百鬼夜行の鬼   作:龍玉

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今回の話以降は日常描写難しいかな……


第十七話 新年

 

 年が明け、新たな一年が始まる。すでに初詣やらクズノハへの新年の挨拶やらを済ませており、今日はいつものように鬼の家に集まっていた。

 

「ワカモーそっちのもち米はどんな感じー?」

「まだ蒸しきっておりませんね。もう少し時間が掛かりそうです」

「んー……ならこっちが先か。アヤメとナグサが臼を取りに行ってくれてるし、もうちょい待つか」

「はい!」

 

 鬼の家の厨房で会話をする鬼とワカモ。その目の前には大きな蒸し器がぐつぐつと煙を上げていた。

 年を越す前に餅つきをしたいと考えていたのだが、他の面々の予定が合わない関係で新年の日にすることになったのだ。

 

 今は鬼とワカモがもち米の準備を行い、ユメと他の百花繚乱組が木槌と臼の用意をしてくれている。

 

「師匠ー!ブルーシート引き終えたよ~!」

「餅取り粉も入れ終えたから、こっちも準備完了」

「おー助かる!こっちもそろそろ蒸し終わりそうだ」

「鬼さーん!臼持ってきたよ~」

「アヤメ、杯槌って何本必要かな」

「二本でいいんじゃない?一応私も持ってきたから予備もあるから大丈夫大丈夫」

 

 鬼の家の庭に餅つき用の臼が設置され、着々と準備が進んでいく。お昼時に突くことになったので、待っている側はもうお腹がペコペコなのだ。

 

 鬼がもち米を運び、その後ろからワカモが醤油やきな粉を持って現れた。お餅に付ける定番の調味料だ。

 

「えー、本日はお日柄も良く、良い餅つき日和になりそうです。今年も健やかに過ごせる一年に……長いしもういいや。というわけで一人ずつついてくぞー」

「「「「「はーい」」」」」

「ちなみにオレは返し手をするから間違えてオレの手ごと突くんじゃねぇよ?特にユメ」

「ひぃん!?な、なんで私だけ強調するの!?」

「ドジしてぶっ叩きそうだから」

「なんでだろう、凄く想像しやすい」

「この前は昼寝中のキキョウのこと抱きしめて、窒息死させそうになってなかったっけ」

「思い出させないで……」

「お料理となると、ユメさんもドジはなさらないのですが……」

「事実だから何も言えないよぉ…」

「ゆ、ユメさん元気出して…」

 

 ナグサがユメを慰めている内にアヤメとワカモが餅を突き始める。ここで軽くこねておくことで後がやりやすいのだ。

 鬼が袖を捲り上げて配置につき、まだ餅を突いていない生徒が槌を持ち上げる。本番だ。

 

 一番手はキキョウだった。気だるげながらもしっかりと持ち上げ、振りかぶる。

 

「よい、しょ!」

「はいよっ」

「ふぅ……それじゃあ私は寝るね」

「おう、食べるときは起こすからよ」

「ん……」

 

 何度か突き、次の人に代わる。二番目はレンゲだった。こちらは元気が溢れるような勢いで振りかぶり、一気に振り下ろす。

 

「よいしょー!」

「はいよっ」

「へへっ、これも青春だな!師匠!」

「青春かぁ?これ」

「師匠とみんなでやってるからこれも青春活動でしょ!」

「そうかな?そうかも……」

 

 キキョウ以上に突いては楽し気に笑い、満足げに次の人に変わった。三番目はワカモで、軽々と槌を持ち上げては軽く振り下ろす。

 

「よいしょっ」

「はいよっ」

「うふふ!鬼様との共同作業ですわね!」

「やけに嬉しそうじゃねぇか」

「それはもう!」

 

 喜色に溢れた声を上げながら餅を突き、次へと変わる。四番目はユメだった。ナグサからの励ましが効いたのか、心機一転といった様子で槌を振り上げ、若干ブレながら振り下ろす。

 

「よいしょー!」

「はいよっ」

「よーし、この調子で…!は、は…っ!ㇰシュッ!」

「はい────うごあっ!?」

「「「「あ」」」」

 

 もう一度振り下ろした瞬間にクシャミをしてしまい、大きくぶれた槌が見事鬼の脳天に命中する。地面に落下する瞬間、鬼の脳内には「知 っ て た」という単語が浮かんだとか。

 

「わああああああ!?鬼さんごめええええん!!」

「おー綺麗な蜘蛛の巣状だね~」

「何となくわかってたから、ユメさんは慌てないで」

「……寝てたのに、うるさい…」

「ししょー、大丈夫そう?」

「びっくりしたぁ……んなことより、餅は…?」

「ご安心くださいませ、お餅は無事ですから」

「ならいいや」

「かっる」

 

 気を取り直して次の人へ。五番目はナグサだった。自分はミスらないようにと気を付けながら振りかぶり、餅へと槌を叩きつける。

 

「よい、しょっ」

「はいよっ」

「……思ってたより、楽しい」

「だろー?力いっぱい振りかぶって叩きつけるから中々に楽しいもんなんだよ」

「だね…!」

 

 そして締めに、アヤメが槌を振りかぶる。五人の中で一番綺麗に持ち上げ、流れるように餅へと槌を叩きつけた。

 

「よいしょっ!」

「はいよっ!」

「えへへ、どう鬼さん?よかったでしょ!」

「おう、綺麗に餅を突けてたな!二回目もこの調子で頼むぞ」

「まっかせて!」

 

鬼が餅を叩きつけて完成に漕ぎ着き、手乗り程度の餅にちぎっては餅取り粉へと入れていく。残りの五人が粉を付けながら丸めていき、保管用の箱に次から次へと入れていく。

 

「あちっ!?」

「出来立てだからな、キキョウのその反応も仕方ない」

「なんであんたはこれといった反応も無く餅をちぎってんの…?」

「この程度はなぁ」

「慣れってやつか?師匠」

「ただただ耐えてるだけだぞ?」

「もっとやばい返答だった」

「見て見てアヤメちゃん!まん丸!」

「丸過ぎません?もうちょっと平べったく…」

「……あつい」

「もう少しで終わりますから、頑張ってくださいな」

 

 保管用の餅も作り終えれば今度こそご飯の時間。待ちに待った食事の時間に喜びの声を上げる五人と準備を進めていく鬼。水に餅を放り込めば、すぐさま誰かの口元に運ばれていく。

 

「んー!きな粉おいし~」

「ナグサは醤油いる?」

「うん、ほしい」

「…伸びる……」

「あははは!キキョウの餅がめちゃくちゃ伸びてる…!そんだけ伸びたら反動で……」

「んぐっ!?」

「あ」

「鬼様、あーん♡」

「ん、あー……ん。……うん、いい味付け。さすがだな、ワカモ」

「はうっ!?」

「ワカモ!?」

 

 わいわいと餅も食べ終わり、片づけても済ませて少し体を伸ばしてストレッチ。食べやすいからこそ体重に気を遣う必要がある。

 鬼の動きに合わせて体を動かし、少しばかり汗をかいては餅を食べた分の脂肪を落としていく。

 

 鬼を除いて全員が気にしていたことも解決し、全員が思い思いの時間を過ごす。

 

 キキョウは縁側で日向ぼっこをし、レンゲは鬼との修行へ打ち込む。そして残りの四人は縁側でお茶を飲みながらレンゲと鬼の修行を眺めるのだった。

 

「前よりも速くなったね」

「うん。切り込み隊長らしくなってきた」

「あ、おいしい。ねぇねぇワカモちゃん、これっていつも使ってるお茶?なんだかいつもより美味しく感じるんだけど……」

「同じ茶葉ですよ?…もしかしたら、入れ方が少し違うのかもしれませんね。今度一緒に作りませんか?」

「いいの?やった!」

 

「師匠、今度こそ一本取ってやるからな!」

「はん、オレから一本取るなんざ100年早いってんだ」

 

 新年が明けても変わらぬ一日を過ごす鬼の家だった。

 

◇◆◇◆◇

 

 夜。今日も今日とて川の字で寝る六人と一人縁側に座る鬼がいた。その手元にはスマホがあり、何処かと連絡を取っていた。

 

「……ふぅ」

 

 モモトークを操作し、送信先を選択して決定する。そして数秒の時間をおいて、送信先のアイコンが消去された。

 向こう側から頼まれていた証拠隠滅も済み、鬼は手元からプレゼントボックスを取り出す。

 

 それはあのクリスマスの夜に置かれていた、鬼のサンタクロースあてのプレゼント。蓋を開けて中に入っていた刀の整備セットを取り出す。

 

「基本的に汚れたりしないんだがな……」

 

 少し特殊な刀ということもあってか、整備は不要な鬼の刀。そもそも刀を打ったのは鬼本人であるため、あまり整備がいらないということはわかっている。

 それでも、鬼のことを考えて送ってくれたことに感謝するのだった。

 

 そしてさらに下側にある底を外し、()()()()を取り出す。そこに書かれていたのは────

 

 

 

 

 

『アリウス高等学校・中等学校等の設立認定書』

 

『承認:連邦生徒会長』

 

 

 

「……」

 

 鬼は思い出す。まだアヤメ達と顔を合したことも無かった頃、一人の少女が自分の下に訪れた。なにやら納得した様子で鬼を見つめ、あるお願い事をしてきたのだ。

 

 

『いつか、あなたの傷を生み出したあの場所が、過去から積もり続ける怨恨によって他者との壁を作ってしまいます。いつかは崩れるとしても、壁が有る限り悲しむ生徒が現れてしまう』

 

『……本当なら、私がなんとかしたいけど……それは叶わない』

 

『ですから、どうか。…どうか、あの子達が普通の生徒として生きていくために、力を貸してください』

 

 そう言って手を差し出した彼女に、握手を交わしながら了承した。何かを知っているであろう彼女を問い詰めることも出来たが、子供相手にそんなことはしたくなかった。

 なによりも、大切な誰かを思っての行動だということは本心なのだとわかったから。

 

 『アリウス』の文字をなぞる。それは、忘れてはならない名前。いつかは向き合わなければいけない場所。そしてなによりも────

 

 

 

 

 

『あなたの理想論なんてどうでもいいです』

 

 

『このような力を持ちながら、ただの駒にリソースを費やすなど……滑稽の極みですね』

 

 

 傷が疼く。体の奥底のさらに奥で何かがうざったそうに蠢く。

 

 

『いや…っ!来ないでッ!!』

 

 

 何かが揺らぐ。

 

 

『やめて!!その子を離してッ!!!』

 

 

 何かが曖昧になる。

 

 

『いやああああ!!!!』

 

 

 ナニカガグチャグチャニ────

 

 

 

 

カラン

 

 

 

 

 

「馬鹿かオレは。自分の信念は崩さねぇって決めただろうに」

 

 頭を掻きむしり、手元の書類を影の中に仕舞い込む。今はただの紙切れでしかないが、時が来たら最強の切り札になる。

 

 縁側から立ち上がり、今も眠っている家族同然の者達の下へと歩く。

 

 ふと、自分の手を見た。

 人の手をしながら、実態は人ではない者の手。そう実感して、欠伸を一つ。

 

 新学期が、始まる。

 

 

 




次回 先生赴任
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