鬼ぃさんはベアオバに会いにいけません。本人はさっさとずんばらりんってしたいな〜って思ってるんですが、ベアオバがアリウスに籠もってるせいでそれも出来ません。(アリウスから出てきたら即斬決行です)
ベアオバもそれがわかってるからアリウスに引きこもってます。
なんでアリウスに行けないかの説明は…最終編の後になりそう…。
今日も今日とて百花繚乱紛争調停委員会の面々が入り浸る鬼の家に、新しい一年生がやってきた。
名を勘解由小路ユカリと言い、少しばかり世間知らずの面が見受けられる少女であり勉強に追われる日々を送っていたらしい。
というのも彼女、勘解由小路という名前の通り名のある家の生まれである。その分勉学も必要であり向けられる期待もあるのだとか。
では何故そんな良家の箱入り娘が鬼の家にやって来たのか。
彼女が鬼の家にやって来た理由に鬼は一切関わっておらず、アビドスから帰ってきたらいつもの面々に混じってお茶を啜っていた姿を見て鬼は心底不思議に思ったらしい。
ちなみにだが、鬼は勘解由小路という家に対してあまり良い思いをしていない。ユカリに対しては「すっごい良い子」という印象を持っているが、あの家に長くいる者にはある事件をきっかけとして距離を離している。
というのも、今から20年程前に勘解由小路の少女が舞を行うも、篝火の炎が舞台についてしまったために少女が火消しを行おうとしたことがあった。
それにより舞は中止することとなったのだが、勘解由小路の家は舞を中止した少女を追放・所属していた百花繚乱の委員長からも引きずりおろして家の汚点として扱った。
当時の鬼は黒服との実験に専念しており、尚且つその時期の百鬼夜行にはあまり顔を出していなかったため舞のことも一切知らず、少女の扱いもまた同様に知らなかった。
後に黒服との実験も区切りがつき、「久しぶりの百鬼夜行だな~」なんてほのぼのしていたら前まで百花繚乱調停委員会の委員長だった少女の姿が無く困惑したものだ。
そして少女に起こった出来事を知り、彼女を探そうとして……結局見つかることは無かった。
以降、鬼は勘解由小路と距離を置いている。凝り固まった頭と風習に引っ張られ、人命を無視するのと同じことをする存在とは馬が合わないとわかっているからだ。
「なのになぁ……」
「どうかなさいましたの?」
「いや、何でも無い」
目の前の少女は呑気に煎餅を食べ、熱いお茶に手を付けては「熱いですわ!?」なんて驚いている。
おそらく、勘解由小路の黒歴史について何も知らないのだろう。もしかすると、知っていてもなお前を向いている心の強い少女なのかもしれないが……
「そういえばですが…」
「どうした?」
「ユメ先輩はどうなさったのでしょうか?」
「あぁ、これか?傷心中ってだけだ。触れてやんな」
「こあらのように鬼様に抱き着いていらっしゃいますが…?」
「こうすると落ち着くんだと」
そういう鬼が目線を下に向けば、一本のアホ毛がぺしぺしと鬼の面を叩いてくる。
構図的に言うと、胡坐をかいて座っている鬼に真正面からユメが抱き着いている状態だ。ユメの背丈がかなりある関係上、体全体に抱き着いてきているので動きづらい。
鬼の胸元に顔を押し付けているのか、「ホシノちゃ~ん……」というくぐもった声が聞こえてくる。
先程、アビドスで起きた事件の顛末を彼女に伝えきり、ついでにホシノの現状も教えたことで「ホシノちゃんが私のことでトラウマになってるぅ…」なんて落ち込み始めたのだ。
そして鬼が少しでも元気になったらいいなと思ってやりたいことがないか聞いてみたところ、こうすることを望まれた。
結果、渋々ではあったが鬼も了承したことで現在に至る。
「鬼さぁん……」
「あいあい、まだ駄目そうか?」
「ひぃん……」
「駄目そうだな」
より強く締め付けてくる腕をそのままに、鬼はスマホの操作を続ける。その画面にはトリニティでのニュースが乗っており、真剣に文章に目を通していた。
「鬼様、何を見ていらっしゃるのでしょうか?身供も気になりますの!」
「んー?あぁこれか?トリニティのニュースでな…どうもトリニティの生徒会の長が一人倒れたんだってよ」
「そうですの……大事がなければいいのですが…」
「そうだな。しかもエデン条約が結ばれるっていう大事な時期だしな」
ニュース内容は『ティーパーティーの一人である百合園セイアが入院、現在はフィリウス派の桐藤ナギサがホストに』というもので、生徒会員が一人が倒れたというだけあってかなり大々的に報道されている。
入院理由は体調不良のようだが、少しばかりきな臭い。
トリニティにおけるティーパーティーのホストというのは、他学園における生徒会長とほぼ同義だ。三人いるため、順々にホストを変える三頭政治体制を用いることで運営しているらしい。
そのホストにいたはずの百合園セイアが体調不良になり、ホストが違う生徒に移る。もうすぐエデン条約のための調印式があるという時期なのに、体調を崩して入院するなんてへまをするだろうか?
元々体が弱いという話も聞いているし、尚のこと気にするはずだ。
そして鬼は知っている。トリニティという学園とゲヘナのことを恨む教えを洗脳教育のように学び続けた学園があることを。
違和感とその知識によって、鬼は何となくではあるが予測できた。予測ではあるが、鬼はそれが事実であると断言できる。
(やりやがったなあのクソババァ)
ユカリとユメがいるため、己の内に発生した感情を押し殺す。なにかと多感な時期であり、察しのいい彼女達ならば少しの漏れで気づかれてしまう。
そんな鬼の心の動きに気づかなかったユカリは「えでん条約?」なんて首を傾げている。まぁ百鬼夜行とトリニティ・ゲヘナは距離があるので、興味でもない限りは知っていないのも仕方ない。
「トリニティとゲヘナの二校がそれぞれの生徒を出し合って、
「犬猿の仲であった学園が手を取り合う…!無事に結ばれるといいですの~!」
「……そうだな。無事に結ばれるのが一番なんだが……」
おそらく無理だろうな、なんて思ってしまう。だって、あの学園同士の間にある溝はあまりにも深い。その中には、トリニティだろうと何だろうと仲良くなりたいと思っている生徒もいるだろう。
だが上層部の人間が恨みを持っているのならば……どこかで破綻するだろう。どちらかが裏切るかもしれないし、ズレた歯車のように嚙み合わなくなるかもしれない。
何よりも、その条約を妨害しようとする存在がいる。それを彼女達は知らない。
「本当は手助けしたいんだがな……」
例え将来で破綻するだろう約束事でも始まってすぐに喧嘩は無い。つまりその期間は平和な可能性があるので、鬼もエデン条約の締結は支持したい。
しかし鬼はエデン条約に一切の関りが無い。表向きの鬼は一企業の社長なだけで二校を取り持つ人間にはなれず、アリウスに行きたくても鬼の体がそれを許さない。
トリニティの上層部に情報を伝えたくても、すでに襲撃されたであろう後にやって来た存在なんて警戒しかしないだろう。
ゲヘナの上層部に伝えたくても、あの生徒が得た情報をまともに使うとは思えない。
はっきり言えば、今の鬼に出来ることはほぼ無い。トリニティのホストが変わる前ならばまだ何か出来ただろうが、「さすがに襲撃はしないだろう」と警戒していなかったせいで状況が変わってしまった。
あるとすればシャーレに情報提供ぐらいだろうか。しかし今のシャーレはアビドスの一件もあり、トリニティ側に恩がある状態。先生という立場を以てしても、トリニティ側が聞き入れてくれるのだろうか。
トリニティはすでに警戒されているだろうし、ゲヘナはそもそも論外。アリウスも行きたくても行けず、シャーレはアビドスのこともあって元ゲマトリアであることは隠さなければいけない。
逆に元ゲマトリアであることを隠せばいいのだが、バレた場合は一気に信頼が無くなるだろう。さすがにリスクを取ってまでシャーレに行きたくない。
「はー……」
スマホの画面を閉じ、ひとまず匿名でシャーレに情報は提供しておくか。そう考えて抱きしめてくるユメを抱きしめ返す。程々に体温があるので体がポカポカして少し落ち着いた。
そのおかげである考えが浮かんだ。
入院しているティーパーティーの生徒に会いに行けばいいのでは?
「……ありだな」
「何がですの?もしかしてユメ先輩を抱きしめていることでしょうか?身供も抱きしめたいですの!」
「違う。あとそれは本人に聞いてくれ」
「ユカリちゃんならいいよ~」
鬼から離れ、ユカリと共に抱きしめ合う二人を眺めながらどうやって入院中のティーパーティーの生徒に会いに行こうかと考える。
入院と言うことは少なくとも生きているということ。そして襲撃されたのなら、誰がやったのかも気づいているだろう。そこに赴いて己がまったくの無関係ではあるが調印式を支持する人間であることを示し、手助けできる立場に立てば……。
そこまで考えて鬼は気づく。もし入院しているだけならば、襲撃犯のことを仲間のティーパーティーに伝えているのでは?もしトリニティ側にアリウスという情報が入っているのならば、調印式に関しても警戒は強まる筈。
それにここまで考えていたのはすべて予測であり、事実とは異なる可能性がある。だったら直に聞きに行った方が確かな情報が得られる。
「百聞は一見に如かずだな。ユメ、ユカリ。また家を空けるから留守番は頼む。何かあったらユメの付けてる面に向かって念じてくれればオレに届くからな」
「あれ、鬼さんまた出るの?最近は家をよく空けるね」
「もしや、鬼様のお仕事の話ですの?それならばお気を付けてですの!」
「そんなところだ。それじゃあ行ってくる!」
「気を付けてね~!」
机を囲んでいた二人と庭にいる百花繚乱組に声を掛けつつ、鬼は影に沈んだ。目指すはトリニティ、表面は嫋やかでありながら内側では足の引っ張り合いが常のお嬢様学校に向かうのだった。
◇◆◇◆◇
入院中のティーパーティーが何処にいるかを知るため、ティーパーティーが集まって話し合うだろうベランダらしき部屋にやって来た鬼。もちろん影の中から覗いているので、中にいる二人は気づいていない。
長机に座って和やかな雰囲気でお茶しているが、表情から相手の内面を読み取れるかつ助けを求める生徒ならば心の声が聞こえる鬼は二人の内側を読み取り顔を顰めた。
「えぇっと…?あっちが桐藤ナギサで、こっちが聖園ミカだよな……。……え、なんだこれ……?」
微笑を浮かべている二人の内側は惨々たるものだった。桐藤ナギサの心は「ミカさんを守らなければ」の声で支配されており、聖園ミカの方は「ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい……」のみ。
見ていた鬼から「なんだこれ?」という声が漏れるのも仕方ない。
「桐藤ナギサの方はパラノイアみたいなのになってねぇか?んで聖園ミカの方は……なんで謝ってんだ…?」
鬼が立てた予測に反して、トリニティの上層部がかなりボロボロになっていた。本当に調印式に向けて動いている存在の心持とは言えない現状に困惑が止まらない。
いや本当になんだこれ。
影の中にいる鬼は二人の心の声から推測する。
ナギサのミカを守ろうとする声と謝罪するミカ。ナギサに関してはミカを守ろうとする声に混じり、トリニティの裏切り者は誰かについても考えている。
つまり彼女は、入院しているセイアを誰が襲撃したかが分かっていない。
「……まさか」
入院しただけかつ襲撃されても生き残っているのならば、情報の共有はされているはず。だのにナギサの声からは誰がやったかについての情報が出てこない。
ならば現在のセイアは寝たきりなのか、それとも死んでいるかのどちらかに絞られる。もしも死んでいる場合、彼女が身内を守ろうと必死になるのはまだわかる。
となると、何故ミカが謝り続けているのかという疑問が湧く。知り合いが襲撃されたことに不安や怒りを抱いているのならばまだわかるが、謝罪をするのは意味がわからない。まるで彼女が襲撃したことを後悔しているような────
「待て、待て…っ!本気で言ってんのかそれ…!?」
思わず頭を抱えてしまう。鬼の頭で立った仮説はこうだ。
エデン条約が間近に迫り、アリウスがそれを妨害するためにエデン条約の主導となるトリニティのホストを襲撃しようとした。
その襲撃を手引きしたのはミカであったが、襲撃後にそれを後悔し始めた。しかもナギサは襲撃を手引きしたのはミカだとは疑わず、内外に裏切り者がいると考え始めた。本当の裏切り者が自分の身内だと思わずに。
「最悪な状況じゃねぇか……」
もちろんこれはただの推測だ。証拠も無く、元々あった知識と判断で組み立てたものであり、事実とは異なる可能性がある。
しかし最悪は常に想定するもの。もしも今立てた仮説が正しかった場合、エデン条約どころの騒ぎではない。
「まずいな、どっちかに手助けしたくても状況が悪い方向にしか転がりかねない」
身内を守ることに必死になるあまり対外問わずに疑いの目を向けるナギサに手を差し伸べても、「こいつはミカを狙いに来たかもしれない」と疑われる。
逆にミカを助けようにも、アリウスと繋がっていた場合は情報が向こう側に行く可能性がある。
そしてアリウスに情報が行くということは、親玉が鬼の存在に気づくことになる。現在の鬼はゲマトリアから身を離しているかつ元同僚たちも情報を隠してくれているが、直に知られた場合はその限りではない。
そして気づかれた場合の話に関しては、どう考えても良い未来はやってこないことだけはわかる。
八方塞がり。そんな言葉が鬼の頭に浮かぶ。
「……もっと情報を集める。少なくとも確証に至れる情報を…!」
助けたくても助けられない現状を理解し、鬼はその場を後にする。今欲しいのは情報であり、解き明かすことの出来ない謎ははっきり言って邪魔でしかない。
故に情報収集に徹する。幸い調印式の予定日はまだ先の話であるため、時間自体はまだある。
また降ってわいてきた面倒ごとに頭が痛くなるのを感じつつ、鬼はトリニティの影の中を奔走するのだった。
次回
鬼ぃさん、Sexy foxと出会う。