百鬼夜行の鬼   作:龍玉

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第十九話 砂漠

 

 エリドゥに向かい、リオとの会議も済んでから少し日が経って。鬼はD.U.地区にある大和の支部にやって来た。

 ここに来た目的は現在の業務に支障が出ていないかの確認、そしてリオとの取引で受け取った物の試運転のためである。

 

「で、実際どうなんだ?このドローン」

「素晴らしいの一言ですね。以前の無人宅配機以上にコンパクトになっているのに、積載上限はこちらの方が上ですから」

「そいつは良かった。後で他の支部にも持って行かなきゃならんな…」

 

 そういう鬼と支部の管理者の目前には、多くのドローンが荷物を運んで目的地まで飛び上がっていく光景が広がっていた。

 

 鬼とリオが交わした取引は、エリドゥの建設費用の投資に対する対価として宅配に用いれる精密機器を鬼に渡すというものだった。

 従来の投資であれば株取引のように配当が配られる。しかしエリドゥの建設において利益が発生することはない。そもそもとしての目的がキヴォトスの終焉に対抗するためのものであるからだ。

 

 そこで鬼は、リオの持つ技術を取引の対価とした。鬼が経営する物流会社大和はカイザーからぶん取ったインフラ事業を拡大し、キヴォトス全域にその事業を拡大させた。

 しかしここで問題が発生する。それは、人員不足である。

 

 元々が鬼を含めても300人程度の会社であり、キヴォトス全域をその人数でカバーするなんてはっきり言って無謀だった。一時期は鬼が寝る間も惜しんで運んだことで間に合わせることすらあった。

 その人員不足を補うために他企業との連携も組みはしたが、その分の出費は大きい。

 

 そこでリオの持つ技術である。彼女の持つAMASのようなロボットがいれば人員不足に嘆くことも無く、現在以上にインフラの回転率を上げることが出来る。そんな考えのもと、鬼はリオからの対価に彼女の技術を求めた。

 

 ちなみに、この無人宅配機を作る費用はすべて鬼側からのものである。リオ側から出そうにも現在の彼女はエリドゥの建設にかかりっきりのため、仕方ない。

 

「そういえば社長」

「どうした?」

「最近お弁当作りに嵌ってるんですか?以前本部にいる友人が「社長がお弁当作ってる」って言ってたんですが……」

「あー……知り合いの食生活が、な」

「へ~」

 

 何故か鬼は何故か目を逸らしながら言うものだからだから、聞いていた管理者の少女は納得の声を出しながら不思議そうに見つめる。

 鬼の言う知り合い。まさかそれがミレニアムのトップたる調月リオだとは思わなかった。

 

 鬼が彼女と関わり始めてから少し経った頃、鬼は時々リオが廃棄寸前の唐揚げ弁当を買っている場面に出くわしたことがあった。驚いて聞きだせば、ほぼ毎日廃棄寸前のスーパーの弁当や冷凍食品でお腹を満たしており、足りない栄養素はサプリなどで済ましているという正気とは思えない返事が返ってきた。

 彼女のお付きであるというメイドにも聞けば肯定され、鬼は本気で頭を抱えた。逆にどうやってそんな食生活で今のスタイルを保っているというのだろうか。

 

 以降ミレニアムに向かう際は自作の弁当を作り、彼女に渡している。さすがの鬼も心配してしまったからだった。

 渡した本人は「わざわざ貴方に作ってもらう必要は……あまり合理的ではないと思うのだけれど」なんて言ってきたので、メイドに羽交い絞めにしてもらった上で弁当を口に突っ込ませて黙らせた。

 これが答えだと思ったらそこから考えの変わらないという短所を持っていると自覚している鬼とはいえ、さすがにリオの食生活は看過することができなかった。

 

 まぁ弁当を渡して次の機会に返してもらう時は、必ずと言っていいほど空になっているのでちゃんと食べているのだろう。

 鬼の作った弁当に影響されてちょっとだけ料理に興味を示し始めたとメイドから聞いた時は、「あのでかい妹が……!」と思わず目頭を抑えてしまった。

 

「そんじゃあオレはちょっと用事があるから戻る。なんかあったら連絡頼んだ」

「わかりました。……そういえばですけど」

「ん?」

()()()()()、近々結ばれるらしいですね」

「……」

 

 鬼が振り返って管理者の少女を見れば、変わらずドローンが宅配物を運び出すところを見ている。

 ただその目はどこか遠く、目の前に無いものを見ているようだった。

 

「……やっぱり、引きずっちまうか?」

「…いえ。私は、私達はもういいんです。だけど……」

「……すまねぇな。オレのせいで……」

「謝らないでください。社長がずっと行動してくれていることは、わかっていますから。そもそもあれは社長の、鬼様のせいじゃないです。…だけど問題は、時間ですよね」

「そうだ。迅速かつ確実に動かないと、こぼれ落ちちまう誰かがいる。準備は、怠らないでくれ」

「了解」

 

 今度こそ鬼はその場を後にする。残った管理者は手すりに体をもたらせて、静かに空を仰いだ。雲一つなければ雨が降る気配すらしない、綺麗な青空。

 

「……私達がここにいる理由は、見失っちゃいけないな。()()()()()()()()()()()、人は前を向いて歩かなきゃいけないんだから」

 

 管理者の、ブロンドに近い色をした髪が風に煽られて揺れる。その瞳には、確固たる決意が燃えていた。

 

◇◆◇◆◇

 

 影の世界を今日も鬼は泳ぐ。今回の目的は、いつぞや散歩の途中でユメを拾ったアビドス砂漠への遠出となっている。

 というのも鬼が聞いたところによると、アビドスからシャーレに対して支援要請の依頼が来ていたとのこと。そして先生がそれに応え、アビドスに向かう予定であることもわかっている。

 

 元々アビドスに行くのならば影で見守る予定だった。というのもアビドスは天然の要塞と化しており、地元民でも容赦なく遭難する。

 事実地元民のユメが死にかけていたし。

 

 そういうこともあり、元々気にしていた相手である先生が遭難して死亡なんてしたら目も当てられないので影から見守ることにしている。

 表でサポートなどをしない理由は、先生のキヴォトスにおけるスタンスが把握できていないためである。善人ならまだしも、悪人だった場合は対処を考えなければいけない。そのために情報収集はしておきたいのだ。

 

 また、アビドスからシャーレに依頼があったという話はユメにも伝えていた。さすがにまだアビドスに向かうことは出来ないとはいえ、関係者でありまだ生徒会長でもあるユメにこのことを隠す理由もない。

 そして本人からも、頼みごとをされた。

 

「ホシノちゃん、もしかしたら寂しい思いをしてるかもなんです」

「寂しい思い?今は後輩だっているが……」

「そうなんですけど…私が死んじゃってるって思ってたら、今も一人で戦ってるかもしれなくて……」

「……心がまだ、二年前に置いてかれたままってことか?」

「もしかしたら、ですけどね。本当は今すぐにでも会いたいです。抱きしめて、今までよく頑張ったねって、あの時はごめんねって伝えたいです。だけど、まだまだ会えないままだから……。鬼さん、お願いしたいことがあるんです」

「なんだ?」

「シャーレの先生?が優しい人でも、届かない手だってあると思うんです。だから……」

「オレがもしもの時のフォローをしてほしいってことだな。任せとけ」

 

 そう言えば、調理を手伝ってくれていたユメは安心した様子で作業を続けた。

 

 そして現在に戻る。ユメとのやり取りを思い出しながら、鬼は目の前の現実をしっかりと確認する。

 

 

 

 先生、無事に遭難。

 

「なーにやってんだこの人は……」

 

 影から少し手を出して先生の周りの温度を冷やす。何故かヤ〇チャのポーズをしながら倒れているせいでギャグのように見えるが、脱水症状に陥るとかなりまずい。かれこれ数日は過ぎているのだし。

 道中で果物を落とすなどしてサポートはしていたが、さすがに限界を迎えたらしい。

 かといって水を飲ませようにも、あまり姿は出したくない。さてどうしたものかと考え、最悪の事態に陥る方がマズいかと思い水を用意する。

 

 すると遠くの方から自転車の音が聞こえてきた。どうやら先生の倒れている道路を通っているらしく、あと少しすれば先生に気づくかもしれない。

 そうして少し待っていると、予想通りロードバイクに乗った誰かがやって来た。

 

「…ん?……あの、大丈夫…?」

「た、助けて……」

「強盗に遭ったとか?もしくは事故…?」

「お腹が減って力が出ないの…」

「ん、ただの遭難者だったんだね。ここら辺はお店とかはもう無いけど……」

「土地勘が無いの……」

「なるほど、この辺は初めてなんだね」

 

 セミロングの銀髪に、オッドアイを持った少女────砂狼シロコが先生を助けているところを横目に、鬼は水をそこらへんに投げ捨てる。どうやら必要なくなったようだ。

 

「それにしても…砂狼シロコか。……前よりデカくなりすぎじゃねぇか?」

 

 そう呟く鬼。前に彼女の話を聞いたのは……黒服との飲み会以来だろうか。この目で見るのも、クリスマスの時だった筈。

 あの時は彼女のサイズに合った自転車を届けた覚えがあるが、ここまで急成長を遂げているとなるとすでにお役御免になっているかもしれない。

 

「っと、先生は…シロコに背負われてんのか?なら急がねぇと…」

 

 すでに回復したとはいえ、まだまだ体力は戻っていない先生を背負ってアビドス高等学校に向かうらしく、かなりのスピードで走り出す二人。さすがに大丈夫だろうが、もしもトラブルが起きたら……そう考え、鬼も影の中でついていく。

 また何処かで野宿する必要があるなと思いながら。

 

 その後、無事にアビドス高等学校に着いた二人。すでに登校していた十六夜ノノミ、奥空アヤネ、黒見セリカがシロコがついに犯罪を犯したと騒いでいる間、鬼は屋上に上っていく。

 こちら側にいるだろう小鳥遊ホシノを探しに来たのだが、やはり屋上の角で昼寝をしていた。そしてその姿を確認し……絶句する。

 

「……ホシノ、お前…」

 

 鬼は確信した。クリスマスの時にも一度姿を見かけはしたが、そこでは疑問に思う程度だった。だが今は違う。

 ホシノの姿はユメに酷似していた。唯一違うとしたら身長と胸程度だろうか。

 

 これが一年生の頃から同じだったのなら、鬼も疑問に思うことは無かった。だがある時、ユメからホシノのことを聞いていたことで今と昔の違いがわかる。

 何かしらのきっかけがあったのか、それともユメとの別れがトラウマとなっているのか……それは、本人に聞かねばわからないだろう。

 

「かといってな…」

 

 もしも、もしもユメとの別れがトラウマとなっているのならば、ユメが生きていると知った場合は死に物狂いで探し回るだろう。それによって邂逅してしまうとかなり面倒なことになるのは目に見えている。

 さらに言うならば、ユメが宿す神秘とホシノの宿す神秘はかなりの親和性がある。血以上に濃いその関係性の前では、あの面の効果も期待できない。

 

 結果、鬼が下した判断は。

 

「……すまん、小鳥遊ホシノ。まだお前さんとユメを会わすことは出来ない。恨むなら、オレを恨んでもいい…」

 

 彼女に罪悪感を覚えながら、鬼はアビドス高等学校から離れる。今だ先生が呼ばれた理由である依頼は完了しておらず、彼女もここから離れるのはもう少し先の話になるだろう。

 

 それまではここで見守ることにしよう、そう思う鬼だった。

 

「……今の声は、誰?」

 

 違う色をした瞳が、違和感を覚えていたことにも気づかずに。

 

 




鬼ぃさん、渾身のガ☆バ。
ホシノ視点では「なんか謝られてる…?何に…?」となっています。そもそも影の中にいたので話は聞こえてませんしね。
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