!みんな、これで体を拭いてね!お風呂も沸いてるからどうぞー!」

 

 まだギリギリ立てる面々が口々に礼を言い、水分を補給して体を拭いてから縁側でぶっ倒れていく。そのままタオルをクッションにし、泥のように眠っていくのだった。唯一最初から気絶していたアヤメは鬼が濡れタオルで顔を拭き、四人まとめてユメに任せて風呂へと入れていく。

 

 風呂場から色々な会話が聞こえる中、縁側でお茶を飲みながら先程までの手合わせを思い返していく。全員が全員完璧な戦いが出来ることはない。アヤメとナグサは強くはあるが鬼より劣るので正面切っての戦いは不利であり、レンゲはアヤメ達のように連続で戦えるほどの経験を積みきれておらず、キキョウもレンゲと同様だった。

 

 しかしそれぞれがそれぞれの不利を打ち消すように戦っていた。アヤメとナグサはアヤメを主体として戦うが、ナグサがフォローに回り鬼の攻撃を少しでも減らすことで戦闘時間を減らして体力を温存させ、レンゲとキキョウはキキョウが戦場を俯瞰して見るようにして予測し、レンゲがその予測をもとにヒット&アウェイの方法で攻撃を与えていく。これにより戦闘経験の差があってもアヤメ達の足を引っ張ることなく戦うことが出来る。

 ぶっちゃけた話、今回の手合わせでこれといったミスをした生徒は誰一人としていないと思う。

 

 だがもしも、この手合わせにおけるMVPを上げるとするならば……

 

「キキョウかな……」

 

 鬼への攻撃は程々に抑えながら戦術を組み立て、アヤメとナグサが下がる瞬間にレンゲを突っ込ませることで鬼に休ませないようにしていた。そしてレンゲが下がる瞬間にアヤメ達がやってくるというリサイクルを作り出したのはキキョウによるものだろう。タイミングすら考えていたのか、あれによって生身での戦闘を早々に切り捨てなければいけなかった。

 鬼が影を纏った後もどんな攻撃をするかまで考え、影法師が混じる中必死に鬼の本体がいる場所を予測していた。四人で固まって戦っている時にもっとも厭らしい場所にいるという推測からきた予測はかなり厄介なものだった。

 

「確か兵法書を読むのが趣味なんだっけ?あれだけ俯瞰してみることが出来て、最低限戦うことが出来るとはな…百花繚乱の参謀ってやつか。というかあれで一年生って、末恐ろしいもんだな……」

 

 お茶を飲み切ったので刀の整備をし始めると、風呂場での会話が多くなった。どうやら完全にリフレッシュできたようだ。

 

「ちょっとつまむのでも作って、反省会でもするか……」

 

 そう言いながら厨房へと向かい、軽いお菓子を盛り始めるのだった。

 

◇◆◇◆◇

 

「────これぐらいかね、オレから見た感想は」

「おぉ…!勉強になります!」

「やっぱり私はアヤメのフォローに回った方がいいのかな…」

「んー…私的にはやりやすくもあるんだけど、ナグサが主体で戦う時があってもいいんじゃないかな?私とナグサってそこまで実力の差は無いだろうし」

「なら交互に攻めと防御を……」

 

 生徒達が風呂から上がった後、いつもの広間で元炬燵と机をくっつけて一気に座れるようにして、鬼が盛ったクッキーをみんなで食べながら反省会をしていた。アヤメとナグサは今後の戦い方の考察を行い、レンゲは瞳を輝かせて鬼に質問を繰り返す。ユメはクッキーを食べながら後輩達の会話を眺め、キキョウは冷たいお茶を静かに飲み干す。

 

「ねぇ」

「ん、どうした」

「あんたから見て、私の策は厄介だった?」

「ちょっ、キキョウ!?敬語外れてるって…!」

「別に気にしちゃいないさ、レンゲ。そんでお前さんの策だったか……さっきも言ったが、今回でMVPを決めるならお前さんを選ぶぐらいに厄介だった。よくもまぁオレの動きを予測したもんだ、さすがに目で追うしかないと思ってたしな」

「……そう」

 

 鬼が褒めればキキョウの尻尾がゆらりと揺らぎ、周りからは(嬉しいんだな…)と思われているのも知らずにお茶のお代わりを口にするキキョウ。格上の存在から自分の策が褒められたのだから、やっぱり嬉しいものなのだろう。

 

「ちょうどいいし、質問でも聞こうかね。なければこのまま雑談でもいいが…」

「あ、はいっ!アタシからいいですか?」

「ハイどうぞ」

「えっと、鬼さんとユメさんって、付き合ってるんですか……!?」

 

 不破レンゲ、青春に憧れを抱く少女。鬼の家に来てから見ていた鬼とユメのやり取りに彼女の勘は敏感に反応した。そんな彼女から放たれた質問は部屋内の空気を一気に冷え込ませた。

 

「え…?なんか、寒い…?」

「「「「……」」」」

「え、これもしかしてアタシ、地雷踏んじゃった?」

「私に聞かないでよ…」

 

 お茶を飲みながら視線を落とす鬼、ナグサと共にユメへと挑戦的な視線を向けながら笑っていない笑顔のアヤメ、なんか視線を向けられてる?と特に気にしていないユメ。

 

「まず、一つ言うならな」

「は、はい」

「ユメはまだ三年生だ。そんでオレは既に成人を迎えている」

「そうだったんですか!?てっきりユメさんも成人の人だと思ってて…」

「私は三年生だよ?……でも、いつか鬼さんとはって思うな」

 

 そう言いながら鬼の肩にもたれかかるユメに特に抵抗しない鬼の姿を見て、思わずレンゲは黄色い声を上げてしまう。これが青春!?と興奮する幼馴染を見つつ、そういえば先輩達は?と目線を向けたキキョウは後悔した。

 キキョウの目線の先にいたアヤメとナグサは笑っていた。しかしその瞳に光は無い。顔立ちが整った人のハイライトオフ姿はこんなにも怖いものなのかと戦々恐々としていると、突然ユメがその二人を鬼の傍へと引き寄せた。

 

「「……へ?」」

「でもね、私一人じゃちょっと不安だなって思うんだ。多分だけど、アヤメちゃん達もそう思うよね?」

「……あー!はいはい、そういうことか!そうだね、私でも不安だなって思うな。ね、ナグサ」

「うん、一人じゃ無理かもだけど、三人以上なら…ね?」

「オレがなんかしましたかね…」

「「「した」」」

 

 突然の行動に目を白黒とさせたレンゲだったが、キキョウは三人の言うことに何となくではあるが考えが及んだ。

 何故かはわからない、だがふとした瞬間に目の前の鬼がいなくなってしまうような予感がするのだ。まるで影だけを残して消えてしまうような、そんな予感。

 

(じゃあなんで先輩達は牽制し合ってるんだろう…)

 

 先程の笑顔を見て浮かんだ感想。しかし頭を振ってその考えを消すことにする。恐らく自分とレンゲにわかることはないんだろうなと切り捨てたからだった。

 

 




自分は推しが何人もいますが、レンゲも推しですし湿度四天王もめっちゃ推しです。

キキョウは通常も水着もいませんけどね!!何故……。
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