百鬼夜行の鬼   作:龍玉

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忙しくて昨日の投稿に間に合いませんでした…。
明日も若干怪しいので1日置いてまた投稿しようと思います。


第二十三話 未来

 

 鬼は桐藤ナギサと聖園ミカから離れた後、影の中を駆け回って情報収集に徹した。

 トリニティ・スクエア、大聖堂、中央図書館、古書館…。生徒が特に集まる場所を中心に聞き耳を立て、何かしらの情報が出てこないかを確かめた。

 

 結果、得た情報はなく振り出しに戻ることになる。唯一気がかりだったのは、トリニティ内で救護・治療を受け持つ救護騎士団の団長、蒼森ミネの姿が見られないことだろうか。

 一度救護騎士団の本部も見ていたが、何故か彼女の姿が見られなかった。

 

 「ミネが壊して騎士団が治療する」、これはトリニティで広まっている救護騎士団への考え方らしい。つまり、日常的に銃撃戦が起きるキヴォトスではミネが突っ込み、その後救護騎士団が治療する。このサイクルが出来上がっているのだ。

 であるのならば、彼女の姿が無いのは一つの手がかりと言える。

 かといって、何処にいるかもわからないのならばどうしようもない。

 

 「もう面倒くさいからティーパーティーの二人をしばき倒して何しようとしてんのか吐かせた方がいいか?」なんて鬼が考えていると、影の世界で波紋が起きた。

 

「……なんだと?」

 

 鬼がいる影の世界は、彼のみにしか出入りを許されない世界。厳密には彼が許可を出して入ろうとした人間も了承した場合はその限りではないが、基本的にこの世界は鬼しか存在できない世界なのだ。

 

 つまり、微動だにしていない鬼とは別の場所から波紋が起きるというのも、おかしなことで。

 

 刀を抜き、波紋の揺れを頼りに進みだす。どうも、トリニティの中心区域から離れた場所から波紋が発生したらしく、鬼が走り回っていた場所から程遠い。

 

「……」

 

 鬼の気配が限りなく0に近づく。時々手合わせを頼んではボロボロになる百花繚乱の5人によると、

 

「鬼さんが戦ってるときって本当に生きてるの?」

「こっちだって思ったら真反対にいた」

「師匠の剣筋って、目の前まで振られてもまったくわかんないんだよな…」

「詰めは苛烈なのに、鬼そのものは植物みたい」

「鬼様にはまったく勝てる気がしないですの!」

 

 と評される程に彼の気配は無くなるのだ。まるでそこにいるのが分かっているのに、見ようとしても輪郭が合わないような存在になる。

 何が言いたいのかと言えば、今の鬼は川の中から獲物を狙うワニのようだということだ。鬼しか入れない世界に起きた異変、それが人為的なものならば…切ることも躊躇わない。

 

 鬼が出るか蛇が出るか。一切の油断も無く、鬼は影の世界を進み続け……

 

「────!────ッ!!!」

「………………」

 

 ジタバタジタバタともがき続け、滅茶苦茶焦りまくっている少女がぷか~と上へ上へと上がっていく姿がそこにあった。

 張り詰めた糸のような緊張感が発生していた鬼の周囲が緩み、鬼は呆然としながら昇る少女の姿を眺める。

 

 百合園セイアと鬼は、何とも言えない空気の中で邂逅するのだった。

 

◇◆◇◆◇

 

「すまないな、どうやら君に助けられたようだ。感謝する」

「いや、うん……そいつはどうも…」

「どうしたんだい?何処か煮え切らないような返事だが」

 

 急いで浮かび続けるセイアを確保し、水中のようだが息が出来ることと話すことが出来ることを何とか伝えた後のこと。

 クリオネのような泳ぎ方で無理矢理その場に留まれるようになったセイアからの感謝に、鬼は何とも言えない声色で返事をした。というのも……

 

「お前さん、どうやってここに入ったんだ?影に手あたり次第飛び込んだりしたのか?」

 

 先程言ったように、この世界には鬼か鬼の許可を得て入る気がある者しか入れない。

 鬼は目の前の少女が百合園セイアであるとはわかるが、彼女とは初対面の関係。許可をしたことも影の中に入りたいとも聞いていない相手なのだ。

 

「……ふむ。ならばこちらから質問してもよろしいかな?君の質問に答えたくても、まだ現状が把握できていなくてね」

「ん?てことはこっちに来たのは事故ってことか?珍しいこともあるもんだ……それで、聞きたいことってなんだ」

「おや、素直に質問を受け入れるんだね。先程まで刀を抜いていた相手に」

「なんだ、気づいてたのか」

「焦ってはいたが、さすがに刀が仕舞われる音ぐらいは聞くことが出来たからね」

 

 そう言うセイアの瞳は落ち着いているようで、しかし怯えと焦燥感に満ちていた。恐らく、襲撃されたのは本当だったが何かしらの理由で偽装工作を行っていた。

 だが命を狙われたことに変わりなく、さらに意味の分からない世界へと入ってしまった。これでは落ち着くことも出来ないだろう。

 少しばかりの皮肉を込めたであろうセリフは、少しでも自分が恐れていないと虚飾を張るための自己防衛だろうか。

 

「……前もって言っておくが、オレはアリウスから来たわけじゃないからな?」

「っ!…知っていたのかい?私がアリウス分校の生徒によって襲撃されたことを……」

「元々、あそこには縁があったんだ。どんなことをするかは何となくだが想像できる。凡そお前さんに対する暗殺の命令でも出たから襲撃したってとこか。そんでもって、その理由は聖園ミカが出したか、それとも独断か……。そうだろ?ティーパーティーの元ホスト、百合園セイア」

「…そこまでわかっていたんだね。ならば改めて自己紹介を。サンクトゥス分派を率いるティーパーティーの一人、トリニティ総合学園所属の百合園セイアだ。よろしく頼む」

「鬼面だ。鬼って呼んでくれて構わん。そんで?何が聞きたいんだ」

「では、まずはこの世界のことを教えてくれないか?私自身初めての経験でね、いつものように病床から意識だけが飛んだかと思えばここに来ていたんだ」

「病床だと?しかも意識だけって、まるで寝たきりなのに動けてるみたいに言うじゃねぇか」

 

 鬼がセイアの姿を注視しても、特にこれといった違和感は無い。強いて言えば銃を持っていない程度だが、何処かに隠し持っている可能性もある。

 鬼の疑問に答えるようにセイアが口を開く。

 

「私はある種の予知夢を見ることが出来る。そのせいか、明晰夢のような状態で意識だけが彷徨い歩けるのさ。だが、いつもは現実の地面に立って歩くことが出来る。決して訳の分からない世界に踏み入れるようなものではないよ」

「はーん、予知夢か。クズノハみたいなことが出来るんだったらここに入れちまうのもまだわかるな。ここに来たきっかけは、オレが入るのとほぼ同時に意識だけが飛んだとかか?他にも理由があんのかね……」

「……君は疑ったりしないのかい?」

「あ?なにを?」

「私が言った予知夢を見れるということをだよ。傍から聞いたとて、ただの与太話に過ぎないように思えるが」

「知り合いに大預言者がいるからな。他にいたとしてもおかしくない。そもそもだな」

 

 鬼が周りの景色を見渡すのでセイアも釣られて周りを見る。何処からどう見ても現実世界ではなく、闇に支配されたような世界だ。鬼の視点からだと影で構成された建物が見えるが、どのみち普通の世界とは言えない。

 

「こんな世界が存在してんのに、予知夢が無いってのは無理があんだろ」

「……それもそうか」

 

 セイア自身、どう考えても予知夢よりもこっちの方が可笑しいとしか思えない。なんだ影の中に存在する世界って。しかも聞く限りでは目の前の大人しか入ることが出来ないようだし、もし彼の力でこの世界を作り出せているのならば、それは予知夢以上に恐ろしい力ではないか。

 とはいっても、自分の能力を疑われなかったというのは少しばかり新鮮な気持ちだ。他のティーパーティーの二人に伝えたとしても、理解してくれるとは思えない。

 

「こんな状況でなければ喜ばしいことなのだがね……」

 

 改めて目の前の大人を観察する。トリニティの住民にしては和風な恰好をしており、銃の類は一切見当たらない。武器と言えるのは腰に差してある刀が一本程度。

 なによりも、顔に付けられた鬼の面が常人ではないことを示している。

 

 そしてセイアは予知夢で彼の姿を()()()()()()()

 

「君は、何者なんだい?」

「……んー、答えんのが難しいな。あえて言うなら、エデン条約の締結を手伝いに来た大人とでも覚えといてくれ」

「エデン条約を?ならば何故私を探していたんだい?今じゃただの傍観者の小娘だろう、大局的に言えば役に立たない存在だ」

「なんでそんな悲観的なんだお前さん。そもそも役に立たないっていうなら暗殺などされんし、偽装工作も意味がないだろうに」

「さぁ?もしかすると、今更になって死ぬのが怖くなったからしたのかもしれないよ?」

「お前さんのことなのになんでオレに聞いてくんだよ。まさか予知夢で死ぬ未来しか見えなくて、どうしようもないって投げやりにでもなってんのか?」

「……」

「……なんで黙り込むんだよ。予知夢って言うんだったら複数個見えるもんじゃないのか?」

「見えないよ。それに、断片的なものでしかないのさ」

「…………」

 

 沈黙が二人の間に生まれる。セイアは諦観するような様子で、鬼はその様子から未来が明るいとは言えないということが分かってしまう。

 

「一つ聞いていいか」

「なんだい?」

「その未来に、オレはいたのか」

「……いや、見ていない。少なくとも私が見た夢は甘い世界から叩き落されるようなものだった。だがその中に、君の姿は無かった」

「オレがいないだと?トリニティの中の話だよな」

「あぁ、トリニティ内部での話だよ。そもそも私のこの能力は便利なものじゃなくてね、不定期かつ断片的なものなのさ。しかも見た未来は確定されるのか、覆せた経験は無い」

 

 その言葉に少し引っ掛かりを覚える鬼。まるで最初は良い幕切れを終えるようで、しかし最後の最後で台無しになると言っているようなものだ。そんなことを鬼自身が許すはずもない。しかし彼女が言うには、ハッピーエンドで終わることはないらしい。

 そもそも鬼がいないというのはどういうことだ。

 

 その時ふと気づく。彼女は鬼の姿が見えないと言った。それは本当にその場にいなかったのか、それとも単に見えていなかっただけなのか。

 覆せたことがないというのならば、いるかどうかもわからない人間の存在はシュレーディンガーの猫と同じ存在になる。

 

 そしてその叩き落された未来より先はどうなっているのか。恐らくセイアはそこから先を見れていない。不定期で断片的であるのも理由だろうが、それ以上に今は夢を見るのを恐れている。

 覆せない未来が破局の未来でしかないなんて、ただ見るだけでも精神が疲れていくものだろう。もしかすると、彼女の諦めたような雰囲気はそれのせいかもしれない。

 

「……なるほどな、こいつは骨が折れそうな面倒ごとだ。おい狐っ子、今度から寝たいって思った時はこの影の世界をイメージして寝てみろ。多分この世界に入ることが出来る。そこでリラックスしな」

「いや待ってくれ、急にどうしたんだい?一人で納得したかと思えば急にこの世界への行き方を教えて…」

「だってお前さん、寝たら未来が見えて嫌になるだろ?だったら精神ぐらいはこの世界でぷかぷかしとけ。オレが入っていいって了承してお前さんが来たがったらここに来れるだろうし」

「随分他人事のようだが、何故急にそのような善意を向けてくる?たかが小娘の睡眠事情だろう」

「たかがじゃない」

 

 先程まで考えこんでいた鬼の面の下から覗く赤い瞳が、セイアに向けられる。思わず驚いてしまうが、気にせず鬼は口を開く。

 

「眠ったら地獄絵図しか広がってない生活なんてオレは無理だ。だけどお前さんはそれが強制されちまってる。今すぐに改善できないなら、少しでも休めるようになった方がいい」

「話が見えないな、君に何のメリットがあるんだい?」

「オレがやりたいって思っただけだよ。……情報の整理が出来たら、また来る。じゃあな」

 

 セイアに何も言わせないまま、鬼は姿を消す。一人ぽつんと残されたセイアは、無理矢理話を切り上げてきたことを不思議に思いながら、影の中をぷかぷかと浮かぶのだった。

 

 さて、セイアと別れた鬼はというと。影の中を走りながら百鬼夜行までの帰り道を辿っていた。

 

「そもそもとしてティーパーティーのメンタルがやばいんだよな…」

 

 今まで集めた情報を整理すると、

 

・聖園ミカは恐らくアリウスと繋がっている?→その際に百合園セイアを襲撃、後に後悔し始めた?

 

・桐藤ナギサはセイアが襲撃されたことにより限界の状態。ミカが襲撃犯だとは気づいていない。

 

・百合園セイアは予知夢が見れるものの、破滅しか見れていない→無気力な状態に。破滅の未来より先は見れるか不明。

 

・百合園セイアの死は偽装工作→恐らく蒼森ミネが協力している。

 

・補習授業部というのが作られるらしい→何の目的で?

 

「こんなところか……。後はゲヘナとトリニティ内部にいるアリウスの情報だけど、今の時点でなんか手を打っとかないとマズイな?」

 

 アリウスという不穏分子がいる以上、エデン条約締結時の危険性は無くならない。

 しかし対処出来るように準備をしたくても、トリニティ内部だけでもヤバいことになっている。

 

「……駄目だ、強引な策しか思い浮かばねぇ。やっぱり一回帰って彼奴等と相談するか…」

 

 なんとかしようと考えても強行策しか思い浮かばない。ならば人を増やし、全員で考えれば何か案が浮かぶかもしれない。

 そう考えた鬼はスピードを速め、百鬼夜行へと帰っていく。

 今日は休日であると言っていた、百花繚乱組と話すため。

 

 




初期セイアの口調めっちゃ難しい…!
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